【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
羽沢珈琲店で軽く軽食を食べて店の外に出た俺とそよ……。
俺がこの店に来たのは単純にコーヒーを飲みに来たりした訳でもなく、甘いものを食べに来た訳でもない。じゃあ、なにしに来たのかと問われれば立希にちゃんと言葉で「美味しかった」と伝えたかったからだ。今はスマホというものがあるから、電話やRINEで連絡することなんて容易いことだが俺はどうしても直接会って伝えたかった。
伝えるという行為は言葉と行動が伴うが今回ばかりは上手く出来た。
あいつは俺の感想を聞いてすぐ後ろを振り向いていたけど、俺は知っている。立希が肩を下ろして笑っていたことを……。
「そよ、本当にありがと「もういいから……」」
「結人君が決めてやったことでしょ?」
今回の立希の件はそよにかなり助けられた、そのお礼を言いたかったのだがそよは俺の言葉を塞き止めさせていたが言っていることは正しかったかもしれない。ケーキの件は俺が決めて、俺が行動して「美味しい」と口にしたのだから。
「それでも、俺はお前に感謝してもしきれない。そよは罪滅ぼしの為って言うかも知れないけど、おかげで立希とちゃんと話すことが出来たことには変わりねえから。だから、本当にありがとうな。おかげで助かった」
「人の話聞いてる?」
「ああ、聞いてる。でも、これは俺が伝えたかったことだからお前が聞きたくなかったなら聞こえなかったことにして貰っても構わねえ。これはあくまで俺が気にしていて言いたかっただけだからな。ただ……一言だけ言えることがあるんだが……」
「俺はそよが悪い奴じゃないって知ってるから」
そよは一瞬眉を細めつつ、目も細めている。
俺の言っていることに抗議の意思を示したそうにしている。
「この前RINGのカフェで燈に動物柄の絆創膏渡してたろ?」
RINGのカフェでそよと燈が話していたのを俺は聞いたことがあった。
燈が集めている絆創膏を整理して改めて箱の中に入れ直しているときそよがそっと動物柄の絆創膏を渡しているのが目に入っていたのを覚えていた。
「あれは偶々家に置いてあったのを燈ちゃんに渡しただけ」
「それでもそれってそよの優しさだろ?それに楽奈に対してもこの前、服についていた砂とか葉っぱとか払ってあげたり、立希に対しても練習で疲れているとき気遣ってあげたり、愛音に対しても「もういいから、分かったから」」
何も言わずに無言で俺の言葉を聞いているそよ。
「はぁ……」と言いながらも溜め息をついているそよに対して俺は唇を隠しつつ、肩の方に顔を向けて、頬を緩むのを隠そうとしていた。
「結人君って女誑しだよね」
「普通、そこでそれ言うか……?」
「だって、そうじゃない?女の子のことをそうやって平然と褒めたりして」
「お前、前に俺の良い所って言ってなかったか?」
前にそよと出掛けたときに言われていたことを思い出している俺。
その言葉を一瞬思い出していたような素振りをしていたそよだったが、少し悪巧みをするような顔をしながらこう言い始める。
「いつか痛い目見るんじゃない?」
「まあ……肝に銘じておく……」
本当に笑えない発言が飛び交いながらも俺はそう返すしかなかった。
「それじゃあ、今日は練習ないし私は帰るから」
「ああ……じゃあな」
そよが「じゅあ……」と小さく言っている声が聞こえながらも、そよが見えなくなるまで後ろ姿を確認していると俺のスマホから着信音が鳴り響いていた。次の何かを予感させて教えているようだった。
「愛音か……」
出るか一瞬、躊躇ってしまうが俺は愛音からの電話に出ることにする。
電話に出ると、すぐに愛音だと見抜けるほど明るい声が聞こえてきていた。
「ねぇねぇ、ゆいくん……!!」
愛音が俺に話しかけてきている声が聞こえてくる。
人通りが少ない路地を二人で近道する為に歩いている。こういう場所を歩くというのはなんというか、どうなのか?という意見があるかもしれないが俺がついているし大丈夫だろ。
「なんだよ?」
俺が今日愛音とこうして遊んでいるのには理由がある。練習が休みだから一緒に遊ばないかと言われたからだ。今日はRINGもアウトドアショップのバイトも無く、特にやることも決まっていなかった俺は愛音の暇つぶしに付き合うことにしていた。
「あの自販機気にならない?ほら、ちょっと前にオレンジジュースの自販機とか流行ってたじゃん?」
愛音が指差していたのはキウイフルーツジュースの自販機だった。
自販機の色は全体的に緑でキウイらしさを出していて、キウイフルーツ100%、搾りたてを頂けると書いてある。
「そういや、そんなのも流行っていたな」
一時期よくオレンジジュースの自販機を確かによく見かけた気がする。
かなり美味しいという話を聞いて俺も都内から出てアウトレットに行ったときに偶々見かけて飲んだらかなり美味しかったのを覚えている。そして、愛音が今買おうとしているのはキウイフルーツの飲み物の自販機のようだ。
「こういう自販機ってラーメンだとか肉とかでもよく見かけるよな」
「あるある、そういうの手出したことないんだよね。あっ、自販機で思い出したけどさ1000円ガチャとかあるじゃん?ゆいくんってああいうのやったことある?」
「まあ何度かぐらいはあるな……。当たった試しないけどな」
「だよね。スマホとかゲーム機当たりますって書いてあるけど、本当に当たりが入ってるのかすら怪しくて首傾げたくなるよね。ガチャガチャしても出てくるのはなんか小物系のアクセサリーとかばっかじゃん?そういうのばっかり見てるとまたかーってなるよね」
「まあ……だな」
愛音が1000円ガチャの闇に触れながらも、俺は割と頷いていた。
実際、ああいうものに当たりというものが入っていることがあるのかは当たったことが無い限り、何とも言えないだろう。偶にこの人が当たりましたみたいな写真を張り付けているところもあるが……。
「やっぱり、ああいうのって運試し程度にやるのがちょうどいいのかな?」
「そりゃあ、そうなんじゃねえか?馬鹿みたいに当たるまでやってたって赤字になるだけだろ」
「うーん、それは確かに」
愛音は納得しながらもキウイフルーツジュースが入っているカップを自販機の中から取り出していた。ああいうのは元を取れるというのならやる価値はあるかもしれないが、地獄のようにハマり出して当たりが出るまで引き続けるという行為は愚かとしか言いようがない。
「あーちょっとゆいくん、待ってよ!!まだ写真撮ってないんだからさ」
「……早めに撮れよ」
映えというのを気にしているのだろうか、愛音は自分の片手にコップを持ってもう片方の手でスマホで飲み物を撮ろうとしていた。ほぼ男子校みたいな学校にいるからこういうのはあんまり馴染みがない。まあ、これも記録という意味でなら分からんでもないが……。
愛音は綺麗に撮り終えたようでスマホをバッグの中に戻しながらもキウイフルーツジュースが入っているカップを飲んでいた。
「そういえば、ゆいくんって写真とかって撮るの?天体観測以外の写真とか」
「あー、まあ撮るにしても何処か行ったときの写真ぐらいだな」
「最近は何処行ったりしたの?」
俺が何処に行ったのかの興味があるのか、話に食いついて来ていた。
それを悪くない気分になりながらも、俺は愛音に自分が何処に行ったのかについて話を始めることにした。
「最近はー……やっぱ言いたくねえわ」
「え?なんで?」
話をしようとしていたが、どうしても言うのを止めたくなっていた。
別に言っても全然構わない内容なのだが、それでもこの話をしたら愛音が調子に乗ってニヤついているあいつの姿が目に浮かんだ俺はそれ以上喋りたくなかった。
「ゆいくんが教えてくれるって言ったんだから教えてくれない?」
「教えるとは言ってねえだろ……」
「うーん?じゃあ、当てていくけどいい?実はみんなに内緒で一人で海外旅行に行って来たとか?弾丸旅行で」
「そこまではしてねえよ……」
海外、か……。
そういや中学時代に父さんと行ったのが最後っきりでもう二年も行っていないな。確か、最後に行ったのはオーストラリアだった気がする。そのときは父さんも冒険というよりは観光で来ていてコアラを抱っこさせてもらったりしたのを覚えている。オスのコアラを抱っこさせてもらったからすげえ臭かった……。
「……実は一人でサッカー観戦してきたとか?」
「あんまりサッカー見ねえよ」
「えー?W杯とかのときもあんまり見ないの?みんなと盛り上がりながらテレビの前で観戦するの楽しいのに」
なんともまあ愛音が言いそうな言葉だなとなっていた。
こいつの場合、サッカーが好きとかじゃなくて話を合わせるためにとか、自分でも言及していたがみんなと盛り上がるのが楽しいから観戦しているんだろう。流石はミーハー愛音。
「じゃあ、実は……「あーもう分かった分かった、ちゃんと話してやるから……!!」」
このままだと粘ろうとしてくる愛音を相手にするのは幾ら何でも分が悪すぎると判断した俺はもう降参することにしていた。どうせ愛音もこうなることを最初から見越していたんだろうと想像すると、それはそれでムカつくけど。
「この前、音楽の神様を祀られている神社でお前らのこと願ってきたんだよ」
今目の前にいるのが愛音とかじゃなくて燈だとか立希だったら俺は普通に告げていたが、こいつがどういう反応をするのかなんてことは想像するまでもなかったからだ。実際、愛音の頬がふわりと紅く染まっている。そして、口元が抑えきれないくらいに緩んでいる。
「どんなふうにお願いしてくれたの?」
愛音の口角は上がりっぱなしで、ニヤつきが止まることはなかった。
それどころか「教えてよ」と言っているあいつに俺は本気で後悔していた。それは当然だ、何故なら千早愛音はまるで俺の弱みを握ったかのように勝ち誇ったような表情をしているのだから。そよが愛音に対して辛辣なのも頷ける。
「ぜってぇお前に言わねえからなぁ!!」
「えー?誰にも言わないから教えてよ」
「そう言ってお前壁紙見せつけようとしてただろうが!!信じられるか!!」
「あれはごめんってばー!!ちゃんと反省しているから教えてよ、変なお願いしたとかじゃないなら答えられるでしょ?」
「ぜーったい、言わないからな……!!」
夜風を切り裂くように愛音から駆け足で逃げて走っていたが、自分の頬に熱が伝わっていた感覚を俺はきっと忘れることはないと言い切れていた。何故なら、俺は今楽しいという正しい感情を持てていたからだ。
「で、教えてくれる気になった?」
「いや、全然なってない。一ミリもなってねえ、天地がひっくり返ってもなってない」
馬鹿みたいな追いかけっこをしていた俺と愛音は休憩する為に二人でカラオケ屋に来ている。どうして、カラオケ屋に来たのかは全然覚えていない。二人揃てアホみたいな深夜テンションに近い状態でカラオケに来ていたのかもしれない。
「ちぇー、まあいいや。ゆいくん、歌う?」
「……一曲だけならな」
「流石ゆいくん、話が分かるー」
一曲だけだから歌おうよと言ってくるのが余裕で脳内再生された俺は「歌わない」という選択肢を選ばなかったのはまでは良かったが……。愛音は俺に電子目次本を突き出して「歌って」と視線を送ってきている。……マジかこいつ、となりながらも俺は端末を受け取って曲を調べてから一曲入れることにする。
箱からマイクを取り出して電源を入れてソファーから立ち上がると、曲が始まる。
この楽曲に息継ぎという逃げ場はない。
この曲を歌えば、歌う程息が苦しくなるそんな楽曲だ。そもそもはっきり言って、物理的な意味合いでカラオケで歌うような曲でもない。何故なら、この曲を歌ったら絶対にガス欠を起こす可能性が高いからだ。では、何故そんな曲を歌っているのかと問われれば、この曲の息継ぎという防空壕がないこと、高速なテンポとリズムを求められることによって「息苦しさ」というものを表すことができるからだ。静かな曲の中にある苦しさが俺がこの曲に魅了された一因だ。
「疲れた、俺はソファーでゆっくりさせてもらうぞ……」
歌い終わった後、採点とかどうでもよくなった俺はソファーに倒れ込むようにして座り込んでいた。因みに、一曲目でガス欠になっている。そもそも俺は歌うのこの一曲だけだからどうでも良かった。
「ゆいくんがガチで歌ったから歌い辛いんだけど!!?」
「知るか、あー滅茶苦茶飲み物美味えな……」
砂漠の中でオアシスを発見する人達の気持ちを味わいながらも俺は飲み物をストローで飲んでいた。そもそも、一曲しか歌わないんだからガチで歌うに決まってんだろ……。困惑している愛音を面白可笑し眺めながらも俺は歌っている愛音の横顔を一瞬視界に入っていた。
さっきまで俺が真剣に歌ってたからどうのとか言っていた割に愛音もちゃんと楽しく真面目に歌っている。燈ほどじゃないけど、俺は愛音の歌声も嫌いじゃない。言葉にするとあやふやになりそうだから、なんて言えばいいのか説明しにくいけど愛音の場合はふざけて歌ったりしないで案外ちゃんと歌って自分も楽しんでいるという点は俺の中でかなり好印象だったりする。なんというか、愛音って割と不真面目だけど……真面目だなって印象はある。自分で言ってて意味不明だが……。
「なになに、ゆいくん?顔ばっかり眺めて」
「愛音って、割と不真面目だけど真面目だよな」
「えー?なにそれ?割と傷つくんだけどな」
「あーいや別に悪い意味で言ったんじゃなくて、しっかりしてるよなって言いたかったんだよ。なんつーか、こうビシッと決めるときは決めるみたいな。俺と燈のときだって、そうだったろ?そうだな……愛音が前に言っていた言葉を借りるなら行動に関してはずば抜けてるって言いたかったんだ」
これに関しては本当に否定しようもなかった。
千早愛音という人間は行動力が鬼のようにある人間だ。普通の人間だったら、それは触れないでおこうとするものをわざわざ踏み抜いてその上で手を差し伸べようとしてくるんだから本当にこっちが困惑する事態に陥ることが圧倒的にあるが、なんだかんだこいつのやろうとしていることは解決策の道だったりする。その典型的な例が俺と燈のことだろう。
「それを言うなら、ゆいくんだって行動力ある方じゃん?私がバンド辞めようとしたとき凄い止めてくれたり、あのりっきーと仲直りしたんだから謙遜することなくない?それに私は結構嬉しかったよ」
「嬉しかった?」
言葉の意味に首を傾げていると、愛音が言葉が発し始める。
「あそこまで本気でぶつかってくれる友達、全然いなかったから」
あいつの口から初めて告げられたその言葉は俺には響いていた。
目を少し瞑った後に愛音と目を合わせながらも自分の心が温かくなった後に、俺は神社で何を願ったのか答える決心がついていた。
「神社で願ってきたのは……。MyGO!!!!!が……一生続くようにって……願ってきたんだよ。俺の……大好きなバンドが……一生続くようにって……」
傍観者である俺が、一生続いて欲しいなんて願うのは烏滸がましいことなのかもしれない。それでも、俺は燈の歌が好きだし燈達のバンドが好きだ。なにより、俺は……こいつらといることが凄く……楽しくてしょうがなかった。
「なんだ結構ちゃんとしたことじゃん」
「……え?」
再び自分の胸の奥に温かいものを感じていると、愛音がマイクを差し出して来ていた。
「じゃあ、一生続くように一緒に歌う?」
その言葉の意味は色々と地図を広げて目的地を探すように整理してみてもよく分からなかったが、なんとなくこう言いたいんじゃないのかと俺は読み取ることは出来ていた。
きっと愛音は俺にこう言いたかったんだ。
これから先、愛音達のバンドを続けていく上で今後を健闘し合う為に一生に歌い合うと……。それでもやっぱり、自分で解釈したものであるしよく分からなかったが口に疑問というものを出す前に俺はマイクを握っていた。
「また意味不明なこと言い出しやがって……一曲だけ……。って……俺この曲知らねえぞ!?」
「大丈夫大丈夫、ゆいくんならなんとかなるって……!!」
「流石に知らねえ曲はどうにもならねえよ!?おい待て愛音、せめて知ってる曲歌わせろ!!?」
「いいじゃん、これも
ああ、そうだったな……。
千早愛音は、言葉も行動もその全てが決して軽いものなんかじゃなかった。言動自体はかなり軽いって言ったら矛盾になるかもしれないけど、こいつの行動と言葉に救われて、自分を変えてくれた人間の一人なのには間違いないからな……。
「愛音……」
「ん?なに、どうしたの?」
「ライブ、頑張れよ」
「ゆいくんもちゃんと見ててよねー」
「見るに決まってんだろ……」
間奏の間に、若干軽口を叩きながらも俺は愛音の健闘を讃えていると、愛音の横顔に波のようにミラーボールの光が当たり、仄かに頬に照らされながらも笑っているのが確認できていた俺はそのまま歌い続けていた。
「会場、此処のようですね」
「……ん」
ショッピングモールのイベントスペース……。
既に人だかりが少しずつ出来つつありました。大方、何か面白いことでもやるのか?と集まって来た人達ばかりかもしれませんが、立希さん達のライブをこのような場所で拝見できるというのは悪くはありません。それに、他のバンドの研究にも繋がりますから。
スマホで一度時間を確認すると、ライブの開始時間まで残り5分が切っていました。そろそろライブも始まる為、電源を切ろうとしたときでした。若葉さんの隣には男性が立っているようでした。それだけでしたら、特に気にする必要性はなかったでしたがその若葉さんの隣の相手というのが少々知っている人物でしたので私は声を掛けました。
「お久しぶりですね、星乃さん」
「ああ、八幡……久しぶりだな」