【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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世界を変えてくれた人

「二人はライブを見に来たのか?」

 

「そうですね、立希さん達のバンド……MyGO!!!!!でしたっけ?興味が少しありまして……。少し時間が空いているということもあって、今日は見学しに来たんですよ」

 

「そうだったのか……睦とは知り合いなのか?」

 

「そんなところです」

 

 月ノ森と花咲川、接点がないなんて言い方をしたらおかしいのかもしれないが、睦と八幡はあんまり共通点も無さそうだからその組み合わせには不思議な印象を受けていた。

 

「結人、帽子……」

 

「睦にやるよ」

 

 きょとんとしながらもまるで「いいの?」と言っている睦。

 俺が頷くと、彼女が小さな声で「ありがとう」と伝えてくれたのと同時に、帽子を再び被り始めていた。

 

「……」

 

 一瞬だけ耳元に雑音が聞こえている。

 誤魔化すようにして俺は聞こえないふりをしようとしていたが、気になってしょうがなくなり俺は強めに舌打ちをしていた。

 

「結人?」

 

「……なんでもない」

 

 音が反響するようにして聞こえていたのか、睦は俺のその音を聴きとっていたようだった。

 自分の心をどうにか落ち着かせるために怒りという感情を沈めようとしていたが、腹の中では煮え滾ろうとしているものがあったのは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「始まったようですね」

 

「ああ……」

 

 八幡の声に呼応するようにして自分自身を呼び出す。

 空白が続いている間、怒の感情を抑え込むに必死になっていたのはもう少し前のことだった。呑み込まれていたらきっと俺は雑音に対して何を言っていただろうか……。

 

 先ほどまであった灰色の世界は一気に色彩がはっきりとした世界に変わり果てている。

 ステージの方にはバンドの人達が挨拶を交えた後に、演奏を始めていた。今にしてみれば、俺がMyGO!!!!!以外のライブをこの目で確かめるというのは初めてだった気がする。戸山先輩達のライブとかつぐみさんのライブを動画で少し拝見したことはあるが、こうして他のバンドを間近で見れるってのは結構良い体験になれるかもしれない。

 

 

「体験か……」

 

 目の前で広がるライブというものは『RING』と比べればちっぽけなものなのかもしれないが、五感を通じて得れるものがあったのは確かだった。まず、一番最初に登壇してライブを盛り上げていたバンドには心の底から盛り上がれるような明るく元気になれるようなものがあった。例えるならば、イントロが鳴った瞬間に空気が弾け、観客のテンションが一気に跳ね上がる。自分自身の心臓もつられて高鳴った。音が、声が、まっすぐに響く。明るく、元気で、無邪気なまでに前向きなメロディ。まるで、どんな嫌なことがあっても「それでも楽しい」って笑い飛ばしてくれるみたいだった。

 

 思わず腕を振り上げたくなるのを堪えながらも、俺はバンドというものがライブというものが楽しいものだと音に乗りながらも少しばかり足を揺らしている自分がいたことに気づいたのは後になってからだった。

 

「最初のバンド、結構良かったな」

 

「このバンド、確かRINGでも何度かステージに出ていますね。ポップ寄りな曲が多いですが、かなりライブ映えするバンドなのは確かです。一番手を任されるだけはありますね」

 

「八幡はバンドのこと結構詳しいのか?」

 

「研究しているのもありますが30ほどバンドを掛け持ちしていますから。自然と詳しくなるんですよ」

 

 彼女は自信満々に伝える素振りはせず、何処か淡々と話していた。

 30も掛け持ちって……。いや、まあそのバンドの中でどれだけバンドとして機能しているのかはよく分からないが……。それでも30って凄いな……。

 

「次のバンド、始まるみたいですね」

 

 最初のバンドの余韻がまだ残る中、二番目のバンドが静かにステージに現れるのと同時に、空気がほんの少し張り詰める。先ほどのバンドとは打って変わってクール系のビジュアルをしていたからだ。

 

 ギターが鳴り始めるのと同時に、その瞬間雰囲気がガラリと変わる。深くて、鋭くて、何処か胸をざつかせる音だった。ドラムの音が重く響いて、ベースがそれを支えるようにカラム。ボーカルが歌い始めた気にはもう、完全にバンドの世界に引き込まれていた。

 

 歌詞はストレートだった。何処かでくすぶっている感情をそのままぶつけたような、苦しさや焦燥を孕んだ言葉。でも、それが不思議と心地よくて、むしろスカッとするほどの力だった。それに何処か燈の歌詞とも似ているような気がしていた。

 

「八幡……?」

 

 彼女の手が握り拳になっていて、血管が浮き出ていた。

 

「いえ……なんでもありません。前に掛け持ちしてたバンドのメンバーの人がいただけです……」

 

 握り拳を作っていた手のひらは徐々に広げられていたが、少しばかり彼女の中に何かが残っていた。

 

「大切なバンドだったのか?」

 

「……そうだったのかもしれませんが、後腐れなんてありませんよ」

 

 恐らくだが、彼女にとって掛け持ちしていたバンドの中で重要だったバンドの一つだった。

 悟りながらもそんなことを聞くのはあまりにも良くないのかもしれないが、俺は少しでも軽くしてやれればいいとなって言葉を掛けることにしていた。

 

「そよ達の番……」

 

 八幡と話している間にMyGO!!!!!の出番になったようで、睦が俺達に教えてくれていた。

 燈達がステージの上にあがって、自己紹介をしている。今回は短い間ということもあって、出来る限り短めに燈がバンドの紹介をしていた。三回目の頃に比べたらちゃんと説明出来ているようだった。

 

 

 

「聞いてください、私たち……MyGO!!!!!の曲を……!!」

 

 これで燈達のライブは五回目……。

 いつ聴いてもこの開始のときが心が踊ってしょうがない。限られた時間の中で歌うというのはRINGでも同じだったが、この場所は少し違う。いつもとは音楽に疎い人達や興味ない人達が聴いてくれてその上で心を鷲掴みさせることが出来ればそれはもう燈達の勝利でしかない。

 

 あんまり人にバレないようにしながらも俺は音に合わせて自分の心を昂らせている。

 愛音の輝かしいギター、楽奈の心底楽しそうなギターが相乗効果を合わせて上手い具合になっている。そして、ベースであるそよがリズムの土台を作り上げていて、立希がドラムでベースと共に息を合わせて曲の安定感を作り上げている。

 

 なにより、燈は……自分の心の叫びを解放していた。

 人によってはこれが嫌だという人もいるかもしれないが、俺はこれが本当に好きだ。まるで心の奥底に押し込められていた感情が堰を切って溢れ出すかのようだった。抑えつけられていた痛み、焦燥──。

 

 全てが言葉となり、音となって解き放たれる。マイクを握る手に力がこもり、の芯から湧き上がる熱が、声とともに会場の隅々まで響き渡る。張り裂けるような叫びは、魂の叫びなんだと実感できる。

 

 

 

「ありがとうございました!!」

 

 それぞれの音が組み合わさることでバンドというものが作り上げられている。贔屓してるからこんなことを言ってしまうのかもしれないが、やっぱり俺は燈達のバンドが大好きだ。そう実感しながらも、盛大な拍手を送っているとこんな声が聞こえている。

 

「MyGOだっけ?ボーカルの女の子小動物系の子だけど、歌い始めたら本当に凄かったよねー!ライブこの辺でやってたりするのかなー?」

 

 なんて声が聞こえているのを俺は少し嬉しくなりながらも聞いていると、八幡が睦に声を掛けていた。

 

「若葉さん、行きましょうか」

 

「行くってもう行くのか?まだ他のバンドあるだろ?」

 

「この後、予定があるんですよ。丁度立希さん達のバンドまでは空いている時間がありましたので」

 

 彼女の言葉に納得を示していると、八幡は睦を連れて何処かへと移動しようとしていたが、俺はその八幡を呼び止める。

 

「八幡、少しだけ睦を借りてもいいか?」

 

「すみませんが、時間がないので」

 

 どうやらかなり急ぎの用事があるようで時間を気にしているようだ。

 それでも俺は睦に話があったので粘ってこう切り出すことにした。

 

「二分だけでいい」

 

「……分かりました、二分だけです。それ以上は待てません」

 

「悪い、ちょっと来てくれ睦」

 

 条件を提出すると、それに納得して了承してくれている八幡に感謝しながらも俺は睦と一緒に歩き出していた。この移動の時間の間に俺は彼女に対して何を言えばいいのかかなり迷っていた。睦と割と似ている燈には俺はあいつが何を思って何を感じているのかは代弁することは出来るのは燈のことを知っているからだ。

 

 

 

 

「……?」

 

 人気のない場所に連れて来られたから、睦が不思議そうにしている。

 当たり前だ、本来こういう場所に連れて行くというのはかなり不自然な行動。睦に警戒される前に、俺は自分の口から言葉を発し始める。

 

「睦、お前のことを知らない。俺がこんなことを言って響かないかもしれないが……一つだけ言わせてくれ」

 

 言葉という名の魔法を唱えるなら今しかなかったが、果たして睦のことを全くと言って知らない部外者の俺が慰めなんてしていいのだろうか。

 

 実際に聞こえていた訳ではないが、時計の秒針が少しずつ動いている音が聞こえている。

 それはまるで俺が口から発しようとしている言葉の原動力というものが薄れそうになっているのを表しているようだった。

 

 原動力は薄れ行くものだ。

 やろうとしていること、言おうとしていることがどうでもいいとなってしまうことがあるのは人として当然だ。行動というものに対するものに対して期限があるように言葉にもあるのだから。

 

 

『あれ、芸人の若葉の娘だよね?』

『森みなみの娘じゃん、超可愛い!!』

 

 

 雑音が一瞬、脳を過る。

 期限あるもの、か……。

 

 なら俺がすべきことなんてものは決まっている。俺は言葉という力を信じることにしたのだからそれに従って動けばいい。此処で躊躇するよりちゃんと伝えたいことを言霊として言えば、必ず届くはずだと信じたかった俺は……一旦目を瞑る。暗く閉ざされた暗闇の世界のまま、深呼吸をした後に目を開ければそこには薄緑色の髪をした彼女が変わらずにいた。

 

 

「お前はお前なんだから。若葉の娘だとか、森みなみの娘だとか言われても気にすんなよ。お前は睦、()()()()()()()だろ」

 

 吐き出したかったものは全部ぶちまけることが出来た。

 どれだけ響くかなんて俺は彼女ではないのだから知りえる術はない。無責任なのかもしれないが、どうしても言わないと後悔し続けるかもしれないと判断したその結果、俺はこの行動を選んだ。

 

 

「…………」

 

 沈黙というこの世の中で一番恐怖の時間が続いている。

 暫く彼女が何かを言うことはなかった。流石に部外者の俺が事情もよく知らずに触れ過ぎたかもしれないと訂正しようとしたときだった。

 

 

 

 

「響いてる、結人の言葉……」

 

「なら……良かった」

 

 訂正し直そうとしていたとき口を開こうとしたときだった。

 自分の主張をしてくれている睦に心底安堵している俺自身があった。勝手に自分を代弁しないでと言われなくて良かったと安心していた。

 

「もしかして連絡先聞きたいのか?」

 

 スマホを出してRINEのQRコードを出している睦は首を小さく縦に振る。

 ズボンのポケットからスマホを取り出して俺はRINEを開いて睦の連絡先を登録する。

 

「ほら、これで出来たぞ」

 

「……ありがとう」

 

 いきなりその画面だけ出されて一瞬戸惑っている自分がいたのは睦には内緒にしておくことにした。彼女は無口なのは間違いないが、意外と行動力はある方なのだろうか……。

 

「じゃあ……結人」

 

「ああ、じゃあな睦」

 

 この何もないただの空間から彼女は歩いて去っていって行った。

 彼女の後ろ姿を目で追っていて少しだけあいつらが言っていたことが伝わっていた気がする。確かに……立っているだけで女優の姿そのものだ。その姿ははっきり言うと、帽子を被っているだけでは普通の一般人からではない気迫というものがあったのは間違いなかったが、それでも俺は睦は睦だろと言い切りたかった。

 

 

 

 それが彼女に伝わっているというなら本当に良かった……。

 

 

 

 

 

 

 

「結人君の連絡先……交換しちゃった……!折角だから、何か連絡してみようかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから毎日連絡できると思うと楽しみだな……」

 

 

 

 

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