【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
問い詰められている……。
そんな空気感ではなかったが俺が睦の名前を出したことで一気に変わっていた。今まで俺の口から睦の名前を出したことはあったのかもしれない。但し、それは俺が睦という人間を知らない前提だったはず。
古いテレビに映し出されている彼女の姿に対してその名前を発していたのだから、立希の疑問は至極真っ当でしかなかった。
「MyGO!!!!!の三回目のライブが終わった後、睦に楽屋聞かれてそのときに少し話したんだ。それから二度ぐらい会って話すこともあっただけだ……。まあ、話したって言っても睦はあんまり喋るようなタイプじゃないからほとんど俺から話しているようなもんだったけど」
嘘偽りない真実を伝える。
下手に誤魔化すとかそういうつもりは一切なかったが、立希はこういうとき一発で見抜いて来ることもあるからな……。
「変なこと言ってないよね」
「言う訳ないだろ、ただその……お前はお前らしくしてればいいって言ったぐらいだが」
「……相変わらず余計なことに首突っ込んでる」
呆れたようにして溜め息をついている立希。
「悪かったな……でも嫌だったんだよ。あいつが芸能人の娘っていう呼び方されてるのが」
何も言わない立希、その間にも古時計の振り子が大きく動いている音が聞こえてくる。
ただ様子からして俺が余計なことを言っていると言う姿勢は全く変えてないのに伝わって来ているのと同時に俺の脳内にはやはりあの言葉が未だに違和感となっている。楽奈のあの……言葉が……。
あれが本当にどういう意味があって言っていたのか聞くことが結局出来なかった……。
『どっちだった?』
脳に響くようにして意図を読み取ろうとしている内にテーブルの前に店員さんが立っている。
「お待たせしました」
少し沈黙が続いていると注文が届いていた。
テーブルの上に届いたのは……メニュー表通りのものだった。
木の盆の上に、小さな器が置かれている。透き通る観点が四角く切られ、二種類のフルーツ、赤えんどう豆などの……よく見るあんみつと言われているものの他に、端の方にアイスクリームがバニラと小倉の二種類があった。
スプーンを手に取って、まず一口を掬ってそのまま口の中に入れると……すぐに弾力のある寒天がはっきりと主張をしてくれている。あんこもしっかりとしているものというよりは、水分量の多いあんこではあるが、黒蜜と共に食べることで相乗効果になっているのは間違いない。
「燈、袖気を付けて」
「う、うん……」
一口を味わいながらも食べていると立希が燈にまるで母親のように気を付けるように言っているのを何となくいいなとなりながらも、俺はそれを聞いている自分がいながらも今度はアイスを一口食べていると、口の中には冷たい感覚が広がるのと同時に黒蜜の甘い味が調和されている。それぞれのものが共鳴するような味になるのは割と悪くないという感想になりながらも、俺は次々とあんみつを食べていると、立希が燈の心配をしている。
どうやらアイスの冷たさが頭に響いてしまったようで、温かいお茶を飲むように促している。燈はお茶を飲んでからゆっくりとあんみつを食べている様子を俺と立希は二人で少し眺めることにしていた。
甘味処を出た後、近場にあった雑貨屋に来ていた。
立希が燈に「入る?」と確認して聞くと、燈が頷きながらも俺達は雑貨屋の中へと入って行ったのだ。甘いものを食べたこともあり、多少腹が満たされていた俺はゆっくりと歩きながらも商品を上か下まで眺めている。何度かこういう場所は来たことがあったけど、此処のお店に入るのは初めてだから新鮮な感情が湧き上がっていると、燈と立希の声が聞こえてくる。
「燈はこういうの雑貨屋とかで買ったりするの?」
「うん、雑貨屋とか……後はコンビニとか100円ショップとかで買ってるよ」
「そうなんだ、燈はどういうのを集めたりしているの?」
「最近は……ちょっと変わった絆創膏を集めたりしてる……」
声色がかなり優しくなっている立希の声が聞こえながらも、俺は二人の会話を黙って聞き続けている。
「それってどんなの?」
「言葉が書かれてたりするものなんだ……。箱とかに書いてあって、痛みはいつか消えるとかて書いて有ったりするんだ」
燈がそれを見つけたようで立希に箱を渡している。
俺からの位置ではない見えないようだが、二人の話をしている内容的にどうやら薬草の香りが漂っているらしいということも話していたが、燈はその絆創膏の箱をカゴの中に入れたのと同時に少し何かを悩んでいるようであり、立希がそれに気づいているようだった。
「燈、どうしたの?」
「えっとね……痛みはいつか消えるって言葉が立希ちゃんはどう思う?その……なんというか凄く大事なことだなとはなるけど、心の痛みまで消してくれることって難しいかもって……」
少し二人の間で空白が続いていた。
俺もまた手に取ろうとしていたキーホルダーが空を裂くようにして手に届くことが出来なかった。
「確かにそうだね……。でも、私は燈と一緒なら、きっと少しずつ和らいでいくって思う。全部忘れられなくても、一緒に歩いていけるから」
燈に対してそう言った後に立希は俺の方を視線を止めている。
まるでその視線は俺も含まれていると言いたそうにしているのが伝わりながらも、俺は小さく「ありがとうな」と呟いていたのと同時に俺は立希と燈の周りには明るい黄色の照明が照らし出されるようにして二人は会話を続けている。その様子を遠くから確認しながらも、俺はカゴの中に色々と無心で入れるという作業をしている。
「……そんなに買ってどうすんの?」
「色々と理由があるんだよ、気にしないでくれていいぞ」
手に持っているカゴが色んな商品で大渋滞を起こしてるのを一瞬目で見てすぐ逸らしてから立希は言う。それから程無くして、俺は再び商品をカゴの中に入れようとしていたがあるTシャツの文字が気になっていた。
『
よくある英語のTシャツだというのに俺の目を奪わっていたのは自分が似たような立場だったからなのかもしれない。実際、俺は一度完全にダメになって燈や愛音、楽奈のおかげで立ち上がれたようもんだからな……。
俺は特にその商品をカゴの中に入れるということはせず、次の商品を確認しようとしたとき今度はそっちに目を奪われる。
『
さっきから自分に言われているような気分になりながらも俺はそれを嫌な気分にはならなかったが、自分が今こうしていられるのは劣等感を乗り越えることが出来たからなのは間違い。でも、こうしてこういうようなTシャツや燈が言っていた絆創膏の言葉が自分の胸に響いて沁みているんだろう。
──再び立ち上がる、か。
俺は立希の方を振り向きながらも話を切り出す。それはとても重要なことで立希にしか頼めないことだからだ。
「立希、もしもの話をしてもいいか?」
怪訝そうな顔で俺の言葉を待っている。
息をする間も与えないほどの圧を受けていたが俺は言葉を続ける。
「俺が……もしまた道を間違えそうになったら遠慮なくぶん殴ってくれ」
「……どういう意味?」
「勿論、燈や立希に迷惑を掛けるつもりは全くないって断言する。それでも……俺がもし危ない橋を渡ろうとしていたら止めて欲しいってだけだ。もし、俺が何かを忘れようとしていたらまた立ち上がれなくなっていたら……ぶん殴ってでも目覚まして欲しいってだけだ」
何も言わずにただ黙り込んでいる……。
腰辺りに手を回して何かを言いたそうにしているが、どう言葉を切り出せばいいのか詰まっている様子なのかもしれないと様子を窺っていると……。
「分かった……。ただ……燈に迷惑掛けるようなことをしたら絶対に許さないから」
「ああ、それは分かってる」
立希が険しい顔をしながら俺の言葉に了承してくれている。
別に深い意図があってこんな発言をした訳じゃない。もし今後立希達と一生長い付き合いがあるとして俺が俺じゃなくなってしまうことがあるかもしれない。悩んでしまうときが来るかもしれない。そんなとき、立希だったらきっと俺のことをぶん殴ってでも連れ戻して来れる人間だから……。
だからこそ、信頼している……立希のことを。