【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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一つの幕が閉じるとき、新たな幕が開く

「立希の奴に伝わってるといいんだがな……」

 

 周りには人はおらず、俺ともう一人、燈が隣を歩いていた。

 夜風が肌を通して音楽代わりとなっていた。

 

「立希ちゃんに伝わってると思うよ……」

 

「だといいんだけどな」

 

 バイトの帰り道、燈が俺のことを励ましてくれている。

 立希がケーキを作っていたとき、きっとつぐみさんと立希もこんなふうな会話をしていたのかもしれない。

 

「ゆいくん、ありがとうね……」

 

「ん?ああ、燈には本当に謝りたかったしまたこうして俺と繋がってくれたことや歌を聴かせてくれているお礼だよ」

 

 立希と燈に関して言えば、感謝と言うより謝罪の気持ちの方が圧倒的に多かった。俺のせいで拗れちまった事の方が多かったから……。それに二人が辛かったとき、俺は傍にいてやることが出来なかったからな……。その後悔はこの手の中にいつも残っている。

 

「贈り物で許してくれとか感謝してるとかを言うつもりはないけど、それでもみんなには伝えたかったんだ。俺の気持ちを何かしらの形としてはな……」

 

 愛音のように行動を示すことはかなり難しいことだけど、俺なりに少しばかり踏ん切りを付く方法を実践してみせた。立希が言うような誠意には程遠いことかもしれないけど……。

 

「私は嬉しかったよ……?ゆいくんからこうやって何かを貰うものは誕生日以来だったから……」

 

「誕生日以来……そうだったな」

 

 そうだ、俺が燈に何かを渡すという行為を最後にしたのは誕生日以来だった……。そうか、そうだったな。俺があの日、燈に手作りのアクセサリーが渡したのが最後だったな……。

 

「今日の……あのときのものに比べたら大したことないかもしれないけど、大事に使ってくれると嬉しい」

 

「大したことなんて……ないよ?ゆいくんから貰ったものはどれも凄く重要で私にとって……自分で見つけ出したものより宝物だから……」

 

「宝物か、じゃあ……そう呼べるものいっぱい増やして行くか燈?」

 

「う、うん……!ゆいくんと……一緒にこれからもいっぱい……いっぱい……増やしていきたい……!!」

 

 かつての俺は……燈という人間が光を照らし出していて劣等感を募らせるばかりだった。

 でも、今は違うと断言できる。俺がしたことは変わらない。それでも、こうして俺はまた燈と並んで歩けることが……。

 

 

 

 

 

 

 

 ────ただ、嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、燈……また明日な」

 

「うん……ゆいくん、また明日ね」

 

 本当に再開しなければ「また」なんて言葉を言うことも無かっただろう。

 歩道橋の真ん中でお互いに手を挙げながらもそれぞれの方向へと歩き始める。

 

 

 

 

 

 

「さて、目指すとするか……日本橋」

 

 燈が歩道橋を降りて行ったのを確認してから俺は両手で頬を叩きつつ、気合を充電し始めていた。此処から先はライブという時間になる。それまで暫し電車に揺られることになるが、あのバンドのライブを堪能できるという最高の瞬間が待ち遠しくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

『あれ?結人君、そのバンドのこと知ってるの?』

 

『え?はい、凛々子さん知ってるんですか?』

 

『知ってるも何もそのバンド、少し前に大きなバンドと対バンして爪痕を残したバンドなんだよ?確か、今は事務所を辞めて川崎で主に活動しているって聞いたけど……』

 

 燈を見送った後、俺はホームに来ていた。

 高鳴る鼓動を抑えながらも凛々子さんと話していたことを思い出す。

 

『結人君このバンド好きなの?前にも休憩中、そのバンドの曲聴いてたよね?』

 

『はい、俺普段からなんかこう魂に響くような感じの歌が好きなんですけど……それがこのバンドと凄い一致したんです』

 

 休憩中に何度かイヤホンで聴いてる曲について山吹先輩や戸山先輩に聴かれたことがあった。

 

『そうなんだ、じゃあ……今度東京でライブするか調べておこうか?』

 

『え?いいんですか、山吹先輩!?』

 

 普段、あのバンドは東京で滅多にライブすることはない。

 することはあっても、俺がバイト尽くしだから大体参加できないことの方が多かった。自分がバイト掛け持ちなんてことをしていなけば、こんな悲劇は産まれなかったのかもしれないと偶に悲観することもあるほどだった。

 

『うん、RINGはそういう情報とか入って来やすいし凛々子さんとか香澄から何か聞いたら伝えるね』

 

『ありがとうございます!山吹先輩も凛々子さんもお願いします!!』

 

 そんな流れで俺はあのバンドが今日此処、東京でライブをすることを知ることが出来た。

 ホームにやって来た電車に乗って座席に座りつつも俺はバッグからスマホを取り出す。

 

「山吹先輩が送って来てくれたのを…‥確認しないとな」

 

 山吹先輩から届いてた連絡を再度確認していた。どうやら、日本橋の室町という場所の地下道でそのライブは行われるらしい。その場所は本来、アマチュアのバンドを呼ぶらしいが、今日に限ってはインディーズ、要は個人で活動しているバンドたちを招待してライブを行っているらしい。そして、大体夜の20時半ぐらいからそのバンドのライブが始まるそうだ。今日のバイトが17時までだったのが功を期したとしか言いようがない。

 

「着いたか……本当に楽しみだな……」

 

 日本橋に電車が辿り着いて俺はホームへと降りて、その場所を目指しつつそんな独り言を言っている。あのバンドがこの日本橋で路上ライブをやるということで俺は胸を高鳴らせていた。先輩が教えてくれた場所を目指しつつ睨めっこをしていると徐々に人だかりのようなものが見えて来てくる。

 

 

 

 

 

 

「会場はあそこか、少し出遅れちまっ……!!?」

 

 耳元に入って来る音の一つ一つに俺は呑み込まれそうになる。

 それはMyGO!!!!!やPoppin'Party、あの日モールのライブで体感していたどのバンドとも系統が違うバンドだということが一気に鼓膜を通して入って来る。

 

「やべぇな……これ」

 

 体の芯に響くような音が、空気と俺の鼓動と魂を震わせる。観客の熱量とバンドの演奏が一体となっているんだ。何故なら、一番真っ先に耳に入って来たのは生のボーカルの声が凄まじく半端ないものだったからだ。その半端ないものというのは、ぐちゃぐちゃとした感情がその歌声に含まれていることだ。本来そんな濁ったものだったら、雑音に聞こえるはずなのにその歌声に魅了されてしまいそうになっている。

 

 その歌声の中には媚びたようなものを一切感じさせない。全身で叫ぶような声が、心臓に直接突き刺さってて仕方なかった。もしかしたら、常に全力で真っ直ぐ歌い続けるというところが届いていたのかもしれない……。

 

 それにしても……。

 

「不登校って……すげえシャツ着てんな……」

 

 偶々目に入った短めのおさげに結った栗色の髪の女性ボーカルが着ていたTシャツが目に入ってしまう俺。その大きく書かれていた『不登校』という文字に思わず突っ込んでしまいながらも、路上ライブならではの音を耳を通して楽しんでいる。

 

「……本当にすげえな」

 

 さっきから高校生とは思えない語彙力を発している。

 戸山先輩達のときにもこの感覚になったが、恐らくこれになるのは自分が体験したこともない音を耳や肌を通して得ることで体が新しいものを得る喜びと楽しさを掴み取ることができるからこそ、こういう表現になってしまうのだろう。

 

 それにしても、まさかこの東京でこのバンドのライブを見ることができるなんて思わなかったな……。

 

『言葉って言うのは外側にあるもんだって……。言葉にした瞬間、自分の中にあったものが外に出て形になっちまうって……』

 

 あの日、スカイツリーの中で愛音に対して言ったあの言葉はこのバンドのボーカルの人から学んだことだった。18歳で確か高校を中退して東京に来てバンドを始めて元々事務所に所属していて色々あって辞めたという情報があの雑誌に載っていた。その人があんなにも俺に印象強く残してくれたあの言葉を頼りにこのバンドに惹かれて良かった。

 

 ボーカルの経歴は割と割愛されていたが、その行動力ははっきりと言ってすげえとしか言いようがなかった。本当にさっきから語彙力ねえな、俺……。でも、多分彼女の歌声が燈や戸山先輩同様俺の芯から熱くなるものがあるのは紛れもなく確かだった。

 

 なにより、今路上ライブというこの圧倒的アウェイな環境ではっきりと此処までの力強い歌声なのは見事としか言えず、歌っている最中だというのに今すぐにでも拍手喝采としたくなるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日一日でマジで良いもの聴けたな」

 

 休憩するようにして俺はその場から少し離れていた。

 路上ライブは短めの30分だったが、それでも充実感溢れる内容だった。歳も大体俺と近い人ばかりっぽそうなのにあそこまで人を惹きつける歌声は本当に最高だったし、他の人達の楽器の演奏も最高だったな。そういえば、あのバンドはキーボードがいたな。

 

 MyGO!!!!!にはキーボードがいないから、市ヶ谷さんとかRINGで裏方として働いているときにAfterglowのつぐみさんぐらいしか音を聴いたことが無かったけどこうして間近でキーボードの音をライブで聴くっていうのは凄く新鮮な機会だったな……。

 

「俺もとんだライブ好きになったもんだな……」

 

 バッグの中には物販とかで売られていたTシャツとかが中に入っている。浮かれ気分でライブを楽しんでそのままそのバンドに虜になっている。

 なんともまあ自虐を込めた言葉を放ちながらも、苦笑いを浮かべて俺は荷物を整理し終えた俺はそのまま歩き出して行く……。夜風の冷たさに当たりながらも、仄かに残るライブの余熱が俺を支えながらも歩いていると横断歩道の信号が赤から青に変化して俺が歩き始めると、周りにいる人達も歩き始めていた。なんてことない、いつも通りの風景だというのに少しばかり気になって歩いていると目の前を少し気品がありそうな女性が通って行った。

 

 視界に入った女性を横目に視界に入れていると……その女性の髪色は銀髪の長めの髪だった。何処か見覚えがあるような気がしながらもその人の前を完全に通り切った後に、俺はある言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

『祥ちゃんは凄く詩を褒めてくれるんだ。私の心の叫びだって……』

 

 それは唐突に彷彿とさせていたものなのかもしれないが、違和感を覚えるには理由があるものだった。俺は燈と話しているときに聞いた容姿となにより、一度だけ豊川祥子と言う人物が燈と話していることを目撃したことがあった為、それもあってか祥子と言う女性の容姿をはっきりと覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 人々が横断歩道が行き交う足音が聞こえるのと同時に人々の話し声が聞こえる。放課後どうするか?とか会社に連絡を入れている人や男女が仲良く楽しそうに話している姿。無線イヤホンで音楽を聴いている人達……。多種多様な人間が行き交う道のり……。目的がある者がいれば、目的がない者もいるだろう。

 

 街灯の光がはっきりと鮮明になりながらも、人々を照らしている。まるで照明に当たるようにして人々は歩いているその姿はしっかりとしている者もいれば、そうでない者もいた……。

 

 

 ただ、その街灯の光を与えられた人間ものばかりではないというのもまた事実……。

 花に水を平等に掛けるのが難しいように……街灯の光が照らし出されていないような場所では照明が照らし出されていない場所もある。

 

 

 

「睦、こんなところで何をしていますの?」

 

 路地裏を偶々通った彼女は睦に話しかけていたが、睦はただ無言を続けていて空白の時間が続いていた。

 

「こんなところで一人でいるのは危ないですわ、行きますわよ睦」

 

 しかし、若葉睦は反応することがなかった。

 その姿はまさしく時が何年も止まって誰からも存在に気づかれずに置き去りにされている人形そのものだった。

 

「聞いておりますの?睦?」

 

 ようやく彼女の言葉が耳に響いたとき、睦の視界に祥子の姿はなかった。暗い暗い道の方を突き刺すような視線を送りながらも、祥子の後ろを追いかけるようにして歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………結人」

 

 消えかけの言葉で放った睦はその声が誰にも届くことはなく、割れていくシャボン玉の泡のように消えていくのに過ぎなかった……。そして、そのことを誰よりも睦自身がよく……。

 

 

 

 

 

 

 

 ────分かっているつもりだった。

 

 

 

 

 








次回からAve mujica編が始まりますが、報告しておきたいことがあります。
第一章はAve mujica1話より前の話がメインとなっています。
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