【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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誕生日話は普通に本編でいつかやりたいので日常的な話になります








期待している奴と浮足立つ奴(椎名立希生誕記念)

 

 

「はぁ……こんなもんでいいか……」

 

 こういう場所は清潔溢れるが、何処となく独特な匂いがするのが好きだ。

 そういうのが当たり前の場所ではあるが、こういう場所に来るたびにその独特の匂いに釣られてやって来る節がある。此処は新刊が多い本屋だから、古本屋に比べてそういう古い匂いをするわけじゃないが……。

 

 

 

 

 寧ろ……。

 

 

 

 

「こういう新しい本が多い場所だからこそ味わえるものがあるんだよな」

 

 古本屋にはないものもある。

 そういう新しい出会いがある場所だからこそ触れ合えるものがあるとは思う。そう確信しながらも、俺は旅行系の雑誌が陳列されている棚の方へと行った。こういう棚から出会えるものもあるからな……となりつつも本を手に取ろうとしたとき、棚との棚の間を誰かが通過して行った……。

 

「……立希?」

 

 珍しい動植物を見るかのような視線を向けてしまった。

 もう一度立希と思えるような人物が通り過ぎた方向へと足を向けると、そこにはやはり立希がいる。

 

「立希が本屋……?」

 

 人それぞれのことだ。

 当たり前のことでしかないのに俺は珍妙な顔をしていた……。本ぐらい誰でも読むはずなのに、俺は「立希が本屋……?」となっていた。声を掛けないか、声を掛けるかで迷う。こういうときいつもなら声を掛けることはしないが、それでも立希が何のために本屋に来ていたのか気になって仕方なかった。

 

 あいつはあんまりこういう場所に訪れるような奴ではないからだ……。

 

「まあ、そっとしてお「さっきからなに見てんの?」」

 

 声を掛けられる、それも俺がよく知っている声……。

 

「た、立希……!!?」

 

「なんで結人が驚いてるわけ……?」

 

 間抜けな声と顔……。

 後ろから声が聞こえて来る。話しかけられるなんて考えてもいなかった俺は肩を思いっきり上下に動かさせてドキッとしまっていた。立希の方は「は?」という顔を明らかにしている……。苦笑いすらしたくなる光景に目を瞑りたくなるが、俺はそれをせずにこんなことを言う。

 

「本屋っていいよな……新しい出会いがあるもんだな」

 

 いつ立希が俺の後ろに回り込んだかなんてどうでもいい。

 今はふざけた表情をしていたのがバレたくない俺はどうにか誤魔化そうとする。

 

「……何言ってんの」

 

 絶妙な空気が流れる、顔をしかめながらも立希は俺の方を見て来る。

 これは明らかにダメなものを誤魔化し選んだ……。

 

「悪い、見てた」

「知ってる」

「だよな……」

 

 息の一つでもつきたくなるほど、下手な誤魔化し方をしていた。

 これだから周りに誤魔化す方法が下手だとか言われるんだろうな……。

 

「はぁ、嫌になってくるな……」

 

 空を裂いて欲しいと言わんばかりに俺は溢す。

 最悪な現場を見られた。俺はそのまま自分の用に戻ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 立希が追いかけて来る。ちょっと意外だったが、俺は何も言うことはなく無言で追い掛けて来ることを許可していた。なんで追いかけて来るんだろうか?という疑問はあったが、口にはしなかった。

 

「結人ってよく旅行くの?」

 

「まあ、行ったりはするな……。最近はあんまり時間ないから行けてねえが……」

 

 時間もないが、金もあんまり余裕はない。

 もうちょい頑張れば、給料日だからそれまで耐え凌げばどうにかなる。気合だけなんとか乗り切ろうとしている自分がいる。

 

「……旅って楽しいの?」

 

「人に寄るかもしれねえけど、俺は楽しいぞ。自然が多い場所なら、そういう場所に触れたり肌で風を感じたりするだけで気分がよくなるんだよ」

 

「マイナスイオンって奴?」

 

「そんなところだな」

 

 俺はああいうものが結構好きだったりする。

 自分の五感が研ぎ澄まされるからというのもあるが、やはり一番いいのはリラックス効果が強い。

 

「自律神経とか整えられるんでしょ?」

 

「よく知ってんな、ああそうだな……。ああいう場所に行けば、自律神経を整えられて、心身をリラックスすることができる」

 

 スラスラとまるでテレビのカンペでも見ているかのように、俺はマイナスイオンについて語っていた。こうやって、立希に何かを解説するというのは動物園のとき以来だろうか……。懐かしい気持ちに浸りながらも、解説を続ける。

 

「実は俺達の体に良い影響を与えているのかと言われたら、微妙なんだよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、科学的に証明されているわけじゃなくて、印象的な要素でいい影響を与えるって言われてるんだよ。極端に反対側を出すなら、廃墟なんかは見れば不気味だとか怖いとかそういう感情を抱くだろ?」

 

 実際のところはこういうのって、廃墟マニアとかそういうのが居るから一概に否定するのも違う気はする。ただ、一般論としては煙たがられるのは事実だから俺はあくまでもそういうことで話を進める。

 

「不気味っていう点は納得できるかも」

 

「だろ?人によってはそういうものへの感情は違うかもしれないけど、そういう印象的なものを浴びることによって自分の感情が変わるって言うだろ?」

 

「確かに私も曲を作るためにインスピレーションみたいなのは割と受けるかも」

 

 心当たりがあるのか、口元に手を置きながらも俺の話に共感を示していた。

 話に喰いついてくれたのが心の扉を開いてくれ気分になって、俺はちょっとばかり攻めの姿勢に入る。

 

「行き詰ったときとか、例えば一押し足りないときとかか?」

 

「そんな感じ、結人がよく言っている五感を通じるものによく似ているけど動画とかで自然の音とか、逆にドラムとか叩いたりしてわざと音を出したりして自分が気に入った音とかを組み合わせるとかは割とよくやってる」

 

 俺は思わず「へぇ……」という納得の声が出ていた。

 あまり、立希が自分の口で作曲への想いを聞いたことはなかった。立希の場合、話すより聴いて分かれみたいな姿勢だろうからこういうことを聞けるのは貴重だった。

 

「キャンパスボードに色を付け足すとかそんな感じだよな?」

 

「大体合ってる、まあそんなことしてる暇があるなら私は一刻も早く曲を作りたいけど……息抜きも大事だから」

 

 口元に手を置くのを止めて、ストイックな姿勢を示せる。

 それでこそ立希だなと関心していると、立希は一冊の本を手に取っていた。それは俺がよく読むような旅行の本というよりは、旅先の風景などの写真が納められているものだった。立希が軽く目を通してから、本を棚に戻していた。

 

「こういうのってさ、写真で見るより実物で見た方が得るもの圧倒的に多いでしょ」

 

「ああ、写真を見て得るというのも悪くはねえが、実際の景色を見て何かを思い浮かべることも割と大切だからな。例えば、単なる田舎でもその地域、特色のある歴史っていうものが残されている。俺達が住んでいる東京がかつては江戸って呼ばれていたようにな」

 

 どんな場所、地域にもそれぞれの歴史がある。

 変わっているものもあれば、あまり知られていない歴史。そういう興味に俺はそそられるものがあるが、立希はあんまり興味はないだろうがちょっと気になっていた。

 

「行くか今度……?」

 

「行くって……なにを?」

 

 言葉の意図が読めなかったのか、立希は「何の話?」と言いたそうにしている。

 それは理解不能という顔ではなく、主語が足りないんだけど?という顔そのものだ。

 

「旅っていうかそういう自然的な場所」

 

「…………遠慮しとく」

 

「別に遠慮しなくてもいいんだぞ」

 

「別にいい、旅とかするのはあんまり好きじゃないし、それにあんまりバンドの時間を減らしたくないから……。ただ……」

 

 

 

 

 

 

 

「結人と何処かに出かけたい気持ちはあるけど……」

 

 顔を下に逸らしながらも蝉の鳴き終わりみたいなその小さな声は、俺の鼓膜に確かに通っていた。

 

 

 

 

「ああ、ちゃんと連れて行ってやるよ……」

 

 最初から俺の返す言葉なんてものは決まっている。立希がちゃんと意思表示をしてくれたのだから……。ただ、立希がそれが恥ずかしくてしょうがなかったのか……。

 

「は!!!?べ、別に行きたいとか言ってないんだけど……。か、勝手に勘違いしないで欲しいんだけど!!?」

 

「別に遠くへとは言わねえよ、近くでもいい。立希が行きたい場所連れて行ってやるよ、また動物園に行きたいなら連れて行くし、映画が見たいとかカラオケに行きたいとかなら……あーでも立希はヒトカラ派だったよな」

 

 中学時代にそんなことをボソッと呟いていたことを思い出した俺は、やっぱり忘れてくれてと言わんばかりに訂正をしようとすると立希が下を向いているのに顔が更に赤くしているような気がしていた。

 

「カラオケは一人の方がいいけど、結人になら聴かせてもいい……。お前は馬鹿にしたりしないって知ってるから」

 

「そうか……じゃあ期待しておく。それともう一ついいか?立希」

 

「…………なに?」

 

 

 

 

「お前の歌声滅茶苦茶興味あるからさ、マジで楽しみにしてるから……」

 

「……っそ」

 

 素っ気なく返されたが、その瞳には期待の眼差しがあったのは確かだった……。

 本屋という知識が多く点在されているこの店の中で新しい興味が二人を結ぼうとしている。そういうものがあるような気がしてならなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、家に帰って来た俺は……。

 一通の録音が送られてきていた。

 

『これ、聞いて……。それで一回聞いたら削除して。リピートしたら絶交』

 

 タイトルには……ただただ音声ファイルと無機質に書かれていた。

 

「お手並み拝見と行くか……」

 

 俺はイヤホンを耳につけた後に……。その音声ファイルを聞いてみる。

 

 

 

 

 

「やっぱすげえな、立希は……」

 

 簡単なものだけど、漏れ出す……。

 立希の歌い方は率直に言って、芯のあるものだった……。迷いのないストレートな歌声とでも言うんだろうか……。そういうものがあった。

 

 これは俺も聞いたことがある曲だったが、それを立希なりに歌い直すとしたらこういうものになるんだと唸らせるものがあったのは確かだった。変に着飾ったり、技巧に走っていないのもいいところだ。アレンジも特にしていない。人によっては味気ないなんて変な言い方をする奴もいるだろうが、俺は寧ろこれが立希らしい歌い方だって思えた。

 

 実直で真っ直ぐで……何処か不器用なんだけどそれでもちゃんと届けたいって思える情熱を持っているのが俺にも五感を通さなくても……。

 

 

 

 

 伝わって居たからこそ、俺はスマホにこう送った……。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 自分の部屋、電気もつけずに誰も部屋の前に立っていないか改めて確認していた……。

 

「はぁ……本当に浮かれすぎ……」

 

 自分を自虐したくなるほど、馬鹿らしくて笑いたくなる。

 ベッドの上に置いたバッグ……。そこに付けられているパンダのストラップが視界に入る。

 

『此処、もうちょっと違う気がする……。いや、でも時間ないし……。そもそもこんなことしてる場合じゃないんだけど……なにしてんだろ私……』

 

 さっきまで自分がしていた行動を掘り起こして、更に頭を痛くする。

 あの後、浮足立って帰っていたとかそういうのは断じて違うと言い切れるけど、調子に乗ったと言われたら珍しく否定はできなかった。何故なら、私がさっきまでしていたのは録音だから……。

 

『お前の歌声滅茶苦茶興味あるからさ、マジで楽しみにしてるから……』

 

 あの馬鹿に興味があるからと言われて嬉しくなったのか、家に帰って自分の好きな曲を速攻自分でアカペラで歌ってそれを結人に渡している。本当に馬鹿らしいと分かっているのに、その馬鹿みたいな勢いを留まることは知らなかった。

 

「というか、私最近あいつにこういうことしてばっか……」

 

 ケーキのときが一番そう……だけど。

 突発的というか、思ったままに行動してそれをあいつに渡している。別にそれが嫌じゃないというわけじゃないけど、あまりの行動力の早さに自分すら理解不能なことが多くて後になってこれやってよかったのかな……ってなる感情が多い。言いたくないけど、最近自分が愛音みたいになってきたと思うとなんかちょっと複雑な気分になる。ケーキは後悔していないけど……。

 

「結局、目的の本も買えなかったし……」

 

 悩みの種は尽きない。あいつがパンダのぬいぐるみを去年の誕生日代わりに渡してくれた。

 そういうこともあったから、何か贈り物を渡そうかとか考えていたわけじゃないけど、何かいいものはないかと思って中に入ったのはそうだった。結局、見つからなかったし燈が好きそうな図鑑とかそういうのに目行っちゃったけど、あいつに見つかったからそれどころじゃなかったし……。

 

「そもそもあいつって本とか興味あったのかな……」

 

 ああいう場所に居たということは興味があったのはそうだろうけど……。

 五感が大事だとかいつも言っているから、案外大切にしているのかもしれない……。

 

「って……もうあいつのことはいい……」

 

 これ以上あいつのことばかり考えていたら作曲に使う時間が少なくなる。

 椅子に深めに座って、パソコンの前で立っていると通知音が鳴る。

 

「当たり前でしょ……」

 

 思わずボソッと呟いた……誰もいない私の部屋の中で……。

 私は自然と口角が上がってしまっていたけど、こうも書かれていた。

 

 

 

 

『リピートする』

 

 それに私は冗談でこう返す……。

 

 

 

 

『やったら絶交、早く削除しておいて』

 

 とそれは脅しの返事ではなく、心から自分の扉が開かせてくれた気分になって心の雪が解けた感覚になりながらも私はパソコンの画面の前でこう呟いた……。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にあいつは……」

 

 

 

 

 

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