【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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純然たるその笑顔は希望に満ち溢れている

「ライブか……」

 

 人だかりが溢れている。人によって個性を光らせたバッグやものを身につけている。これからライブを盛り上げる為に、意気込みという奴だろうか。

 

「ゆいくん、今日はいきなりごめん」

 

「別にいいって、一緒に来てくれる奴いなかったんだろ?」

 

 俺は愛音と共に今日のライブ会場にやって来ていた。

 今日、俺がこうしてライブにやってきていたのは理由があった。目の前で申し訳なさそうにしている愛音にsumimiのライブに誘われたからだ。

 

「いやぁ、いなかった訳じゃないよ?誘おうとした子が、急用できちゃったり他の子達に聞いても空いてなくてそれでゆいくんを「それを世間一般的に来てくれなかったって言うんだよ」」

 

 そう、sumimiのライブに誘われたのには理由があった。元々、愛音はクラスの奴と行く予定だったみたいだが、そいつが急遽来れなくなってしまい、そよや他のクラスメイトにも聞いたが全員ダメで俺に頼ってきたらしい。

 

 そして、今事実だけをぶん投げると、愛音は黙り込んでしまう。

 電話したのが俺が最後という事実にこっちは少しあのときもにょりそうになっていたが今は別にどうでも良くなっている。それに、今目の前で行われるsumimiのライブをこのまま焼き付けたい。俺が愛音の誘いを受けて此処に来たのだって初華がsumimiとしてどう活動しているのか知りたかったからな。

 

「ほら、愛音行くぞ」

 

「え?う、うん……!!!?」

 

 愛音の手を掴んで俺はそのままライブ会場の中へと入って行こうとする。歩いている最中、小刻みに愛音が揺れ動いたりしていて、不思議になっている。手には少しばかり熱くなっているものが実感していた。

 

 それが何なのかは俺がよく知っていた。

 愛音の……手の温もりだったからだ。別に変な意味で手を繋いでる訳じゃない。ライブ会場ということもあって人が多い、だからこうして手を繋いで愛音が離れないようにしている。羞恥心がないのか?と言われたら、無いわけじゃない。俺はこいつに割と照れが入ってしまうから。だから、必死にそれを抑えているだけだ。

 

 特にお互いに何かを語るわけでもなく、俺たちは会場に入る。

 受付を済ませてから俺たちは自分たちの席へと座る。

 

「悪い、離れないように手繋いで」

 

「えー?あーうん?うん……」

 

 若干上の空になりながらも愛音はそれしか返事をしない。

 若干赤面している彼女の姿に俺は何も言えずに頬を掻いてしまう事態になる。これじゃあ、まるで意識しているみたいになるから俺は嫌だなとなりながらも、俺は「ライブ楽しみだな」と言うと愛音は無言で頷きながらも椅子の前に俺達は立っていて、そのまま手を離すと愛音は少しばかり名残惜しそうにしている。自分のした行動が後退りするようにして響いているは何も言うことはせず、椅子に座っていた。本当、馬鹿みたいに自分という人間が恥ずかしさを感じさせてくれるもんだなとなりながらも、俺はステージの方に目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

『身近な言葉だとか普段言われているような言葉だからな』

 

 結人が言っていたあの言葉……。

 私にとって凄く重要なものだった。

 

『誰かと一緒に無人島に行けばそこでもっと友情とか繋がりみたいなのが強くなれるんじゃねえかって……』

 

 言葉一つ、一つに重みを感じる。

 どれほどの経験と体験をすればあんなにも美しくて尊い言葉が言えることが出来るんだろうから。綺麗事かもしれないけど、私にとって結人の言葉は凄く自分に届いていた言葉だった。五感を通じるもの、結人は見つけていたと言っていた。私も……私もそれを欲しい。

 

「言葉、か……」

 

 楽屋の中で私はそんな言葉が一人で呟いていた。

 それは宙を浮くようにしてまなちゃんがそれに反応を示そうとしていた。

 

「どうしたの?ういちゃん?」

 

 純田まなちゃん……。

 同じ事務所に所属していて、もう一人のsumimiの子……。

 

「……まなちゃんは言葉ってなんだと思う?」

 

「言葉?ういちゃん、難しいこと聞いて来るね?うーん……ありがとうとかごめんなさいとかそういうものじゃないかな?ほら、こういう身近な言葉って凄く大事じゃん。ありがとうは心からの感謝として言うときもあったり、ごめんなさいは謝罪の言葉として使うけど本心から言う場合と、とりあえず場を逃れたい!というときに使う場合があるよね?」

 

「……うん」

 

 まなちゃんの口から発せられていたものは凄く聞き覚えがあるものだった。

 まるで、人が皆々にその意思を持っているかのように錯覚してしまうほどだった。

 

「そういう身近な言葉が何よりも大切なんじゃないかなーって思うけど、ういちゃんはどう思う?」

 

「うーん、前に似たようなことを言っていた男の子が居たの」

 

「え!?ういちゃんって彼氏いたの!?」

 

「あーそういう関係の子じゃないんだ、偶に会う子なんだけど私に凄く大事なことをいつも教えてくれるの。まなちゃんが今言っていたようなことも言っていたんだ。小さな言葉の積み重ねが大事だって言うことを教えてくれた、身近な言葉が大切だって教えてくれたの。彼の言葉を聞いたとき、凄い響いたんだ」

 

「へぇ、なんかういちゃんの話を聞いてる感じだと本当に凄そうな子なんだね。ねぇねぇ、その子についてもっと教えてよういちゃん!」

 

 食い気味で聞いて来るまなちゃんに対して私は「う、うん……」と頷きながらも彼のことについて話をしていた。度々、見せる眩しい笑顔が私の中の深淵を覗かれているような気がしてならなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「始まるみたいだな……」

 

 全体の照明が暗くなったのと同時にステージの上にある液晶が映し出される。どうやら、何かしらの演出が始まるようだとなりながらも、俺は物販で既に購入済みだったペンライトの電源を入れる。熱気が会場を包み込んでいるのが聞こえ始めている。その熱気が耳に入りながらも、俺はじっとステージを見つめていると、奥からかすかな音が響く。ケーブルを繋ぐ微かなノイズ、マイクを通した指の掠れる音。わずかな物音すら、今は全てが期待へと変わっている。

 

 歓声が弾ける。観客の間にざわめきが走り、誰もが目を凝らした。sumimiの二人の姿が光りの中に浮かび上がる。その瞬間、張り詰めていた空気が一気に爆発するように、会場全体が歓喜に包まれた。

 

「見て見てゆいくん、本物の初華とまなだよ!!」

 

「見りゃ分かるって」

 

 音の洪水が押し寄せている。

 俺はそれを鼓膜に通しながらも二人のことを凝視すれば、俺はsumimiの二人……。「初華」と「まな」がアイドルだということを思い知らされる。圧倒的な気迫というべきなのだろうか?まず最初にあったのは熱気が肌を刺すようにまとわりついていることだった。ファンたちが跳ねるたびに床が微かに揺れ、熱狂が物理的な振動となって伝わる。拳を突きあげる手、握り締めたペンライト、全身がライブのエネルギーとなっていたんだ。観客と一体となりつつも、やはり一番聴こえてくるのは二人の鮮やかで爽やかな歌声だ。何処か未来に向かって明るく生きようとするその姿勢の歌は聴いていてこちらまで最高潮になってしまうというものだった。

 

 

「俺もやるか……!!」

 

 まるでステージと一体になっているかのようだった。周囲を見れば、観客のほとんどが同じ動きをしている。揃った波のような動きが、会場をひとつの生き物のように見せていた。そういうものを見せられて俺は影響されない訳がなかった。郷に従えば郷に従う、それがこのライブでの掟というのならば俺もこの流れに大きく乗るだけだ。ぎゅっとペンライトを握り締める。そして、気づけば腕を大きく振り上げていた。燈達とかのライブとかでこういうものには慣れている為、リズムに関しては全く問題がなかった。

 

 隣にいる愛音が一瞬視界に入ると、「滅茶苦茶ノリノリじゃん」と言いたそうにしている。俺はこういう大きなライブ会場に来てライブをこの目で見るということは生まれて初めてだ。生のライブというものに対して生きた実感を堪能しながらも周囲に熱に引き込まれながらも、振る動きが多くなっていた。こういう動きをすれば、するほど自分がsumimiと共にライブを盛り上げているという感覚になるのはとても不思議な気分だ。自分がライブをしているわけじゃないと言うのに……。

 

 

 

 

「最高だな……」

 

 思わず、そんな声を出していたが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の耳はある()()を感知していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、やっぱsumimiって凄いよねぇゆいくん……私初華のSNSフォロー……あー!フォローしてないんだった!!」

 

「……此処で大きな声で言うことじゃないだろお前、何考えてんだ」

 

「あーごめんごめん、フォローしとこ……」

 

 約二時間に渡るライブを終えた俺達は係員の誘導の下、帰ることになっていた。

 もうライブ会場は出ており未だ冷めやらぬ興奮を隠しきれずに愛音と帰っていたが、初華のSNSの話をした瞬間周りのファンに一瞬睨まれたような気がしていた。全く、形見が狭いな……。主に愛音のせいだが。

 

「それにしても生初華、見るの二回目だけどやっぱりいいよねー」

 

「二回目って前にも一回あったことあったのか?」

 

「ともりんと一緒に歩いていたときに一度初華と会った事があったんだ、いやぁまさかあのsumimiの初華に会えるなんて思ってもいなかったけど」

 

「燈も、か……」

 

 自分が知らない間に燈と愛音は初華に出会っていたようだ。

 それ自体は割と気にしても意味がないことではあったが、俺には一粒の違和感がずっと残って仕方なかった。と言うのも、初華の歌声に何か引っかかるものがあった。恐らくそれは見過ごしてはならない違和感じゃない。だが、この違和感の正体を探るのはかなりきついがない訳じゃない。

 

『言いたかったことが伝わっているといいんだがな……』

 

 深夜の公園のあの日、初華は疲労が溜まっているようだった。

 ただ、俺は出来る限りそれを拾おうとせずあいつに伝えたかったことを伝えていた。それはこのライブで途中までは実現出来ていたが、徐々にシミのような違和感があった気がしてならなかったのだ。

 

「ゆいくん、そっちじゃないよ!!」

 

「え?あっ……やべっ!!?」

 

 退場の列と共に抜け出そうとしたものの、俺は別方向へと出てしまうのだった。

 愛音に言われてすぐに気づくことが出来たが逆走が出来ずに愛音とは別方向へと言ってしまうことになってしまっていた。仕方なく、俺はポケットからスマホを取り出して爆速でフリック入力をして「悪い、後で落ち合おう」と送っておいた。

 

 

 

 

 

 

「なにやってんだろうな俺は……」

 

 別方向に案内された俺はそのまま海の方へと放り出されてしまっていた。

 戻ろうにもどうやら他の会場でもライブが行われていて戻るのは至難の業で愛音に申し訳ない気持ちになりながらも俺が居る方向まで来てくれと言おうとしていたが一旦自分の心を清らかなものにしようとしていた。

 

「はぁ……」

 

 溜め息をついて手をぶらぶらとさせながらも、水面に光る海に浸っていると足音が聞こえてきていた。いつもだったらそんな足音に耳を傾けることがなかったかもしれないが、何故今日ばかりは気になってしまう自分がいてその足音の方を確かめていた。

 

「人……?」

 

 長い茶髪を棚引かせながらもその綺麗な髪に目が奪われていると、顔へと視界を移動させていくと俺は手すりに掴んでいた手を離しそうになって、一旦自分を落ち着かせていた。

 

 

 

 

 

 

「純田……まな……?」

 

 目の前にいる芸能人様のことを呼び捨てにしまうほど、落ち着きを取り戻せていない俺の言葉に気づいたのか、まなさんは俺の方を振り向いた。

 

「あっ、もしかしてファンの人……?ごめんね、今サインペンとか持ってないからサインはしてあげられないんだ」

 

「あっ、いやそこは大丈夫なんですけど……目の前に芸能人がいて凄い驚いてしまって」

 

 初華のときは別になんも反応しなかったけど今自分がどうしてこんなにも大袈裟な反応をしてしまったのか少しばかり恥ずかしくなっていた。

 

「あー確かにいきなりそういう人が現れると何かのドッキリだと思っちゃうよね」

 

「実はドッキリだったりします?」

 

「うーん、残念だけど今は撮影中じゃないよ?でも、芸能人さんがファンのところにやって来るみたいなドッキリは確かによくあるよね」

 

 確かにそういう企画のドッキリというのはよくある話。周りにはカメラマンなどがいないことからもどうやら本当に偶々此処にいたというような感じなのだろう。

 

「ところで……キミすっごくペンライト振ってた人だよね?ステージからもばっちり見えてたよ」

 

「え?あ、ああ、そうなんですか?見えてたんですね……」

 

 うわぁ、すっげえ恥ずかしい。

 郷に入れば郷に従えを実行したまでとはいえ、此処まで羞恥心を掻き立たせるようなことを言われたら思わず顔が赤くなってしまうもんだ。どうにかそれを誤魔化しながらも俺は深呼吸しようとしていたが、そんなことより喋っていた方が落ち着くとなっていた。

 

「うん!元気いっぱいなファンの人の姿ちゃんと見えてたよ!」

 

「あーありがとうございます……?」

 

 褒められているといるんだろうかとなりつつも俺は一応お礼を言っておくことにした。あーそうだ、こういうときって素直にライブの感想とか伝えた方がいいよな……。

 

「sumimi凄いですね、なんというか人気の理由が分かったような気がします。ファンが一丸になってライブを盛り上げようとする熱狂。これこそが人気アイドルの姿なんだって思い知らされましたよ」

 

「えー?そうかな、褒めても何も出ないよ?」

 

「別に何も期待してませんよ、本当に素晴らしいなって思えただけです。こうやって歌を通して言葉や感情を伝えることが出来る人を尊敬してるんです。だって、歌で何かを伝えることが出来る人っていいなって思えるんです。人を明るく出来たり、感動させられたり……そういうものが込められてるの素敵じゃないですか?」

 

「素敵……そうだね私もそう思うよ。それにしても、言葉に対する言い回しの仕方……ういちゃんが言ってた言葉に凄いそっくりだなぁ、もしかしてキミがういちゃんにそれを教えてあげた男の子だったりする?」

 

 初華、俺が話したことをまなさんにも話したんだな。

 勿論、それがダメとかは全然言うつもりはないし言葉によって言葉が通じることはとてもいいことだから、俺は少しばかりいい気分にな理ながらも一瞬だけ揺れゆく海に視界を変えていた。

 

「あー多分人違いじゃないですかね?」

 

 とはいえ、それ俺なんですよという自惚れ馬鹿を晒すのもなんか違う気がしていた俺はわざと惚けたフリをすると、彼女は首に横に振っていた。

 

「ううん、きっとういちゃんにキミが教えてくれたんだよね?キミが言っていた言葉と凄く似たようなことをういちゃんが大事そうにしてたんだ」

 

「初華がですか……」

 

「あっ、今ういちゃんのこと意味深げに呼び捨てにした!!やっぱり、関わりあるんだ?」

 

「あっ……」

 

 ボロを出来る限り出さないようにしていたつもりだったのに口を滑らせてしまって発言をしていた。訂正しようにも今更無理だろうとなって大人しく白状することにした。

 

「はぁ……もう仕方ないか、そうですよ。俺が初華に言ったんです。と言ってもまあ、本当に言っただけなんで伝わってるか不安だったんですけどライブを見る限りちゃんと届いているようで良かったです。それと……」

 

「何度もしつこいかも知れないんですけど、本当にライブよかったでした。俺は五感を通じて得れるものが好きなんですけど、今回のライブは凄く楽しませて貰いました。会場の熱気、二人が奏でる音楽、照明が光る色彩、音響からの立体感。どれも本当に素晴らしかったです」

 

「本当に褒め上手なんだね!褒めてくれたお礼に名前聞いてもいいかな?」

 

「え?は、はい……星乃結人です」

 

「結人君……覚えておくね!!」

 

 まなさん、なんというか本当に明るい人だな……。

 初華とは対照的にすら見えるその明るく光る照明のような彼女は歩き始めようとしたとき……。あのとき、ずっと違和感になっていた初華の歌声を記憶から取り出して、俺は再度まなさんに話しかける。

 

「あ、あの……差し出がましいかも知れないんですけど初華のこと……お願いします……!!あいつ、多分最近あんまり疲労とか抜けきってなくて疲れていることかなりあると思うんで、あいつのことを……本当にお願いします!!」

 

 初華とはそこまで話したわけでもない。

 でも、俺はあいつと同じ星を眺めて何かについて語り合った。それは人からすればかなり真面目なことかもしれないが、俺にとっては凄く重要なことだった。自分という人間の言葉を改めて確かめて信じることができるからだ。まなさんの返事を待っていると、首を縦に振ってくれている。

 

「……ういちゃん、いいお友達に出会えたんだね」

 

 まなさんが感情深そうな顔をしている。

 同じグループの相棒ということもあって、より一層そういうものがあったのかもしれない。

 

「うん、任せて!ういちゃんのお友達の結人君に任されたよ!!」

 

 笑顔で「任せて」と言っているまなさん。歩き始めて後ろを振り返ると、「じゃあね」と言っている声が聞こえてきていた俺は「はい」と答えていた。その笑顔は純然たるもので煌めいているものだった。なんというか、本当にすげえな芸能人って……と関心していると電話が鳴り響く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆいくん、何処ー!?」

 

 あっ、愛音に今俺が何処にいるのか電話するのか忘れてた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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