【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
一冊の本を手に取る。
その本の内容は……多重人格に関する情報が載っている本。関連とする情報が記載されている場所まで軽く飛ばすと、自分が興味あるページへと辿り着いた……。目で追うようにして本を読んでいた。
多重人格……。
所謂、それは一人の人間の中に複数の人格が存在し、それぞれが独立した意識を持つ状態と指されていた。異なる性格、趣味・嗜好を持つとも書かれている。この辺は調べなくて大体は予想できる内容だな、となりながらも俺は更に読み進めていくと……。多重人格の原因というものが書かれている行をよく目を通すことにしていた。
それは……主に幼少期の強いトラウマ……。
具体的に言えば、虐待・家庭内暴力・いじめなどが関係されている、と……。耐えがたい
「防衛本能か……」
モーティスと名乗っていた少女のことを思い出す。
『どう?驚いちゃった?私はね、睦ちゃんが小さい頃からずっと私としていたんだよ?』
『私は睦ちゃんを守るための人格なの!でも、今は結人君に会いたくて出て来ちゃった!!』
満月の光に当たりながらも彼女に楽しそうに自分のことを話していた。
睦とは全く正反対のあのモーティスという少女……。多重人格に知識がなくても睦ではないというがはっきりとしていた。
「はぁ……すげえことになって来たな……」
昨日の夜に起きたことを記憶から蘇らせる度に頭が痛くなってくる。
『ずーっと前から結人君と会ってみたかったの!!結人君ってこう王子様で、凄い惹かれるんだよね!!』
昨日のことを一旦置き去りにしたくてしょうがなかったが忘れることは出来なかった。……あのモーティスと名乗っていた奴は自己紹介をした後、近い距離感で俺に甘えて来ようとしてきたため、飯を奢ってなんとか落ち着きを取り戻してそのまま帰って貰うことに成功した。
ただ、多重人格が情報がある本を読んだ限りのことでは判明したが、睦がストレスを抱えればまたあいつが出てくる可能性は高い。本で読んだだけだから何とも言えないがな……。本を戻しながらも、俺は次に違う本を読んで行こうとすると……。
別の本には興味深い内容が記述されていた。
それはある異国での話。ある人間が自分含め24の人格を持っていたという情報があった。
「待てよ……?」
此処で俺は違和感を持つ……。
もし、仮に本当に睦が多重人格だとして俺の目の前に現れたモーティス以外にも人格が居るはずなんじゃないのか……?いや、待てよ……。そもそも、睦とモーティス以外に人格が垣間見えたときなんてあったか……?
「ない……」
はっきりと断言できる。
昨日の睦の様子は明らかにおかしかったが、最後まではっきりと若葉睦という人格だった。ならば、考えらえる答えは一つ。そもそも、今の睦の中にはモーティス以外の人格は存在しないんじゃないのか……?多重人格でありながらも、二つの人格でしかない二重人格でしかないというのには明らかにおかしいはずだが、仮にそこから考察するならば……。それは恐らく……。
ある答えが考えられる。
それは、時間の経過とともに、一部の人格が役割を終えて消えた。つまり、自然消滅した。ストレスやトラウマが解消されることで、その役割が必要ではない存在ではなくなりその人格自体が役割を終えた可能性ということだ。但し、この仮説をぶち壊す絶対的な条件がある。それはその人格が完全に消えた可能性があるとは言い切れないということだ。深層世界に眠っているだけであって、強いストレスが掛かればまたその人格が出てくる可能性はあり得るということだ。
「ややこしくなってきたな……」
考えを纏めれば、まとめるほどああでもないこうでもないとなりそうになっている。
とは言え、今後もしまたモ―ティスが出てくることを考えればあいつのことをちゃんと知識として触れておくことはかなり重要なことだ。読んでいた本を戻しながらも、綺麗に整理されている本棚に囲まれている道を歩いて行く……。目には多種多様な精神疾患、生活や介護の本ばかり入りながらもその列から出てくると、本を抱えたピンク髪の女性の横を通過しようとしていた。
「あれ?ゆいくん?」
「……愛音か。図書館で勉強か?」
「実はそうなんだー。いやぁ、友達に愛音ちゃん、勉強教えて欲しいって頼まれちゃって」
実際、愛音が頭良さそうなのはそうだろうし俺は特に今回は何かを触れることはなかった。そもそも図書館だからあんまり騒ぎたくなかった。ただ、愛音に一つだけ聞きたいことがあった。
「愛音、少しだけ時間あるか?」
「え?」
「ちょっとどうしても話しておきたいことがあるんだ」
「ーん?分かった、一旦友達に言ってくるね!」
なんのことやら?となっていそうな愛音が友人達が座っていると思われる方に向かって行った。俺は一足先に図書館から出る。それからして、愛音に「図書館の前に立ってる」と連絡を送る。
「ゆいくん、ごめ……って冷たっ……!!」
図書館を出てすぐ手前にある自販機で買ったコーヒーを渡す。
愛音が受け取ってから、俺は自分で買ったアンバサを開けて少しばかり飲んでから一旦頭を整理していた。俺が愛音を呼んだのには勿論、理由がある。それは正直言って、モーティスとの話し方が分からないということ。そして、多重人格である人間と話なんてしたことがないから、どうすればいい、となっている節があったんだ。
「愛音……その……」
なんて言えばいいのか分かんねえ……。
素直に多重人格の人間とどう関わればいいと話をすればいいのかと悩んでしまう。こういうことはふんわりとしたことを伝えた方がいいのかと迷っていながらも、俺は高層ビルを一旦眺めていると、あの日……愛音と一緒にスカイツリーで話していたことを不思議と思い出していた。
『ほら、実際に「助けたい」と思っている人に、ただ「助けたい」とか口にするんじゃなくて行動で示すことが出来れば、人はより人のことを信じられる的なみたいにさ』
あの日、俺と愛音が景色を眺めながらも二人で話していた……。
言葉と行動……。ああ、そうだな。お前はそうやって示してきた。そして、俺はあの日からお前みたいにやろうとしてきたんだ。だったら……此処で怯んでいる暇は俺にはない。
「一つだけ聞きたい事があるんだ……。その実は、クラスの中で普段と生活しているときと人格が違うみたいな奴がいてな。そういうときってお前ならどうやって接する?」
誰、ということも濁しながらも俺は話しをすると愛音は「ーん?」という声を出しながら、返事に迷っているようだった。少しばかり時間が経つ音が流れていると、愛音が俺の疑問に対する回答を教えてくれようとしていた。
「難しい問題だけどさ、そう聞いて来るってことはその子と仲良くなりたいっていうのがあるんだよね?」
「……ああ」
「じゃあさ、その子のことを少しずつ分かってあげるのがいいんじゃないのかな?なんていうか、特別扱いするんじゃなくてさ。ありのままの……その子を受け入れてあげるみたいな。私もあんまりそういう子が近い場所にいたことがないから、あんまり力になれないけど……。ゆいくんなら、その答え知ってるはずだよ」
「俺なら……?」
自分ならその答えを知っている。
それが何かを困惑していると愛音が続けるようにして言葉を放つ。
「だってゆいくん……」
「優しさのある人間でしょ?なら、その子のこともちゃんと理解できるし、行動できるじゃん!!」
優しいなんてのは……何度愛音の口から発せられただろうか……。
うんざりするほど反響していた言葉のはずなのに俺は自分の心が……温まるほど光を帯びていて仕方なかった。本当に言葉ってのは不思議だな……。
「違うんだよ、愛音……。俺が……そうやって行動できるようになったのは……」
「お前が教えてくれたからなんだよ」
本当に……助けられてばっかだな愛音に……。
手を差し伸ばして俺のことを引っ張り出そうとしてくれて……。俺のことを否定しないでくれた。過去を拒まなくていいと言ってくれた。面倒だと思っていた奴にこんなふうに思うのはおかしいのかもしれないけど助けてくれた愛音だからこそ、信じられるんだその言葉を……。本当に礼しかないんだ。
だから……。
「ありがとうな……」