【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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人形は器を得て生を謳歌する

「ミモザ行くぞ」

 

 図書館から帰って来た俺はミモザを河川敷で散歩させている。

 ミモザは散歩が大好きな犬で疲れ果てるまで途方もない苦労をすることになるが、俺もこの散歩の時間というものが嫌いじゃない。知っている景色、これから作られるであろう景色などが混在している世界やこの河川敷でジョギングしている人、足腰を鍛える為に歩いているご老人が通ったりするからだ。

 

「ミモザ……どうした?」

 

 散歩をさせていると、固まって動く失くなくなってしまう。

 いや、語弊があるな。鼻で何かを確かめるようにして草むらの匂いを確かめていると、そっちの方向へと歩き始めていた。

 

「お、おいどうしたミモザ……?」

 

 翻弄されながらも歩いて行くミモザに付き合うと……。

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 河原の方に辿り着くとそこにはチェック柄のワンピースを着ている薄緑色の長髪の女性がねそべっていた。そして、俺は何処からどう眺めてもその人に見覚えがあるのだが……どっちだ?となっていた。

 

 というか状況が意味不明過ぎる。

 睦はあんまりこういうことはしない印象がある。だとしたら……。

 

「あっ、おい……!ミモザ、待て……!」

 

 思考をしていると、ミモザが眠っている睦?の顔を舌で舐め始めている。

 人懐っこい犬だからこうなることは割と予想できていたが、早い段階でどうやら抑えが効かなかったようだ。俺が起こすより、こうしてミモザが目覚めさせてくれるならそれはそれで有難いからいいかとなっていると、睦?がじたばたと暴れ出す。顔には舌で舐められたこともあって、涎塗れになっていると流石に抗議をし始めるとどっちなのかすぐに判明した。

 

「な、なにこのワンちゃん!!?しつけちゃんとされてないの!!?ちょ、ちょっと飼い主さん、この子どうにかして……!!」

 

 口調的にモーティス……。

 すぐに見抜けた俺はミモザに「止すんだ」と言うと、ミモザは顔を舐めるのをやめて俺が手のひらに置いたご褒美を食べながらも「やってやったぜ」と言わんばかりになっている……。本当、この子は元気だな……。

 

「もう飼い主さんのくせにちゃんとしつけもできてな……結人君!!?」

 

 抗議の声を俺に向けてくるのと同時に俺だということに気づいたのか、魂でも喰われたかのような表情になるモーティス。

 

「こんな朝っぱから黄昏れてたのか?モーティス」

 

「……え?違うよ?気づいたら此処に寝てたの」

 

「は!?お前なぁ……どうして此処で寝てたのか知らないけどな。お前みたいな女の子が此処で寝てたりしてたら知らない奴に変なことされたりするんだから、そういうのやめろ」

 

「結人君は五月蠅いなぁ……。まあ、でも結人君の言うことだから聞いてあげるね!ごめんね結人君!!」

 

 どう考えても反省してねえ……。

 調子いい感じに言っているのが俺にバレているからだ……。というか、言葉が軽すぎるんだよなこいつ……。とはいえ……本当に何も無くて良かったのは事実だ。モーティス()は芸能人の娘だし、そういうのを狙って誘拐する奴が現れたっておかしくはなかった訳だからな。

 

「それにしてもこのワンちゃん……!私の顔を凄く舐めて……。どうやって甚振ってあげ「おい」」

 

「う、嘘だよ結人君?ほ、本当はね、どうやって可愛がってあげようかなーってね?」

 

「はぁ……好きにしろ」

 

「ありがとう!!それじゃあ、ワンちゃ「ミモザな」」

 

「うん、ミモザちゃん……!やさーしく失礼するね?」

 

 モーティスがミモザと戯れている……彼女がミモザのことを撫でたりすると、凄く喜んで彼女の顔を舐めて反撃を開始したりしている。それに負けじとモーティスも顎の下を掻いたりあげたりしていた。二人が仲良さそうなのを確かめてから、俺は一旦モーティスにミモザのことを任せることにすると、河原で俺が渡したボールを投げてそれをミモザに拾わされて取っては投げたりを繰り返している。なんか凄い相性いいな……となりながらも二人のことを眺めているとミモザが俺の方へとやって来て、そのまま俺のことを倒して体重を掛けてくる。

 

「ふふっ、ミモちゃんやったね!!結人君に一泡吹かせたよ」

 

「お、お前ら……な!ミモザ……!やめろ、くすぐったい!!と、止めろモーティス!!」

 

「えー?どうしようかな?結人君が参ったって言ってくれたら止めてあげる」

 

「はぁ…………参ったから。ミモザ止めてくれ……!!」

 

 好き放題ミモザに顔を舐められる俺は必死にミモザに対して抵抗をしようとするが、相手は大型犬勝てる訳もなく為す術もなく顔舐め放題という地獄を課せられた俺は降参の意志を示す。

 

「ミモちゃん、どうする?結人君のこと許してあげる?どうしよっか?もっと大好きな結人君のこと舐め倒した「お前、いい加減にしろよ!!?」」

 

 と若干半ギレをすると、「はーい」と言いながらもミモザのことを止めていた。

 この短期間で此処まで仲良くなったのかとなりながらも俺はハンカチでミモザに死ぬほど舐められた顔を拭いた。というか、なんか知らんうちにあだ名で呼んでんな……。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺帰るからな」

 

「えー!!ちょっと待ってよ結人君!!折角会ったんだから遊ばようよ!!」

 

「つっても、今ミモザいるからな……。一旦ミモザを家に帰してからでいいか?」

 

「じゃあ、私も結人君についてく!!」

 

「……は?嘘だろ」

 

 全く引くこともせず、堂々の発言に俺はマジで困惑していた。

 え?これ俺の家に着いて行くって言ってるんだよな……?いや、流石に一旦家に帰ってからまた来るねーとかそういうのを期待していたんだが……。こいつマジかよ……。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に家まで着いてきやがった……」

 

 別に駄目とは言わない。

 流石に遠慮してくれるだろうなという俺の勝手な想像でしかなかったのは認めるが、それでも俺はあいつが「じゃあいいかな」って引いてくれるのを期待したら全くそういう素振りをしてくれなかった。

 

「はぁ……」

 

 今日何度目かになる溜め息を吐いたのと同時にミモザを家に入れて餌と水を渡して、少し様子を確認してから家の外に出るとニコニコな笑顔のモーティスが俺の家の前に立っている。正直、敵意がないからこそ尚更「帰れ」と言い出せることが出来なかった。そもそも、敵意があったら家まで来ないだろうが……。

 

「そんで……何処か行きたい場所とかあんのかよ?」

 

「うーん……?」

 

 唸り声を出すようにしても何処へ行こうか考えている。

 どうやら、特に何処かへと行きたいかそういうのは全く決まっていなかったようだ。なのに、俺の後ろ着いて来たのかよと呆れながらも俺はモーティスの回答を待っていた。

 

「あっ……!!結人君、ゲーセン行こ!ゲーセン……!!」

 

「ゲーセン……?」

 

「さっきね、此処の通り行ったときにね……!ちょっと気になったの!!」

 

「いいけどよ……」

 

 駄目と言うつもりはなかった俺はモーティスと共にゲーセンを目指すことにしていた。

 てっきり俺はもっと我がままを言われると想像していた……。まあ、ゲーセンで満足してくれるならそれでいいか……。家の前を出て、モーティスと共に歩きだしているとあいつは色々の話をしてくれていた。

 

「実はね、結人君……!私はね、小さい頃から睦ちゃんの中にいたの!」

 

「その話なら昨日聞いた、モーティスが睦を守ってくれるっていう話もな。ありがとうな」

 

「……え?なんでお礼言うの?」

 

 突然俺に感謝をされて「なんで?」という顔をしている。

 どうやら、自分で使った「守る」という単語の意味をあんまり理解していなかったようだ。

 

「お前が睦のことを守ってくれてるんだろ?だから、お礼したんだよ」

 

「そ、そうだよ!私が睦ちゃんのことを守ってあげてるんだよ!睦ちゃんの嫌なこととかぜんーぶ私が助けてあげてるの……!!」

 

 動揺している……。

 恐らくだが、多分モーティスはあんまり人に褒められるということをされたことがない……。だから、こうして面と向かって言われること自体初めてだったんだろう。……睦はあんまりお礼とかしてないんだろうか。あんまりそういう礼儀を軽んじる奴でも無さそうだったが……。

 

「ところでモーティス、お前睦とは上手くやれてるのか?」

 

「や、やれてるよ……さっきも言ったけど睦ちゃんの嫌なこととか全部私が「そうじゃなくてな」」

 

「ちゃんと睦と話とかしてるのかって言いたいんだ。なんつーか、さっき俺にありがとうって言われたときすげえ驚いた顔をしてたから、もしかしてお前睦にあんまり有難られてないんじゃないのかってなんとな「そういう話やめよ、結人君……もっとこう結人君とは楽しいことがしたいの!私の王子様みたいな結人君からそういうつまんない話されたくない……!意地悪!この話終わりね!!」」

 

 どうにも互いの話に踏み込んだことをされるのは本人はかなり嫌なようだ。

 実際それは正しいだろうし、正常な反応だがあいつの態度を此処まで見る限り、これは流石に忠告してやらなくちゃいけない。肩を掴んで、そのまま彼女を路地の中へと連れ込む。人にあまり話を聞かれないようにする為だ……。

 

「モーティス、これはお前の為を思って少しばっか残酷な話をするけど、多重人格ってのは……主人格である人間が強く抑え込んだりすれば、お前という人格は意識の奥に押し込められて、表に出て来れなくなる可能性があるんだよ。そうなったらどうなるか、分かるか?」

 

「やだ……やだ……!!そんな……そんな話しないで!!どうして私の嫌な話ばっかりするの!!知ってるよ、そんなこと……!睦ちゃんが私のことを抑え込んだりしたら暫く私は出て来れなくなったりすることぐらい……!知ってるからそんな酷い話ばっかりしないで!!どうしてそんな話ばっかりするの!どうして私のことを否定するの!?消した「消えなくていい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?今……なんて……言ったの?」

 

「消えなくていい」

 

 路地の中で……空気が凍ったような感覚があった。

 時が止まったような感覚があった。モーティスと目を合わせて話をしていて、俺は最終的にはその発言をした。決して、それは無責任なものなんかじゃない。だからこそ、モーティスに断言した。彼女にどれぐらい響くか、届くかなんてものは全く考えてもいなかった。ただ、俺は俺なりの回答を出しただけだ。

 

 愛音……。

 俺はお前に頼ったけど、結果的にそれは要らなかったのかもしれない。いや……お前のおかげで多分俺は自分の言葉に深みを入れることが出来たのかもな……。俺はこいつとの少しばかりの繋がりだけでこいつが改めて睦に刃を向けるような奴じゃないと認識出来た。確かに睦とは全く話をしていなくて、睦は多分モーティスのことを嫌っている。『嫌い』という認識があるのをそこから変えて行くってはの無理なもんではあるんだが……俺は思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 自分が自分のことをずっーと嫌っていたら埒が明かねえって。だって、それを俺はよく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は……怪物だったんだ……』

 

 知ってるもんな……。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、行くぞ……。ゲーセン行きたかったんだろ?それと……悪かった。傷つくことばっか言って……」

 

「…………ううん、行こ結人君。私も…………ごめんね。我がままばっか言って……」

 

「気にすんなよ、先に嫌なこと言ったのは俺なんだから」

 

 路地から出た俺は……それ以上彼女に何かを忠告することはしなかった。

 ちゃんと届いたからこそそれ以上嫌なことに俺から触れることはしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 ゲームセンター……。

 様々な筐体から音やら色んな声やら聴こえてくるこのにぎやかな場所に来ると自分がゲーセンに来たという実感をさせられる。一通りクレーンゲームを確認した後に、モーティスがあるクレーンゲームの前に止まっていた。

 

「結人君……!!アレ、アレ取ってよ!!」

 

「何を……ってあー分かったよ」

 

 モーティスが指差していたのは犬のぬいぐるみ……。

 何処となくミモザに似ているような気がしてならなかったが俺は百円玉を入れて早速やることにする。クレーンゲームをやるのは久々でもないが、こういうものをどうやれば取れるかなんてものはよく知っている。放課後、終われば偶に学校の友人とゲーセンに行って、それをどう取ればいいとか指示することはあるからな。自分でやらなくても……。

 

 こういうのはよくぬいぐるみについているタグを狙うとかいいとか言われることが多いけど、正直あんまり狙わない方がいい。というか、初心者とかは絶対に狙ってタグを掴めるわけがないから全体的に中心を狙って取った方がいいに決まっていると色々思考しながらも、まず一回目をやるが、一発で取ることは出来ない。

 

「あー取れなかった……」

 

 残念そうな声を出しているモーティスを無視しながらも、続けて百円玉を入れてレバーを操作して景品を狙うも失敗してそれから何度かぐらいこの作業が続いていると、彼女は飽き始めたのか……。

 

「他の見て来る……」

 

「あんまり遠く行き過ぎるなよ」

 

 小さく頷いている。

 それからして、俺は集中する為にクレーンゲームに戻って行った。

 

 

 

 

「取れたぞ」

 

 大体千円ぐらいは使っただろうか。

 あんまり大きなぬいぐるみに挑戦したりすることはないから、苦戦を強いられたなとなっていると……。

 

「やった、やった!結人君!!一発で取れたよ!!」

 

「……マジか、良かったな」

 

 何度も上下に揺らしながらも見せつけて来ているのは駄菓子のキーホルダー。

 すげえ突っ込みたいけど言わない方がいいんだろうか。駄菓子のキーホルダーって需要あんのか……?

 

「ところで結人君……ワンちゃんに関する話はないの?」

 

「犬の話……?」

 

「ほら、自慢話みたいなの」

 

「言い方考えろよな……」

 

 一瞬、なんでそんなことを質問してくるんだ?と疑問になっていたが恐らく燈がCRYCHICだった頃に、俺の話を少しばかりしていたのかもしれない。だから、こうして興味を示しているのかもなと脳内で補完しながらも俺は何を話そうかとなっていた。折角だから、ゴールデンレトリバーでいいか。

 

「ミモザがゴールデンレトリバーなのは知ってるな?」

 

「うん、知ってるよ」

 

 モーティスが興味津々で俺の話を聞こうとしている。

 話す前からこうやって聞く姿勢に入ってくれるとなんかすげえ嬉しいんだよな。

 

「で、そのゴールデンレトリバーに関する雑学なんだが、原点は19世紀のスコットランドで狩猟犬として誕生したんだ。当時は狩猟する際に陸でも水でも獲物を回収できる犬が求められてな、色々な交配の元で誕生した犬なんだ」

 

「えぇ……?目的の為に生み出されたワンちゃんなの?なんか可哀想じゃない?」

 

 不服そうに顔を膨らませている。

 まあモーティスからしてみればあんまりそういうのは好きじゃないのかもな……。

 

「まあ、そういう意見があるのも仕方ないとは思うけどな。それとな、ゴールデンレトリバーは物凄く社交的過ぎて、番犬には絶対に向かない犬なんだ」

 

「え?そうなの?確かに凄い可愛らしいワンちゃんだから向かなそうだけど」

 

「外見ってよりは、フレンドリーな性格でな、泥棒が来ても遊んで!って構って欲しいそうにしてしまうんだ。ミモザは割と警戒心ある奴なんだが、それでも慣れちまえばすぐじゃれて来るからな」

 

「ミモちゃん、すぐ懐いてくれたよ?」

 

「ああ、割と珍しいなーってなってたんだけどな。そんな悪い奴に見えなかったんじゃないのかお前のこと」

 

 ああもすぐに懐くこと自体、本当に割と珍しかった。

 モーティスが小声で「そうなんだ……」と嬉しそうに頬を緩ませている……。

 

 

 

 

 ある程度クレーンゲームを楽しんだ後に、俺とモーティスはレースゲームで勝負することになった。誘ってきたのはあっちであり、なんでもアクション映画でカーチェイスするシーンが凄く印象的に残っていて一緒に競争してみたいと希望に応える為、俺は一緒にレースゲームすることになった。月ノ森の生徒がレースゲームやってる姿なんか凄い面白いな……。

 

「結人君、どうしたの!?私今一位だよ?もしかして結人君ってレースゲーム下手だっ「ぁ!?上等じゃねえか、モーティス!!負けたら飲み物奢ってもらうからな!!」」

 

 そして、俺は好き放題モーティスに煽られている。

 はっきり言って地獄みたいな言葉ばっかり投げられていたから、珍しく煽りに乗せられて俺は本気になる。車のライトが頼りな状態で峠を走り続けながらも、俺はゲームに集中をし続けていると、闇に沈んでいるガードレールが一瞬だけ照らされて、ハンドルを思いっきり回しながらもコーナーを曲がって俺は後ろを追いかける。前方にはずっとモーティスが操作している車が走行している状態になっているが、俺が前に出れないようにブロックされている。左からも右からも迂闊に出ることが出来ないこの状態でどうするかと言う判断が試されている。

 

 周回はこの残り一周のみ……。

 そりゃあ、煽られて当然だがモーティスがこの手のゲームが得意というかすぐに馴染んでくるとか全くの想定外だったが本当に一つだけ言わせてくれ……。なんで、月ノ森の生徒がこんなレーシングゲーム上手いんだ……!?いや、駄目とかじゃないが絵面が面白過ぎる……!!

 

「流石に邪念が多すぎるか……」

 

 一旦、自分を落ち着かせる為にハンドルを強く握りながらも態勢に入って、エンジンをより力強く踏み込むとエンジンが一段と唸りを上げ、車体が闇の中を切り裂いて加速しながらも俺はどうやって抜かそうとするか思考を研ぎ澄ませる。左右に揺さぶっても、すぐに砦のように塞がれるのはさっきで実践済み。これじゃあ、直線で速度を出しても追い抜けねえ。

 

「結人君これで決まるね」

 

 まだ煽って来るモーティス。

 焦るのはまだ早い。最終ラップ……抜くチャンスは後残りたった一度だけだ……。コーナーが迫る。此処で決めねえと、もう後がない。峠道は細く、抜くには無理がある。なら……相手にミスをさせるしかない……。フェイントを仕掛ける為に、一瞬、左に振る。ヘッドライトの光が左のガードレールを中心に照らし始めると、それに反応して向こうも左へと寄って、右にハンドルを切ろうとするとモーティスは即座に反応してくる。

 

 嘘だろ、この手のゲームこんな上手いのかよ……冗談じゃねえよ……。こっちは中学からこの手のゲーム死ぬほどやりこんでるんだぞ。なのに、こんな読まれてるとかおかしいだろ。でも、やるしかねえよな……。なんせ、もうコーナーは見えて来たんだからよ。

 

 

 

 

 

 此処が勝負……。

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

「悪いな、モーティス……」

 

 モーティスの敗因は至って簡単。

 それは「俺に絶対に負けたくない」という焦りが生んだミス。峠ではブレーキを遅らせすぎると、コーナーの外へ膨らむだからこそ俺にそこを突かれて内側を奪われることになった。要は自滅だ。でも、本当に焦らさせられた。モーティスが普通にこの手のゲームが上手いとは知らなかったからな……。

 

「この勝負、俺の勝ちだな」

 

「……もう一回!!今のはノーカン!ノーカン!!手が汗で滑ってハンドルがちゃんと握られなかっただけ!!」

 

「ノーカンとかねえよ……」

 

「ふーん?結人君って初心者狩りしてそれで嬉しくなっちゃうタイプなんだ。ちょっと幻滅したなー」

 

 謂れのない言葉が容赦なく矢のように降り注いでるなか、俺は「仕方ねえな」と呆れつつもう一戦付き合うことにすると、モーティスは大きな声で喜んでいたが結果は……。

 

 

 

 

 

 

「俺の勝ちだな、行くぞ」

 

 俺の勝ち。

 自分の敗北をひたすら認めらえないでその場に留まろうとするモーティスを無理矢理ゲームの筐体の椅子から立ち上がらせることにしていた。本当にこいつは全く手のかかる奴だな……。

 

「んで?次はどうするんだ?」

 

「プリクラ!」

 

「あーなるほど、いいぞ」

 

 提案された通り、プリクラの筐体がある場所へと向かうことにした。

 さっきまでの白熱したレースが冷め切っておらず、本当は対戦のゲームをしたかったけどまあいいか……。

 

 

 

 

「アップの写真でいいよね?」

 

「ん?ああ、構わないぞ」

 

 筐体の前にある機械で何やら操作をしている……。

 話の内容的にどうやらコースみたいなものを選択しているようだった。選び終わったモーティスは俺に「中入ろ」と言って来ていた。後を追うようにして、俺は中に入って行った……。

 

「プリクラってこんな感じなのか……」

 

 カーテンのようなものを捲って中に入るとそこは真新しい世界が広がっていた。

 今まで入ったこともないこともあってか、知らない世界がそこにはあった。意外と中自体は真っ白だというのにも「へぇー」となっていたが、そこに映し出しされている液晶で色々加工とかするのかとなっていた。

 

「結人君来たこと無いの?」

 

「ないな……」

 

「なんか意外……」

 

 本当に入ったことねえんだよな……。

 というか、最近の奴らってこういうプリクラで写真とか撮ったりするのか?今の時代、スマホで加工なんてやりたい放題だしな……。あいつが画面をタッチすると……。

 

「ほら、結人君!撮るよ!!」

 

「ちょっ、ちょっと待て……お前近くないか?」

 

「こういうのって近づかないと駄目!お決まり!!」

 

「あ、ああ?そうなのか……?」

 

 体を密着させてくることに対して俺はそれが普通だという感覚が全くなかった。

 とはいえ、これが普通ならばそれに従うしかないとなった俺はこの狭い空間。肩越しに感じる息遣いが、どうしようもなく意識にのしかかっていたがあまり気にしないようにしていたがどうやら画面の方を向かなければならないということもあって、俺は更に困り果てているとモーティスが「ポーズ、ポーズ!!」と指示をされてとりあえずピースをすることにした。モーティスの方は最初違うポーズだったようだが、俺のを見てからピースにしていた。

 

 

 

 

「ふふっ、結人君の顔にヒゲ生やしちゃおうっと」

 

「ふーん?こういう感じなのか……ってヒゲ?」

 

 撮り終えたものはどうやら落書きとやらが出来るようだ。

 こういうもんなのかと納得していると変な単語が飛んできて俺はそれを聞き逃すはしないで液晶の方を確認すると、俺の顔に黒いヒゲが生やされている。意味が分からず、困惑していると今度はハートを書こうとしているのが目に入った為、俺はモーティスの手を掴む。

 

「おい、待てなにしてんだモーティス」

 

「何もしてないよ?結人君が私の王子様だからハートで囲もうと思っただけだよ?」

 

「……ダメとは言わねえけど、俺の了承を得ろ」

 

「ダメじゃないならいいで「なんか嫌だから、やっぱ待てモーティス」」

 

「ちぇー、じゃあ結人君が描いてよ……」

 

 ハートを実際に描かれると色々恥ずかしさが込み上げて来るからこそ俺は止めようとすると、今度は俺にペンを渡して来ていた。まさか自分に託されるとはな……と面倒になりながらも俺はペンを受け取った後にモーティスの方にこう描き始める。

 

「ちょっと結人君!!なんで私の顔の横に駄々っ子って書こうとしてるの!!?」

「は?事実だろ」

「事実じゃないもん!!結人君の言うことちゃんと聞いてるもん!!」

「じゃあ、忠犬な」

「え!!じゃあ私だって結人君の方に誑しって書くから!!どうせ言葉で色々とその気にさせてるんでしょ!!詐欺師って書くね!!人の心を掴んでそのまま逃げる人って!!そういうの犯罪だからね!刑務所!!かつ丼食べてね!!」

「はぁ!!?おい、待てモーティス!!俺が悪かったから、好きに描いていいぞ!おい!!!待てモーティス!!!」

 

 プリクラの筐体の中で俺達はすげえ喧しく騒ぎながらも激しい攻防戦が繰り広げられていた。その攻防はさっきのレースゲーなんて比にならないほどのものだったが俺は楽しくて仕方なかった……。それにモーティスもすげえ笑ってくれていたんだ……。

 

 

 

 

 

「凄いぐちゃぐちゃなプリクラ出来たな……」

 

 出来上がったプリクラを確認すると、俺とモーティスの顔の周りにはとんでもないほどのぐちゃぐちゃの線が出来上がっていた。凄まじい攻防の結果と言えば、なんとも綺麗に聞こえるが描かれているのがこれはこれで芸術みたいなもんだな……。とりあえず財布の中にしまい込んでいると、モーティスがジッとプリクラを眺めている……。

 

「これも思い出だな」

 

「思い出?」

 

「滅茶苦茶になっちまったのは事実だけど、これもこれで思い出になるのは確かなんじゃねえってことだ」

 

 ……思い出か。

 自分で使った言葉だというのにそれがじんわりと来ていた。記憶と記録、後者に含まれるものななんだろうがこの場合は両方の意味が込められているような気がしていた。何故なら、こうやって馬鹿みたいなことをするのっていうも含んでいるからだ……。

 

 

 

 

「結人君……これすっごく大事にするね」 

 

 しっかりと噛み締めるようにして大事に握っていたそのプリクラ……。

 もしかしたらなのかもしれないが、モーティスにとって手元に残る初めての証という奴だったのかもしれなかったと気づいた俺は……。

 

 

 

 

 

 

「ああ、俺も大事にするよ」

 

 彼女という人格は確かに昔から存在していたのかもしれない。

 でも、きっとモーティスという人格にとってそれまで自分がいたという証明の記録となるものは何もなかったんだ。だからこうして、咲き誇る花のように笑いかけてくれていたんだろう。

 

 

 

 

 

 

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