【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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睦(モーティス)の精神世界

彼女達の心の世界。
彼女達の映像として見たもの、もしくは実際に行った場所が舞台として扱われる。舞台としての一例を挙げるとしたら、ゲームセンター、RING。

普段モーティスは此処で生活している。時間の流れは現実世界と一緒である。これらの精神世界には役割を終えた者達も住んでいる。場合によっては役割を終えた者達が人格として復活することもある。また、この舞台となっている精神世界は主人格である睦の精神状態に異常を期した場合、この精神世界の崩壊が訪れる。




人格会議

彼女達の精神世界において行われる。
主に主人格である若葉睦に決定権が委ねられており、彼女がある人格をいらないと判断した場合該当の人格は人格ごと消されるかもしくは封印される。又は統合されることもある。主な発生理由としては、睦自身に重度のストレスがあった場合、もしくは心理的防衛機制によって発生する。(※かつては複数の人格達によって会議が行われていた。)





この回は独自解釈が多々含まれております。


人格番組は終わらない、人間は善意をやめない

「睦ちゃん……!話があるの……!!」

 

 静寂が舞台を包み込んでいる……。

 照明が落ちていて、薄闇の中に、ほんのりと浮かぶ幕の影……。客席には誰もおらず、ただ何処かに潜む気配のようなものだけがじんわりと感じている。舞台袖から漏れる微かな足音は私の足音だった……。

 

「私は結人君と一緒に居て学んだことがあるの……!私は私でいい、睦ちゃんは睦ちゃんでいい……。自分の思うように生きていいんだって!!彼と友情を育んで分かったの!!それと……睦ちゃんにどうしても謝りたいことがあるの……!!」

 

 この舞台は……私達の記憶にある場所。

 Ave mujicaのモーティスとして舞台に立ち上がった初めての場所……。今でもこうして私達の記憶にはこのステージのことは記憶にある。あのときと違うのは、会場の熱気なんか無くてひにゃりとしている空気が張り詰めていることだった……。

 

「きっと睦ちゃんは私のことを嫌っていたと思う!!それは当然だと思う……。だって、私は睦ちゃんにとって汚れ役として動いているなんて今まで言い聞かせていたけど、何一つ睦ちゃんの為になったことなんてなかった……。Ave mujicaのモーティスとして、くだらないお遊戯ごっこを勝手に演じたのもそうだった……」

 

 睦ちゃんに内緒で何度かAve Mujicaの劇をしていた……。

 くだらないお人形遊びだと思っていたけど、楽しそうだったから私が睦ちゃんの代わりに演技して見せた事もあった。それをするようになったのはきっと結人君と出会って、彼の優しさに当てられたとき……。きゅうりを食べてくれたこと、優しく私に変装させてくれて、私は私でいいと言ってくれた。どれも睦ちゃんに向けての行動、言葉だったけど睦ちゃんの中にいた私まで暖かくなりそうだった。なによりも……私自身に消えなくていいと言ってくれたことが嬉しかった。口は悪いけど、凄く優しくて陽の光のようで本当に王子様だった……。でも、私は結人君と仲を深めることで分かった……。

 

「私は……睦ちゃんとの共存を望みたい……!!これは結人君の言葉でもなんでもない、私自身の言葉……!!睦ちゃんと色んなことをしていきたい、睦ちゃんと色んな話をしていきたい」

 

 此処からは私自身の言葉だった。

 結人君から影響を受けてそれを噛み締めているのは事実。だけど、私は本心で睦ちゃんと話をしたかった、色んな思い出を作りたかった。結人君がそうさせてくれたように、今度は私達が自分の力で自分の記憶を作り遂げたかった。私が勝手にAve Mujicaのモーティスとして舞台を身勝手にしたことを……。睦ちゃんの声を聴こうとすらしなかったことを謝りたかった……。

 

「だからこれまでのことは……ごめ「過去は変わらない」」

 

「え?」

 

 その瞬間、照明が観客席を照らし始める……。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、モーティスちゃんに問題です!!」

 

「なに……これ……」

 

 気づけば私が居たのは舞台じゃない場所に変わっていた。

 私がいたのはまるでクイズ番組のような景色だった……。出演者は私だけ……。いや、私だけじゃなかった。司会者と思われる役割を終えた一人の睦ちゃんがそこには立っていた。自分が今いるこの場所を観察していると、記憶の中の一部にあったものだということに気づいた。何故なら、タイトルに覚えがあったから。人格付けチェック……。タイトル自体は捻られているけど、そのタイトルは昔お父さ……たあくんが出ていた番組だったから……。

 

「さあ、これが本日ラストの問題となります!!モーティスちゃんはこの問題に間違えれば、睦ちゃんの人格から消去されることになります!これは睦ちゃんとの人格会議の結果で決められたことになります!!」

 

「……!!?」

 

 司会者である睦ちゃんだった子からは信じられない発言が飛び出して来ていた。

 確かにこの番組はそっくりさんと呼ばれるところまで落ちていて、そこから問題に間違えたらテレビに映されなくなる。それを模倣しているんだろうけど、あの睦ちゃんだった子の言っているこのルールは滅茶苦茶そのものだった。

 

「待って!私こんな番組出たく「逃げるの?」」

 

「今まで通り逃げるの?睦ちゃんに大口叩いたくせに逃げるの?ねぇ、モーティス。聞いてもいい?」

 

「なにを……」

 

「成長ってどんな味?私は、成長出来なかった」

 

 司会者の睦は私に笑い掛けている。

 その笑顔には見覚えしかなかった。

 

「成長したかった私も……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「カラオケに行ってCRYCHICが楽しくて()()()()()()()()()があったから、私はきっと成長できると思った。みんなといれば、どんなことも辛くないと思えた。なのにね、睦ちゃんはこう言っちゃったの……」

 

 彼女が指パッチンをしたの同時にモニターにはVTRが流れている。

 その映像は祥子ちゃんがCRYCHICを抜けると宣言して、立希ちゃんと祥子ちゃんが言い争っていて……。それに対して、そよちゃんは睦ちゃんに続けたいよね?と言っている声が聞こえてくる。この後、睦ちゃんがなんて返したのかは私達はよく知っている……。

 

 

 

 

 

『バンド……楽しいと思ったことない……』

 

 一抹の希望だったのかもしれない呼び掛けは……絶命するかのようにしてトドメを刺す言葉となってしまっていたんだ……。睦ちゃんはあの後、後悔することになった。自分がしてしまった発言のせいでCRYCHICが解散することになった、と……。

 

 

 

 

「もしかして……」

 

「そう。あの日、睦ちゃんが楽しくないなんて余計なことを言ったから私は役割から引き摺り落とされた。睦ちゃんに尽くしてあげた。立希に笑える人間だと知って貰えた、そよと楽しく話せた。燈の趣味を知れた、祥と思い出を作れた。睦ちゃんになってあげたのに睦ちゃんは私を裏切った。でも……今は感謝してる」

 

 私は彼女がどういう睦ちゃんなのかをようやく理解できた。恐らく、あの睦ちゃんはCRYCHICの日常を担当していた睦ちゃん。いつもの睦ちゃんと変わらないけど、祥子ちゃん達といるのが楽しくて時々笑顔になったりしていたあの睦ちゃんなんだ……。

 

「感謝……してる……?」

 

「そう、睦ちゃんは今私のことを欲してくれている。一緒になろうと言ってくれてる。もっと簡単に言うと、私と睦ちゃんは人格を統合する。必要としている、貴方じゃなくて私のことを……。きっと睦ちゃんからすれば貴方みたいなわがままな子よりも……。私みたいに時より笑顔を見せられる子の方がいいと思ってる」

 

「そ、そんなこと……」

 

「自分のこと、棚に上げてる」

 

 言葉という棘が私の中で突き刺さる。

 

「結人の前で何度も勝手に出て来て、その内の一回は楽しそうに話をしてその上自分だけ勝手に成長した……。それだけじゃない、貴方は睦ちゃんの体を使ってムジカのライブを台無しにしそうになったこともあった」

 

 ムジカのライブを無茶苦茶にしそうにしたのは私自身表に出てこうやって何かをするということが楽しかったから……。それが自分勝手だったのは私は認めるしかなかった……。

 

「運良く祥がアドリブを効かせてなんとかしたけど、困らせたという事実は変わらない。でも、そんな意地悪なモーティスに……。チャンスをあげる」

 

「チャンス……」

 

「今から出て来る問題にモーティスが見事大正解を果たしたら貴方のことは見逃す。でも、間違えたら……」

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は此処で終わり」

 

 死刑宣告よりも重たいその言葉が私に伸し掛かっていた。

 いや、でもこの問題に答えることが出来れば私はこれからもモーティスとして睦ちゃんの中にいられることが出来る。問題に答えられば、それでいいなら簡単……。どうでもいいけど、あの睦ちゃんがなんで司会者なのかも……。あの睦ちゃんだった子がこれから敗者復活する予定の睦ちゃんだから……。多重人格は人格を押し込められた場合、数年掛かって再復活することもできる。だからこうしてあの子が此処にいるんだ……。あの睦ちゃんは今の睦ちゃんから選ばれた子なんだ……。

 

「やる……絶対やる!!こんなところで消えたくなんかない!!」

 

 睦ちゃんにどうしても謝らなくちゃいけないことがある。

 私は此処で臆病になっている訳には行かない。そして、結人君にお礼を言いたい。私を変えてくれてありがとうって……。だから、逃げたくなかった。

 

「……最終問題、若葉睦はAとB、将来どちらのを作品を好んでいるか?」

 

 此処も割と元の番組と似たような形式にしてくる睦ちゃん。そして、私は二つの作品を見せられたとき困惑していた。何故なら、それはまるで現実世界の作品にしか見えなかったからだ。思わず一歩下がりたくなるような二つの恐怖の作品……。Aは……睦ちゃんと思わしき人物と恐らく祥子ちゃん……。そして、結人君と思わせる人物が映っている絵画のようなものがある。こっちは正直、私の嫌いな祥子ちゃんがいる以外は普通だった。そして、もう一つの方は息を呑むとしか言えなかった……。

 

 

 Bの方は睦ちゃんと結人君と思われる人間以外映っていない。それどころか、その下には屍を彷彿とさせるような死体の山が映し出されている……。はっきりこんなの異常じゃないと叫びたかったけど、冷静になっていた。凄い腹が立つけど、睦ちゃんにとって祥子ちゃんも結人君も凄く大事な存在……。それは未来でも変わらないはず。

 

「答えはA……!睦ちゃんにとって祥子ちゃんも結人君も大事!!だから、答えはA!!」

 

 Aという解答を出す。

 自信しかなかったこの回答を見せると、かつての睦ちゃんは笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「不正解」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 淡々と告げられた「不正解」という単語……。

 意味が分からなかった。睦ちゃんにとって祥子ちゃんも結人君も大事なはずなのに、なんで?なんで間違ってるの?そんな訳ない、私は確かに祥子ちゃんのことは今でも嫌い。でも、睦ちゃんにとって祥子ちゃんの存在がかけがけのないもの……。だから、Bはあり得ないはずなのにどうして……。

 

 

 

 

「さようなら、モーティス」

 

 不正解と伝えられた私の周りには無数の睦ちゃんだったものが近づいてきていた。

 

「やめて……来ないで……お願い本当の睦ちゃんに会わせて……。私は謝りたいの……睦ちゃんに……。今まで我がまましてごめんって……。だからやめて……」

 

 役割を終えた睦ちゃん達が徐々に私を圧迫させようとしてくる。

 その様子をかつての睦ちゃんは哀れむようにして視線を送っていた。

 

「お願い……私は睦ちゃんに「さようなら、私になれなかった……」

 

 

 

 

 

 

 

「哀れな()()()

 

 嫌だ……。私は消えたくない……。

 言ってくれた、消えなくていいって……。結人君は言ってくれたんだ……。誰も必要としてくれなかった私に希望を与えてくれた。一滴の水を与えてくれたんだ。

 

 

「死に……たくない……」

 

 顔の見えない無数の睦ちゃん達が私のことを囲んでいる……。

 苦しみたくない、そう願えば願う程自分が失うのを恐れていたんだとなる。自分と言う人間が消されことを恐怖していたんだとなる……。でも、本当に教えてくれた彼が……。

 

 

 

 

 

 

 

 消えなくて……いいって……。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「よ、よぉ……そよ……。あーえっとそうだな、今日も元気か?」

 

「別に普通だけど結人君こそ、今日は元気なさそうじゃない?昨日はあんなに睦ちゃんとはしゃいでそうだったのに?」

 

「いや、別にはしゃいでなんかいないぞ。あのとき偶々俺は機嫌がよかっただけで」

 

「それをはしゃいでたって言うんじゃないの?まあ、いいから。早く座って」

 

 これ以上、会話を長引かせなくていいから座れという圧を受け取った俺は、椅子に座ると立希が何か言いたそうな表情でグラスに入った水を持って来てくれていて、「ありがとう」と言うと……。

 

「後で話あるから来て」

 

「……分かった」

 

 こっちはこっちで色々と骨が折れそうになりそうだという状況……。

 返事をしていると、そよが指で指を弄っている動作が視界に入って来る。それだけでストレスが溜まっているというのは伝わって来ていた。

 

「睦ちゃんとあんなに仲良いなんて知らなかったな……いつからなの?」

 

「……三回目のMyGO!!!!!のライブのとき差し入れ持って来てくれてな。そんときに初めて会話を少しした」

 

「そう、あれはやっぱり睦ちゃんが持ってきたんだ……。それで?」

 

「……次は楽奈を探しているときに丁度睦と遭遇してな、それで一緒に楽奈を探して貰ったんだよ」

 

 そよ相手に誤魔化すのは普通に無理だ。

 だから、モーティスから口止めされていること以外は話そうとはしていた。あいつはすぐ見抜いて来るからな……。とはいえ、此処には立希もどっちも見抜いて来る奴らばっかだからこの状況がまるで刑事ドラマの取り調べ室で取り調べを受けているような気分だ。到底、かつ丼をくれなんて言えるわけがないけどな……。

 

「三回目はライブのとき……あいつと一緒に聴いただけだ。それで……そんときにお前はお前らしく居ればいいって俺は伝えた」

 

「はぁ……本当物好きだね結人君って」

 

 心底呆れたようにして溜め息をついているそよ。

 これに関しては立希にもされたから俺は特に気にすることはなく、ただ黙って話を聞いていた。それからして、四回目。そしてモーティスとの出会いはあくまで睦と一緒に居たという定義で話を進めていると、そよは苛ついているのか指弄りを再びしていた。

 

「燈ちゃんや私達だけに限らず、睦ちゃんにまで手を出すようになったって訳ね」

 

「おい、言い方」

 

 いつものように嫌味ったらしい笑顔になるそよ……。

 本当、人のことを揶揄うの割と好きだよな。

 

「本当のことじゃない?何も考えずに無鉄砲でそうやって優しさ振りまいているとか本当に馬鹿みたいだねって思っただけ」

 

「……悪かったな。だけど、別に無鉄砲に優しさとを振りまいてるつもりなんてねえよ」

 

「そういうところ、結人君の苦手な部分は……。無計画で自分に得もないのにそうやって行動してくるのが本当に苦手……」

 

 これは前にもそよから直球でボールを投げられたので覚えている。

 そして、今も俺のことを本当に嫌という表情を表に出しまくっている。これ自体はもう慣れているからどうでもいい。

 

「別に苦手だとか構いやしねえよ。俺は今更やることを曲げるつもりはないからな……そよに対してもな」

 

「…………結人君っていつか後ろから刺されそうだよね」

 

「物騒なこと言ってくれるな」

 

「本当にそう思っただけ……睦ちゃんと別に変な関係って訳でもないってのは知れたから私はもう帰るから」

 

 言いたい放題言うだけ言って立ち上がった後にそよは溜め息をついている。

 あいつ視点の話を考えるとすれば、俺が相も変わらず人に優しさを振り向いているのがそよ的には呆れることでしかなかった。

 

「そよ」

 

「……なに」

 

「繰り返しになるが、俺はどんだけお前に俺の馬鹿みたいなところが苦手とかうんざりされようとも、俺はお前が悩んでいたり立希達が悩んでいたら例え跳ねのけられようとも俺のすることは変わんねえ。ただ、助けるだけだ」

 

「…………そういうところ、手離して」

 

 どういう思考をしていたのか知らないが、俺はどうやらそよの手を握っていた。

 ただ一つだけ考えられるものがあるとしたら、今目の前にいるそよを一人にしたくないとかそういうものがあったのかもしれない。

 

「ああ……」

 

 手を離して行くと、そよは俺に顔を合わせることもなく店から出て行った……。

 開かれた自動ドアの余韻に浸りながらも、俺は立希がいるカウンターの方へ向かった。

 

「あいつ、何も頼まないで帰ってたし……。結人、来て」

 

「ああ……」

 

 立希の後をついて来るようにして、俺は関係者以外立ち入り禁止の扉の中へと入って行った。

 

「立希も余計なことしたって言いたいのか?」

 

「結人がそういう奴なのは知ってるから、そこについてはもう触れないから。ただ……その……あんまり人の手を握るとかそういうのはやらない方がいいと思う。私はそれで救われたこともあるけど。…………最後のは忘れて」

 

「そこは悪かった……」

 

 二人だけしかいない空間だからこそなのか、立希は本音で話してくれるような素振りがあった。

 ……いや、もっと前からだな。立希も俺もお互いに本音で言葉を投げるようになったのは……。

 

「結人って……なんで人助けしようとしてるの?」

 

 素朴な疑問とやらを俺にぶつけて来ている立希。

 人助けか……。

 

「別に助けたくて助けている訳じゃないって言ったら冗談だろ?って疑われるだろうが、俺が人助けをしているのは多分……当たり前のことを当たり前にしてるだけに過ぎないんじゃないのか」

 

「当たり前のことを当たり前にしてる?」

 

「ああ、俺も違う相手からそう言われて初めて納得できたんだが、どうやら俺は当たり前のことを当たり前に出来るってのは凄いと賞賛してくれたんだよ。偉いだとか優しいだとか言われる度に自分がずっと引っ掛かっていた謎が解けたような気がしていたんだよ……」

 

 それを指摘したのが愛音だというのが本当に面白いもんだ……。

 そして、あいつのおかげで解消されたことも多いってのもこれまた本当に面白いもんだ。

 

「なんとなくだけど、分かるかも……。結人って善意とかじゃなくて自分がやらなくちゃいけないからやってる。使命感?って訳じゃないけど、それに近いものでやっているって……。RINGのときも的確なタイミングでお客さんの気を遣ってカップとか、皿を下げたりしているのも見かけたことあるし、後学生の話とかにもかなり付き合ったりしているところとか……。なんというか、そういうのを当たり前に出来るって凄いって思うときはあった」

 

「……因みにその当たり前って言ったのは愛音な」

 

「今の発言訂正していい?」

 

 こういう反応になるのは予測していたからわざと愛音の発言だと告げると、立希が一瞬だけ複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「立希って、割と愛音と仲良いよな」

 

「は?視力落ちてるんじゃないの?」

 

「いや、前のライブのとき愛音のこと褒めてたろ?なんて言ってたのかはちゃんと覚えてないが、ちゃんと練習してるのは偉「それ以上喋ったら、凛々子さんにお前が休みの日に冷やかしにRINGに来たって報告するから」」

 

 俺の言葉を遮って来る立希。

 表情筋を緩ませていると、立希がこう言ってくる。

 

「そよがお前のそういう部分、苦手っていう理由なんとなく分かる気がする……。私は嫌いじゃないけど……

 

「ああ、ありがとうな」

 

「!!?やっぱり嫌い……。でも……その……ありがとう」

 

「褒めたことか?」

 

「そっちじゃない……。睦のこと……あいつ、あんまり芸能人の娘だって見られるの嫌だから。街歩いているだけでも森みなみの娘だとか、若葉の娘だとかそんな話ばっかされてたの知ってるから。だから、少しでもそれを忘れさせてくれることしてくれて……」

 

 立希が心を込めて感謝の言葉を述べている。

 そよに話していただけの内容だけでそれを読み取ることは出来ないだろう。だとすれば、これだけ感謝という二文字が伝わって来る理由があるとすれば、立希は俺のことを信じてくれているからこそ確信みたいなものがあったんだ。

 

「俺がどれだけ睦の力になれているか、分からないけどな……。ああ、そうだった。前に電話で言ってた埋め合わせ、後で連絡するから頼んだ。じゃあ、俺はもう行くから」

 

「待って結人……」

 

 関係者以外立ち入り禁止の扉を開けようとしたとき、立希が俺の袖を掴んでいる……。その手を震えているようにも見えていた。

 

 

 

 

「パンダ、ありがとう……」

 

 振り返れば……救われた。

 その言葉が似合うように笑っている立希の姿があった。その笑顔には何処か恥ずかしさも混じっているようだったが、自分の気持ちを精一杯教えようとしている立希らしさがあった。それだけで俺は自分の気持ちに自信というものが付きそうだった。誰かを助けても、誰かに行動しても結局を悪化させてしまうんじゃないかという悪循環を抱えていた俺にとって本当に救われているような気持ちになっていた……。

 

 胸の奥にあった荒波がまるで騒がしさを沈めている。

 気づけば俺は……。

 

 

 

 

「バイト中……なんだけど……なに考えてんの……馬鹿」

 

「悪い……でもこうしねえと駄目だって……思ったんだよ」

 

 立希のことを抱いていた。

 バイト先でこんなことをしているなんてバレたらやばいだろうけど、今こういうときに「そうか」って言って扉を開けて帰るのは違うとなっていた。自分が恐れていた無力さに意味などないということを証明してくれていた。ダメだな、俺は……。燈が教えてくれていたと言うのに立希の本人から直接的な言葉を送られると、自分が救われた気がしてならなかった。これが言葉の力って奴なんだろうな……。

 

 

 

 

「結人……約束絶対守るから……だからその……もう少し抱いて……」

 

 無言のまま、少し強めに立希のことを抱きしめながらも俺は了承の意味を込めている。抱くという行為がかなり恥ずかしいもので、お互いにお互いの顔を見ないようにしていた。多分、立希の方は目を伏せていただろう。いつ誰かにバレてもおかしくはないこの場所で熱が籠った空間が僅かな間続くことになるのは俺と立希以外知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間帯は既に夜になっていた。

 街灯が街を照らしている……。今日という一日は大がかりなことはそんなに無かったはずなのにとてつもない一日になってしまったのは間違いなかった。かすかに残る余韻が俺を支配しながらも、歩き続けているとそよが言っていた「刺される」という言葉が脳裏に過っていた。本当にそうだな、でも……。俺はやめるつもりはなかった。

 

 

 

 

「おい、アンタ大丈夫か?」

 

 道路の脇で倒れている男性と思われる酔っ払いに声を掛ける。

 誰も声を掛けないというのは当たり前でしかない。だから俺にも声を掛けないという選択肢があったが、俺はその選択肢を取ることはしなかった。匂いはかなりキツいが、俺はそれを我慢しつつその人に肩を貸そうとしたとき……記憶が一瞬麻痺する。

 

『お、おい……ちゃんと前向いて歩けよ』

 

 声を掛けるまでその人物が誰なのか覚えていなかったが、俺は顔を見てすぐに気づいた。

 前に一度俺に肩をぶつけた酔っ払いだということに……。まさか、また再会することになるなんてな……。

 

「……ほら、行きますよ。家、何処ですか?」

 

 男性に肩を貸して、俺は歩き始める……。

 男性の体は痩せ細ていて軽く、力のない人でもギリギリ担げるぐらいだった。

 

「すまないが……もう……一杯……いいかな」

 

「はぁ?アンタ馬鹿なのか?自分がどんだけ酒臭いのか理解してんのかよ。つーか、飲み過ぎてぶっ倒れていたのにもう一杯ってアンタ気は確……悪い、言い過ぎた……」

 

 言葉の猛攻をぶつけようとしたときに男性の方が落ち込んでいる姿が目に入った俺はすぐに謝罪をしていた。はぁ……本当にどうして大人ってのは無理矢理まで飲酒しようとするのか意味が分からん……。

 

「はぁ……ったく……一杯だけですからね」

 

「ありがとう……本当にありがとう……」

 

 お礼を言われた後に、俺は二度目の溜め息をついた。

 本当にこればっかりはそよや立希に苦言を呈されて怒られても仕方ない、と自虐を込めていると男性の方から独り言のような声が聞こえてくる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなぁ……祥子」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かつて若葉睦だった人格(CRYCHIC睦)

彼女が人格を形成していたのは豊川祥子と出会ってから。
頻繁に彼女の役割が必要とされたのはCRYCHIC結成後であり、笑う睦として知られていたがCRYCHIC解散後は不要と判断された結果、舞台の外側に……。


その後、今の若葉睦に必要と判断され彼女としての人格は舞台に再び引き上げられることになる。モーティスを消去?したことによって、彼女の人格は……。




余談:CRYCHIC時の睦に関しては本編で祥子が「睦は笑いますわよ」と言った台詞及び森みなみの発言から恐らくこういう人格も居たんだろうということで作ったオリジナル人格です。正直に言うと、睦とモーティスの精神世界に関してはかなり頭を悩ませながらも自分なりの解釈で設定させていただきました……。分かりにくかったら申し訳ないです。

また、もう一つお話しておきたいことがあるのですが感想にて回答を控えさせていただいたものがあります。それはAve Mujicaの幕においてMyGO!!!!!の介入は避けますか?という質問が来ていたのですが、これについては今回答させていただきますが、第二章に限ってはMyGO!!!!!達の出番があると考えて貰って構いません。
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