【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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希望の幕と共に一節は終わりを告げる

『いつも娘の傍に居るアンタが……!なんで娘のことを考えるじゃなくて自分のことばっか貶してんだよ!!!』

 

 結人君の声が眠っている間にも響いている。

 あの日のことが夢に何度も見る。あれから一週間ぐらいは経っただろうか……。俺はこの部屋の畳の上でいつも寝ていた。前と変わったことがあるとすれば、飲酒することが明らかに減っているだろうか……。脳裏に彼の言葉がいつも浮かんでしまうから、彼が此処に居てそのことを話したらきっと褒めてくれるんじゃないのか?という期待をしてしまう。本当にあの子はいい子だ。お人好し過ぎるとも言えるが、祥子同様俺なんかに比べれ……。

 

『それ以上、自分のこと自虐するのやめませんか?』

 

 まただ……。

 また彼の言葉を思い出す。忘れようとしているのに何度も忘れることが出来ない。きっと、それほどまでに俺の中で胸に突き刺さってしまったんだろう。それでも、俺には……俺には無理なんだ。俺に前を向いて歩くことなんて出来る訳が無かったんだ……。

 

 

 

 

『祥子は貴方のことが好きなのよ』

 

 瑞穂の声がする。

 眠っているこの空間の中で声がするというのはおかしくはないことだったけど、彼女の声に呼応するようにして俺は彼女の姿を探そうとしてしまっていたが、この真っ暗闇の世界に誰かがいる訳がなかった。そう、誰かがいるはずがないのに俺は求めてしまっていた。死んだ人間に会えるはずがないというのに……。俺は本当にあの頃から変わっていない……。瑞穂が死んで、これまで以上に踏ん張ろうとした結果があれだった。本当にお養父さんが言うように俺は馬鹿な男だっ『頼むわ……』

 

 

 

 え……?

 なんだ、なんだろうか?この安心する声は……。此処のところ、ずっと探していた声がしたような気がしていた。もう耳に届くことがないはずのその声が……。

 

 

 

 

 

『祥子を頼むわ……』

 

 ああ、この声だ……。俺はこれをずっと求めていたんだ。

 でも、違う。安心するべきじゃない……。俺はたった今託されたんだ、瑞穂から……。祥子を頼むと簡潔なものだったが、確かにそう託された。いや、俺は知っていたはずだったんだ。瑞穂が死んだあの日から祥子のことを頼むと言われていたのを……。なのに、俺は……。こうなってしまった……。

 

 

 

 

 これでは、結人君の話の通りだ……。

 

 

 

 

『それでも……娘さんの傍にいてやってください。何かをしたいという願いがあるなら叶えてあげてください。それがきっと……貴方に出来ることですから』

 

 結人君……。

 俺に今まで通りでもいいと伝えてくれていた。苦しくても、辛くても、自分が情けなくてもいいと……。それでも、娘の祥子の傍にいてやるべきだと……。瑞穂、俺にやれるだろうか?瑞穂のように祥子の隣にいてあげられるだろうか……。

 

 

 

 

 いや、違う。

 俺は瑞穂じゃない。俺は豊川清告だ。なら、俺はおれなりのやり方で祥子を支えてやればいい。祥子が辛そうだったら、相談に乗ってあげればいい。祥子が悲しそうだったら、そっと隣にいてあげればいい。そういう当たり前のことを俺はしてあげればいいんだ……。進み続けることは怖い。だけど、俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 これ以上、娘の祥子の前で情けない姿を見せたくない……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 お布団から起き上がると、お父様の姿が無かったことに気づいた。

 

「お父様、いったいなんの音ですの!?」

 

 いつものように何処かをふらふらとしているのかと思っていたら、台所の方から何かが割れるような音が聞こえて来て駆けつけると、お父様がお皿を割っていた。

 

「す、すまない……祥子……」

 

「もういいですわ、お父様……。後は私が片付けておきますわ……」

 

「い、いや……祥子だけにやらせる訳にはいかない……」

 

「…………では、箒と塵取りをお願いしますわ」

 

 お父様の返事が聞こえて来る……。

 私の心の中でお父様がこういうことをするなんて、と困惑している自分が居ながらも私は袋を用意しているとお父様が箒と塵取りを持って来ていた。

 

「祥子……その……今日は学校が休みなんだろう?だから、その……結人君が持って来てくれた食材で何か作ってあげたかったんだ」

 

 

 

 

「……え?」

 

 手に持っていた袋を床に落としてしまう。

 お父様が発した言葉だというのに俄かに信じられないものが出て来て、更に困惑してしまっていた……。あのお父様が私の為に何かを作ろうとしてくれていた……。

 

「だけど、料理なんて豊川家ではお手伝いさんが作ってくれていたから不慣れだったんだ……。本当にすまな「お父様……!!」」

 

「祥子……?」

 

 お父様の心に光が見えて来て私は思わずお父様に抱きついてしまっていた。

 胸の奥から込み上げて来るのはお父様がこうしてまた影から顔を出してくれたことだった……。それが私にはとても嬉しくて仕方なかった……。だから、私はこう言った。

 

 

 

 

 

 

「これは大きな一歩ですわお父様……!!」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「楽奈、新作の抹茶スイーツがあるんだが食べるか?」

「食べる」

 

 ほぼ即答で楽奈は立希が提案した抹茶スイーツに喰いついて来ていた。

 楽奈が抹茶関連のものに喰いつかないなんてことは絶対にありえないだろうしな……となりながらも俺はRING内でそのスイーツとやらを作っている。楽奈の他にお客さんは数名いる程度だった。忙しいときを考えたらまあ、まだマシな方だ。

 

「ほら、出来たぞ……。新作の抹茶ワッフルだ」

 

 宝石のように目を輝かせている楽奈……。

 これを見たら立希もきっとホッとすることになるだろうなとなっていた。何故なら、このメニューは立希が練習に来ない楽奈を来させる為に山吹先輩に頼み込んで作って貰った対楽奈特化型兵器なのだから。

 

「ゆいと、これおいしい」

 

「なら、良かったよ」

 

 楽奈が口の中に入れて一口食べていた。

 このスイーツのコンセプトとしては、俺的にはサクッと、じゅわっと、ほろにが甘いというのに、日本の伝統甘味あんこと抹茶を掛け合わせた、和洋ミックス洋スイーツになっている。楽奈が好きそうなこしあんをバターと一緒に乗せることに調和させる。更に仕上げとしては抹茶パウダーを振っており、何処からどう見ても楽奈が好きなものばり入っている。これならば、行けるとなっていたのだが……。

 

「抹茶成分少ない……」

 

「なに!?」

 

 此処で問題が生じる。恐らく、美味しかったようだが抹茶が主役ではないということに残念だったようだ。悲しそうにしている楽奈に対して俺は何かを作ろうとしたそのときだった。自動ドアが開く音がしていた。

 

「ゆいと、むつみ」

 

「え?睦……?」

 

 自動ドアが開いてカフェへと入って来たのは睦だった……。

 

「睦か、モーティスは元気してるか?」

 

「してる」

 

 楽奈は睦のもう一人の人格を知っている為、隠すことなくモーティスについて触れるといつも通りただ淡々と話をしていた。モーティスの奴、あの後ちゃんと睦と話をしたんだろうか……。

 

「そうか、あいつも悪い奴じゃないから仲良くしてやってくれ」

 

 あくまで話をしたという前提で進めると、睦が頷いている。

 

「そういえば、今日はどうしたんだ?流石に今日も一曲と頼まれて無理だぞ?」

 

「そうじゃない、今日はこれを渡してきた」

 

 自分のバッグの中から睦はある封筒を手に取っていた。

 チケットとかを入れるタイプのよくある封筒のようだが俺が待っていると二人分のチケットのようだった。目を通していると、そこには……Ave Mujicaという名前が記載されていた。

 

「武道館のライブ……楽奈と一緒に来て」

 

「楽奈と……?」

 

 再び頷いている睦……。

 

「行く、むつみのライブ興味ある」

 

 チケットに目を通すこともなく興味深々でそう告げている楽奈。

 とはいえ、俺の方も断る理由もない。その日は特に何か予定があると言う訳でもないからな……。

 

「分かった、俺もそのライブ見に行くよ」

 

「……ありがとう」

 

 睦の表情が一瞬だけだが、口元に微かな笑みが浮かんでいたような気がしていた。

 彼女は無表情で無口で何を考えているのか分からないというのは本当に改めなければらないとなっていた……。

 

「昨日の放課後、燈に会った」

 

「燈と?」

 

「結人の話、たくさん教えて貰った。星が好きなこととか、旅をよくしていたとか、此処以外でもバイトしていることとか、燈の歌が好きなこととか、燈達のバンドが好きなこととか、燈を守っていたこととかそういう話をいっぱい教えてもらった……凄く楽しかった……」

 

「そうか、燈とも仲良くしてくれてるんだな」

 

 睦は無言で首を縦に振っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

私もその一人になりたい……」

 

「え?」

 

「なんでもない……。それじゃあ、結人……」

 

 あまりにも小さすぎる声で何かを呟いていた。

 それがなんなのかは分からないが、彼女はそれを羨ましそうに笑いながらも話していたようだった。ただ、その笑みは幻のようで、あまりにも短すぎて目を凝らさないと存在していたのかすら怪しかったほど奇妙に感じていたんだ……。

 

「楽奈、行くんだよな?」

 

「行く」

 

 睦が消えた後、若干何かが怖かったのかすぐ楽奈に話しかけていた。

 行くという決心を固めている楽奈に俺は何処か安心しながらも今日のバイト時間を終えることになって戸山先輩と交代することになった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れた、寝る……」

 

 家に戻って来た俺は改めて手にムジカのライブチケットを手に取る。

 期間は明後日というのは今になって判明したことだったが、特に驚くことはなかった。寧ろ、此処最近出会った事の方が圧倒的に驚くことばかりだった。動画投稿者と旅をしたり、海鈴に連れ回されたり、芸能人のライブを見たり、多重人格の奴と遊んだり、訳アリ家族と接触することになった。本当、色々あり過ぎて車のタイヤのパンクがするみたいな感覚だ……。おかげで考えていただけで眠くなってきた俺は……目を瞑って一旦眠ることにしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「……さん!……さん!!」

 

 その声は今にも泣き叫びそうだった。

 まるで大切な人が今にも失いそうなそんな声がしていたんだ……。

 

 

 

「母さん……」

 

 いや、俺はこの声に覚えがあったはずだった……。

 何故なら、今聴こえているのは俺自身の声だからだ。小学六年生のとき、俺は母さんを亡くした。そして、その亡骸に対して俺はずっと呼びかけていたんだ……。死に目に遭えて最後の言葉を聞くことは出来たけど、悲しかったんだ……。

 

 

 

 

『結人の名前は人と人を結びという意味があるの……。貴方は人との結びを繋がりを決して絶やしては駄目よ……?』

 

 あのときの言葉は今でもはっきりと覚えている。

 もう死ぬ寸前だというのにはっきりとした声で俺に名前の意味を教えてくれた、母さんの強さは本当に偉大だった。最後に抱いてくれた母さんの暖かったけど、徐々に冷たくなっていくのが寂しかったんだ……。だから、俺はあの日……。

 

 

 

 

『天寧……結人……悪かった』

 

 じわじわと込み上げて来ていたのは紛れもなく憎悪そのものだった。

 父さんの声が聴覚に入って来たのと同時に俺は病室の入口に立っている父さんの方を強く睨んでいたんだ……。許せなかったんだ……。母さんの死に目に遭わなかった、父さんのことを……。

 

 

 

 

 

「嫌な夢……見たな……」

 

 人の死なんてものは幾ら経っても慣れる訳がない。

 失うのが怖いのか?と問われれば、俺はそうだと答えるだろう。だから、俺は今でも燈や立希を裏切ったことに対する後悔と懺悔に呑まれている。それが例え燈や立希が許してくれても変わらない……。

 

 ベッドから立ち上がって、冷蔵庫の中に入れてあった飲み物を取りに行く為に俺は部屋から出ることにしていた。置かれてあるのは星にまつわるものや何処かへ行ったときのお土産で買った置物だとかそういうもの。後はゲーム機……。そういう部屋から俺は出て、廊下を少し歩いて階段を降りて行く……。リビングに用事があるから、向かおうとしていたとき照明の光が漏れていた……。灯りを付けるのを忘れただろうかとなりながらも、俺がリビングの中へと入って行くと……。

 

「父さん……?」

 

「よぉ、結人……!暫くぶりじゃねえか……!!」

 

「帰って来てたのか、父さん」

 

「まあな……ちょっとした仕事で海外に行くことになってな。その後は暫くアフリカを色々と滞在していたよ。ほら、結人こいつは手土産だ」

 

 投げられたペンダントを俺は受け取る……。

 樹脂?のようなもので出来ているようなもので、少し形が歪なペンダントだけど、これが何かアフリカと関連する物なのか?となっていると、父さんが説明をし始めていた。

 

「そいつは日本で分かりやすく言うなら、呪物ってもんでな……」

 

「おい、なんでそんなの俺に渡すんだよ」

 

「まあ待て、流石に本物を息子に渡すほど俺も落ちぶれちゃいない。そいつはその呪物のレプリカって奴だ。ある国が観光資源として観光客に売りつける為のな」

 

「物好き過ぎねえか……」

 

「そいつは俺もそう思うな」

 

 確かにこういうものは国を代表?するものになったりするだろうけど、こういうものを観光資源化するのってどうなんだ。というか、普通にダメじゃねえか……?

 

「もう放送されてただろうから、結人も知ってるかもしれないが……。実はお前と同じぐらいの歳の娘さんを持つ芸人さんとアフリカのモロッコのガイドを頼まれたんだ。ネタは割と面白かったな」

 

「名前は?」

 

 父さんがこうしてテレビの番組や観光客のガイドを頼まれたりするということはよくある話だ。冒険家という立場でありながらも、各国のガイド業を行っていてその為の国を飛んだりしているのも知っている。偶に洒落にならない話をして観光客を困らせたりしているって話も聞いたことがある。

 

「芸人さんの方は確か……若葉って名乗ってたな。そんで、娘さんの方は睦って言ってたな」

 

「!!?」

 

 大した理由もなく名前を聞こうとしたのだが、知っている名前が返って来て思わず手に持っているペンダントを落としそうになっていた。それを父さんに指摘されていたが、驚くなという方が無理があるもんだった。

 

「テレビ……」

 

 偶々テレビの方に視界を向けると、そこには黒い仮面をつけた女性の集団が映っていた。テロップを確認すると、そこにはAve Mujicaという文字が記載されている。武道館でのライブをやるから、その為の取材だろうとなりながらも俺は薄緑色の少女に目を向ける……。薄っすらと笑いながらも、取材に受け答えをしている彼女の姿から目を少しずつ逸らしながらも俺はこう独り言のように呟いた……。

 

 

 

 

 

 

「Ave Mujicaねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

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