【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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彼女は信頼を欲していた。彼女は飢えていたから……。
彼はそれが正しいと信じ切っていた。大切な人の言葉を呪いに変えていると知らずに……。




これは信頼を問われる章……。


Ave Mujica .Ⅱ Nihil aliud quam praefatio est
人形は迷い言の囚人になり、人形は呪いの破壊を望む


 

 

 

 

「昨日未明、エジプトにて不審死が発見されました。発見された現場はあのツタンカーメンの墳墓です」

 

 偶々付けっ放しにしていたテレビからそんな情報が流れて来る。

 今テレビで流れているのは王家の呪い……。所謂、ツタンカーメンの呪いとも呼ばれているものの話の延長戦上。その昔、エジプトにて王家の谷でツタンカーメンを発掘調査しちょうとした結果、その調査に関係した四名が次々と急死していたという伝説があり、今でもこうして語り継がれているがその墓の開封に立ち会ったのは僅か一人だと言われている。そして、更に言えば科学的な根拠を挙げるならその開封した人物も何千年も密閉されているものを開けようとした結果、有毒な細菌が繁殖して、感染症を引き起こしたと言われているのが真実だ。

 

「父さん、呪いって本当にあると思うか?」

 

「呪いかぁ……。まあ、テレビでやっているツタンカーメンの呪いなんてものも都市伝説の一種でしかないからな……。ただ、まあこの辺にもあるだろう?そういうものが……」

 

「……首塚のことか?」

 

「ああ、そうだよ。平将門の首塚だ」

 

 平将門の首塚、あの場所は古くから言い伝えで祟りが起きる場所と知られている。

 そして、何より大正の時代では都市再開発を行うべく建物を建てようとした際、相次ぐ不審死が発生することになった。それだけで済めば良かったが、また別の時代に不審な事故が発生することになる。その結果、首塚は取り壊しも移転を逃れて残り続けることになった。

 

「ああいう場所で起きた事は結局、触らぬ神に祟りなしということが正しい。実際がどうだったかはともかく、平将門の首塚に手を加えようとした人間や組織に不運が続いていたのは事実だ。ああいう場所は余計なことはしないほうがいいってのが歴史的に証明されているからな」

 

「確かにそうだな……」

 

 あの場所は今、供養と敬意を持って維持されるべき場所とされていて、下手に取り壊したり動かしたりしないのが暗黙の了解になっている。大正の時代より前の言い伝えが実際のところどうだったのかなんて歴史を調べる人間でもない限り、知る必要もないことだ。

 

「冒険家としては一度は調べておきたいところだが、ああいう場所は御霊信仰しておくってのが一番だ」

 

「まあ、確かにそうだよな……」

 

 信じるか信じないかは俺達次第とはいえ、ああいう場所に無暗矢鱈に関わるべきじゃない。

 関わるときがあれば、好奇心ではなく敬意を持っていくことが大事なはずだ。

 

「信じるか信じない、か……」

 

 モーティスと俺はあの日、占いで俺に示されたのは『吊るされた男の逆位置』。

 塔の場合、逆位置でも正位置でも碌な意味は示されていないが正位置の場合は困難や崩壊、予期せぬ変化を待ち受けると言われている。占いというものに関しては俺もモーティスとは同意見だったが、良い方向のときは信じるようにしているがあの占い師の発言がどうも気になって仕方ない。

 

『吊るされた男、か……』

 

 吊るされた男の逆位置が意味をすることがどういうことなのか……。それはまだ何も分からない。占いなんて迷い事はあんまり信じるようなタチではないんだが、それでも気になることが多かった……。今の人生が順風満帆なんて戯言を抜かすつもりはないが、それなりにやれている現状に不満も不安もなかった。だけど、そういうときに限って不安や不幸というものは訪れることになる。そういう気分になったときは行きたい場所がある。

 

「何処行くんだ結人?」

 

「ちょっと出かけて来るだけだ……」

 

「おう、そうか。気を付けて行ってこいよ」

 

 玄関の方へ行くと、父さんが俺に声を掛けて来る。

 それに対して軽く返事をしながらも俺は靴を履くと、ミモザが玄関にやって来て俺に撫でてから行けと視線を送って来て俺はミモザのことを軽く撫でてからある場所へと向かうことにしていた。

 

 

 

 

 

「来たよ……」

 

 俺が一人でやって来たのは墓地。

 目の前にある墓石の前で俺は小さく呟いた。まだ飾られたばかりの切り花が視界に入りながらも、コンビニで買ってきた線香に火を灯しながらも、線香立ての中に入れると燃やした部分から煙が出てきている。それは線香としての役目を果たしていて、命の輝きを示しているかのようだった。

 

「結人君……」

 

「清告さん……」

 

 墓参りを済ませようとしていたところ、後ろに誰かが立っていることに気づいて振り向くとそこには清告さんが花を手に持って立っていた……。

 

「娘さんの方はどうしたんですか?」

 

「祥子は朝から忙しいようでね……墓参りは一人で来たよ」

 

「そうですか……」

 

 明日は武道館でのライブ……。

 豊川としても出し惜しみすることなく全力でやり切りたいという意志があるんだろう。彼女はそういう人間だというのはこの一週間、食事を届けていて分かったからな……。

 

「今日此処に来たのは瑞穂に自分のことを改めて伝えたかったんだ……。今どういう状況にあるとか、祥子とはこういう関係だよとかまあ気持ちの整理って奴だね……」

 

「そうでしたか……」

 

「その……結人君。本当にありがとう……」

「え?」

 

 思わず俺は素で「え?」と言ってしまっていた。

 まさか自分が清告さんに感謝されるとは考えてもいなかったからだ。不思議な気分になりながらも、俺は清告さんの目に視界を向ければ、目には光が宿っているように感じ取れていたのだ……。そうか、この人は立ち直れたんだな……。今まで俺が部屋の中まで入ることはなく、ただ配達員として仕事をしていたから光が宿ってることを知らなかったんだ。

 

 

「キミのおかげで俺は立ち直ることが出来たんだ。そのいい例として、昨日祥子に朝ご飯を作ってあげようと思ってね。家庭的かもしれないけど、偶々外に出たときにコンビニの雑誌の表紙に載っていた、だし巻き卵を再現しようとしたんだ。それから味噌汁とか、ご飯とかも作ってあげようと後はまあ色々と作ってあげようと思ったんだけど……お皿を割ってしまってね」

 

「そんな私を見兼ねて祥子は一緒に片付けてくれたて、その上で料理も自分で作るからいいと言われたんだが私もどうせなら一緒に作りたかった私は一緒に作らないか?と提案したら、祥子が戸惑いながらも頷いてくれたんだ。本当に嬉しかった……私もあの子も料理なんてものはからっきしで初めて作っただし巻き卵はしょっぱい味がしたんだ……。でも、それが凄くいい思い出になったんだ……だから本当にありがとう……結人君。こうして家族らしいことを出来たのは本当に久々だったんだ……」

 

「清告さん……」

 

 五感を通さなくてもそれは胸の奥に響いている。

 あのアパートの中で二人の人間が料理を作っていたという構図が……。歪だった家庭が修復されていって親子の絆というものが改めて再構築されようとしている。こういうものを聞かされて胸が熱くなるなという方が無理があるというものでしかなかった。

 

「キミの両親はよっぽど、素晴らしい人なんだろうね。此処までキミのことを立派な人間として育てて……」

 

 両親の話をされて俺は再び自分の中で曇り空が広がってしまいそうになっていた。

 今にも雨が降りそうな心の天気の中、俺はあることを包み隠すことをやめていた。

 

「…………清告さんの前でこういうことを言うのはどうかと思いますけど……俺は正直自分の父親のことをそんなに尊敬していないんです」

 

 この話を誰かの前に口にするということは初めてだった。

 周りから俺が当たり前だと思っていることをする度に、親は人格者なんだろうと言及されることはあったが、俺はいつも濁った笑いを浮かべていた。まるで、燈から避けていた頃の俺のように……。だけど、それにはそれ相応の理由がある……。

 

『天寧……結人……悪かった』

 

 俺はいつまで経ってもあの日の父さんを許すことが出来ない……。

 普段から俺達の傍にいてくれなかったのはこの際どうでもいいけど、母さんの死に目に遭えなかった父さんを今でも偶に白い目を向けることがある……。だから、俺は……。

 

「一人の冒険家としては尊敬していても、父親としては尊敬していないんです俺は……」

 

 五感を通じるもの、それを教えてくれたのは父さんだった……。

 それには凄く感謝している。おかげで俺は喉から手が出るほど欲していたものを手に入れることが出来た……。そこは本当に父さんが貰った教訓を大事にしているけど、父親として尊敬できるかと言われたらその答えは首を横に振ることになる。

 

「…………余計なことを色々と申し訳ありませんでした清告さん。改めて申し訳ありませんでした……。あの日俺が、どうしても自分を抑えられなかったのはそういう一面もあったんです。いや、これも言い訳ですね。本当にあの日のことは申し訳ありませんでした清告さん……」

 

 此処まで言い訳がましく話をしていたのはきっと自分の中で父さんに対する何かを認めたくないという意志があまりにも強すぎたからだろう。

 

「俺はキミのおかげで立ち直ることが出来た。そこは確かなことなんだ、だからありがとう……。再び家族としてなれたのもこれが久々なんだ、本当にありがとう。それともう一つ言わせて欲しい、結人君……俺も父親として不出来な人間ではあるが言わせて欲しい。お父さんとは……仲直りした方がいい。それがきっとキミの為にもなる……はずだから」

 

 

 

 

 

「そうですね、ありがとうございます……」

 

 目を瞑りながらも、母さんに手を合わせながらも俺は……静かな場所の中へと入って行くことにしていた。神経を研ぎ澄ませて、無音に近い場所で母さんのことを思いながらもまるで勇気を貰っている。そんな気分だった……。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「それにしてもサウナとはねぇ……」

 

「ダメでしたか?」

 

「いや、別にいいけどね……。ほら、こういうサウナって皮膚への保湿力とか血行促進にいいらしいじゃん?」

 

「ええ、そうです。更に言えばヒートショックプロテインと呼ばれている効果によるもの……。つまりは、サウナの熱刺激によって生成されるものによって、細胞への修復を促進できるんです。紫外線などによる肌ダメージの回復にも効果が期待されているんですよ」

 

「ウミコの方が詳しいじゃん……」

 

 もしかして、この子週に何度もサウナに来ている所謂、サウナ通とか言う奴……?というか、正直ウミコにこうして何処かに誘われるとか全く思ってもいなかったけど、明日は雨だったりするのかね。まあ、私ウミコのことよく知らないけど……。とはいえ、サウナもいい利点ばっかりある訳じゃないらしいけど。それは私の動画でも紹介したこともあったっけ……。

 

「そうですかね?健康志向ですと自然とこういうものは気を遣うんですよね」

 

「へぇ……まあウミコってスタイル良いしそこは反論とかないかも」

 

 と返していると、今度はウミコからの言葉が無くなっている。

 別に余計なこととか言った覚えはないから話題が無くなったとかそういう奴だろうとなっていると何かを思い出したようにして変なことを聞いて来る。

 

「祐天寺さん……信頼ってなんだと思いますか?」

 

「……信頼ねぇ、病んでんのウミコ?」

 

「別に……そういう訳ではありません。こういう場所だからこそ喋れることもあるんではないかと思いまして」

 

「ふーん?」

 

 信頼、そういう言葉をウミコが口にしてくるなんて正直驚きしかなかった。

 だって、ウミコって基本自分は関係ないので帰りますみたいな印象が強いから。自分のやれる仕事だけやって後は帰る。必要以上に接することもしてこないから正直ムーコと同じぐらいやり辛い。まあ、やってることだけやってるサキコよりはマシ。スケジュールとかはウミコが管理してくれてる訳なんだし。

 

 

「じゃあ、聞くけどウミコにとってその信頼ってなんだと思うわけ?」

 

「私にとってですか……?それは何とも……ですが教えて貰ったことがあります。信頼というのは言葉に口にして形骸化するものではなく、互いに信じられて頼れる存在だとお互いが認識できてこそ信頼だと……」

 

「随分暑苦しいこと言うじゃん、その人……。でも、仮にそうだとしたらさ……」

 

 

 

 

 

 

「Ave Mujicaにそれって無いでしょ?」

 

 ウミコが教えて貰ったという信頼という単語の意味は辞書で引いてもそう綺麗に出て来そうなもの……。ある人や物事の誠実さ・確かさを信じて、安心して任せるとかそんなのが出て来そうだけど。そういうものはマジで私達にはない。

 

「まず雇い主からしておかしくない?顔と数字が大事で私のこと誘って来たのに、やっていることは仮面を付けてお遊戯ごっこ。本当に馬鹿みたい、これじゃあバンドがやりたいのか舞台がやりたいのか散らかり過ぎでしょ?」

 

「では……祐天寺さんはどちらか一つを選べと言いたいんですか?」

 

「お客さんがそれを望むならそうなんじゃないの?現にSNSとかじゃあ、舞台の方よく分かんないとかそういう話題が出てるのも事実なんだしさ……。本当にどっちもやりたいなら、どっち側に特化してるとかじゃなくてどっちにも特化してるとかじゃないと駄目でしょ?」

 

 ……とは言え、これに関しては私もそうだ。

 このバンドの中で私が一番劣っている。毎日、動画を編集して完成するのを待っているその間に電子ドラムで練習したりしているけどそれでも全然足りてない。演技の方だってそう。流石はムーコ、森みなみの娘だけあって演技力も抜群。偶に変わったように見せていたあの演技だって本当に凄いとしか言いようがない。瞬時にあの冷たい静寂を作り出すような声は本当に凄まじかった……。脳を焼かれるなんて言葉はこういうときに使うものなのかもしれない……。

 

「ウミコがなんで信頼を気にしているのかはあんま興味ないけど、マジでこのバンド信頼なんかないよ。というか、その信頼って言葉さ……」

 

 

 

 

()()みたいなもんじゃん」

 

「迷信ですか?」

 

「そう、だってさ。信頼って口とか言葉で表すもんじゃないでしょ?そういうのってお互いが信じてるから成立するとか、そういう奴でしょ?じゃあ根拠ないでしょ。人は他人の全てを知ることが出来ないし、この人は裏切らない。信じても大丈夫。とか感情とか決めつけばっかでしょ?」

 

「それは……そうかもしれませんが……」

 

 ウミコは少し顔を隠しながら頭を隠そうとしている。

 まるで自分が信じていたものが崩れそうになっていると言いたそうだった。

 

「信頼なんてのは理屈じゃなくて信じる気持ちみたいなもんだから、迷信っちゃ迷信でしょ。それでも、時間を掛けて築き上げるものではあるから相当やってみせないと無理だろうけど。後は家族とかなら簡単に作れるだろうけど。まあ、私たちは家族でもないし、このバンドは本当に信頼できないし、もうやりたいようにやるって決めてるけど」

 

「やりたいようにやるってどういう……ことですか?」

 

「明日になれば分かるんじゃない?私は私なりに成りあがりたい、こんな場所で踏み止まってる暇はないし……。これ以上、祥子のお遊戯ごっこに付き合う必要もないでしょ?じゃあ、私先にサウナ出るから」

 

 私がすぐサウナを出た後、何かを叩くような音が聞こえていた……。

 それが何の音かも確認をせずに、私は水風呂の方へと向かうことにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かってんだよ、信頼なんて言葉が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「口にしても意味がないなんてことぐらい……」

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