【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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人形は本物に恐怖し、人形は信頼を形で知ろうとする

「祐天寺さん、貴方どういうつもりですの?」

 

「えー?結果的に盛り上がったんだからよくないー?ほらSNSもトレンド1位だよ?他のトレンドも軒並み私達のことばっかだし、明日には大ニュースでしょ」

 

 スマホでSNSのトレンドを見れば世界トレンドにはAve Mujicaが一位となっている。

 関連したものとしてsumimiが入っていたりして、ほとんどがウイコやムーコのことばっかりだったけど……。というか、会場だとウミコのこともなんか言われてたっけ。

 

「そういうことを言っているのではありません……!私が言いたいのはこれではAve Mujica本来の良さが失われてしまうということです!何れ仮面を外すときが来るのは確約されていました。ですが、それは相応しいときに……」

 

「相応しいときって何時さ?武道館以上に相応しい時とかなくない?あーもしかしてMフロアで外すとか?それも確かに悪くないかも、ああいう音楽番組で外すとか最高だもんね~」

 

「祐天寺さん、貴方はもっとプロとしての自覚を……!」

 

「あのさぁ、プロとしての自覚って言うけどさ。サキコの方こそプロとしての自覚ないんじゃないの?SNSとかでAve Mujicaのエゴサするとさ、舞台劇が意味分かんないとかそういう話題結構多いんだよねぇ。まあ、所詮没落貴族の女子高校生様のお人形遊びだから仕方ないんじゃない?中二病とまで言われてるのには傑作だったけどさ~」

 

「祐天寺さん……!!」

 

 SNSの民意をサキコに見せつける。

 書かれているのはどれも本質を問うものばかりだった。演劇をやりたいのか、音楽をやりたいのかあやふやになっているという忌憚のない意見もあれば、テーマが独創的過ぎてよく分からないという意見もある。まあ、このどっちも言った当事者たちは炎上しているみたいだけど、割と可哀想だよね、本質なのに。

 

「二人共……これ以上止めようよ。今はこれからAve Mujicaをどうするのか話し合うべ……って海鈴ちゃん何処に行くの……?」

 

 ウイコが私達の間に入ろうとしてくるのと同時に、ウミコが荷物をまとめて帰ろうとしている。

 

「……此処に居てもしょうがないので帰らせていただきます」

 

「私達のバンドだよ!私達が決めないと……」

 

「私達のバンド……ですか。私には……他にもバンドがありますのでこれで失礼します……」

 

「ちょっと……ちょっと待ってよ海鈴ちゃん……!!」

 

 ウイコが追いかけようとするが、先に楽屋へと出て行っていた。

 ……まだあのこと気にしてんだ、あの子。信頼なんて私達にはないものなのに。

 

「……祐天寺さん、もう一度聞きます。何故あのような行動を?私達にはこれからがあるのですわ、それを貴方は破ったも同然ですわ」

 

「これからねぇ……仮面を外した時点で人気爆発したも同然だからこれからの仕事なんて約束されたも同然でしょ?sumimiの初華、森みなみの娘、ウミコも私も……それにアンタも有名人だったんでしょ?サキコ」

 

 スマホでネットニュースのことを見せると、サキコは一瞬動揺を示している。

 さっき私が没落貴族の女子校生と呼んだときも何処か反応をしていたし……。

 

「豊川グループの御令嬢……。まさか、アンタがそんな重要な立ち位置な人間だってのは驚いたけど、でもお嬢様ならもっと相応しい恰好すればいいのに~。それじゃあ、グル―プの名が廃るんじゃ「それ以上、祥ちゃんのことを悪く言わな……」」

 

 

 

 

 

「なに、ムーコ……?」

 

 ウイコが私の言葉を遮ろうとしたとき、ムーコがいつの間にか私の後ろに立っていた。

 その目つきは何処か私のことを冷たい目で見ているような視線を送っている。……こいつ、本当にあのムーコなの?ムーコはもっとこう何考えているのかよく分からない奴みたいな感じだった。なのに、今私に向けている視線は間違いなく殺気に近い何かで私は後退りしようとしている自分がいた。

 

「怯えている……?私が……?」

 

 嘘でしょ、私が怯えている。なんで後退りしようとしてんの……。

 ただムーコに冷たい視線を送られただけだというのに怯えている……?意味が分からない、私は誰に睨まれようが白い目を向けられようが全く気にしないようにしていた。なのに、今向けられている視線に恐怖を覚えている。

 

「アンタ、本当にムーコなの……?」

 

 先ほどまで息巻いて発言をしていた私は居なかった。

 小声で改めて確認する為にムーコに質問をすると、一瞬だけ笑みを浮かべている……。

 

 

 

 

 

 

 

「私は私……」

 

 違う、明らかに違う。

 ムーコみたいに昔から演技の道に触れていた訳じゃないから、こういうものに精通している訳じゃないけど私だって演技の道を進んでいる人間……。だから、間違いなく分かることがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──これが本物のムーコなんだ。

 だから、私は本質的に恐怖したんだ……若葉睦という人間に……。ほんの一瞬の出来事だったけど、まるで真っ赤に輝く三日月のように狂気的な笑みをしていたのが頭から離れて仕方なかった……。同時に一瞬にしていつものような表情に戻っていたムーコに対して私は更なる恐怖心を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 この子は間違いない、本物……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「まさかこういう形で終わることになるとはな……」

 

 Ave Mujicaのライブは最悪の形で終わりを迎えた。

 いや、他の観客達からすれば最高の形で終わったのかもしれない。続々と明かされていく仮面の奥に素顔が明かされる事に、会場自体が熱気に包まれていたことは間違いねえ。初華の場合は知りたくもなかったという流れが多少あったが、相対的に見ればやはりAve Mujicaという素顔バンドがとんでもない集団ということが明かされた。にゃむがどういう心情でああいうことをしたのかは知らねえが、このままだと一番やばいのは睦と初華だ……。あの二人は普通に有名人だしな……。とりあえず、今は愛音達と合流したかったのだが……。そよにはかなり問い詰められそうだが、もうこうなった以上白状するしかない。俺が知っていることを……。ともかく、俺が今一番するべきことは……。

 

「楽奈の奴、何処行ったんだ……」

 

 一緒に武道館まで来てライブを見に来たのまでは良かったのだが、最初の劇の時点でもうかなり飽きていて素顔披露の頃には楽奈は完全に飽きていた。あいつは劇よりもライブを楽しみにして来ていたから多分そういうのが全く肌に合わなかったんだろう。だから、劇を見終わった後にあいつは……。

 

 

 

 

 

 

『つまんねーバンド』

 

 吐き捨てるかのようにして投げ捨てていた楽奈は本当につまんそうなにしながらもライブから後をにしていたが、視界に睦のことが入っていたような気がしてならなかった。楽奈と睦は割と接点があるようだから、もしかしたらあいつはまた何か得るようなものがあったのかもしれないとなって、会場に出てあいつのことを探していたのだが一向に見つかる気配がない……。この街灯だけを頼りにしているという地獄のような状況が続いていると、後ろから俺に声を掛けて来る人物がいた。

 

「星乃さんですか?こんなところで何をしているんですか?迷子なら立希さんに電話でもしてあげたらどうですか?」

 

「なんでそこであいつの名前が出るのは知らないが、生憎一緒に来てないぞ」

 

 偶々通りかかって来ていた八幡が俺に声を掛けて来ていた……。

 

「そうでしたか、それでは浮気ですか」

 

「はぁ、連れを探してんだ……」

 

 心底呆れたように溜め息をついている俺。

 とはいえ、立希のことをその色々としているから浮気と捉えられても仕方ない気もしなくもねえ……。というか、こういうことを言われたのは初めてだが楽奈を探すということに関してはこれで何度目だったのかもう覚えてねえ……。海鈴に事情を説明すると、「なるほど」と頷いていた。

 

「その要さんという人かは分かりませんが、よく立希さんが連れ回しているのを見かけますね。それに彼女がRINGでよく演奏しているところも目撃しています。容姿については覚えがありますね。ただ、残念ながら私の方では見てはおりませんね」

 

「そうか、悪かった。俺は他探して来るからじゃあ……」

 

「…………星乃さん」

 

「なんだ?」

 

「お話しながら私も少しその人物を探すのをお手伝いしても構いませんでしょうか?」

 

「助かる……!!」

 

 八幡の協力を得て、楽奈を探すことになった俺達……。

 話しておきたいことというのがよく分からないが、力になれることなら話をしようと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「それで率直に聞きたいのですが、立希さんとはどういう関係なんですか?」

 

「本当に率直だな……。でもまあ、俺から見てあいつってのは……紛れもなく繋がりが強い人間だとは思う」

 

「繋がりが強いです、か……」

 

 彼が探している要さんという人を一緒に探すことになっていた。

 ただ彼と探していると言う訳ではなく、知りたいことがあって行動を共にしていた。楽屋を抜け出していたことは後悔も反省は特にしていてませんでした。あの場に居ても結局、祐天寺さんと豊川さんの言い合いを眺めるだけになっていたことは間違いありませんから。

 

「曖昧な言葉になるだろうけど、直球で言うなら俺はあいつに嫌なところも醜いところも全部見せちまった……」

 

「意外ですね、そういうのは包み隠すと思いましたが……」

 

「別に今更俺のせいじゃないですなんてふざけたことを抜かすつもりはねえよ。立希が俺が嫌っていたことに関しては全部俺が悪いんだからよ……」

 

 本当に意外でした。

 こういう自分にとって損にしかならないということは人を他人に語ろうとはせず、誤魔化したり嘘をついたりするのが普通だと認識していましたし、それが当然だと思っていました。しかし、彼はそれを罪悪感があるように苦しそうに話をしていた。本当に少しばかりですが、立希さんが彼のことを許せているという理由が分かったような気がしていました。

 

「……俺なんか笑うようなこと言ったか?」

 

 どうやら不意に笑ってしまっていたようです。

 あんまり笑わないようにはしていたようですが……。

 

「いえ、別に言っておりませんよ。ただ立希さんが貴方という人間を何故許したのか多少ではありますが、分かったような気がしたんです。恐らく、立希さんは貴方のそういう変に隠すような素振りをしないところが好みなのかもしれませんね」

 

「あーどうも、でいいんだよな?それって……つーか今思った事があるんだが……」

 

 

 

 

 

「なんで俺ら、人を探してるのに一緒に行動してるんだ?」

 

「……それ今になって気づきましたか」

 

「気づいてたなら指摘してくれよ……」

 

 彼がそういうのをちゃんと理解しているからこそ、私の話に乗っかってくれたのだと勝手に思っていたようですがどうやら違ったようです。……そもそも、先に私が話をしながらと言いましたが此処は今忘れてくれているようなのでこのまま秘密にしておきましょうか。

 

「まあ……そんな感じだよ。立希とは……繋がりは深いし、嫌なところも見せてきた……。そんな立希だからこそ、俺は信じたいってなるし信じるとなれるんだよ……。なんというかの今までの積み重ねがそう俺達をさせてくれてるって……」

 

「積み重ねですか……。こう思ったことはありませんか?その信じるというものは迷信でしかないと……」

 

「……あんま考えたこともなかったな」

 

「信じるとは、確証がなくてもそれが本当である。そうなると期待している。例を挙げるなら、星乃さんが立希さんのことを信じているというのはある種の希望や前向きに考えているようにしているだけなのでは?」

 

 星乃さんは歩くのを止めて、何かを考えながらも星空を噛み締めていた。まるで、その星空は何かを見つめ直すかのようだった。それからして、一旦深呼吸をし終えたのと同時に彼はこう語り始める。

 

「確かにそういうのって迷信だったりするかもしれねえけど……。そういう信じる行為って、なんかとても人間らしく美しいと思えないか?」

 

「そうでしょうか?私には醜いようにも捉えることも出来ますけど」

 

「……まあ、確かに誰かに勝手に期待して誰かに勝手に希望を持つなんてというのは悪いことなのかもしれない。期待していた結果、裏切られて深く傷つかせることもある。俺がそうしちまったように……。でも、俺は嫌いじゃねえんだよ。そういう信じるって言うの……」

 

 

 

 

 

「人間讃歌って感じがしてさ。信じるっていう行為が理屈を超えて何かに手を伸ばすこと。繋がりを深めることに繋がる。ときには不確かで裏切られることもあるし、叶わないこともあるかもしれねえ。それでも、それを誰かを信じたい、何かを信じたいという姿勢そのものが綺麗な連続した写真に見えるんじゃねえのか?感情論って言われたらそれまでかもしれないけど、俺は少なくともそれを人間讃歌だと信じさせてくれるだと思わせてくれる奴らに出会えた。その中には立希も含まれているんだよ」

 

 彼は信じるという行為が人間的な美しいものがあると言い切っていた。

 

 やはり、そうですね……。

 私は星乃さんや立希さんのように強くなることは出来ない。信じたいと思いたかったもののに裏切られたことによって、裏切られるぐらいなら保険を何重にも賭けておけば傷ついたとき自分の居場所が減っても精神的なものは少ない。そう思えていたはずだったのに、立希さんがバンドを楽しそうにしている姿や、星乃さんと楽しそうに話しているところに自分が改めて欲しているのだと思えてしまう。

 

 信頼、信じるというものを……。

 あれだけ祐天寺さんにそんなものは迷信だと投げ捨てられてもこれを投げ捨てることなんて出来ませんでしたが、私にはこの二人は眩しすぎる……。私には出来ない、この二人のようになるなんてことは……。

 

「そうです、か……」

 

 響いているはずなのにこれ以上彼への言葉を返す事が出来ない。

 自分が無力だから、自分には出来ないと制御をしているから私には踏み止まることしか出来なかった。歩くことを再開し始めていた彼への言葉に上手く反応することは出来なかった……。

 

「そうだ、八幡……一つだけ言わせて欲しいんだが……。立希は信じられる奴だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ以上に仲間想いの奴いないって俺は知ってる。大切な友人の為なら、どれだけ自分が傷ついてもいいと判断できるあいつを……希望的で観測してる訳じゃねえよ。本気で信じてるんだあいつを……説明しろって言われたらすげえ難しいけど……」

「繋がり、積み重ね、そういう抽象的ではなくはっきりと言ってください。貴方は何故立希さんを信じたいとなれたのですか?」

 

 

 

 

 

 

「…………それなら簡単だ、俺の中で椎名立希が特別だからだ。あいつになら俺が抱えている本音を全部吐き出せる。現に俺はあいつにしか出来ない約束をした。俺が間違えそうになったら、殴ってでも引っ張り出して欲しいって……」

 

 

「お互い、嫌なところまで曝け出しちまったからこう言えたんじゃねえのか?俺は立希の友人の高松燈に劣等感を抱えていたこと、立希の場合はその高松燈を前のバンドで引き留められなかったこと……。まあ、俺はそれだけじゃねえんだけどな……あいつの去年の誕生日すら祝えなかったから。…………お互いにお互いに嫌なところを知り得てるからこそ、本音で語り合える。そういう関係って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「特別なんじゃねえのかって思えるんだ」

 

 彼は立希さんのことをどれだけ大切なのかを口で語っている。ああ、やはりだ……。

 私はあの二人のようにはなれない……。何故なら、私は信頼という二文字をあの日……失ってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのバンドを()()()()()と信じていただけに……。

 

 

 

 







Q.にゃむちは最終的にどうなったんですか?
A.本物()に怯えて祥子に対してかなり不満はあるけどその場では大人しくしてました。
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