【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「はぁ……今日も野良猫の奴来なかったか……」
「もしかしたら楽奈ちゃん、遅れて来ているだけかもしれないよ?」
「……もういい、今日も愛音は個人練。出来るようになるまでやって」
立希ちゃんと結人君の一件が終わって、私もRINGに来ていた。
今はスタジオでいつも通り練習をしていた。愛音ちゃん以外全員で練習しているはずなのに何処かバラバラな感じがする……。バンドなのにこれでいいのかな?迷いがあってもそれを口にすることが出来ない……。
「
「えぇ?頑張ってるんだけどなぁ……」
練習をある程度していると、立希ちゃんが二人が気になって仕方なくなってきたみたいで注意をしている。愛音ちゃんが渇いた笑みを浮かべながらも何も言わなかった。バンドとしてこのままじゃまずいような気はしていても何をどう言えばいいのか分からない。
「このままじゃ全然ダメ、結人はああ言っていたけど……。やっぱり私には……足りない」
「立希ちゃん……だ、大丈夫?」
今にもフラつきそうになっている立希ちゃんが心配になっていた声を掛ける。
立希ちゃんは此処最近ずっと張り詰めている。アレンジを作り変えたり、作り戻したりしている。こんな状況じゃどうやっても立希ちゃんに負担が掛かる。
「た、立希ちゃん……そ、その……私に出来ることがあるなら……やるから……お、教えて……」
「燈……燈、私じゃ頼りにならない……?」
「ち、ちがっ……!!」
立希ちゃんに対して逆効果の言葉を言ってしまっていた。
私は此処で結人君が言っていたことを思い出していた。
立希ちゃんが先にRINGに行った後、結人君に話があると言われて言われたこと……。
『燈、もし立希が一人で抱え込むようなことがあればお前が支えてやって欲しい。あいつはストイックだし一人で抱え込みやすい性格だからきっといつかは自己嫌悪を抑え込むことが出来なくなると思う。だから、そのときは燈が支えてやって欲しい』
結人君はこうなることを予測していたんだ。いつも自分が周りにいられるわけがないから。だから立希ちゃんに何かあれば支えて欲しいと言っていたんだ。
『うん……!!立希ちゃんのことは任せて……』
私がどれだけ立希ちゃんの力になれるかは分からない。支えてあげられるかも分からないけど立希ちゃんをこのままにしておくことなんて私には出来ないから……任せて結人君。
「待って……立希ちゃん……!!立希ちゃんのことを……一度も頼りにならないなんて思ったこと無いよ!!私はいつも立希ちゃんが頑張ってるのを知ってる!バンドのことを思っていつも頑張ってくれているのを知っているから……!!だからそんな風に自分のことを責めないで!!」
「っ……、ありがとう燈。でも、私は……!!」
「立希ちゃん……!!」と私が叫ぶ声は立希ちゃんに届くことはなかった。
立希ちゃんがスタジオから出て行く音だけが響いて行くのと同時に私の中の音が消えそうになったのを自分で掻き消していた。此処で諦めたりしちゃ駄目……だよね。立希ちゃんに私の声が完全に届いてない訳じゃなかった。だって、立希ちゃんは私にお礼を言ってくれた。ありがとうって……。だったら此処で諦めたりしちゃダメな気がする……。このままじゃみんながまたバラバラになっちゃうから……。
私はノートをカバンの中に入れてカバンを持って歩き始めると、愛音ちゃんが「ま、待って……燈ちゃん!!」と言って、追いかけて来てくれていた。ただ、そよちゃんだけは追いかけて来てくれることはなかった。
「はぁ……はぁ……!!りっきーまた何処か行っちゃうし……」
「前にもこういうことあったの……?」
私たちは今立希ちゃんがいそうなところを虱潰しに探していた。
その間にも立希ちゃんに連絡を送っていたけど、連絡が返って来ることは全くなくて、ただ私達の連絡だけが何件も送られているだけの状態になっていて空白の時間だけが続いている状況だった。
「あーえっとね、ちょっと前に燈ちゃんとりっきーが気まずい空気になっていたことがあったじゃん?そのときにもりっきーのこと追いかけまわしたり探したりしたことがあったんだ」
「そう……だったんだ。知らなかった……」
愛音ちゃん……。
私と立希ちゃんのことなんとかしてくれようとしてくれていたんだ、嬉しいな……。
「それにしてもりっきー本当に何処行ったの……。すぐ出て行ったのを追いかけたから追いつくと思ったのに全然見かけないし、りっきーがいそうな場所なんて知らないよ」
「結人君なら……知ってるかも……」
「結人君って燈ちゃんの友達の?」
結人君は立希ちゃんのことをよく知っている。結人君ならきっと何処にいるかなんとなく分かるかも知れない。愛音ちゃんの言葉に頷きながらも私は結人君に電話を掛けようとスマホに指を触れようとしたとき、指が止まっていた。
結人君に頼るのは凄く簡単なこと……。それでいいんだろうか。
今此処で結人君に頼るのは違う気がする。立希ちゃんのことは凄く心配だから今すぐにでも見つけたいけど、此処で結人君に頼っているようじゃこの先ずっと私はバンドを活動していく上で結人君の力を借りようとする。そうなったとき、いつも結人君の力をアテにしているようじゃこの先みんなとバンドなんて続けられないかも知れない。そんなのは嫌だ……。
「あれ?燈ちゃん、連絡しないの?」
「ううん、いいの……。結人君に頼れば確かに立希ちゃんが何処にいるのか分かるかも知れないけど……。これから……バンドをやっていくのに……結人君の力を最初の内に借りているようじゃ……凄くダメな気がしたの……。それに……立希ちゃんは一人で今まで頑張ってた。だったら、私達も私たちの力だけで立希ちゃんを……見つけるべきなんじゃないかと思って……だから愛音ちゃんも手伝って欲しい……」
「燈ちゃん……」
「あ、あっ……今日この後用事とかあるなら……私一人でも立希ちゃんのこと……探すから大丈夫……だよ」
スマホをバッグの中に戻した後に、私は愛音ちゃんに言った。
此処まで私はずっと愛音ちゃんの都合も考えずに一緒に見つけていたから私は後から付け足すようにして愛音ちゃんに「この後大丈夫?」と言っていた。
「燈ちゃん超カッコいいじゃん!」
「え……?」
私がカッコよかった……?
愛音ちゃんが言っていることがよく分からず、困惑していると愛音ちゃんは言葉を続ける。
「だってさ……普通友達の為にそこまで言えるなんて凄くない!?私そこまで言える友達なんて全然いなかったから羨ましいなー。あっ、この後だけどさ、全然用事とかないからりっきーのこと探せるから!!だから一緒に探そう?ムカつくこと今まで結構言われて来たけど、正論だったのは間違いないしりっきーがいないとバンド成り立たないもんね。ほら探しに行こう、燈ちゃん!」
友達の為にそこまで言えるのが凄い……。
考えたこともなかった。立希ちゃんのことを諦めようとしていないのはきっと結人君の支えて欲しいという言葉があったというのもあるかもしれない。でもそれ以上に私にとって立希ちゃんはかけがえのない大切な存在だから私は助けたかった、支えたかった。
「愛音ちゃん……ありがとう……」
愛音ちゃんに対して感謝の言葉を言いながらも私はもう一度立希ちゃんがいそうな場所はある程度行った。それでも立希ちゃんが見つからないのはもしかしたらいつもいそうな場所で落ち着いてるという訳じゃなくてこういうとき一人で落ち着けるような場所にいるのかもしれない。私はスマホで時間帯を確認すると、既に時間帯は20時を回っていた。
「愛音ちゃん、もしかしたら立希ちゃんがいる場所分かったかもしれない」
私達は今商業施設の階段付近にやって来ていた。
この場所はこの時間帯、人通りも減っていてよく一人でいたい人とかが偶に見かけるときがある。階段の数段ずつに灯りが付いていて、中段辺りの付近で誰かが灯りに照らされるようにして座り込んでいるのを見て、私たちは何も言わずに隣に座り込んだ。
「燈……」
私に気づいたのか私の名前を呼ぶ立希ちゃん……。
顔を見せないようにして背けていた。
「昨日さ、結人と一緒に出掛けたとき燈と似たようなこと言われた。私が頑張っているのを知ってるって……自分のペースで人の数倍頑張ればいいって……。焦らなくていいって……。言われたとき嬉しかったけど、正直複雑だった。だって……自分のペースで人の数倍頑張るって普通に考えて無理。それじゃあどうやっても人から遅れるから」
私は此処で一人で無理ならみんなで頑張ろうと言おうとしていたけど言葉が出ることはなかった。きっと立希ちゃんが言って欲しい言葉はそういう言葉じゃない……。今欲しい言葉は慰めの言葉じゃないはず。でも、何をどう言ってあげるのが正解なんだろう。答えが分からない問題を必死に解こうとしていたけど、私の中で答えを出す事は出来ないでいた。
「それ確かに無理だと思う。でもさ……頑張るってそういうことじゃん?ほら、一度壊れたものって中々修復するの無理みたいにさ。でもさ、頑張っていれば必ず見てくれる人達がいる訳じゃん?私の練習の頑張りを燈ちゃんやそよさんが見て褒めてくれたように……。だから、誰かに見てもらうってことが大事なんじゃないかな?私達ライブもやる訳だしさ」
「……一度はライブから逃げようとした奴の発言とは思えないし、努力から逃げた奴の発言とは思えないんだけど?というか、一度壊れたものが修復できないとかなんでそんな経験したことあるような言い方してるわけ?」
「うっ……え……え、っとそれは……」
「あっ、えっとね……。ほら……あ、愛音ちゃんって確か中学のとき生徒会長やってたって言ってたよね?だから……きっとお悩み相談みたいなのを色んな人から受けてたんだと思う……!」
「なんで燈がこいつのこと庇うわけ……?まあ、こいつの過去なんて興味ないからどうでもいいけど」
愛音ちゃんが留学に失敗したことがあんまり知られたくなさそうにしているのを見て私は愛音ちゃんと立希ちゃんの話の横から入って愛音ちゃんのことを助けると、小さく「ありがとうね」と言っているのが聞こえて来て私は軽く頷いていた。
「はぁ……それにしても癪に障るけどまさかお前に二回もこういうことを言われるとは思ってもなかった」
「そう思うなら少しぐらいはありがとうの一言ぐらい言ってくれると嬉しいんだけどなー」
「ウザッ……。でも、お前の言う通りだよ。ただ一つだけ言うとしたら、頑張ってれば誰かが見てくれるなんてのは優しい世界でしかない。どれだけ過程が良くたって結果が伴わないと意味がない。ライブってのはお金を払って見てもらうものだから。それなのに今の私たちは正直……過程も結果が良くなるなんて未来はあまりにも低すぎる」
立希ちゃんは溜め息をついた後に淡々と現実的なことを言いながらもその目は何処か遠くを見つめていた。でも、そのどれもが本当のことでしかなくて私はもっと頑張らなくちゃいけないとなっていた。
「愛音は論外だし、そよは前よりも下手になってる。野良猫は練習に来ない……こんな状況で良くなるなんてことは絶対にあり得ない」
愛音ちゃんが私の隣で「が、頑張るけどさ……」と言っている声が聞こえていた。
「じゃ、じゃあ……その……一つずつ問題を解決していくっていうのはどうかな?」
「燈、それはどういう?」
「た、例えば……楽奈ちゃんを練習に来るようにするとかは……?」
思わず言ってしまった言葉だった為、すぐに思いつくことが出来なかったけど立希ちゃんが先に言っていた言葉を思い出して私は提案してみることにした。
「野良猫を、か……。あいつの腕は確かだし、それが出来ればいいけど……。でも……あいつはなぁ……」
「じゃあさ、野良猫の好きなもので釣ってみるとかは?」
立希ちゃんが楽奈ちゃんをどうやって練習に来させようと苦悩しているなか、愛音ちゃんが提案を出していた。好きなもので釣る……。楽奈ちゃんの好きなものってなんだろう……?
「はぁ?子供じゃないんだからそんなので釣られる訳ないでしょ?いや……一つだけ心当たりがあるかも。あいつ、偶にRINGでサポートとしてライブに立つことがあるらしいんだけどそのときに抹茶パフェを奢ってもらっているらしい。でも流石に食べ物で釣られるとは思えないんだけど」
「子供じゃないって野良猫って何歳なの?見た感じ、私達よりちょっと年下っぽいけど……」
「はぁ……無駄かもしれないけど……ライブまでもう時間もないしやるだけやってみるか……」
私が言っていた、ちょっとずつ解決していくという提案を聞いてたのあったのかもしれない。立希ちゃんは「とりあえず駄目でもいいからやってみるか」と言ってくれているのを見て、私は少し嬉しくなっていた。一つずつだけど、バンドという形がまた新しく作り上げられたような気がしていたから。
愛音ちゃんに立希ちゃん……。
今此処にいるみんなが今度のライブを必ず成功させようとしているのが伝わっていた。楽奈ちゃんはまだよく分からないけど、そよちゃんもきっと同じ思いだよね……。
「そういえば……結人が気になること言ってた」
「気になること……?」
立希ちゃんとの話を終えた私達は帰り道を歩いていた。そよちゃんから「スタジオの方は片付けておいてくれた」という連絡も来ていた。人と人が通り過ぎて行くなか、立希ちゃんの声が聞こえていた。
「よく分かんないんだけど、あいつ俺も劣等感を抱えているって言ってた……」
「ええ?燈ちゃんとかりっきーの話を聞いた感じ、なんかそういうのあんまり抱えてないような子に聞こえたけど?」
確かに愛音ちゃんが言っていることに私も頷いていた。
結人君は明るくて元気だから……そういうのとは無縁な気がしていた。
「結人君も何か抱えているってことなのかな……?」
「分からない……だけどちょっと驚いた。あいつはそういうのとは関わって来ないで生きて来たと勝手に思ってたから……」
結人君もやっぱり何かを抱えているのかな……。
私も知らない結人君の闇とも言える部分……。それがどういうものなのかは分からない。そっと触れていいのかすら、分からないものと……。ただ、私は感じたことがある気が……。それは結人君と再会したときに感じた何か冷たい感じ。もしかして、それが関係しているのかな……。私が結人君の心の内とも言える部分に感じようとしていると、横を通って行った人が一瞬気になった。
「……あれ?」
私はたった今横を通って行った人が結人君に見えたような気がしていると、愛音ちゃんが首を傾げて私の方を見ている。
「どうした燈?」
「あっ、ごめん……。結人君が横を通っていたような気がして……」
「友達だったら一声ぐらいかけて来るんじゃないかな?」
「そう……だよね」
愛音ちゃんの言葉を聞いてそう言い聞かせようとしている自分がいた。
ただ立希ちゃんの言っていた結人君も劣等感を抱えているという言葉を聞いてたから、何処か不安になっている自分が奥底にいて私は結人君だったのかどうかを確認する為に後ろを振り返ることが全く出来なかった。
「今の燈だった……か」