【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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八幡海鈴は言葉のいらない信頼を知る、そして得る

「立希、八幡が今どうしても電話したいとよ」

 

 星乃さんは立希さんに電話を繋いでいました。

 まさか此処まで即決即断で通話をし始めるとは……。しかし、これはいい機会です。立希さんがいう繋がりがどういうものなのかを改めて教えて貰うことが出来ますから。あのときは、ただ「信頼というのは言葉とかにするものじゃない」と話をしてその後、すぐチャイムが鳴ってしまってそれ以上深堀りすることが出来ませんでしたが、ようやく訪れた機会を逃すつもりはありませんでした。

 

 スマホを渡された私はそのまま立希さんの通話に出ることにしました。

 この行為に覚悟とかそういうものはあんまり無かったでした。あるとすれば、『信頼』というものへの興味とそれを欲したいという欲求でしょうか……。

 

 

 

 

「海鈴……Ave Mujicaだったんだ」

 

「ええ、そうです。まさかこのような形で仮面を外すということになったのは不本意ではありましたが」

 

 豊川さんがどのような場で仮面を外すということは私も知りませんでしたが、あの人が持つ情熱というものは悪くないと好印象だったときがあるのは事実です。ただ、私が祐天寺さんの敵なのかと問われればそれもまた違いますね。彼女がドラムの練習をサボらずに続けているのはその動きだけで見て取ることが出来ていましたから。……いえ、これを無関心そうにしていた私が話をしても意味はないですね。

 

「そう……それで何の用?」

 

「ああ、そうですね。立希さんは信頼というものをどう思いますか?」

 

「それなら前に……「ええ、立希さんは前に一度こう語ってくれましたね。信頼って……言葉とかそういうもので表すものではないと……。それについてはなるほどと私もなりました。ですが、やはりこういうものは言葉で形式化しなければ意味がないんですよ。だから、貴方にとっての……」」

 

 

 

 

「信頼とはなんですか?」

 

 閉ざされていた扉がようやく解放されそうになっている。

 私はようやくこの硬く閉ざされた扉を開くことが出来る。立希さんは何かを思考するようにして、数秒の間黙り込んでいました。その間も期待を込めていました、この二人ならば私がかつて欲していた答えを持ち合わせていると……。そして、立希さんは「はぁ?」というお決まりを投げて来た後に……。

 

 

 

 

「積み重ねとか繋がりとかそういうものがあって成り立つ、そこに何か特別なものが含んでいるならそういうものが……信頼とか信じるとかでしょ」

 

 ああ、なるほど……。

 本当に星乃さんが思い描いていた絵図通りですね。立希さんも彼と同じようなことを言っている。これはもう、深い繋がりでしかないですね。ただ事実を突き付けられ、正論を放たれただけだというのに立希さんと星乃さんのお互いの情というものを読み取ることが出来ます。まさか、自分が此処まで誰かの結ばれたものを浮かび上がるとは思いませんでしたけど、悪いものではありまえんね。

 

「で話したけどなんで笑ってる訳?」

 

「いえ、立希さんらしいなと」

 

「は?なにそれ……」

 

 大切なものを口で語り、それ以上に決して切れることのない繋がりを示してくれた二人には乾杯する他ありません。スマホを一旦耳元から離した後に、私はこう星乃さんに誓いを立てました。

 

 

 

「星乃さん……若葉さんのことですが……いえ……」

 

 

 

 

「Ave Mujicaのことは私に任せてください」

 

 立希さんや星乃さんの間に確かな絆があった。

 言葉のいらない繋がりというものが確かにこの二人からはあった。私が今でもそれが羨ましいとしかなれませんが、それでも星乃さんから『立希さんの友人なら信じられる』というのが染みついていた訳ではありませんでした。

 

 嬉しかったんですね……。

 誰かに信じられると断言して貰ったのが、それでも私は自分に確証を持てない。責任を持ちたくないという感情があったから立希さんにという話を持ち込みましたが、結果はこの役目は私がやらなければならないとなりました。それに信頼を欲したいならば私は私なりに行動しなくてはなりません。もう認める他なかったんです、信頼を欲していると二人が羨ましいと……。

 

『私達のバンド……ですか。私には……他にもバンドがありますのでこれで失礼します……』

 

 三角さんへのあの発言のようなことはもう今後一切出来なくなりますね……。

 自分が今まで避けてきたバンドという向き合うということをさせられることになるのかもしれないということは不安でしょうがありませんが、此処でAve Mujicaを終わらせるというのは確かに惜しくはあります。豊川さんの強い意志、若葉さんの演技力、三角さんの歌唱力、祐天寺さんの成り上がりたいという意志。この意志と力を合わせるのは容易いことではありませんが……。

 

 

 

「きっとそれら全てを貴方達は成し遂げて来たんでしょうね」

 

「……なにが?」

 

「いえ、こちらの話ですよ立希さん。夜遅くの電話ありがとうございました。それでは愛しの男性にお電話戻しま「は!!!?」」

 

 電話を繋いだままだったことを思い出した私は立希さんがまだ繋いでくれていることを確認しながらも最後に大きなものを残して、スマホを星乃さんに渡すことにしていた。この二人、脈はあると思うんですがね……。まあ、そこは立希さん達がどうにかすることですね。

 

「それでは星乃さん、私はこれにて失礼させていただきます」

 

「ああ……ただ一つだけいいか?」

 

「なんでしょうか?」

 

 今から自分の自宅を目指す為にどうやって帰りましょうかとかこれからのAve Mujicaをどうしますかと頭を悩ませようとしていときに星乃さんが話しかけて来たことによってその意識は一旦別のところへと向かっていました。

 

「睦のこととかはお前に託したけど、あんま一人で背負い過ぎるんじゃねえぞ」

 

「ええ、それは承知の上です。それでは星乃さん」

 

 

 

 

 

「ああ、海鈴」

 

 ああ、ようやく名前で呼んでもらえましたか……。

 これで私も彼に『信頼』できると認めて貰えたのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 海鈴がスマホを俺に返してこの歩道橋を去って行った。

 静かさだけが残ってしまったこの場所で俺は海鈴の姿が見えなくなるまで目で追っていた。俺はあいつのことを信じられると今ならはっきりと断言できる。さっきまでは立希の友人だったら信用できるとなっていたけど、あの海鈴の目つきは確実に覚悟を決めたという目つきをしていた。多分、俺達のことを羨ましいというか此処まで深い関係なのがいいなとなっているのは変わらなかったんだろうけど……。

 

「変わらないこそ尊いものってあるよな」

 

「は?急にポエム?そういう口説き文句なら受け付けてないけど」

 

「……そうだな」

 

 少しポエムみたいなことを喋ると、立希に一刀両断される。

 とはいえ、俺が心の中で勝手に思わせていたことだから切り捨て御免されても仕方ない。切り捨て御免か、そうだな……。

 

「悪かったな、睦のこと今まで黙ってて……」

 

「どうせ最近なんでしょ?それも睦に口止めされてたとかそんな感じでしょ?」

 

「まあそうだけど、お前にはちゃんと伝えるべきだったろ……。睦とは友人な訳なんだしな」

 

「……睦、大丈夫だった?」

 

 敢えて俺の最初の話題の方には触れることはしていなかった立希。

 この話は不毛だと判断してこれ以上しなかったのかもしれない……。

 

「ああ、大丈夫そうだったよ。今のあいつはちゃんと自分を持ってるから」

 

「そう、ならいい……」

 

 睦が今回の一件もあって、どうなっていたのか立希的にも不安があったんだろう。

 立っているのもキツくなってきた俺が歩道橋に寄りかかりながらも電話を続けていると、立希が何かを迷った後に息を吸っていた……。

 

「お前確か埋め合わせするって奴、覚えてる?」

 

「ああ、覚えてるが……」

 

「明後日、バイトとか入ってる?」

 

 頭の中で自分が明後日バイトがあったかどうか整理していたが、ないという結論に至っていた。これであったりしたら後で俺自身のことを俺で殴るか……。

 

「いや、入ってねえな……」

 

「っそ、その……二人で出掛けたりしたいって思ったから、時間帯とかはまた連絡するから」

 

「分かった……じゃあまた後でな、おやすみ立希」

 

「……おやすみ

 

 小さくおやすみと告げてくれていた。

 スマホから耳を通して聴こえていたはずの音がしなくなり、俺はただこの歩道橋でただ一人暗闇の世界へと放り込まれたような気分になっていると、スマホから再び着信音が鳴り響ていた。立希が何か思い出して電話をまた寄越したのかと思って確認すると、その相手は……。

 

 

 

 

「知ってたの……!?睦ちゃんのこと……!」

 

 そよだった……。

 ああ、やっぱりこうなるよなと予想はしていた……。そよは前にも一度俺と睦の関係を、今日の武道館前でのこともあったからあいつにはかなり怪しまれていると踏んでいたからこうなるとはなっていた。

 

「今家か?そよ」

 

「私の質問に答えて」

 

「……ああ、睦のことはほぼ睦本人から教えてもらったよ。あいつがAve Mujicaのモーティスだということもな……。だから、その話も含めてお前に話しておきたい事があるんだ。今、家いるんだな?」

 

「いるけど、なに?」

 

「じゃあ、待ってろ。今向かうから……」

 

 そよが色々と物を投げつけるようにして罵詈雑言される前に電話を切ることにした。これが正しいし、一旦あいつの中で整理させる必要もあるだろうからな……。

 

 

 

 

 

 

 

「来たぞ、そよ」

 

 

 

「はぁ……本当に来てるし……」

 

 そして、俺は今長崎そよの家に来ていた……。

 こいつに話せる内容の全てを話すつもりで居たから、俺は此処に来ていた……。

 

 

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