【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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長崎そよはその温かさに触れていた

「事情説明してもいいか?」

 

「……とりあえず座れば?」

 

「ああ、ありがとうな……」

 

 いきなりではないが、ほぼいきなりそよの家の中へと押しかけていた。

 オートロックだった為、そこでも激しい攻防が行われると想像していたが、時間帯も時間帯ということでそういうことはなかった。

 

「それで睦ちゃんが……モーティスっていうのは知ってたの?」

 

「ああ、そういうことになるな……」

 

 ソファーに座ると、そよも向き合いって座る。

 

「……睦ちゃんに口止めされてたんでしょ?」

 

「いや、俺がお前らに話してなかっただけだ」

 

「……結人君、それで押し通すのは無理があると思うの。確かに、結人君なら私達を苦しませないためにもそういう大事なことを話さないとかあり得そうだけど、立希ちゃんとかには絶対に話すでしょ?」

 

「……どうだろうな。それは場合によるんじゃねえのか?立希を傷つけるようなことならな」

 

「じゃあ、まだ隠してることがあるんだ?」

 

 今のは迂闊だったな……。

 俺はまだ睦が多重人格者だということを誰にも話をしていない。というか、出来るわけがない。例え、モーティスに口止めされてなかったとしても睦の多重人格は特殊なような気がしてなんて説明すればいいのかも判断に迷うからだ。

 

「豊川祥子が……オブリビオニスだってことも把握してた」

 

「……結人君、祥ちゃんと会ったことあったの?」

 

「偶々だけどな……。あいつが羽丘から帰っているときに傘が無かったみたいで偶々俺が貸してやったんだよ」

 

「如何にも結人君っぽいやり方」

 

「なんか悪いことしたみたいな言い方は勘弁してくれねぇか……」

 

 目を細めながらもそよが「またそういうことしてる……」と呆れているようにしかなっていなかった。ただ、これで誤魔化せたのなら安いもんだ。豊川に関しても今はまだ話せる内容ではないしな……。寧ろ、豊川の方も爆弾が多い内容だからな……。

 

「で?祥ちゃんのことはどうしてもオブリビオニスだって気づけたの?その一回しか会ってないなら無理じゃない?」

 

「いや、そうでもねえよ。俺は一回会った奴の顔を覚えられるからな。Ave Mujicaの場合は雑誌で読んでいたし、顔が隠れてたから的確には判断できなかったけど、おおよそ予想はついていって感じだな」

 

 実際、俺がAve Mujicaを雑誌で確認していたのは一回だけだ。

 しかも、その後すぐに思金でバイトだったから内容を全部ちゃんと読めている訳じゃなかったから……。そういうのもあって判断する材料が少なかったんだ。

 

「っそ……それにしても聞いてもないのに祥ちゃんのことまで喋るとか本当に結人君って結人君だね」

 

「あんま褒められてる気がしねえんだがな……」

 

「実際褒めてないから、結人君って隠し事とか本当に下手そうだなって思っただけ」

 

「まあ、それはそうだな……」

 

 俺は実際燈を突き飛ばしたあの日、闇を抱えていることもその闇に触れようとしていたこともあったからそれを否定することはしなかった。あいつの場合はもっと前から気づいてはいそうではあるが……。

 

「俺が知ってる内容は此処までだ」

 

 モーティスのことや祥子の家の事情については話さない。

 この二つは触れさせれば危ないことになるかもしれない……。

 

「そう、それじゃあ帰ってくれる?……なんで意外そうな顔してる訳?」

 

「いや、此処まで素直に帰してくれるんだなって……」

 

「別に聞いてもないのに祥ちゃんのことまで白状する結人君に呆れただけ。それにこれ以上掘っても実りのある話はなさそうだし……」

 

 なるほど、どうやら俺が即決即断でそよの家に来てその上睦の話を此処でして、更に豊川の話もしたからそれが効いたということもあったのかもしれねえな。だとすれば、話せるところまで離したのは正解だった……。

 

「そうかよ、じゃあ帰らせてもらうわ。あーその前に終電あるか、調べてみていいか……?」

 

 スマホで俺は終電があるかどうかを調べようとする。

 時刻は深夜1時を回っていた為、嫌な予感をしながらもスマホで調べているとその予感は当たっていた……。

 

 

 

 

「あの……そよ、非常に申し訳ねえことを言うんだが……」

「なに?まだ隠し事でもして「終電ないんだが……」」

「……歩いて帰ればいいんじゃない?結人君なら出来なくも無いでしょ?」

 

 実際出来なくもない……かもしれない。

 だが、ライブで長時間立っていたということもあってか割と足が疲れている……。ただ、あんまそういうことをそよの前で発言できる訳もなく、口から生まれたアヒルの子のように喋り出す前に出て来ようとしていたものを封じていた。

 

「人の家に勝手に上がり込んで来て全部自白してその上今度は終電がないとか計画性無さすぎなんじゃない?」

 

「事実過ぎて返す言葉もねえな……」

 

 目を下に背けながらも、頬を指で軽く掻いていた。

 

「そよに迷惑掛ける訳にもいかねえから、歩いて帰ることにするよ。運が良ければタクシーでも捕ま「泊めさせないとは言ってないけど?」」

 

 ソファーから立ち上がり、スマホを広げてどういうルートで帰るべきなのかを模索しながらも俺は検索を掛けようとしていたにそよが俺のことを止めていた。

 

「はぁ……リビングのソファー貸してあげるから。そこで寝れば?」

 

「いいのか?」

 

 手に持っていたスマホを一旦ポケットの中に入れ直して、俺はそよの方を振り向き直す。

 本気で不本意という顔付きをしていたが、別に本当に嫌がっていると言う訳ではなさそうではなかった。

 

「本当は嫌だけど、馬鹿正直に歩いて帰ろうとしてる人をそのまま帰すなんて後味悪いだけだから。但し……」

 

「妙な真似したり、私の部屋に入って来たら二度と口効かないし、燈ちゃんや立希ちゃんに寝込みを襲ってきたって告げ口するから」

 

「俺が寝込みを襲うような奴に見えるってのか……?」

 

「どうだか……。結人君だって夜のテンションでそのまま馬鹿なことをするなんてこともあり得るんじゃない?」

 

「別に俺はそういうことをしたことねえぞ。いや、どうだっただろうな……」

 

 思い返してみれば、燈と何度も寝たことはあれどそういうふうな一夜の間違いをしたことはない。ああ、でもこいつが使う一夜の間違いって愛音のも含まれているのか。いや、でもあれは一夜の間違いじゃなくて愛音の記録という二文字に反応しただけであってそういうのも悪くないとなれたというか、一夜の間違いとはまた別というか……。

 

「なんで急に黙り込む訳?やっぱり、やましいこと考えてたんだ。結人君も獣なんだね」

「おい、ちょっと待ってくれ、それは聞き捨てならねえぞ。俺は別に寝込みを襲うとかそういうことするようなことは断言できるって……。あーいや、ほら断言できるってきっぱりしてもそれでも俺の疑いは晴れないだろうが……」

「動揺し過ぎじゃない?まるで自分がそう考えていましたって白状してるようなものだけど?」

 

 まずい、返って動揺し過ぎた……。

 これもあれも全部愛音とそよのせいだ。そよが一夜の間違いだの、愛音がああも無自覚に近距離で写真撮ろうととか言い出さなければ俺はこんな劣勢になることはなかったのかもしれないというのに……。

 

 

 

 

「……景色綺麗だな」

 

 ソファーから離れて俺は窓際から景色を眺める……。

 もう夜中だというのに、まだ明かりが付いているビルが少なからずはある。この時間まで働いているのか、それともただ付けっ放しになっているだけなのかそれは分からないが静寂に包まれることがないこの都会の夜を表しているようだった……。

 

「いきなり誤魔化しても意味ないから」

 

「だな……。でも、一つだけ話しておくんだが俺はそよのこと嫌いじゃない」

 

「またそうやって……」

 

「悪いが、最後まで耳かっぽじって鼓膜に通して貰うぞ。性格は……人によって好み分かれるかもしれないけど、なんだかんだ面倒見いいし俺のことを揶揄ってくるけど割と気にかけてくれてるし、バンドのことで向き合うと必死に頑張ってくれてるのも俺には全部届いている。だから、俺は少なくともそよの性格は嫌いじゃない。やりやすいまであるからな、お前の性格……。本音をぶつけられるのはお前と立希ぐらいだからな……。だからな……前に言いそびれてたことがあるんだが……」

 

 

 

 

 

 

「こんなバカみたいな俺だけどこれからもよろしく頼む……」

 

 

 

 

「……シャワー浴びて寝て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 結人君の想いは燈ちゃんの心の叫びみたいに私の胸の奥に響いていた。

 彼がこうやって本音をぶつけてくる度に自分の心が何処か遠くに行ってしまっているような気がしてならなかった。それがこのときはより一層にあった。彼の景色が都会の夜景に相応しいぐらい似合っていたから……。私はリビングに置いてあったクッションを手に持ってそれを結人君に投げつける。まるで、とっとと寝てという意志を示すかのようにして私は彼に何かを言うことはしていなかった。

 

 いや、一つだけ言葉を呟いていた。

 

『おやすみ、結人君』

 

 それだけを発して私は部屋の中へと入って行った。

 その後、彼がどうしているのかなんて知らないけど、私は自分の部屋に戻った暗がりのこの部屋の中で私の心臓の鼓動と時々息をする音だけがしていた。最近は、愛音ちゃんとかが居るせいでリビングが普通に五月蠅いなんてことはよくあることだったから、こうやって何も音がしないということが珍しくなっていたのかもしれない。

 

 そろそろ、寝よう。

 明日は学校で特に何か用事がある訳じゃないけど、睦ちゃんに質問をしなくちゃいけないのだから。どうして、内緒でバンドを組んでいたの……と。

 

 

 

 

 

 

 暫くしてから私も寝ていただろうか……。

 結人君も静まり返った頃だろうなとなって、私は手元に置いてあったスマホを持って部屋を出ることにした。どうして、自分がスマホを持って行こうと思考をしていたのか知らないけど、何かに使えるかもしれないとなっていたのかもしれない。スマホの光が照らされたのと同時に時間帯は深夜三時ぐらいとなっていた。

 

 リビングの方へと行くと、ソファーの方で結人君がぐっすりと寝ている姿があった。

 彼の寝ている姿はなんというかいつもの口調に反して意外にも可愛らしいものだった。綺麗な肌をしていて、綺麗なサラサラとした髪、旅とかアウトドアをしているからごつごつとした手が目に入っていた。

 

「結人君……前に言ってたよね。俺は私に似ているって……。あれね、言われたときやっぱりそうなんだってなってたの。話したことこそ本当にニ、三回ぐらいしかあの頃はなかったけど……。自分と何処か似ている気がしていたの……。それはきっと結人君の内に秘めた冷たさというものに触れたときがあったからなのかもしれない。多分、結人君もそれに触れていた。でも、お互いにそれ以上近づくべきじゃないってなって遠慮していたけど、今なら違う」

 

 彼の前に膝を立てて座り込む。

 彼は勿論、眠っている。気持ち良さそうに……。

 

「本当に馬鹿みたいな話だけど、結人君になら私は自分のことを理解して貰えるなんて気がしてならないの。多分、それは似た境遇だからなのかもしれない。片親で親はいつも家に帰って来ない、ほとんど一人で暮らしていて、心の中では何処か冷めたものを持っていた。そういうものがあったから、私と結人君は心の内側を触れ合うことが出来たんじゃないかと思えたときもあった。でも、それは違ったの……。本当は……」

 

 

 

 

 

「同情して貰えたことが支えになってた、口の悪い結人君の遠慮のない言動が私の心を豊かにしてくれた。だから、感謝してる。こんなこと、結人君が眠っているときにしか喋れないけど……」

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、私に手を差し伸べてくれて……。私が落ち込んでいるとき、手を差し伸べてくれて……」

 

 

 

 

 

「馬鹿みたいに優しい結人君に本当に感謝してる……」

 

 彼の綺麗な黒髪に手で軽く触れていた。

 照明の一つもないただ真っ暗の部屋の中で一本一本、さらさらとしている髪の毛は本当に綺麗で所々で茶髪も混じっていた。そんな、色濃くなっていた彼の髪の毛を手で実感しながらも、彼のことを確かめていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 無言のまま、テーブルの上に置いてあったスマホで時間を確認すると、そこには4時と書かれている文字があった。まだ辺りは薄暗く、俺のスマホの明かりだけがこの部屋の中で唯一の照明となっていたが、向かい側のソファーの異変に気づいた俺は自分に掛けてあったブランケットを眠っている彼女にそっと渡す。

 

「ったく……しょうがねえ奴だな」

 

 渡した相手は当然、そよだった。

 冷えないようにプランケットを掛けてやった俺は一旦そよの表情を目線を送った後に、俺は彼女の手を握っていた。

 

 

 

 

「大丈夫だ、俺がちゃんと……お前のこと守るから」

 

 起きていればそよはまた馬鹿なことをしていると呆れていたかもしれない。

 だけど、俺はこれを見過ごすほど冷たい人間でもなかった。何故なら、そよは何処か不安そうに眠っていたからだ。それが何なのかは俺には彼女の手を触れなくても記憶の中にあるものだった。彼女は今日あったことがよほど衝撃を受けてしまった。睦や豊川が自分とバンドをやらず、別のバンドを始めてしまったということが……。俺がその傷を癒せるかは分からない、いや癒せないだろう。そよにとって、その傷は深いものなのだろうか。でも、俺がもしその傷を……!!?

 

 

 

 

 

「結人君なら、そうしてくると思った……」

 

「お前な……」

 

 気づけば俺は……そよが眠っているソファーの中に引き込まれていた。

 衝撃はあったものの、俺はあまり驚くことはしていなかった。こうなることでも予測していたのだろうか、なんて馬鹿なことを考えてしまう。

 

「私のこと慰めに来てくれたんでしょ?」

 

「ああ、癒せるか分かんねえけど……」

 

「……じゃあ、隣で寝てて。その方が落ち着くから……」

 

 お互いの息が掛かりそうになるぐらい近い距離で互いに話をしている。

 いや、訂正する。そよは俺の方を向かずにソファーの背もたれの方を向いていた。自分の顔を見られるのが嫌だったんだろう。

 

「さっきの全部……「ああ、全部聞こえてた」」

 

「じゃあこれだけ言わせて……。いつも俺はMyGO!!!!!が大好き、俺はMyGO!!!!!が大好きって気狂いみたいに馬鹿みたいに連呼してるんだから……」

 

 

 

 

 

 

 

「最後まで好きでいて、それとちゃんと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「責任取って……先に私達に重たい感情を向けて来たのは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結人君なんだから」

 

 そうだな……。

 この関係は他人には言い合わらせないものだ。俺と燈から始まり、俺と立希……。そこから続いて行く関係は何処か不思議で何処か可笑しなものなのかもしれない。傍からみれば俺は『異常者』に違いないだろうが、俺はそれを違うとも否定するつもりはない。あの五人だからこそ自分は複雑なものを吐き出せることが出来たんだと……。だから、俺の答えはとうに決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、分かってる……」

 

 そよの体を温める為に、少しばかり密着してやると彼女の少しばかり泣いている声がしていた……。それはいや……これ以上語る必要もない。あの涙は二重の意味だったんだろうから……。

 

 

 

 

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