【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「おはよう」
「……おはよう」
ソファーから起き上がると、彼は既に起きているようだった。
掛けてくれていたであろうプランケットをソファーの方に置いてから、起き上がると彼が近づいて来る。
「俺は自分の家に戻るぞ」
「っそ、昨夜は割と滅茶苦茶やってくれたのにもう逃げるのね」
「おい勘弁してくれ、昨日というか今日に関してはお互い様みたいなところあるだろ。だから、悪かったのは認めるけど泣いているお前のことを放置なんて出来る訳ねえだろうが」
率直に結人君らしい発言が飛び交う。
本当彼のそういう優しさのおかげで満ち溢れているんだとなってしまう自分が居てしょうがない。MyGO!!!!!以外に出せる自分以上の存在を彼になら披露することが出来る、なんて心を許している自分がいる。なにより、彼のことを揶揄うのがたまらなく好きというちょっと歪んでいる自分もいる。
「結人君が約束してくれたこと守ってくれたのは有難う。ただ、今日のことは絶対に誰にも話さないで」
「因みに話したらどうなるんだ?」
興味本位で彼がそういうことをしてきたから、私はテーブルの上に置いてあったスマホを取り出して一枚の画像を彼に見せると彼の顔が露骨に赤くなっている。それも無理はないと思う。何故なら、この画像は……。
「おまっ!!?これ盗撮じゃねえか!!!?」
「そうだね、でも徹底的な証拠にはなるでしょ?結人君が私の隣で可愛らしい寝顔をしていたっていう証拠には」
そう、この写真は私の隣で気持ち良さそうに眠っていた結人君の寝顔。
あんまりにも可愛かったから彼に内緒で撮ってしまっていた。
「……んで?その証拠とやらで何を揺さぶるんだよ?おおよそ予想はつくが」
「その予想通りだけど?まずは写真を壁紙にして立希ちゃんや燈ちゃんの反応を伺う。その後に、月ノ森で同じクラスの子でその子誰?と質問されたら、彼氏って答える。どう?結人君が凄く困る展開でしょ?」
「それ愛音とやってること同じになるけどいいのか?」
「今すぐ、全体のグループに晒すけ「あー悪かった!!」」
「ったく、お前は悪魔か……。つーか、盗撮って立派な犯罪だからな」
「結人君、私のこと警察に売れる?」
「…………売れる訳ねえだろうが、馬鹿がお前が本気で犯罪犯したら流石に通報するが」
間が空いてから彼はそっぽを向きながらも、私のことを突き出すことなんて出来ないとは言っていた。ともあれ、私が盗撮していたという事実は変わらない。結人君に面白い反応も目の当たりに出来たからこれ以上はもういいかなとなっているとき、結人君はキッチンに戻って皿を持って来ていた。
「泊めて貰った礼だ」
「勝手に冷蔵庫開けたんだ?」
「悪かったな、でも泊めて貰ったんだし一宿一飯の恩義はさせてもらう。させて貰ったのは一宿だけだが……」
なんて余計なことを付け足しながらも、テーブルには皿が置かれていてその上には目玉焼き、ベーコン……。その下にはトーストがあった。簡単なものとはいえ、何処か食欲そそる見た目に私は「いただきます」と感謝の言葉を述べながらも、トーストを持って一口食べることにする。
「……結人君って料理上手なんだね」
トーストの上にはカリッと焼けたベーコンと、とろりとした黄身を湛えた目玉焼きがあった。その姿は、まるで朝の食卓のようなものだったけど、バターの沁み込んだパンの香ばしさと、ベーコンのちょっと振り過ぎている塩こしょう、そして黄身のまろやかなコクが良い感じに組み合わさっていた。一口噛んだけど、全然食べたくなるそんな味をしていた……。
「そこまで料理した感はないけどな、そよの口に合ったのならよかったよ」
向かい合って一緒に食事をしてくれている結人君……。
朝の静けさと温かさが同時に感じつつも、私はまた心が満たされているような気分になっていた。
「こうやって誰かと一緒に朝ご飯を食べるの久々かな……。でも、案外悪くないかも」
「そうか、なら作った甲斐があったよ」
止まらない食欲に恥ずかしくなりながらも遠慮することなく、私はトーストを口の中に入れていた。美味しいという簡単な単語で終わらせるのは勿体ないかもしれないけど、今はただそれしか出ないでいると結人君はこう切り出して来ていた。
「睦、あんまり責めてやるなよ?」
「それは睦ちゃん次第」
「……そうか。でも、あいつはあいつで繊細な奴だから言い過ぎてや「結人君っていつからAve Mujicaに乗り換えたの?」」
「……おい」
冗談で彼のことを揶揄うと、彼が目を細めている。
今そういうこと言ってくるんじゃねえと視線で訴えながらも、結人君はこう直接的に言ってくる。
「俺はいつまでもMyGO!!!!!だよ」
「っそ……」
本当、そういうところ……。
結人君のことが眩しくてしょうがないのは……。
『睦、あんまり責めてやるなよ?』
結人君はああ注意してくれていた。
結人君は私のことを慰めてくれた。そして、警告もしてくれていた。でも、やっぱり私は許せなかった睦ちゃんのことを……。きっと怒り任せに睦ちゃんのことを否定してしまうのかもしれない……。だからごめん結人君、もし睦ちゃんのことを傷つけるようなことになったとしても許して欲しい。
「睦ちゃん、隠してたの?」
月ノ森に登校して来ていた私は早速睦ちゃんがいつも居る場所に来ていた。
そこは睦ちゃんが育てているきゅうりのプランターが置かれている場所だった……。水をあげようとしている睦ちゃんは一瞬、私のことを目だけで視線を送っていた。
「どうして教えてくれなかったの?睦ちゃんや祥ちゃんがAve Mujicaに居たこと……。教えてくれても良かったんだよ……?」
自分では気づいていなかったけど、怒り任せに話を進めていなかった。
彼の警告が効いていたからなのか、それとも睦ちゃんや祥ちゃんに対する怒りなんてものはとっくに無かったのかもしれないけどやっぱり教えて欲しかったという気持ちだけは残っていた。私達は友達なんだから……。
「ねぇ、睦ちゃ「そよ……目つき変わったね」」
「え……?」
ようやく私の顔と視線を合わせてくれていた睦ちゃんの顔はまるで人形のように綺麗な顔をしていた。それ自体はいつものことのはずなのに、何処か違和感を覚えてしまう私がいてならなかった。
「そよ……植物って一生が短いんだね。どれだけ気持ちを込めても命があるものだから、枯れ果てる。でも、これも成長……」
「成長?睦ちゃん、どうしたの?具合悪いなら……」
内容がよく分からなかった。
睦ちゃんの話を要約するなら、完成=死みたいな話になってしまうから私には意味が分からなかった。今の睦ちゃんに更なる違和感を覚えながらも、私は今にも後退りしようとしていた。恐怖という二文字が相応しかったのかもしれない。今まで友達だと思っていた睦ちゃんに対してこんなふうな疑問を抱えるのなんて初めてだった。CRYCHICを結成した頃は、凄い人の娘さんで口数が少なくて何考えているのか分からないとなっていたけど、今の彼女はそれ以上だった……。
「そよ……私は……」
「そよが羨ましい、だからこの言葉を贈る……」
「成長出来て良かったね……そよ」
それだけを言い残して、睦ちゃんはその場から去って行ってしまう。
「待って」の三文字を放つことが出来なかった私はその場で立ち尽くしながらも、今の睦ちゃんという人間に違和感と恐怖心しか覚えることが出来なかった……。完全に睦ちゃんの姿が無くなってから、急いで結人君にこのことを伝えようと思ってスマホから通話をしようとしていたけど……。
「なんで出ないのよ……」
『通話中』、と書かれていて電話に出ることはなかった……。
苛立ちながらも今度は立希ちゃんに電話をしようとしていたのと同時に、私の横には……。
枯れ果てていたきゅうりのプランターが置かれてあった……。
学校の屋上……俺は通話の内容を誰にも聞かれないようにする為にも電話に出ていた。
その相手は燈からだった……。
「ゆいくん、ごめん……HR前なのに」
「別に燈が気にする必要はねえって……。それでどうしたんだ?なにかあったか?」
「えっとね……その……説明するのが難しくて……」
「ゆっくりでいいからな」
それほどまでに何か大変な事態が起きたのかとなりながらも、俺が数秒待っていると彼女はこう話を始めていた。
「怖い夢を見たの……」
「夢……?」
「うん…………」
「ゆいくんがまた何処か遠くに行ってしまうような夢を……」