【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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星乃結人は傲りが過ぎていた。

「にゃむ、なんで此処に?」

 

「あーちょっと授業終わって、放課後なんだ」

 

「じゃあ、学校終わったのか?」

 

「いやいや、それがさあ演技の学校って放課後終わった後も授業あって……今はコンビニで小腹空いたから軽食買ってきたところなんだ」

 

 袋を軽く揺らしながらも結人に「コンビニで買ってきた」と自己主張させる。

 中に入っているのは水とサンドイッチ。まるで朝食みたいなラインアップだけど、軽食だからこれぐらいがちょうどいい。

 

「そういえば、さっきゆいぴのクラスの子?みたいな奴に優しくしてたけどなにかあったの?」

 

「時計、壊したみたいで案内してやってたんだよ」

 

「あーなるほど、そういうことか」

 

 埼玉行ったときもお年寄りとか子供に優しくしていたらそういう層にだけ優しくしているだけかと思っただけかとなっていたけど、どうやらそうでもないらしい。ちゃんと友達って訳でもなさそうな、クラスの奴にも優しくしているみたいだし……。

 

「にゃむ、一ついいか?」

 

「なに?サインなら受け付けてないよ?」

 

「そうじゃなくて、なんで仮面外しなんてしたんだよ。あんなことしたら、睦や初華に迷惑がかかるなんてのは明白だろ?お前にも考えがあってそういうことをしたのかもしれねえけど、そういう自分勝手な「ゆいぴってさぁ……ウンザリするほどお人好しなんだね。なんというか、呆れるほどって言うかさ」」

 

「話は終わってねえぞ」

 

「いや、だってそうじゃん?普通、そこで私の事情がどうとか気にしないだろうに私の事情とか気にしてるじゃん?マジでお人好しなんだなーって」

 

「そうかも……な。でも、俺は今更それを変えるつもりはねえよ」

 

「ふーん?まあ、ゆいぴの優しさとかそんな興味ないしいいじゃない?でも、あんまりやり過ぎるのも駄目なんじゃない?」

 

「やり過ぎ?」

 

「そうそう、ゆいぴのアホみたいな優しさを振りかざしたせいでそれが呪いになるみたいな?例えばさ、相手に依存されるとかそういう奴。優しいからこそ、弱ってる奴が無意識に依存したくなる。物語とかによくあるでしょ?そういうのって……聞いてる?人が話してるんだけど?」

 

 黙り込んでいる。

 まるで自分にとってその話は都合の悪い話もしくは何処か覚えのある話ですとでも白状してそうな内容だったとしか捉えられない。もしかして、マジで私が忠告した内容が当たっちゃったってことなん……?

 

「おーい、聞いてる?ゆいぴ?」

 

「ああ、よくお前の声は耳に入ってくるよ」

 

「なに、その言い方割と傷つくんだけどな……。まあ、いいや。最後に教えてくおくけどAve Mujicaの仮面外しの件は特に理由なんてないよ。あるとすれば、私の自己満足。どう?聞いて損したでしょ?」

 

 彼は何かを物申したそうにしていたけど手を振りながらも、私はその場を去って行った。

 あいつが誰かが依存してようが関係のない話。あいつの優しさはかなり危険だとヤバいだろうけど、それも私には関係のない話。だから、こうやって何事もなく去って行く……。放課後終わった後のもう一授業もあることだし……。確か、後の授業の先生はあー話の長い先生か……。

 

 

 

 

 

 真っ白な天井が広がっている。

 座っている椅子はパイプ椅子。卒業式とか入学式とかでよく見る奴だ……。そして、今はなにより学校に戻って授業を受けている。この先生は話長い人だから早く終わらないかなとなりながらも、授業の内容を耳にしていた。

 

「皆さんはメソッド演技法と呼ばれるものをご存知ですか?はい、早かったですね祐天寺さん」

 

「はい、メソッド演技の特徴は自分が演じる役柄やその場の状況、感情に応じて、より自然な形で演技を行うという点です」

 

 立ち上がり、ハキハキとした態度で私は授業の質問に答えていた。

 こういう積み重ねの結果で私という人間は今日も成長していくことになる。躊躇って手を挙げるのを恥ずかしいとかそんなバカバカしいことを考える奴のことなんて分からないレベルには……。

 

「はい、そうですね。日本では憑依型の演技と学んだ方が伝わりやすいかもしれません。ですが、この演技法には危険視されている部分もあります。「役を生きる」ことを重視するため、日常生活でも役柄の状態を維持してしまうケースがあります。そして、この演技法において最も危険だとされているのが身体的ダメージを伴う役作りをすることになるということです。過度な減量・重量、睡眠を削るなどの生活習慣の崩壊が訪れると、人は前の生活に戻ることは難しくなります。なにより、共演者・スタッフへの影響も深くなるでしょう」

 

 先生の話の内容は私の聴覚にははっきりと届いていた。

 これが私にとっても無視できない話だからじゃないから。いや、厳密に言うなら私じゃなくてムーコの場合ということになる。ムーコは間違いなく、本物でしかない。あの子は憑依型とかそういうものじゃない。全部が本当。だからこそ私は身震いをするような恐怖心を抱くことになった。

 

「勿論、誤解しないで欲しいですが憑依型の演技が悪い訳ではありません。しかし、自分の限界を知るということがとても重要だということを忘れないようにしてくださいね」

 

 自分の限界を理解する。

 果たして限界を迎えたからって手を抜くようなことをしていいんだろうか。いや、していい訳がない。寧ろ、肉体的にも精神的にも限界を覚えたのならもっと強い限界の壁を作らなくちゃいけない。

 

「はい、これでこの授業は終わりです」

 

 先生の終わりの合図が耳に入って、立ち上がって礼をした後に私はスマホを取り出しながらも自分のことをエゴサしていた。昨日の動画のコメント欄を全部読み終えていなかったからだ。ある程度、応援されているコメントの中にこんなコメントが目に入る。

 

『にゃむちって顔は整ってるけど、性格悪いよね』

 

 返信されているコメント欄もあって、そこを覗くとそこでは『仮面外しも独断っぽそうだもんねぇ』と気持ち悪い嘲笑みたいなものもあって、私はスマホをバッグの中に戻した後に、立ち上がってそのまま学校を出ることにしていた。自分がどんだけ嫌われようがなんてどうでもいい。自分のことを愛してくれない人なんてどうでもいい。私は私なりのやり方で成り上がって行くしかない。自分がこんなところで終わりたくないなら、そうやって自分を強くしていくしかない。そう、私は女優を目指している。あの子達の為にも……。バッグの中に放り投げていた、スマホが振動している。通話が来たとなって、私は学校を出た後にその電話に出る。

 

 

 

 

 

 電話の相手はお母ちゃんからだった。

 

「お母ちゃん……急にどぎゃんしたと(急にどうしたの)?」

 

 出来る限り、誰かの耳に残らないように薄暗い路地の中で私は電話を続ける。

 でも、本当に驚いた……こんな時期にお母ちゃんから連絡が来るなんて電話自体は割と来るけど、授業終わってすぐとかはあんまり無かったから。

 

仮面外しん奴、テレビで見たばい(仮面外しの奴、テレビで見たよ)

 

「ああ、そうやったと?」

 

あた、大丈夫と?(あんた、大丈夫なの?)

 

「大丈夫、大丈夫。ばってん(でも)東京って才能に溢れた人達ばっかりで……押し潰されそうったい(押し潰されそうで)

 

 実際、私の才能なんてAve Mujicaのメンバーの中じゃどうしようもないほど凡人なのは間違いない。でも、私には譲れない意地がある。近々、福岡でライブが行われる。地元に住んでいるお母ちゃん達に人目私がライブで活躍しているところを注目されているところを目撃させてあげたい。そういう親への家族への愛情があるからこそ、私は成り上がりたいという感情がある。そして、それ以上に色んな人に自分を見て認めて貰いたいという感情がある。ある意味、この福岡公演は大事な一歩になる。

 

「そうそう……」

 

「さっき名前に出しとった睦ちゃんやったけ?そん子が主演ば務めとった映画が最近公開されたったい」

 

「ムーコの……?」

 

 電話は続いていて、ムーコの名前を出すとお母ちゃんが映画の話をしていた。

 そういえば、武道館でもムーコが映画に出てたとかそういう話をしているお客さんが居たような……。

 

「確か映画んタイトルは……ひんながみさまだったかな?」

 

「ひんながみさま……?」

 

 なんか凄くB級ホラーっぽい映画のタイトルだけど実際どうなんだろうなのかと思って、私はタイトルを調べるとそこには暮石で作られた人形のようなものがタイトルビジュアルとなっていた。見るからにホラー映画だというのが頭に入ってきたのと同時に主演の名前に『若葉睦』、ムーコの名前があった。後になって、分かったことだけどこの映画はムーコの初主演……。いや、森みなみの娘の初主演ということもあってかなり注目されていたらしい。

 

 お母ちゃんに「じゃあね」と会話を切って私は電話を終わらせていた。

 弟たちは家の外で遊んでいて今は家に居なかったみたいだった。ちょっと心残りがありながらも、私はムーコが主演を務めているその映画を確認しに行くことにしたけど……。

 

 

 

 

 

 私はこれを後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……」

 

 とても映画を鑑賞したの息の上がり方じゃなかった……。

 でも仕方なかった……。

 

 

 

 

「あんなの見せられちゃ……認めるしかないじゃん……」

 

 震えが止まらなかった……。

 ムーコの本物具合に……私自身が恐怖していたんだ……。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息が荒い、呼吸が苦しい。

 自分でもどうかしてるという感情はあった。でも、俺はこの男の子を助けたかったから川に飛び込んだ。だから後悔はしていない。していないはずなのに、救急車が呼ばれて母親が一緒に病院に向かっている姿にどうしてこんなにも締め付けられているんだろうか。

 

『母さん……母さん……!!』

 

 違う、違う。母さんのことじゃない。

 あの日の病室で何も出来なかったことは今でも辛い、でも俺が今辛いのは……。

 

 

 

 

「ゆいくん……大丈夫?」

 

 燈の声がしてくる。俺のことが心配らしくて一緒に帰るという選択を選んでくれた燈の声がしている。顔は見ないようにしていたがどうして、俺は燈に「俺は大丈夫だ」と言えないでいるんだろうか。

 

「ゆ、結人君……大丈夫?」

 

 さっきまで一緒に話をしていたましろさんが俺のことを本当に心配そうに「大丈夫?」と聞かれているのに何も答えないんだろうか。この人は完全に俺のことを不安で気遣ってくれている。なのに、なんで俺は何も答えない。そして……本当に分からないことがあった。子供を助けようとしていたとき、なんで俺の手は震えていたんだろうか。なんで俺は怖いとなっていたんだろうか。母親に感謝されたのになんで当たり前のことをしたとかならなかったんだろうか……。

 

「違う、辛くなんかない……」

 

 息を荒くしながらも小声で自己否定する。

 当たり前のことを当たり前にしようとしていただけだろ。なのになんでなんだよ……!!俺は助けたかったから助けただけだろ……!!

 

『ごめん、燈……!!』

 

 暗雲だらけの俺になっていたあの頃の俺に戻ったような気分だった……。

 自己嫌悪に陥りながらも、俺はただひたすら茫然と立ち尽くしていると、こんな声がしてくる。それはましろさんの隣にいる人物。俺のことをずっと怪訝そうにしている……。

 

 

 

 

 

 

「いいことをしたって満足そうにしているけど、貴方のそれは優しさではないわ。それはただの……」

 

 

 

 

 

 

 

「傲慢よ」

 

 首元を狙うような鋭い鋭利な言葉を投げつけて来たのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 モルフォニカの八潮瑠唯(やしおるい)さん……。

 

 

 

 




ひんながみさまのあらすじ

少女の家はごく普通の家だった。しかし、あるとき墓地に訪れていた少女がある墓石で出来た人形を拾ったところで、その場で倒れてしまう。その後少女は息を吹き返し、その家は裕福な家庭となる。しかし、母親が幾ら何でもおかしいと思い、少女のことを神社で神主で祓ってもらおうとするのだが……。


ひんながみさまの概要

元ネタは【人形神(ひんながみ)様】。富山県に伝わる憑き物。森みなみの娘、若葉睦の初主演作品。ジャンルはホラー。人形を拾い、取り憑かれた少女の若葉睦の演技力は不気味で狂気的なものだと評価されている。撮影は約半年前ほどに終わっている。
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