【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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明日の投稿は多分朝方になると思います。


Ave Mujica.Ⅲ Volo ut me crescere facias
殴る痛みはいつだって消失できなかった


 ようやく辿り着いた場所はRING……。

 額の汗を拭ってから、RINGのカフェの方へと入る。

 

「随分遅かったんじゃない?」

 

 カフェの方でそよが待ち侘びている。

 ご立腹の様子だったが、その言葉の裏には心配してくれているようなものすら感じ取れているのは多分俺がそよの弱い部分を知っているからなのかもしれない。

 

「悪かった……」

 

 此処でましろさん達と話をしていたということを話す必要はないだろう。

 隠したいというよりも詳細に語るほどじゃないと分別しながらも俺は立希が何処にいるのか探していた。

 

 

 

「立希、ちょっといいか?どうしても話しておきたいことがある」

 

 眉間に皺を寄せながらも、嫌な予感がしているそんな表情で俺のことを一瞬睨みながらも立希は俺に返事をしてくれていた。それに俺は怯むことをせず、ただ立っていた。

 

「……こっち来て」

 

 RINGの制服を着ている立希が歩く速度を徐々に上げながらも、俺のことを関係者以外の立ち入り禁止の扉の向こう側に案内される。

 

「此処なら誰にも邪魔されないでしょ?」

 

「だな……」

 

「それで話ってなに?」

 

 俺の方は燈達に「ちょっと話をしてくる」とだけ伝えてから、扉の内側に入り扉の方は自分で閉まったのと同時に、誰も居ないこの閉鎖的な廊下の中で俺は息をしながらも本当のことを言う覚悟を示す。

 

「俺はまた燈のことを傷つけ「お前、それ本気で言ってんの……?」」

 

 背中に痛みが生じる、立希が俺の服を力強く掴んで睨んでいる。

 その痛みは燈の傷、立希の傷の戒めとして残していくことにする。

 

「川で溺れている子供を助けたかったんだ……」

 

「それが俺がやるべきことだからやらなくちゃいけないことだから。でも……現実は違った。俺が独断行動で燈を悲しませてしまった。だから……」

 

 

 

 

「俺のことを殴ってくれ立希……。約束通……っ!!?」

 

 鋭い痛みが頬に炸裂する……。まとまった拳が俺の頬に……。

 肌には直接的な痛みが残っているが、俺の痛みなんかよりも立希の方がよっぽど辛かったはず……。

 

「これで……いい?」

 

 何故なら……。

 立希は苦悩した表情を向けながらも、震えた手で俺のことを強めに平手打ちをしたから。自分で眩暈すらする罪悪感に駆られながらも、俺は頬を抑える行為はしなかった。ただ、痛みを受け入れようとしていた。

 

「立希……」

 

 溜めてから俺は立希に頼みたいことがあったが、頼んでいいのか迷ってしまう。

 

「今度は……ぶん殴ってくれ」

 

 立希の中で疑問が生じているようだ。

 これ以上、また「自分に殴らせようとしている?」とそんな風にも捉えることが出来ていたけど、俺はどうしてもこの一発は必要だった……。心の中で傷が出来た気がした。

 

「俺は燈を裏切ったことの契りを果たせてねえ……」

 

「誠意で認めてもらうって宣言したが、やっぱり一発お前に殴って貰わねえと気が済まねえんだよ……。だから、俺のこと思いっきり……ぶん殴ってくれ」

 

 

 

 

「…………分かった」

「っ……!!」

 

 受けた痛みは本物だった……。

 血管が浮き出るほど、力強さを感じさせる。その握り拳は俺の頬を掠めたのと同時に強烈な一撃が頬に入る。俺の景色が消え、一瞬膝をついて立ち眩みしそうになるが、なんとか力いっぱい踏ん張って、体を立ち上がらせている。ようやく受けることが出来た痛みという名の記録に、俺は自分のしてきたことへの反省を改めて出来ていたが、立希は下を向きつつも何処か晴れない表情だった。

 

「悪い、俺がこんなことやらせたからだよな……」

 

 心に広がった傷が抉ろうとも、俺は続ける。

 

「分かってるなら、もうこんなこと頼まないで……。お前のこと、殴るの……」

 

 

 

 

「心が痛かった……それと……」

 

 

 

 

 

「本当に手癖悪すぎ……最悪なんだけど馬鹿」

 

 あのときのように俺は立希のことを抱きながらも、お互いの早くなっている鼓動をまるで心電図のように確かめ合う。時折、俺の視界には俺を殴った罪悪感で苦しんでいる立希の姿が目に映っていた。それと同時に、俺はもうこんなことを立希にはさせないと誓おうとグッと拳を固めていた。

 

「悪い、でもお前らのこと滅茶苦茶好きだから……もう止められねえんだ……」

 

「知ってる……結人の想い……ずっと知ってたから」

 

 不意に抱いてしまったというよりは「ごめん」という謝罪の意味を込めての抱擁。手癖を悪いと指摘されても俺は苦笑いしか出来ない。でも、お互いにお互いに悪い気分じゃなかった。お互いに流れる空気が決して重苦しいものではなくなっていたのもそうだが……。

 

 

 

 

 こうやって、お互いに弱い所を曝け出せて話が出来るということが本当に……。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 徐々に結人を抱く力が強くなっている。

 普通ならこんなことしていない。でも、私は結人だから此処まで気を許していた。他の誰でもない結人だから。時折、結人の視線が気になって仕方なくて私は自分が熱くなっているのを誤魔化す為に顔を合わせないようにしていたけど、それでも偶に顔が合う度にあいつとの思い出がチラついてしょうがなかった。それも鮮明に……。

 

『俺が……もし道を間違えそうになったら遠慮なくぶん殴ってくれ』

 

 あいつに初めてそう約束をされたとき私は本気で燈のことを泣かせたり、苦しませたりして道を間違えるようなことがあれば私は迷いなくあいつのことを力を込めて殴るつもりだった。大切な燈のことをまた傷つけるようなことをあれば今度こそ許さないと、そう決めていたけど徐々にその約束は私の中で揺らぐものになっていった。

 

『結人……約束守るから……』

 

 あの日も私は結人に誓っていた。

 結人から受けた感謝の手紙と贈り物があったからこそ私はあいつが道を間違えればちゃんと私が引っ叩いても道を正さなくちゃいけないと決心がつき直せていた。でも、実際殴って私が得たものは悲壮なものだった……。

 

 大切なあいつを……正気に取り戻すという行為は私が逆に傷つく行為……。

 大切だからこそ結人のことなんて拳で殴りたくないってなっていたのに私は結人のことを殴ってしまっていた……。だから。この拳に血が付かなかったことをホッとしている自分も居れば、殴ってしまったことへの罪悪感、後悔で心が荒波になるのを抑えられなかったからこそ私は直接あいつに殴らせないでと願ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 照明の光に照らされている廊下の中心で私達は抱き合う。

 時々聴こえて来る自分の鼓動に恥ずかしくなりながらも、結人の鼓動が速くなっていることに嬉しくなってしまっていたこともあって、珍しく場の空気にしてしまいそうなことを正直に言ってしまっていた。

 

 

「結人……その……一度しか言わないから聞いて……」

 

 

 

 

 

 

「私は今が幸せだから……」

 

 声の震えが全く抑えられない……。

 一瞬だけ互いの視線が合ってしまったとき私はそう結人に直接伝える。今こうして私は幸せだとぶつけていたけど、多分……。私も結人も気づけばお互いに言葉じゃ言い表せないほどの感情を持っていた。お互い、何度もお互いの存在に助けられた。そういうものがあったからきっと、他の奴からしたら異常なまでの関係なのかもしれない。それでも……私は今の関係がいい。結人の隣に居て結人とパンダの話を……燈の話をしたりする時間が嫌いじゃないから……。

 

 

 

 

『燈が一番辛かったとき、なんで一番の友人のお前が燈の傍にいてやらなかったんだよ!!』

 

 もうあの頃には戻りたくない自分がいるのも……確かだから……。

 だから今は結人を近くに感じていたい。こういうときしか私は……。

 

 

 

 

 

 

 

 甘えられないから……。

 

 

 

 

 

 

 だからもっと結人を近くで感じていたかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分から抱いておいて……なんでそんな鼓動早いわけ?」

 

「色々あるんだよ……お前だって早いだろ?」

 

「は?私はこれが正常だから」

 

「どう考えても正常じゃねえだろ……」

 

 二人以外誰もいない廊下の中で声だけが取り残される。

 そういう空間が悪くないとなりながらも、まだ抱擁をやめていなかった。いい加減やめないと、そよ辺りに勘付かれるかもしれないけど私達はやめようとはしていなかった。互いに絶対に視線を合わせないようにしながらも密着している。こんな時間が永久に続かないことなんてのはお互いに分かってる。

 

「意識とかするんだ?」

 

「いいから、黙ってろって……顔近いんだよ」

 

 結人が恥ずかしそうにしながらも声を震わせている。私はそれ以上何も言うことはしなかった。

 ただ、視界には自分の手が入っていた。それは私の手が結人の手と繋ぎ合わせている部分……。

 

 

 

 

 

 

 

 その手は必死に結人の手を掴んでいて震えているけど、結人は絶対に指摘しようとしていなかった。その優しさが私にとって嬉しくてしょうがなかった……。

 

 

 

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