【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「お願い祥ちゃん……バンド辞めないで」
「祥ちゃんがバンドを辞めたら……私はどうしたらいいの?」
嘘、嘘……。
あの祥ちゃんがバンドを辞めたいなんて言い出すなんて訳がない。きっと何が理由があってバンドを続けられない、そういう流れになっているだけ。引き止めることも出来なくても、休業という形には出来るかもしれない。そうなれば、またAve Mujicaをやりたいとなってくれるかも知れない。なんとかして……。
「引き溜めないと……私が……」
海鈴ちゃんは今黙り込んでしまっている、どうしてなのかは分からない。燈ちゃんは祥ちゃんと昔違うバンドをやっていた子。引き止めてくれるかも知れない。でも、私が引き止めないとそっちに引っ張られるかも知れない。結人は……ダメ。私のことを止めようとしてくる。きっと私が余計なことをするって信用してくれていない。だから、頼りにならない。だから……。
「私がやるしかない……」
力強く足に力を込めながらも意志をはっきりとさせる。
自分が正しい、やらなくちゃいけないとはっきり決めながらも唇から血が出そうな程強くあろうとしていた。
「ねぇ、祥ちゃん……。辞めるなんて言わないでよ?嘘だよね?実はこれも冗談とかそういうのだよね?嫌だな、祥ちゃんはもう……そういうのは笑えないよ……」
高めていたはずなのに、声が震えていて仕方ない。
自分の意思の弱さが嫌になってしまう程だったけど、それでもなんとかしないと私しか頼りにならないんだから。でも、なんでだろう。どうしてこんなに泣きたくなってるんだろう。私は今間違ってないはずなのに……。
「初華、貴方自分が先ほど言ったこと覚えてないですの?」
「な、なに……が……?」
「貴方は先ほど私は私ではないと言ったんですよ?それをもう忘れたんですの?」
「それは……それはそうだけど……。違うの、違うの……!!本当はそういうことを言いたかったんじゃなくて私は祥ちゃんを引き止め「我がままもいいところですわ、もう話は終わりですわ初華」」
自分でも言っていることが分からなくなっていた。
祥ちゃんは正しいのに私は辞めて欲しくないからAve Mujicaというバンドから祥ちゃんを手放したら私はこれからどうすればいいのか、決められなくなってしまう。今まで祥ちゃんが居てくれたから、心強く居られたのにそれが無くなったら私は……。
「待って、祥ちゃん……」
声を上げていたのは私じゃなかった。
出していたのは……。
「燈、言ったはずですわ。もう貴方とは話す事はないと……」
燈ちゃんだった……。
此処で燈ちゃんよりも早く自分が動けていればとなっているだけになっている自分に嫌気が差しながらもどうすればいいのか悩んでいた。
「祥ちゃんは……どうしてそんなに……投げやりになってるの……?」
「投げやり?それは検討違いもいいところですわ、それではごきげんよう燈……。そして皆様……」
真っ暗闇に消えて行こうとする祥ちゃんを止めることが出来なかった……。
後悔ばかりが集る拳を握ることすら出来ずに、私は立ち尽くす……。
「燈、豊川を追ってくれ……!!」
燈ちゃんに続くようにして、声を上げていたのは結人だった。
彼はどうやら立ち上がっていたようで燈ちゃんに託そうとしている。
「豊川のことをよく理解しているのはお前だ、お前ならあいつを説得できるはずだ。だから頼む……!!」
燈ちゃんは無言のまま首を縦に振りながらも、祥ちゃんを追いかけて行った。
二人が照明がない公園の道を歩き続けている感覚になりながらも、私はまた立っているだけしか出来なかった。先ほどまでの祥ちゃんの言葉を上手く咀嚼できなくて戸惑っていることしか出来ないでいた。
「やっぱり、何も出来ない……」
あの頃から何も変わっていない。
ただ周りから関わっちゃダメ、関わっちゃダメと言われ続けそれを良い子のフリをして生きていた頃の私と……。
『初華ですわね!!今日はどんな話をしてくれるんですの!?』
あの日の思い出が今でも思い出す。
私にとって大切な一日……。三角初華としての大切な一日……。本当に大切な一日だった。生涯、忘れることがないたった一日だったからこそ私は祥ちゃんを離したくなかった。
『……そんなもの一時の気の迷いですわ』
あのとき、豊川が言っていた発言は紛れもなくあのときの俺と同じものだった。
こういう形で過去の自分の生き写しとでも言うべきなのだろうか、そういうものに遭遇したことはあまり良い気分ではなかったのと同時に強くなっていく自分の鼓動を抑えることが出来なかった。
「三角さん大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……」
「星乃さんも大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと動揺し過ぎていただけだ……」
まるで怨霊が豊川が憑りついたようにしてかつての自分を見せつけられていたあの状況……。決して、俺の心は穏やかなものではなかった。木々がざわめつくようなの感覚を心の中でずっとさせられていた気分になっていた。だから、俺は立ち上がるまでに時間が掛かってしまっていた。我ながら情けない話だと悔やみながらも海鈴の言葉に答える。
「星乃さん、一旦此処で情報を共有しませんか?」
「燈を追いかけながらでも構わねえか?」
「構いません。それでは行きましょうか」
「ああ……」
と、答えたのはいいものの俺は初華のことが気になって仕方なかった。
視線を地面に落とし、自分が今どうすればいいのか見失っているそんな彼女を放っておける訳もなかった……。
「海鈴、悪いが先に燈のことを追いかけてくれないか?」
「私が……ですか?」
「初華の方を放置する訳にも行かねえからな……。それに俺は豊川のことはほとんど知らねえから、同じバンドの海鈴の方が分かることもあるだろ。悪いが、頼む」
「分かりました……それでは三角さんのことをお願いします」
走り出して行った海鈴の背中を見送る。
俺が行っても多分豊川を助ける手助けは出来ない。何故なら、豊川と俺とはほとんど会話もしたこともない間柄。だったら、海鈴を行かせた方がいいとなったのが俺の判断だった。
「さてと……」
公園のベンチに座りながらも、俺は指先の感触を自分でしっかりと確かめる。
意識がはっきりとしていることも判断しながらも初華に視線を向ける。
「初華、話をしないか?豊川のことで……それで少し楽になれることもあるだろ?」
それでも初華を何も答えようとしていなかった。
ただ沈黙の時間が続くなかで、俺は……。
「分かった、初華が話したくなるまで待つことにする。そんで、話したくなったら話してくれ。俺はいつまでも此処で待つから」
本当に放っておける訳がなかった、初華のことを……。
見てられなかったから、何かに執着してるからとかそういう理由じゃない。ただ本当に俺が放置出来る訳もなく、ただ初華のことを助けたかっただった……。
暗闇の中、ずっと祥ちゃんのことを追いかけていた。
此処で祥ちゃんのことを逃したりしたら一生祥ちゃんと離れ離れになってしまう……から。だから、私は追いかけ続けていた。
「待って……!待って祥ちゃん……!!」
体力で言えば、祥ちゃんに勝てるところなんてなかった。
それでも、今突き動かしているのはきっと祥ちゃんのことを助けたいから、そういう意志が働いているからだと思う。何度も何度も追いかけているうちに辿り着いて、祥ちゃんが立ち止まっていたのは私の家の裏にある歩道橋……。
「……思えば、此処から全てが始まったんですのね」
「祥ちゃん……やっと止まってくれたんだね……」
「違いますわ、燈……」
「最後通達を送る為に止まったんですの……。今後一切、私と関わらない為にも……燈と私では既に道が違う。貴方には相応しい道があるはず。それを自分から降りてまで私を追う必要はないですわ」
そう、燈がこれ以上私のせいで苦しむ必要はないことでしかない。
私のせいで苦しんでそれを乗り越えていき、再びまた苦しもうとしている。それは必要のない行為ですわ燈……。
「それでも私は祥ちゃんを助けたい、私が人になろうと出来たのは祥ちゃんのおかげだから」
「それは違いますわ、燈。貴方が成長できたのは星乃さんのおかげ、決して私のせいではないですわ」
「確かにゆいくんは私を私でいいと意志を示してくれた。その道も……。でも、祥ちゃんがバンドをやろうって言ってくれて立希ちゃん達と一緒に進めたから今の私がいる……」
「話になりませんわ、それで苦しんだのをもう忘れたわけではなく「話にならないのは祥ちゃんの方でしょ?」」
私の後ろから階段を登って歩道橋へと踏み入れている人物がいた。私はその人物を誰なのか確かめるために後ろを振り返るとそこには……。
そよがいた……。