【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
今まで◆一つでしたが、◆が三つになっておりまた中央揃えをしております。
「久しぶりだね、祥ちゃん……って程でもないんだろうね」
「ええ、そうですわね……」
まさか……この場所でそよと会うなんて……。
人の運命というものは分からないもの……ですわね、本当に…‥。
「そよも私を止めに来たんですの?」
「嘲笑いに来た……そう言えば祥ちゃんは満足してくれるの?」
黙り込んでしまう。
沈黙を続けるほど、それは不利になるのは分かって居ながらも私は言い返すことが出来なかった。そよと燈に囲まれている今、逃げ出すことも出来たというのに……。
「燈ちゃんとの話、聞いてた。それで分かったことがあるの。今の祥ちゃんは……」
「自分のことばっかりだね」
その言葉には聞き覚えしかなかった。
『貴方、ご自分のことばかりですわね』
それはそよにかつて私が放った一言だったのだから。
CRYCHICを復活させる為に手段を選ばなかった頃のそよを突き放す為の一言だったのだから。
『待って、待って祥ちゃん……!睦ちゃんだって、バンド……またやりたいよね!?』
あのときのそよの慟哭は今でも胸に響いている。
あれは私自身そのものに見えていたからこそ、そよのことが見ていられなくなってしまって私は突き放す為の言葉だった。何故なら、私もまたお父様に執着していたから酒に溺れているお父様を介護してる自分に「依存」していたんですわ……。
「笑えない冗談なのは、私の方ですわね初華……」
こうやって巡って私の下へ戻ってくることを全く想定していなかった。
私は自分という存在が揺ぐ。自分が震えていることを実感する。此処まで反応を生じてしまうのは正直想定外もいいところですが、そうですわ……ね。私は……。
「ええ、そうですわそよ……。私は自分のことばかりですわ」
意識を現実の世界に引き戻しながらも、私は実質そよから無気力のまま生きていると言われた発言を肯定する。
「燈が星乃さんのおかげで徐々に成長していき、立希もいい影響を受けた。更には……そよ。貴方も燈達との新しいバンドを組むことで自分を強くすることができた。それは素晴らしいことですわ」
「同じだから」
「なにがですの?」
「同じだから……祥ちゃんは私がCRYCHICに執着して祥ちゃん、睦ちゃんを呼び戻そうとしていたとき私のことを心底嫌そうな顔で見ていたんでしょ?何かに縋らないと生きれないから」
手が再び震え始める。
まだ、私にこんな感情があったのかとそっちに怯えてしまうほど自分が弱くなっていることを実感さられてしまう。それでも、その震えを抑えようと必死に脈を測るようにして腕を片方の手で触れる。そうすることで、意識を保つ為……。
「根拠はなんですの?」
「祥ちゃんの今の目の前、ちょっと前までの私とそっくりだから。何かに縋らないといけない、でもそれがダメだと分かってる。そういう弱い目をしてるの。ただ……」
「祥ちゃんの場合はそれが弱さに縋るって感じだろうけど」
「随分……随分冷静に人のことを見れているようですのね」
自分はあたかも冷静であるかのように装い、強くあろうとするそよの姿に自分の今の姿に嘆きたくなる。そう錯覚している自分が……。
「居たんですわね……」
公園の中で誰にも届かない声で私の声は響くことはなかった。
「本当に自分になれたんですのねそよ」
「そうでもない、私は今時々前のバンドのことを考えたくなることもあるけど、それでも私で居ていいと教えてくれた人達がいたから。それだけの話、ずーーっと私の手を離そうとしないで凄く目障りだったけど、私の不安を少しでも和らげてくれたのがMyGO!!!!!だった。それだけの話」
視線だけそよは燈の方に視線を送っている。
その視線だけで今そよがどれだけ燈達に救われているのかが理解できてしまう、自分が居ながらも私は二人の手を取ることが出来ませんでしたわ。
それは、私が今得ているのは惨めと言う気持ち……だからですわ。
此処に居ては本当に息苦しくなるだけ……。それならば……。
「逃げないで、祥ちゃん……」
逃げようとしていたところで私の手を掴んでいたのは燈……。
まるで予測していたような行動。いや、これは間違いなく理解していたからこそ掴んできている手でしかなかったんですわ。
「祥ちゃんの気持ち、私には分からない。でも、私は祥ちゃんが今凄く辛くて苦しいのが伝わってくる……。だから、祥ちゃんがこの手を離そうとも私は……離したくない!!」
覚悟ある意志の強い瞳が私の瞳の中で輝いている……。
「燈、貴方は本当に強くなったんですわね……」
行動に出されたことで改めて燈の勇気ある力強さに自分がどうこうよりも情緒的には何処かそれが嬉しくありたいという気持ちがあったのは確かですわ。私も……まだ人の心があったですのね……。ですが、私にはもう何も残されていない……。何かをやりたい、何かに熱意を込める。そういうことが出来る力かわ本当にないんですわ。
だから、燈……。
「燈ちゃん……!?」
燈の手を払い除ける……。
表情が視線に入らない。それはきっと、私が燈に後ろめたさがあるから。ああ、人の心なんてものは脆くて壊れてしまえば無気力になるだけだと思っていましたが……違うのですね。
「私は……辛いのですね……」
手を払いのけるとき、私の手は震えてしまっていた……。
してはいけないことなのは分かっていますわ。それでも、私は燈の情熱ある勇気に目を背けてしまった私は逃げることしかできなかった。本当に……そよとは立場が逆転してしまいましたわ……。
歩道橋を走って、階段を駆け足で走って行く……。
後ろから二人の足音がしていましたが、私はただひたすらに逃げるという道を選ぶ。それが正しい道だと妄信しているのに、私の心の中で何かが違うと判断していて迷ってしまっている。何故、私はこんなにも胸が苦しいですの……?
私はただ自分が正しいと思う判断をしていたはずなのに……何故私は自分の答えに戸惑っているんですの……。これは私が決めた道ですのよ……。
『祥ちゃんがやろうって言ったんだよ?』
脳内でそよの声がする……。
『私に……全部忘れさせてって言ったんだよ?』
初華の声がする……。
ああ、そうですわね。これらは全て自分で決めたことだったですわ。私は本当にもうどうしようもない人間……。
「全く笑えない冗談ですわ」
気づけば、私は足を止めてしまっていた。
燈達を振り切ることに成功して、私はただ一人の人間になれていたと自分で淘汰した力で実感していると、私の前で一台の車が止まる。
「祥子、乗りなさい」
「お祖父様……」
車の窓を開けられると、車の中に座っていたのはお祖父様……。
ああ、なるほど。そういうことだったんですのね。先ほど星乃さん達から逃げている辺りで何処か視線を感じていましたが、そういうことだったのですね……。これではまるで鳥籠の中の鳥ですわね。
「あの男は満ち溢れ、バンドもやる気がなくなったお前に今照らし出せるものはなく、価値もない。だが、お前は瑞穂の忘れ形見、豊川の第一後継者でもある。その価値はこれからまた輝かせることも出来るはずだ」
「お祖父様……」
お祖父様の言葉は何も響かなかった……。
それでも、今の私に何もないというのは事実もいいところ。ですから、私はお祖父様の車の中に乗るという選択を選ぶことにした……。何かを磨く気も、輝かせる気もない。それでも、私には「居場所」が欲しいから、乗ってしまっていたんですわ……。
こうして誰も居ない時間帯に走るという行動をしていたのはこれで何度目だろうか。
誰もいない時間帯を使って、誰もいないという空気感に触れ合えるというのは最高のものだったけど、今は違う。全部が濁り切って見えて仕方ない。それは紛れもなく豊川のことが関係にしている違いない。
「燈達だ……」
追いかけた先の歩道で俺は燈達を見かける。
そこには海鈴も居るようで、どうやら話をしているようだったが豊川の姿はいなかった。
「ダメだったか……」
結局、豊川は燈の手を取ることが出来なかった。
でも、届かなかった訳じゃないだろう。それは燈自身が今力強い言霊の持ち主であると同時に、そよが隣に居てくれたのもあるだろう。
「来ましたか、星乃さん。事情はある程度こちらで聞いておきました」
「悪いな海鈴、豊川は?」
「祥ちゃんなら、さっきお家の人の迎えが来たみたいで乗ってたけど」
家と言う単語に俺は一瞬疑問が過るが、恐らく豊川家の人間が豊川のことを拾ってそのまま載せて行ったという話になるだろう。
「私達の声、結局届くことなかったんだね……」
「いえ、そういう訳ではないと思いますよ?」
「え?」
燈にフォローを入れようと思った矢先、声を発していたのは海鈴……。
「お二人から、話を聞いていた限りではかなり響いていたと見受けられます。特に高松さんとの会話は……」
冷静に分析しながらも、海鈴は話を続けている。
「高松さんはMyGO!!!!!のボーカルでもありましたね」
「え?は、はい……」
「ならば、尚のこと納得です。貴方の歌は言葉の一つ、一つに重みがあって感情が載せされているように感じられる。人によってはそれを必死過ぎだとか、笑う人も居るかもしれません。ですが、豊川さんはそれに共感をし、得れるものがあった豊川さんだからこそ、先ほど会話はしているとき動揺している瞬間もあったんではないでしょうか?あくまで私の推測ですが……」
推測という前置きをされてはいたが、燈は自分がしたことが間違っていなかったと証明して貰ったのは悪い気分で居たのは間違いなさそうだった。何故なら、ホッとしているそういう表情をしているから……。
「それと……高松さん、これからも頑張ってください。私は貴方の歌声……」
「悪くないと思いますから」
続けるようにそっと背中を押してくれている海鈴。
燈はそれに小さく「ありがとうございます……」と反応を示しながらも、心穏やかになっている彼女の姿があって俺自身もホッとしていると、後ろで待ってると言っていた初華との目線が合う。何かを小声で言っているのが聞こえて来た、俺は……。
「謝れなかった……祥ちゃんにも……」
祥ちゃんのことを否定したことは謝りたかった。
辛かったのは私じゃなくて祥ちゃんの方なのに私は当たり散らかしてしまっていた。雪が解けて行くつつある、海鈴ちゃん達とは違って私の方は解けることがなく、ただ地面に投げ捨てられている。
「結人にも……」
突き飛ばしたことを謝りたかった。
結人は私が間違った方向に行かないように助けようとしてくれたのに、「邪魔」だと判断して私はそれを拒絶してしまった。その結果、結人のことを傷つけて更に祥ちゃんのことを傷つけることになってしまった……。
「誰に謝れなかったって?」
「え?」
ただ一人、誰の会話にも混ざることが出来なかった私に話しかけていたのは結人だった。
隣にただ立ってくれている……それが彼だった。
「初華、お前は俺に話をしてくれなかったけど……。でも初華と祥子の繋がりってそう容易く切れるものじゃないって理解は出来た気がするんだ。だから……諦めるんなよ?怖いなら、俺も海鈴も力を貸すから……」
何処にも棘のある言葉はなかった。
優しく暖かくて希望に満ち溢れて私とは大違いだったけど、それがとても嬉しくて込み上げてくるものがあった……。それは多分私にとっての結人への……。
「……ありがとう結人、それとごめんね結人」
「気にすんなよ、俺達友達だろ?」
「うん……」
友情だから……。