【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
理由としましては間延びを防ぐ為です。
また、視点変更について全体的に◆三つの中央揃えに変更させていただきました。
『その上でもう一度これを投げるけど、結人君はいったいなにをしたの?睦ちゃんに』
残影……というのが相応しいのかもしれない。
自分でも睦のことに関して整理をする為に話をすることになったあのとき、俺が出した答えというものが俺自身が口から出してしまった災いによって睦のことを苦しめてしまったという内容。それが正しいのか、間違っているのか今は推測の域でしかない。ただ、あるとすればこれしかないというのが今のところだった。
今、睦は俺の後ろをべったりと付いて来るようにして歩いている。
それ自体は微笑ましい光景でしかねえが、どうにも拭えぬものがあったのもこれまた事実。
「とはいえ、何も答えを出せていねえんだが……」
目線だけで空を見上げた後に、俺はすぐに前を向いて歩き直す。
上の空というよりは考える為に青空を見ていた。どうして、何故を思考する度に頭が痛くなってくるが……。
「……もうやめるか」
頭の中で綺麗さっぱり整理整頓するというのは嫌いじゃない。
でも、これ以上何かを掴み取るのも難しいと俺は諦めた。ただ、諦めるというよりは趣向を変えるというのが合っているのかもしれない。
「大丈夫?」
「ああ、悪い。ちょっと考えごとしててな」
暫く移動しながらも考え事をしていたせいもあってか、睦は俺のことを心配そうにしている。
顔を斜めに構えて曇り無き瞳で俺を見てくれている……。
「たい焼き好きって言ってたよな?」
睦が首を縦に振ってくれる。
「カスタードか好きなのか?それとも、あんこか?」
「……結人は?」
「俺か?まあ、俺は甘いの好きだしあんこだな」
お先にどうぞみたいな感覚で返答を求めてられて答えることになる。
それ自体は全然構わねえから俺は答えていたが……。
「じゃあ、私もあんこが好き……」
「睦もあんこが好きなのか?奇遇だな、俺もあんこが好きだぞ。カスタードも決して悪いもんじゃねえんだが、やっぱりたい焼きを食べるときってあんこの方が食べているっていう感覚があるんだよな」
微妙に早口になりながらも、語ることになる。
睦は冷静だった為、俺だけ何故か熱くなっているという意味の分からない構図が出来上がっている。
「そういえば睦……。こんな話を知ってるか?たい焼きは頭から食べれば、頭が良くなると言われてて逆に尾の方から食べれば足が速くなるなんて話があるんだ」
なんて話をしていたけど、睦はなんか頭が良さそうな気がする。
なんというかなんでも卒なく解けてテストとかも予習とかもしっかりして見直しとかもちゃんとしている印象がある。足の速さは分からないが……。
「足速くなる?」
「ん?まあ、そういう俗説があるってだけだけどな。こういうのはよく昔からあるものだと言われているけど、たい焼きの場合は明治で誕生した食べ物だからそれほど歴史が深いって訳でもねえんだ」
睦にたい焼きの話をしていると、相槌を打つようにして俺の話を聞いてくれている。それを俺は心地よくなりながらも話を実際のところ、どういう意図があって風のように噂が流れ始めたのかは不明。
「それでもこうやってそういう迷信が知られているというのはそれだけたい焼きが親しまれている証拠なのかもな」
こういうので似たような例だと、食ってすぐ寝ると牛になるというのが割と近いのかもしれない。あれもまた、文献というものはなく噂でそういうものが広がった類のものなのだから。
「後は天然だとか養殖だとかそういう話もあるな」
「生きてない」
直球なものが出て来て、俺は一瞬口角を緩める。
確かにたい焼きは生きていないな……。
「ああ、俺も最初はそう思っていたんだがどうやら違うらしくてな。所謂、天然のたい焼きってのは一匹ずつ専門の型で焼いて行く、昔ながらの製法。養殖は複数匹を一度に焼ける連式型を使った量産型。っていうのが分かりやすい例えだな。ほら、コンビニやスーパーでも養殖タイプの結構見るだろ?」
「養殖……天然、量産型……」
視線を落としている睦の姿が目に入る。
「睦……?」
ショッピングモールの中へと入って来ていた俺は一瞬立ち止まってしまう。
何かを考え込んでいる睦に俺は疑問を感じてしまっていたからだ。
「もしかして量産型というのに反応したのか?」
これはあくまで俺の推測、妄想の域でしかないが多重人格である睦にとって量産型というのは今まで生きて来た大量な多重人格の中でかなり存在していた人格なのかもしれない。そして、その人格はもう奥底に眠っているんだとすれば、彼女の鼓膜を通して言葉が響いてしまうのも無理はないはずだ。
「大丈夫か?睦?」
「……天然もののたい焼きは手間暇かけて作られたもの?」
「え?ああ、まあそうなるな」
一つずつ丁寧に作っているのは間違いないので俺は頷きながらも、歩くのを再開していると睦が黙り込んでしまう。正直、まさかたい焼きの話で此処までなるとは本当に思いもよらなかったが何か今のに謎を解く鍵が残されているような気がしていた。
暫く無口になっていた睦と共に俺はたい焼き専門店の店に辿り着いていた。
此処は養殖もの、所謂連打型のタイプのものであり、それを睦がじっくりと眺めている様子。お金を支払いながらも、俺が周りを見渡すと……。
「ちゃんと追い掛けて来てくれているな……」
スマホで位置を送りつつ、歩いていた為立希はちゃんと俺のことを追い掛けて来てくれていた。
本当に此処までたい焼きの話が長くなるなんてとはなっていたが、それもあってか立希は俺達のことをちゃんと見張ってくれている。功を期したというのはこういうことなのかもしれない。でも、なんかもう一人?ぐらいの気配も感じるな。これは……愛音か?
なんであいつもいるんだ?
椅子の裏から知らない人のフリをしながらもゆいくんと睦ちゃんの様子を窺う。
「やっぱり、追い掛けない方が良かったかなぁ……」
うーん、偶々二人のことを見かけて気になって尾行しちゃったんだけど良かったのかな。
あんなことがあった後だし、失敗だった気はする。なんというか、あの二人って普通に良い関係じゃない?なんというか、会話もお互いに楽しそうだしあんまり危惧するところとかないし、お似合いに見えるんだけどなぁ……。怪しめば怪しむほど、二人が普通の関係に見えて来て私が首を傾げていると、後ろから気配を感じ取って私が振り返ると、そこにはムスっとしているりっきーが立っていた。
「お前、なんで此処に居る訳?」
「えー?あーえっと、偶々って言うか」
「偶々ならなんで帽子まで被ってるわけ?」
「それはその……ごめん!!りっきー!!二人の関係がどうしても気になって!ほら、ゆいくんも睦ちゃんの説明をしてくれていたとき、凄い険しい顔してたじゃん?だから、実際のところ二人ってどうなのかなって尾行してたの……!!」
りっきー相手に誤魔化すなんてのは無理だから、正直に話をすると肩を落としていた。
「……お前まで追いかけて来たから睦に気づかれるから追って来ないで」
「お前、までって……。りっきーもゆいくん達のこと尾行してたの?」
「関係ないでしょ。だから、もう追って来ないで」
捨て台詞を吐くようにしてりっきーは去っていく……。
うーん、これはどうも追い掛けていたっぽい。確かに私はあんまりこういう追跡とか得意じゃないけど、やっぱりあの二人の様子が気になるから追い掛けちゃお……。でも、りっきーにはバレないようにしないと……。
「あっ、移動した」
二人が移動したのを確認してから、私も移動することにしていた……。
たい焼き店の前で暫く長考していると、睦が俺に目線を合わせて話しかけている。
「どうしたの結人……?」
「いや、ちょっとな。……気にしてても仕方ねえか」
なんかあれば、立希が首の根っこを掴んでくれるだろう。
お互いに離れた位置から俺のことを監視しているようだけど……と把握しつつも俺は店員さんからたい焼きを受け取る。
「ありがとうございます」
受け取った後、もう一匹を睦に渡すと「ありがとう」と感謝してくれる。
袋の中から俺ももう一匹を取り出すと、頭とか尻尾とか関係なく腹から俺は頂いていた。睦の方は尻尾から食べているから、もしかしたら足が速くなるのを期待しているのかもしれないとなんて想像しながらも、一緒に食べていると睦が俺の袖を掴んで話しかけて来る。
「燈から聞いた、結人は動物が好き……だって」
「ああ、俺は動物好きだぞ」
自分のバッグに動物のグッズを大量に付けているほどだし、人目で動物が好きなんていうのは分かる。なにより、かなり目立っているのも自覚している。その辺を歩いていると、色んな人に動物可愛いとか子供には触られたりするからな。
「何か教えて」
「え?ああ、えっと……じゃあ」
出来る限り、睦を刺激しないような動物の雑学を話をしようと頭を回転させていると、一つだけ思いついていた。
「実はカバってのは氷河期を生き延びた生き証人なんだ。現存するカバの仲間は今は二種類だったけど、かつては多種多様な種類が存在していて氷河期や気候変動を乗り越えて生きて来た動物達なんだ」
と俺がカバの話をしていると、無言で睦は「もっと」と顔をしている。
俺はそれに応じながらも続ける。
「カバってのは一見大きくて浮きそうに見えるんだが、骨格が重くて、水中では自然に沈むことが多くてな、それもあってか潜水力は抜群で、呼吸なしで最大5分ほど潜ることが可能なんだよ」
「結人は泳げるの?」
「俺は……小さい頃からそういう環境に居ることが多かったから。自然とそういうものは身に着けることが出来たな」
「お父さん、冒険家……?
「ああ……」
たぁくんと名乗る人物について、誰の話をしているんだ?となっていた俺だったがその人物が睦の父親であるということに気づいたのは少し経った後からだった。俺がとやかく言えたことじゃねえんだけど、自分の父親を親だとかそういう呼び方をせずなんか違う呼び方をするってのはなんかおかしいとはなっていたが、家庭環境に関して言えば俺も人のことは言えないから何も言及することはしなかった。触れられたくもねえだろうからな……。
「結人と話しているの楽しい」
カバの豆知識をある程度話し終えると、たい焼きを食べ終えた俺達は一緒に歩き始めているとそう俺のことを褒めてくれていた。睦の横顔は人形のように本当に綺麗な笑顔で笑っている。そして、頭には俺があげた黒の帽子を被ってくれている睦。その帽子は深く被られていて、汚れも一つもないところを大事に扱ってくれているんだろうと嬉しくなっている自分がいた。
「結人、映画見ない?」
「映画?構わないが、どうしたんだ?」
「結人の話いっぱい聞けた、だから……今度は私の話も聞いて欲しい」
私の話……というのに引っ掛かりながらも俺は睦について行くことになっていたが、それはすぐに分かることになる。何故なら……。
「ひんながみさま……?」
睦が映画館でチケットを買っていたのは……ひんながみさまというタイトル。
画像検索をした限りでは恐らくジャンルはホラー映画だという話は分かったのと同時に、これの元ネタが何かあったような気がしてならなかったが俺は思い出すことができないでいると、ポップコーンと飲み物を買って俺達はシアターの中へと入って行くことにする。
「結人は映画よく見る?」
「俺は割と頻繁に見に行ったりしているな。物語に触れるということが好きだったりするから、結構色んなジャンルのものを見に行くけどやっぱりストーリーがいい映画が好きだな。勿論、アクションがいい映画とかも好きなんだ。その映画を見終わったときにあーこの映画良かったなとなれるっていうのが凄い幸せなことだって思えるんだよ。そういうのって自分の体験とか経験値とかにも繋がるかもしれない、だから好きなんだ」
まるでゲームみたいな用語を使っていると、睦がポップコーンを口の中に入れていた後にこう質問を投げかけてくる。
「経験値……?」
「ああ、良いものに触れるっていうのはそれだけ自分の中で感情を奮い立たせてくれる。例えば、映画館の中のワンシーンで主人公が絶望的な状況でどうやって乗り越えるとかそういうシーンがあったとして、それを乗り越える為の過程と結果ってのは凄い良いものに繋がるんだ。だから、俺はそういうのが好きなんだ」
これもきっと五感を通じるものが関連しているのは間違いなかった。
視覚によって映像を得て、耳で言語や言葉を、感情を堪能できる。そういうもので得れるものがあるからこそ俺は映画や物語に触れるということが好きなんだと実感していると、睦がポップコーンを手のひらに乗せていた。
「結人……口開けて」
「え?」
と大きくを開けていると、睦は俺の口の中に何かが入ってくる。
この硬い感じ、間違いない。ポップコーンだというのが即座に分かっていたが、何が起きていたのか全く分からなかったが俺はさっき自分で言っていた経験値というのを思い出す。
「もしかして、経験を得る為にやったのか?」
「うん……結人とこういう体験をしたかった。結人もやって」
何故か知らないが俺はその行為に嫌な寒気がしていた。
それが嫌だとかそういう訳じゃない、ただ此処まで踏み込んだ行為をするのはやばいという認識が俺の中であったんだ。此処はちゃんと注意しないと駄目だと思って口を大きく開けると、俺が手に持ちかけていたポップコーンを睦が……。
「美味しい……」
堪能するようにして睦は笑っていた。
俺の指に触れるようにしてポップコーンを口の中に入れていた睦。俺の手には睦の舌の感覚が残り続けてしまっている。ねっとりとしている熱いものが、残り香のようにして……。
「睦、こういうことはダ……電話?」
注意をしようとしたところで、着信音が鳴り響いている。
ポケットからスマホを取り出すと、知らない番号だったが俺は電話に出ることにする。
「シアターの中、一回出て」
この声は間違いなく……にゃむ。
何故、俺のスマホの番号を……?となっていたが、海鈴辺りから聞いたのだろうと冷静になりながらも俺は一旦、自分の頭を整理する為にもシアターの中を出ることにした。睦の断りを得てからだ……。
「お前、追い掛けてたのか?」
映画館のロビーの端のような場所で呼び出された俺はそこに立っていたにゃむに話しかけると、彼女は真剣そのもの表情をしている。これは間違いなく……。
警告だ……。
「忠告してあげる、ムーコにこれ以上関わらない方がいい。それとあの映画は絶対に見ない方がいい」
「どういうことだ……?」
まさかゆいぴが私の存在に気づいていたなんて……。正直これは首の根っこを掴まれた気分になったけど、直接伝えられるというのは悪くない間でしかない。ムーコは幾ら何でも人と違い過ぎるから。
「森みなみ、みなみさんに会った」
「森みなみって睦の母親か?」
ゆいぴが私が母親に会ったという話をすると、真剣な表情に変わる。
これからするのは重要な話だと更に気づいていた。
「っそ、車の中で話をさせて貰ったの。それでその中でムーコが突然変異の化け物だという事を気づかされた」
みなみさんは女優の中でもトップクラスに有名な人物。
その人物が自分の娘をおぞましいように見るようにして語っていた口ぶりからしてムーコはとんでもない存在だったの間違いなかった。聞いた話の中では平気で笑顔で虫を持ち上げたり、平気で大物俳優と仲良くなったりするのが普通のことように振舞って喜ばせていたらしい。それが本来、どれだけ異常なことか。
「まあ、なんとなく気付いてたんだけどね。Ave Mujicaのライブのときあの子さぁ、急に人が変わったように劇に参加したりするから」
まるで身に覚えがあるようにして目を細めているゆいぴ。
「その様子だと既にムーコの異常性を知ってたんだ?あの子が化け物だと知っていたみなみさんはこう言っていた。自分の才能すら凌駕する娘の才能が末恐ろしいって……。でも私も分かるんだよね、それ。ムーコが主演の映画。あれさぁ、マジでヤバかったんだよね」
「なんていうか流石女優の娘だって感じたのはそうだけど、それ以上に睦の演技への憑依力って言うかさ。役になりきるとかそういうものを地肌に覚えさせられた。ムーコが演じているだけのキャラなのにあの子自身に恐怖してしまいそうになるぐらいの演技力。鳥肌が立つっていうのはこういうことを言うんだろうね」
僅かに自分の手を震えているように錯覚して、私はその手の震えをもう片方の手で抑えるものの、途絶えることはなかった。まるでそれが自然のことかのように……。
「ゆいぴはどう?さっきまで睦と会話してたときとか、過度のスキンシップとかどうだった?普通に怖かったとか、震えたとか怯えたとかそういうのでいいから教えてくれない?」
「一つ訂正しろ」
「訂正……?なにを訂正すればいいわけ?」
「あいつを化け物だって言った事だ」
「はぁ……」
「キッモ」