【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「あれ?ゆいくん、居なくなってる……」
流石に映画館の中だと睦ちゃんとゆいくんにバレるんじゃないかという心配ばかりして凄く緊張感があったのに、目を離してすぐゆいくんの姿が居なくなっている。あれ?本当にゆいくん、何処行ったんだろう……?一部後ろの席から、私はゆいくんが座っている席をもう一度見直すと、そこから睦ちゃんも居なくなっていた。
「あれ?二人共、何処に行っ「愛音、どうして此処にいるの?」」
「!!!?」
椅子が畳まれる音も、足音すらもなかった。
ちょっとの間、瞬きをした次の瞬間にはもう睦ちゃんの声がしていて、喉の奥がきゅっと締まる。
「あっ、あーえっと……ご、ごめん睦ちゃん!!二人のことが気になって追い掛けてきっちゃったの……!本当はこういうことしちゃいけないのは分かってたんだけど、二人が凄くお似合いだったから……!!」
慌てながらもゆっくりと睦ちゃんに事情を説明する。此処で誤魔化すのは流石に無理……!!
だって、睦ちゃんどう考えても怒っていそうだし、言い訳とかそういうの絶対通用しない。でも、怪しいから監視してたとかも絶対に言えない……!
「愛音は結人のこと好き?」
隣の席に座って来ていた睦ちゃん……。
顔はまだ何も映っていない映画の方を向けており、どういう表情をしているのか分からなかった。
「えー?うーん、まあ好きだよゆいくんのこと。凄く口悪いけど、優しくて寄り添ってくれるんだ。でも、恥ずかしいの分かんないけど私の前だとあんまり、ありがとうとかそういうこと全然言ってくれないんだよね。まあ、ゆいくんって割と分かりやすいから今どういう感情を抱えてるとかそういうのすぐ分かるんだけどね」
睦ちゃんの前でゆいくんの話をするのは二度目だけど、まさか直球でゆいくんのことが「好き」と聞かれるとは思ってもいなかったけど、私は全然ゆいくんのこと好きだしいい子だなぁと思ってるから、本当のところを話していた。
「素直じゃない……?」
「そうそう、前にも言ったんだけどゆいくんってすごーく恥ずかしがり屋なんだよね。当たり前のことを当たり前にやるっていうのが主義らしいんだけど、私のときだけ照れが入っているって言うかさ。別にお前の為にした訳じゃないとかそういう感じのことを言いたそうにしてるみたいにさ」
映画館の席に座りながらも、ゆいくんのことを話すということが長く続いている。
なんか不思議な気分になりながらも、話を続けていると睦ちゃんは下を向き始める。あれ?私なんかマズいこと言っちゃったかも……?
「結人……好きなんだ、愛音」
息を吐いている睦ちゃん。
でも、その息は何処か妙に湿っていて生々しいものだった。なんとなく、怖くなってきた私はそれ以上横を向くのを止めて、出来る限り睦ちゃんの顔が視界に入らないようにしていた。さっきまでただ二人のことを応援しようとしていた自分がどんどん沈みそうな感覚に陥っていると、睦ちゃんの方から足音がする。
「はぁ……見つかってるし」
やっぱりかと言いたそうにしているりっきー。
私がアハハと渇いた笑みを浮かべていると、空気が一気に進んだような気がしていた。
「愛音、退いて。睦と話がしたいから」
「う、うん……」
一旦、此処から撤退するべきかもしれないと判断する私。
椅子から立ち上がって荷物を持って立ち上がる。ただ、やっぱり睦ちゃんのことが気になって仕方ない私は出来る限り二人の視覚に入らないような場所に座り直していた……。
やっぱり、気になるんだよね睦ちゃんのこと……。
愛音が立ち上がって、そこから移動したのを確認してから私は睦にある質問をする。
「お前……本当に睦なの?」
明らかに疑問でしかなかった。今瞳の中に映っている睦が睦のように全く見えていなかった。
愛音と話しているときの睦の表情は何処か深い闇の中を彷徨っている表情をしていた。
「じゃあ……私は誰?」
「睦じゃない、何か……」
目の前の睦は変なことを言っていると笑いたげにしている。
その笑みにすら謎があった。そもそも睦は……。
「その笑い方、私の知ってる睦じゃない。お前はもっと自然と笑う奴だった。今の睦はただ誰かに見て貰いたくて笑ってるように見える」
あんな笑い方をするような奴じゃない。
睦はもっとこう口角を自然と緩める奴だった。なのに、今の睦はそれすらなかった。いや、それを見せてる奴が居るとすれば、結人にだけだ。多分、睦にとって結人は希望。希望だけど、何かが違う希望になっている。それがなんなのかまでは分からない。それでも、今の睦は明らかに前までの睦と違う。
「立希……CRYCHICの頃凄く気にかけてくれたよね……。立希も同じだから」
「お前が……森みなみだとか若葉の娘だとか言われているのが嫌だったから」
それをちゃんと覚えていた。
CRYCHICとしてバンドをしていた頃、あいつが森みなみの娘だとか若葉の娘だとかよく小声だったり、睦に余裕で聞こえるぐらいの声で話している声がしていたのを……。だから、私はこう睦に言った。
『あんな奴らのことなんか気にしなくていいから』
それがどう睦に響いていたのかは知らなかったけど……。
あれはきっと私の心を救うためのものだったのも間違いない。自分を満たす為だとか、落ち着かせる為のもの……。
「一緒に映画を見たりしたこともあった」
「お前が映画館来たことないって言われたときは流石に驚いた」
一人で映画を見に行こうとしていたとき、偶々睦が居た。
いつもだったら、誰か知ってる奴が居ても話しかけたりすることはしなかったけど、睦の場合は何処か放っておけなかったから私はあいつと一緒に映画を見ることになった。あいつが映画館に来たことがないからチケットの買い方がよく分からないと言われたときは「は?」となっていたけど、私があれこれ教えてあげたりして学んでいるようだった。
あいつが見たいものとは特になくて、私が見たかったパンダが主役の動物の映画を一緒に見ていたけど、二人で何かをするというのは悪いものじゃなかった。
「楽しかった、立希と居る時間が……。その後ぐらいだった……立希が結人とよく会うようになったのは……私は立希が羨ましい……。結人から色々を貰ってる……」
自分の胸元を手を当てながらも、睦の瞳には私のことを羨ましそうに映っている。
「色々……?」
一つだけ確信したことがある。
今までずっと睦が燈達から結人の話を聞いていたのは単なる興味本位だと思っていたけど、それは全く違う。最初はそうだったのかもしれない、でも今の睦は違う。今の睦は異常なまでに結人に執着心を燃やしている。なんでそうなったのかは分からな……いや、もしかして……。
「睦……結人は確かにお前のことを救ってくれるかもしれない。でも……」
「今の睦なら多分結人は拒否すると思う」
これが本当にそうだという確証はない。
執着心を燃やしている以外にもあるとすれば、これ以外はあり得ないけど睦は今……。
「立希には何も分からない……」
……結人しか救えなくなっている。
悪い意味でもいい意味でも……。
『俺は目の前で苦しんでいるあいつの叫びを消してやりたい』
果たして俺は睦の叫びを消してやるという行為が出来るのだろうか……。
にゃむの前であんなふうに豪語をしていてしまっていたが、もうやるしかねえとなっていた。何らかの原因で睦が壊れてしまったのだとしたら、それは俺のせいなんだから……。決意を再度固めながらも、映画館の中に戻ろうとしたとき長い黒髪の女性が目の前を通過したかと思えば、俺はその人物に袖を掴まれる。
「立希か……なにがあった?」
俺の服を掴んでいたのは立希……。
深刻そのものの表情を俺に向けている。
「睦の奴、明らかに今までと違う。昔はあんな笑い方する奴じゃなかった。それに愛音がお前の話をしているとき、欲しているような顔をしてた……。お前のことを……だから」
「気をつけて……」
「…………分かった」
悍ましい表情、恐ろしいもの、そういうものがこの一日何度警告されただろうか。
そして、俺がこれから見ることになった映画は……。
にゃむの発言を納得させられるような内容だったのは確かだった……。
「本当、だったんだな……」
このひんながみさまという映画は……睦の異常なまでの演技力。いや、本物というものを思い知らされるものだった。映画のタイトルはまるでB級ホラー映画のような感じではあるが、そんなことは全然なかったというよりは……睦の本物の女優としての力が他のどの俳優を軽く凌駕するほどのものがあった。
物語の最序盤では単なる貧乏な少女を演じきっていただけなのに、ひんながみさまに憑りつかれたことによって彼女自身が自分の家族を裕福にして行くという描写はまるで、幸せという絶頂からどん底に突き落とすというよくある手法ではあるがその手法が幾ら何でも生々し過ぎていて俺は画面が見るのがキツくなっている箇所が何度もあった。それでも、物語としては良く出来上がっているがそれでもやはり鳥肌が立つほどこれは流石にやばいとなっていたのが睦の異常なまでのものだった。それはもう演技ではなく、憑き物に完全に憑りつかれた少女でしかなかったんだ……。
「結人、大丈夫……?」
映画館を出て、疲れている俺に心配そうな声で掛けてくれているが俺はかなり疲れていた。
脳の情報量が多すぎて疲れる映画があるというのも知っていたし、そういうのを何度か視聴したことはあったが今回の映画もそういう部類の映画……。
「ああ……俺の方は大丈夫だ」
なんとか自分を落ち着かせながらも俺は立ち上がる。
これ以上、睦に心配を掛けたくないからな……。
「映画……どうだった?」
睦が安心しきった後に間髪入れずに映画の感想を聞いてくるが、感想ではなく睦がどう見えていたのか聞かれているような気がしてならなかった。それが何故なのか分からない。いや、多分そもそも睦がこの映画を俺と一緒に見たかったのは自分がどう映っていたのか気になっていたからに違いないと自分の頭を訂正させていた。
「ああ、すげえ怖かった」
「怖かった?」
「ああ、睦が怖かったのは確かなんだが最初はこうただのその辺の少女だったのに、ひんながみさま……。確か元ネタは富山の憑きものだとかだよな?それが憑かれてからの睦のキャラが凄く不気味で見ているだけで鳥肌が立つんだけど、母親が怖くなって祓って貰うってシーンになって神主に祓うシーンで神主を殺害するシーンとか本当に恐ろしくて見ていて目を瞑りたくなったというか、本当に怖かった。そこから、自分を祓おうとしていた人間達に復讐しおうとするシーンとかすげえ怖くて……」
「睦の女優として才能を感じたよ……」
ホラー映画には耐性はある方だ。
それでもあの映画の睦には恐怖心というものを覚えてしまっていた。女優としての才能を高さを感じたのと同時に、人は此処まで恐怖の対象になり得るのかと興味深くもなりつつも、ある種あの映画が1時間35分で終わる映画で良かったとなっていた自分がいた。二時間以上続く映画だったら流石に今こうして喋れる余裕はなかっただろう。
「よかった……」
笑顔になってくれている睦がいる。
ただ俺はその笑顔を純粋に喜んでいる笑顔として信じたいという自分も居れば、この笑顔の裏で何を考えているんだろうとかなっている半信半疑の自分もいる……。
「結人……ちょっとついて来て」
「え?ああ……」
そう言われて俺達は映画館を出る。
エレベーターの中で特に会話をすることもなく、降りて来た俺達……。既に景色は夜になっている。念のため、確認したが立希と愛音は追い掛けてきているようだが愛音の方は少し疲弊しているようだった。あの映画に……やられたか……。本当だったら、「大丈夫か?」と声を掛けてやりたいところだが、今はそれどころじゃない。睦の方も気になるしな……。
「それで話ってなんだ?」
俺が連れて来られてきたのは路地裏……。
此処はあんまり人が通らず、基本的には鳥ばかりが集まっているような場所で自然を感じるような場所ではあるが、今その場所が不気味に感じていた。それは夜という景色に呑まれていたからか、もしくは違う別の理由……。
「今日はありがとう結人」
「ああ、それは別に構わねえよ。出掛けたかったんだろ?でも……大丈夫なのか?豊川のこと……」
「……結人は良い人。楽奈も愛音、燈も言ってた」
……今、祥子の話を無視したのか?
それとも聞こえないふりをしていたのか……?睦にとって豊川は大事な友人なはず……。なのに、その話を無視したのか?いや、それとも単純に振られたくないからその話を敢えて無視したのか?立希やにゃむ、自分の中で整理したことによって睦に対する疑念が徐々に増えつつあった。
「いっぱい結人のことを知れた……私のことも知って貰えた」
今日の話をしているんだろうとなっているというのは伝わっていた。
「これからも私のことを知って貰いたい、結人のことも知りたい……。私を成長させてくれる、だから……」
「私と付き合って……結人が好き」
それが俺に向けてヘの告白……。
それは承知の上だったら、睦の助けになるなら俺はそれを受け入れてもいいと思っていた。なのに、俺の口からはそれを受け入れる言葉は出なかった。
『睦ちゃん、明らかに様子がおかしかった。なにをしたの?』
『鳥肌が立つっていうのはこういうことを言うんだろうね』
『愛音がお前の話をしているとき、欲しているような顔をしてた……』
頭の中に今までのが過る。
『私は私でいい……。結人が言ってくれた、だからあの場でも……強くいられた』
あれがあれが……全てだと信じたいという気持ちはある。あの言葉が睦を良い方向に導いたと信じたいという気持ちは強くある。あの言葉は全ての原因になってしまったというのは拭えなかった。
受け入れるべきか、拒絶するべきなのか……。どれが正しいのか分からない。でも、俺が言葉を呪いにさせてしまった以上、その責任を取らなくちゃいけない。どういう形であれ……。此処で選ぶべきは寄り添いじゃねえ……。
「悪い、それは無理だ」
「結人は私を成長させてくれる、光のように満たしくれる。私にとって結人は……」
「
「だから」
「受け入れて」
一瞬、後退りしそうになる。
分かったことがあった。睦のことでようやく俺は気づいたことがあった……。ただそれを理解するのには脳が拒みそうになってしまっていた。
「そういうこと、か……」
自分を納得させるのにかなり時間が掛かってしまっていたが何も睦に響いていたのは届いていたのは……あの言葉だけじゃない。全部だったんだ。
俺の行動も、言葉も全部……睦に……。
刺さってしまったんだ……。
Volo ut me crescere facias→私を成長させてほしい