【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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縋る記憶は泡に消えて行く

 俺は時に思うことがある……。

 それはもし、燈が俺に執着して依存するようになっていたらどうなっていたのかという話……。燈には俺のようになって欲しくなかった、自分の弱さを弱さだと直視する勇気がなかった俺とは違って、燈には成長して欲しかった。劣等感を抱えていたのは確かなことだが、彼女の未来を信じたかったからだ。

 

 だが、一歩間違えれば今目の前にいる睦のようになっていたんじゃねえかという気が今はしてならなかった。

 

『結人君はどう思う?』

『結人君が好きなら私も好きだよ?』

『結人君の話もっと聞きたい……結人君が傍に居てて来ればそれでいい……から』

 

 脳内に存在していないはずの記憶が流れ始める。

 もしもという話をするのは恐ろしい話ではあるが、それでも決してなかった話ではない。そして、俺はもしCRYCHICが解散した後に燈に言い寄られていたらきっと燈と共に一緒にどん底の中へと入り込んでいたと確信できる。真っ暗闇の世界を二人でいや……燈が俺のことを一生追いかけるようにして……。

 

 

 

「結人、もう一度言う……」

 

 

 

 

「受け入れて」

 

 淡々と睦は俺に告白している。

 かつての俺だったら、此処で了承していたのかもしれないが、それが本当に睦の為になるのか……?俺の行動も言葉も全部睦に刺さってしまったということはそれはつまり、今の睦を止める為にしても、受け入れるにしてもそれ相応のものが無ければ無理に決まっている。これ以上は迂闊に何かを言うべきじゃないとなりながらも、俺は一生懸命考えながらも見えないようにスマホを操作する。立希と愛音に「出て来るな」と指先を震わせながらも送っていると……。

 

「連絡……?」

 

 心拍数が一気に上がったような感覚になって、スマホを落としそうになる。

 その一言で胸が凍り付く。睦に気づかれたことがこれほど恐ろしいと感じた事はなかった。だが、それでも誤魔化すことはしなかった。

 

「……二人に今は来るなって連絡したんだ」

 

 安心したような表情になっている。

 これを誤魔化す必要はない。余計なことまで誤魔化していたら睦に逆に警戒される。とはいえ、これもほぼ時間稼ぎの為にやっていた行為なんだが……。本当、意味のないことでしかねえな……となりつつも緊張感が漂うなか、あの日の占いを思い出す。

 

「死神の逆位置、か……」

 

 占いなんてものは信じたりしねえが、こういう事態になった今となっては俺はもう信じるしかねえ。無駄な苦しみ、それを伴うものがあのときは八潮さんに指摘されたことだと思っていたが、それは検討違いもいいところだった。実際のところは俺が睦にしてきたことが睦によって選択を迫られて、俺が苦しめられているという構図になっているのだから。いや、苦しいのは何も俺だけじゃねえ。

 

 睦だって本当は辛いはずなんだ。自分が今まで森みなみや若葉の娘という色眼鏡でしか見られず、大事な友人だった豊川を助けることが出来なかった。そんな状態だから……きっと睦はもう……。

 

 

「俺しか頼れねえんだ……」

 

 声を小さく放っていたが、その声は冷たさすら帯びていた。

 睦の現状を考えれば考えるほど今どういう声を掛けてやればいいのか分からなくなる。

 

「いや、待てよ……」

 

 そもそも俺はあいつに託したはずだ。

 睦のことを……。ちゃんと睦と話し合えた、と……。

 

「一つ、教えろ……」

 

 

 

 

「モーティスは何処だ?」

 

 静寂に包まれた夜の中、睦にそれを問う。

 自分の中で嫌な予感しかしていなかったが、それでも睦自身の反応を待っていると返って来たものは……。

 

 

 

 

「モーティスは死んだ」

 

「……!!?」

 

 事実を突き付けられた、心臓を抉られた感覚になる。期待している自分がいた。

 モーティスは最後に俺と一緒に蕎麦を食べいた感じを見るにあいつはきっと睦とちゃんと話し合ってくれると踏んでいたから。だけど、実際は違った。恐らく、モーティスという人格は睦にとって「不要」だと判断させられてそのまま消滅させられてしまっていたんだ……。それでも、俺は信じたかった。モーティスが消えていないということを……。

 

「モーティス、モーティス……!聞こえてんだろ、お前はまだ消えちゃいない……!!だから返事をしろ!!」

 

 必死に睦の肩を掴んで俺はモーティスの名前を呼ぶが、返答はない。

 ただ単にモーティスが消えたという事実だけが残されるという最悪な事態になってしまっていた……。そして、目の前にはただ俺を瞳の中に映し出している睦の姿だけがあって、俺は息が苦しくなってきていた……。呼吸が荒くなり、自分が完全に冷静じゃなくなっていた。

 

「結人……これが最後」

 

 徐々に近づいて来る睦……。

 足音すらしておらず、不気味でしかなかった……。

 

「私は結人に出会えたおかげで光を灯して貰えた、結人()()が私の光だった。他の誰かじゃない、結人だけが……。育てたきゅうりを美味しいって、私は私でいい……。結人の歌声が凄く私に響いた、これが音を奏でることなんだってなれた。私の役を褒めてくれた」

 

 睦に手を掴まれる。

 そっと手を掴まれて指先で俺の手の形を確かめているようだった。時折、「硬い」とか「ごつごつしてる」とかそういう言葉を並べていたが俺はその手を振り払うことができなかった。

 

「そうやって結人に褒められて、結人から色んなものを学んで得て分かったことがある……」

 

 

 

 

 

「私は結人()()居てくれればいい」

 

 今度は完全に一歩足を後ろに下げてしまう。

 自分のしてきたこと全部が睦にとって()()()過ぎたんだ。そして、それが睦にとって眩し過ぎて太陽だった。豊川という友人が消失して、尚且つ邪魔になっていたモーティスも居ない。だから、俺という人間に縋りたい。それが今の睦なんだ。これ以上は睦のことを肯定するべきじゃねえ。だからって受け入れるの無理だ。重すぎる、睦が抱えてるものがあまりにも重くて辛くて苦しいもの過ぎる……。

 

 此処までとは全く想像していなかった、本当に……。

 でも、だからって今の睦を見殺しにはできねえ……!!

 

「睦、俺はやっぱりお前の告白を了承することはできねえ」

「燈達が好きだから?」

 

「そうじゃなくて、今お前が抱えているのは俺が好きなんじゃなくてただ依存したいってだけの感情なんだよ、それは人を成長させる為のものじゃない。ただ人への執着心を増長させて自分はその人が居ないと生きていけないという寄生しているだけに過ぎねえんだ……!でも、俺はお前を否定したい訳じゃねえ!自分は自分でありたいって言う気持ちがあるなら、今からでも俺が力を貸す。だから、今のお前の告白は到底受け取ることはできねえんだ……!!」

 

 俺は自分が言いたかったことを全部喋り切った。

 睦に色々と突っ込まれる前にだ……。なんとか彼女の心に届いていることを祈りながらも、待ち続けていると睦はとんでもないことを言い出す。

 

 

 

 

「依存が駄目……どうして?」

 

「どうしてって……それをやったら睦が永久的に苦しむことになるから」

 

「私はそれでいい。結人が傍に居てくれればそれで……結人に愛されるならなんでもいい」

 

 ダメだ、何を言っても睦は怯まねえ。

 俺が頷くまで絶対に引かねえつもりなんだ……。睦にとって俺と一緒に居られることが本当の幸せとしか認識していない。それをしたら、ずっと睦が苦しむことになるということを本人は理解していねえんだ。

 

「いいか?睦、よく聞け……。依存ってのは案外美しく見えるかもしれねえが、危険性の方が圧倒的に強いんだよ。誰かを強く求め、誰かに恋焦がれる。そういうものは深く結ばれているように見える関係に見えるかもしれねえが、その中じゃお前は絶対に成長できねえんだよ。俺はお前に成長して欲しいし、お前のままで居て欲しい。でも、お前が依存したらそれが成立しなくなるんだよ……!!俺はお前に俺が居ないと価値の人間がない人間なんて思って欲しくねえ……!だから、自分らしさを持ってくれ!!持てないなら、俺が手伝ってやる……その上でなら……!!」

 

 

 

 

 

「幾らでも了……おい、待て睦……!!!」

 

 俺が全てを言い切る前に睦はその場から走り去ってしまいそうになる。

 腕を掴もうとするが、その手は届く事は……。

 

 

 

 

 

 

 なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「どうして……」

 

 結人に告白を拒まれた。

 私には結人しか居なかった。きっと、あれ以上結人と話をしていても断り続けられる……。でも、それがどうしてなのか分からない。

 

「結人は私のことを……成長させてくれる……」

 

 結人が傍に居て来れば自分が成長できると信じてきっていた。

 執着して、依存していたらきっと結人がいつか光の中に導いてくれるそんなふうに信じていたかっただけ……。なのに、結人に拒まれた……。分からないまま、拒絶されたという事実だけで胸が苦しくなりながらも呼吸が荒くなりつつ、自分が居ながらも立ち止まった場所は……。

 

 

 

 

「結人と会った場所……」

 

 辿り着いた先は……結人と出会った公園だった。

 此処は野良猫が多くて偶に猫と戯れていることもあった……。思い出深い場所のはずなのに……今の私にとって辛くて苦しいものでしかなかった……。それでも、目を瞑れば彼と居た時間を思い出せると信じて私はゆっくりと目を瞑る。

 

 何も音がしない、ただ暗闇の中で目を開けようとしたとき……。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、今日も人格鑑定団の時間がやってきました!!」

 

 そこは……ホールのような場所だった……。

 

「…………え?」

 

 自分の身に何が起きているのかもよく分からなかった……。

 自分の姿を確認すると、いつものワンピース服だったのは変わらなかった。でも、体が全く動けなかった……。どうして?となって自分の体の様子を確認すると、腕も足は鎖で縛りつけられている。身動きを取ることも、逃げることも出来ない状況だった……。

 

「今日、紹介するのは若葉睦ちゃん……!!いやぁ、知らない人なんて居ないよね!!だって、あの森みなみ、若葉の娘だもん!!」

 

 何処からしてくるような私のような声……。

 観客席は誰も座っていない。ただ嫌な予感だけが私の中でしていてしょうがなかった。此処から逃げ出して結人に認めて貰いたいのに全く抜け出すことが出来なかった……。

 

「最近では映画の初主演を務めていて、Ave Mujicaのギター担当。あー後CRYCHICもギター担当だったけ?そんな睦ちゃんが今こうしてこのステージに立っているのは勿論……それは人格鑑定をする為!!!」

 

「人格……鑑定……?」

 

 ハキハキとした態度で司会のような声がずっと聴こえて来る。

 胸を突き刺すような嫌な予感の中で必死に鎖から出ようとしていたけど、ビクともせず身動きが全く取れなかった。どうすることも出来ないこの状況に危機感を覚えていると、何かの音がしていた。それに寒気がしていると……。

 

 

 

 

 

「おっと……なんと若葉睦ちゃんの人格としての価値は……!!」

 

 

 

 

 

「無いようです!!これは意外な結果になりましたね、あの森みなみ、若葉の娘の価値がないとは……でも」

 

 

 

 

 

 

「仕方ないよね、睦ちゃん……」

 

 照明が一気に暗くなったのと同時に、ドスを効かせたような声がしてきたのと同時に……。

 観客席たちには……。

 

 

 

 

 私そっくりの顔をした人達がいた……。

 どういう状況かも分からないでいると……。後ろからは映像のようなものが流れていた。

 

 

 

 

「ねぇ、睦ちゃん……モーティスちゃんに過去は変わらない、だっけ?そんなこと言ったの覚えてる?あれね、ずーーっと前から思ってたんだ……」

 

 

 

 

 

「睦ちゃん()そうだよね?」

 

 舞台上で姿も形も見えない何かがただずっと歩き続けている。

 そして、私には事実だけを突き付けてきたの同時に指パッチンをする。

 

 

 

 

『バンド、楽しいと思ったことない……』

 

 CRYCHICが解散した原因となった言葉が私の後ろで映像として流れている……。

 あれは確かに私が言った。でも、私は自分のギターを奏でることが出来なかった。だからあのとき、咄嗟にあの言葉が出てバンドを壊してしまった……。私の一言のせいで……。

 

「睦ちゃんっていつもそうだよね?反省はするけど、変えようとする気持ちがない。それで成長したいっていう気持ちはたくさんある。だから、結人に縋ろうとした。彼なら自分を成長させてくれると信じていたから……。でも、結局睦ちゃんはその成長させてくれるかもしれない結人のことを困らせて依存しようとしてた。これって凄い笑える話だよね?結局のところ……」

 

 

 

 

 

「若葉睦ちゃんは誰も幸せに出来ない。貴方が喋れば喋るほど人は不幸にする。貴方が行動をすればするほど人を不幸にする。だから、もういいよ?」

 

「なに……を……」

 

「えー?言ってることが分からない?今までの睦ちゃんは全部綺麗さっぱり消えて……此処に居る無数の私達が睦ちゃんに成り代わるってこと……だよ?今の睦ちゃんは自分の自業自得で傷心、傷跡いっぱいだから私達がそれを縫ってあげて……」

 

 

 

 

 

 

「成り代わってあげる、記憶もね?」

 

 耳元に声が聞こえて来たのと同時に黒く禍々しい存在が私の姿になる。

 私自身に成り代わろうとしているのが伝わって来て、必死に鎖を契ろうとするものの力が全く入らず、私は此処から抜け出すことが出来ない。もう無理、もう終わり。という諦めの意識が芽生えながらも私はこう思っていた。

 

 

 

 せめて……自分が……。

 私達二人が体験して来たこの体験だけは自分の記憶から消したくないって……。

 

 

 

 

 

 燈、立希、そよ……祥……。

 そして、結人との記憶だけは消えて欲しくないと縋りながらも私は諦めるようにして目を瞑り始めていると……記憶が鮮明に思い出していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『睦さん……でしたわよね?』

 

 

 

 

 

 

『豊川……さん……?』

 

 

 

 

 

 

 それは本当の意味で……私が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 睦として認識されたあの記憶を……。

 

 

 

 

 

 

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