【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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助けて欲しかった。

 私とあの頃の睦は統合した。

 祥を守るために、祥の隣で笑顔で居る為に……。そして、結人をより知る為に……。私はあの場で彼女と人格を統合する必要があった。これから先私にどんないい影響があるのか期待しかないと自分でも謎の高揚感があった。それは人格を統合するという初めてのことをしたからそういう感情になっていたのかもしれない。今までの私はどの人格も屍にして来たから……。

 

 そう、モーティスとあの頃の自分の劇をこちら側の世界で見つめていた子達は全員かつての私達……。私もあの子も認識していない、かつて私の中に居た私自身……。本当に楽しみだった、これからどんな自分になれるのか……。

 

 でも、早々に試練は与えられた。

 

 

 

 

「嘘!?森みなみの娘!!?この前、映画出てたよね!?」

 

 アモーリス……にゃむが私達の仮面を外し始めた。

 仮面を外されたということへの動揺はあったけど、それ以上に結人が武道館のライブを見に来てくれているということが嬉しかった。楽奈も隣にいる。楽奈にも興味があるから、私はこのライブを得て二人に私がどう映っているのか知って欲しかった。でも、それはにゃむによって妨害されることになった。

 

 他人に顔を知られたことなんてどうでもよかった。

 それよりも私が今許せなかったのは……祥が作り上げようとしてくれていたこのバンドの概念をにゃむが崩壊させたのが何よりも許せなかった。だからこそ、私は……。

 

 

 

 

「私は私……」

 

 にゃむのことを強く睨んでいた。

 今まで必死になって祥を守ろうとしていたものを壊されたというのもあったけど、なによりもきっと結人の瞳に今の自分がどう映っているのか知りたくてしょうがなかった私はその期待すらを壊されたと苛立ちを覚えていた。

 

 にゃむはあのとき怯えて、その場では大人しくなっていた。

 私はそれに何も思わず、ただ心から軽蔑していた……。

 

 

 

 

 武道館のライブを終えた後、私は……。

 本当にただ夜風に当たりに来ていた。祥や初華と一緒に本当はタクシーで帰る予定だったけど、珍しくそういう感情になっていた。スマホを取り出して、私は結人の電話をしようとしたときだった……。明るい声が私を呼び掛けていた。

 

「あれ?睦ちゃん……?」

 

「愛音……?」

 

 偶々夜風に当たっていると、愛音と私は出会った。

 その隣には楽奈が居た……。楽奈は何処か「つまんなそう」にしながらも私の方を見ていた。まるで、今日のライブは退屈だった、そう言いたそうだった。

 

「顔バレちゃったけど睦ちゃん、大丈夫だった?」

 

「私は大丈夫……。二人はどうして此処にいるの?」

 

 仮面を外されたことは本当に特に気にしていなかった私は首を横に振っていた。

 

「あーそれがね、実はそよりんとはぐれちゃって迷子になっちゃったんだ。それで、その後楽奈ちゃんと偶々合流出来てこうして今そよりんと連絡してるんだけど……」

「返事が返ってこない?」

「そうそう!!」

 

 そよりん……?と頭の中でなっていたけど、深く考えないようにしていた。多分、そよのあだ名みたいなものだろうから……と自分を納得させながらも私は楽奈にこの質問をする。

 

「楽奈は結人と仲良い?」

 

「うん、良い奴だしおもしれー奴」

 

 突然だけど、それに対して返答を返してくれる。

 

「おもしれー奴……?」

 

「うん、ゆいとはおもしれー奴。私と同じで猫が好き。犬の方が好きみたいだけど、それでも私にいつも抹茶を奢ってくれる。偶に猫のぬいぐるみとかもくれる。私のギターを楽しそうに聞いてくれる。だから、良い奴でもある」

 

 楽奈との会話だけでどれだけ結人との関係があるのかは物語っていた。

 なにより、楽奈の絶え間ない笑顔で結人の人間性がよく分かるもので私の心の中ではそれが羨ましいという感情が湧いていた。

 

「……愛音は?」

 

「え?私?私はゆいくんのこと、本当の優しさを持っている人だと思うよ?これ言うと、結人君凄い嫌そうな顔をするんだけど、本当にそうなんだ」

 

「本当の優しさ……?」

 

「そうそう、私の前じゃ恥ずかしがり屋だからそれ言うとムッとしてくるんだけど、本当にそうなの!ゆいくんって、当たり前のことを当たり前にやるんだ。それで、お年寄りの人とかが居たら率先して荷物を運んであげたりとかそういうのを割とやってるの見かけるの!」

 

 そう……なんだとなっていたけど、結人なら確かにそれを想像できていた。

 愛音の言う通り、結人は優しい性格をしている。私に帽子を被せてくれたことは自分を否定されているみたいで嫌だったけど、それを贈り物だと言われたときは心が温まりそうになっていた。そういうところもあるのを知っているし、なによりも私に寄り添ってくれようとしている。そういうところが本当に優しいと思っていて、私は愛音の話に頷きながらも愛音が結人のことを「ゆいくん」と呼ぶのが何処か馴れ馴れしいと嫌悪感が若干あった。

 

「ありがとう、二人共。結人のことをまた一つ知れた」

 

「全然いいって!でも、どうして睦ちゃんはゆいくんのことを知りたいの?」

 

 詮索されるとは考えてもいなかった私は言葉に詰まる。

 どう答えようと自分の中で頭を悩ませながらも私はこう答える。

 

「結人ともっと仲良くなりたいから」

 

「そうだったの!?言ってくれたら、手伝ってあげたのに!」

 

「自分でやらないと意味が……ないから」

 

「あーそれもそうだよね!ごめん!!」

 

 

 正直私は愛音に苦手意識があった。

 愛音からも光のようなものを感じることが出来ていたけど、それは眩し過ぎていた。日陰である私にとってはあまりにも刺激的過ぎててカーテンがあればその光を遮断したくなっていた。もし、次から愛音に結人のことを聞くときはもうちょと慎重かつ大胆に聞く必要があるとなっていた……。

 

 

 

 

「星乃さん、居ましたよ」

 

 二人と話していると、海鈴の声がしている。

 どうやら、結人と一緒に愛音達のことを探しに来ていたようだった。そんななかでも楽しそうに話している結人と愛音に私の心がキュッと締め付けられていた。これが嫉妬と認識するようになるまではそう遠くなかった。寧ろ、感覚的にすぐに分かった。

 

「睦、会場でのこと大丈夫か?」

 

 それでも結人は私のことを心配してくれていて私のこともちゃんと視界に入れてくれているんだと安心しきっていた。だからこそ、私はこの言葉を結人に送った。

 

「私は私でいい……。結人が言ってくれた、だからあの場でも……強くいられた」

 

 本当に彼のおかげで救われている自分がいたからこそ、私は結人にそのお礼としてのど飴をあげた。結人の喉を労わりたいという気持ちもあったけど、本当にお礼という気持ちもあった。

 

「ん?ああ、意外とクセになる味でいいと思うぞ」

 

「……良かった」

 

 もしマズいとか口に合わないとかそういう感想を言われていたら、きっと私は傷ついてしまっていたと思うけど結人の口から出ていたのは心の底からホッと出来るもので私は自分でも分かるぐらいに口角が上がっていると、電話が鳴っていた。それは私のことを現実に引き戻すにはちょうどいいもので相手は『みなみちゃん』だった……。

 

『睦ちゃん、Ave Mujicaだっけ?大変みたいねー』

 

 私は小さく「……ん」と頷いていた。

 他人事みたいなことを言ってくるみなみちゃんに私は何も感情を持たないようにしながらも、電話を続けているとみなみちゃは一旦家に来て欲しいと話をされる。私はそれに了承を示しながらも、今から家に帰らなくちゃいけないということに気を重くしながらも電話を切ると……。

 

「睦、何を言われても自分を持てよ。お前はお前なんだから」

 

 結人は私の背中を押してくれていた。

 それだけでどれだけの唯一の希望になれていたのかなんてのは結人には伝わっていないかもしれないけど、コップ一杯に水が溢れるほどの勇気を貰った私は家に帰ってみなみちゃんのくだらない話に付き合っていた。

 

 内容はあまり覚えていない。

 顔がバレたからこれからのこととかそういう話を聞かされていたけど、心の中では結人のことしか考えていなかった。気づけば私は結人と言う人間に酷く魅入られていた……。

 

 

 

 

 

 次の日、私は月ノ森に来ていた……。

 早速、プランターの確認をしに行くときゅうりは……。

 

「……枯れてる」

 

 植物の一生は短い。

 儚くも残酷な世界。それに心を打たれそうになっているのはきっと結人に美味しそうに食べてくれていたのが脳に焦がれていたからに違いないと哀愁漂っている自分も居れば、もう一つの自分も居た。それは枯れることが出来るという植物の一生を興味深いものだった……。

 

「成長……」

 

 枯れるということもまた、成長だと認識していた。

 人間に一生があるように植物にも一生がある。誰かがそれを育てて、誰かを食べる。この場合は、結人が食べてくれたけどそういう価値もあって私は何処かこの植物に感謝を示していると、そよがやって来ていた。

 

「睦ちゃん、隠してたの?」

 

 聞いて来たのはムジカのこと……。

 ただ、私はそよにそれを隠していたことを後ろめたさはあったものの、そよの強い眼差しを見てもうただCRYCHICに縋っていた頃のそよの姿はないんだと思い知らされていた。そう、そよもまた自分の力だけで強くなったんだと気づいた私はこう告げていた。

 

 

 

 

「成長出来て良かったね……そよ」

 

 心からのものだった。

 妬ましいという気持ちは勿論あった。私を置いてたった一人で自分だけが意志を得たということに……。その意志を得たのはきっと燈達のおかげもあるだろうけど、なによりも結人との出会いがそうさせていたというのは私の心の中で愛音や楽奈、燈との会話でそれを痛いほど実感させられつつも私には祥が傍に居てくれるという思考に移り変わろうとしていたけど、その日の夜……。

 

 

 

 

 

 私は祥に傘を差すことが出来なかった……。

 

 

 

 

「祥……これから仕事……」

 

 海鈴に祥が連絡が取れないというのを連絡が来て、私はずっと一人で祥のことを探していた。どうして祥が消えてしまったのかも分からずに探していると、私は歩道橋の前で立ち止まっている祥の姿が目に入って呼び止めていたけど、祥の目は明らかに死んでいた。

 

 もう祥はかつてのように笑ってくれないとその時点で悟ってしまっていた。

 無気力感、虚無感。そういうものに囚われているような表情をしている祥から笑顔をどうしても取り戻したかった私はどうにかして傘を差そうとするものの、それは失敗に終わってしまった……。

 

「私のことは一人にしてくれて……」

 

 違う、私は祥に笑って居てくれればそれでよかった。

 祥を守りたかった。離したくない、心ではそう言い聞かせていても自分に何が出来るという諦めがあった。私は祥を苦しめていた一因でもあったから……。あの日以来、ずっと……。

 

 

 

 

 だから、私はそれ以上言葉を掛けることが何も出来なかった。

 祥を守ることすら出来なかった、私はただ哀れでしかなかった……。衝撃のあまり、私はただその一人でそれ以上祥のことを追い掛けようとはせず、自分の家へと帰ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝……。

 

「電話鳴ってる……」

 

 その電話に出なければならないのに私はそれを拒んでいた。それが何故なのかは知っている。愛てが海鈴だったから……。海鈴が嫌いだからとかそういう理由じゃない。昨日の祥のこともあって、もう私にとってムジカはどうでもよくなっていた。それはまるで祥と同じように……。

 

 それでも電話が鳴り響いている。

 出なければきっと電話が終わらないかもしれない。それでも、私は自分への興味が終わるという意味合いを兼ねて電話が終わるのを待ち続けていると、少し経ったぐらいの後電話が鳴るのを止めていたのと同時に私は鏡越しに自分の深層世界に入り込む……。

 

 

 

 

「祥を守れなかった……」

 

 誰も居ない舞台の中で私は問いかける。

 それは当たり前でしかなかった。もうこの精神世界には私しか居なくなっていたのだから。モーティスもあの頃の自分ももう居ない。居るのはただ、私を見つめている役割を終えた子達ばかり……。

 

「これから私はどうすれば……」

 

 祥を守りたかった。祥が傍に居てくれればそれでよかった……。

 それだけが私の幸せだったのに、その幸せはもう手に入ることは出来ない。私は深海に沈んでいく祥に何か声を掛けることが出来なかった。もう、私には何も出来ない。何かを差し出すということはできない。

 

『人形なんて感情を持たないからこそ愛される』

 

 途端ににゃむの言葉を思い出す。

 私が何かを守ることが出来なかったのは……それはきっと今まで余計なことをしてしまったからのせい。CRYCHICのことも、そよへの態度も、春日影のことも……。全部が全部繋がっている。だったら、もう感情も何もかも誰かに任せて成長させて貰えばいい、強くして貰えばいい。誰かに身を任せればいい。

 

『ちゃんときゅうりだったぞ』

『睦にやるよ』

『お前はお前なんだから。若葉の娘だとか、森みなみの娘だとか言われても気にすんなよ。お前は睦、ただ一人の人間だろ』

 

 私にもあった……。

 モーティスだけじゃない、私と結人にしかない記憶……。そういうものが記憶から呼び起こされて初めて分かった。私にとって結人という人間はどういう存在なのか……。

 

 

 

「結人だけが私の最後の希望……」

 

 割れた鏡に触れながらも、その鏡の先の私は笑っている。

 そこに映し出されているのは他の誰もない私。

 

「もう彼しか居ない……」

 

 祥という希望を失った今……。

 最後に頼れるのはもう結人しか居ない。結人が傍に居てくれればもうなんでもいい。結人が隣に居て私のことを守ってくれれば、それできっと私は幸せになれる。

 

「幸せ……?」

 

 自分の言葉に引っ掛かる。

 そう、私はこのとき初めて実感した。私が此処から幸せになる方法があるとすれば、それはきっと……。

 

 

 

 

 結人に愛されることだ、と……。

 喉から手が出るほどの答えがようやく見つかって私は安心しきっていた……。今日の朝、結人の家で待ち伏せしよう。そして、彼との時間を作りたい。そう願いたかった、私は早速出掛けることにしていた……。

 

 

 

 

 私は結人の家の前に来ていた。

 モーティスが一度だけ結人の家の前まで一緒に来ていたことがあったから。そこだけは本当に感謝していた、モーティスに対して……。

 

「家に戻った……?」

 

 家の扉が開いた音がしたのと同時に閉められた音がしていた。

 逃げられた?いや、結人に限ってそんなことはない。此処は待ち続けるという選択を選んでいると……。

 

「出かけたい……結人と」

 

 何の電話をしていたのかは大体予想がついていたけど、私は結人のことを信じようと思っていた。例え、それが誰かに自分達のことを監視して欲しいという電話でもあって最後には私のことを選んでくれると……。

 

「たい焼き好き?」

 

「ああ、好きだよ」

 

「……私も好き」

 

 好きでも嫌いでもないものを結人に合わせる為に好きと公言する。

 それが結人のことを知る一歩に繋がるなら、私はそれでいいと思っていた。実際、結人は燈が言っていたようにたい焼きのことを教えてくれていた。こうやって、結人が何かを教えてくれるというのは本当に心地が良いものだった。好きな人が何かを語るというときはこういう感覚に陥りやすいのかもしれないとなりながらも、私は自分の言葉に違和感を持つ……。

 

「好き……?」

 

 一旦、自分の足を止めて考えてみる。

 このときになってようやく気づいたことがあった。私は星乃結人という人間が好きなんだ、と……。だから、もっと結人のことを知りたくてもっと好きになって貰いたいという気持ちがある。誰かが結人と楽しく話していると、それが酷く苦しくなる。私は此処まで来て結人という人間に強く酷くも……。

 

 

 

 

 焦がれている理由を知ることが出来た。

 

 

 

「結人と話しているの楽しい」

 

 そうなれていた。

 量産とかそういう話をされたときは自分の心を抉られたような気分になった。それでも、結人が悪気があって、そういうことを言ったわけじゃないのを分かっていたから私は深く気にすることはしなかった。

 

「結人、映画見ない?」

 

 そして、此処からは私のことを知って貰う番……。

 此処まで結人のことをいっぱい知ることが出来た。なら、次は私のことを知って貰うちょうどいい機会。結人に一緒に映画を見ることを了承してくれていた私は映画館に踏み入れると、立希と映画館に行ったときのことを思い出しそうになっていた……。

 

「立希……」

 

 追いかけているのは知っている。

 多分、愛音もにゃむも追い掛けている。違う方向から私達のことを監視しているようだったけど、私はあまりそれを深く考えないようにしながらも結人と一緒にポップコーンを買ったり、飲み物を買ったりしていた。

 

「時間だな、行くか睦」

 

「……ん」

 

 映画館のシアターの中に入って私達はそこで待ち続けていたけど、やっぱり愛音の気配を感じてしょうがなくて二人だけにして欲しいとなっていた私はこの場に集中する為にも大胆な行動に出た。

 

 「ごくり」と息を呑み込む。

 先にやってきたのは結人の方……。私は悪くない。それに結人はこうも言っていた。経験値に繋がる、と……。なら、こういうことをしても経験値にすることは出来るはずだから……。有無を言わさずそのまま、結人が手に持っていたポップコーンを口の中に入れる。結人の指先に触れたような感覚があって、私はそれを舌先で舐めるようにして結人の指先の感覚を覚えようとしていた。

 

「美味しい……」

 

 この行動をして本能的に分かったことがあった。

 私は結人という人間が好きで好きで堪らない。もう頭の中には結人のことしかないほど、彼という人間に引き付けられていてどうしようもなくなっていたけど、でもそれでいいとなっていた。彼が私を強くしてくれる、守ってくれるから……。

 

 

 

 

「結人、居なくなった……」

 

 電話をしてくると言って、結人はその場から離れて行った。

 私はその間に一番後ろの席に座っている愛音の方へと足音を立てずに向かい始める。

 

 

 

 

「愛音、どうして此処にいるの?」

 

 まるで興味本位を装いながらも、話しかけると愛音は椅子から今にも立ち上がりそうになりながらも動揺していた。そんな私はこう愛音に問いた。結人のことが「好き?」と……。そして、その答えは予想通りのものだった。

 

 愛音は結人に好意を抱いている。

 それは前の会話でも充分触れることが出来ていたけど、愛音もまた何処か恥ずかしげに結人のことを語っているのを見て愛音は結人のことが本質的に好きなんだと納得できている自分も居れば、心の中で最終的に勝つのは私だからなんでもいいとなっている自分もいると、私と愛音の間に立希が割り込んで来ていた。

 

 

 

 

 

「お前……本当に睦なの?」

 

 愛音が去った後、私は立希と少しばかり会話をした。

 楽しかったあの頃の話をしていたけど、今は頭の中には結人のことしか無くて、立希との会話はすぐに終わらせてた。立希には私の結人への想いが分からない。何を言っても……。

 

 

 

 

 ひんながみさま……。

 この映画は私が初めて初主演を務めた映画……。たあくんの知り合いで映画の監督をやっている人が居て、その人が是非私のことを主演で使いたいという話があって私はその話に了承したことで映画に出ることになった。

 

 みなみちゃんやたあくんの娘ということもあって、テレビで出演して映画の宣伝をしたりしたこともあった。私にとってこの映画がどういうものなのかと言われたらそんなに大事なものじゃない。監督から女優としての私の力を発揮して欲しいと頼まれたから、私は遠慮なくそれを実行した。その結果、周りには才能の持ち主と持て囃されたけどそれは悪い気分じゃなかった。そういうのを思い出しながらも、この映画を眺めていると結人がどういう感情を持っているのか気になって仕方なかった。

 

 怖かった、という感想が出たら少しばかりショックだけどそれでも結人ならちゃんとどういうところが怖かったと話してくれる。そういうものを期待しながらも、エンドロールを終わったのと同時に私は結人の顔を見ると疲れているようだった。

 

「結人、大丈夫?」

 

「ああ……俺の方は大丈夫だ」

 

 結人の心配をすると、「大丈夫」と答えて来る。

 そこまで長い映画ではなかったけど、もしかしてホラー映画苦手……?となりながらも、私は早速結人の感想を聞くと、それには待ち望んでいた答えが待っていた。私のことが怖かったと言われたときはショックを受けたけど、それでも……私が女優としての才能を感じたと言われたとき……。自分がこの映画に出て初めて良かったとなれていたのと同時に今日この日をもって私は結人への告白をしようと決めていた。

 

 映画館を出て、私は結人に言う。

 話がある、と……。

 

 

 そして、私は結人に……。

 

 

 

 

 

 

「私と付き合って……結人が好き」

 

 告白をした。

 覚悟は決まっていた。私を見てくれるのはもう結人しか居ない。例え、断れたとしても何度も当たり続ければ結人も了承してくれるとそう思っていたから私は怯むことなく結人へ何度も告白をしていたけど、それは上手く行かなかった……。

 

 頭の中でどうして?どうして?と混乱が生じる。

 まだ結人とそんなに仲良くなれていないから?違う、私と結人はそれなりに仲は良かったはず。自分の勘違いということはない。じゃあ、私が前に出過ぎた?それも違う。今前に出ないと結人が他の誰かに取られちゃう。だから、今しかなかった。私のものになって貰うには……。依存が駄目だとしても、もう私には結人しか居ない。結人しか傍に居てくれない。だから、受け入れて欲しかったのに結人は……。

 

 

 

 

「俺はお前に俺が居ないと価値の人間がない人間なんて思って欲しくねえ……!だから、自分らしさを持ってくれ!!持てないなら、俺が手伝ってやる……その上でなら……!!」

 

 私は結人の言葉を完全に聞き取る前にその場から逃げてしまった。

 今まで雑音だと認識していた声がはっきりと聞こえてしまっていた。もう、私の居場所は何処にもない。そう悟ったときにはもう遅かった……。

 

 

 

 

「私は若葉睦……私は若葉睦……」

 

 そして、今結人の傍から離れて私は二回目に結人と出会った公園にやって来ていた。

 夜の公園の中でただ一人、私は自分に問い続けていた自分が誰なのか、と……。

 

「私は若葉睦……。祥を守りたかった、傍に居たかった。守りたい世界を守りたかった。なのに、私は何も出来なかった。祥の世界を照らしたかった。なのに、私はずっと雨を降らせることしか出来なかった……」

 

 最後の最後に自分の後悔を自白するというのは情けない行為なのかもしれない。

 それでも、私は羅列するようにしてそれを並べることで自分の自我を保とうとしていた。

 

「私のせいでCRYCHICは壊れた。私のせいで祥は壊れた。私のせいでそよはCRYCHICに囚われるようになってしまった。全部が全部……私のせいだった」

 

 指で自分の悪行を数えつつも、その手は震えていた。

 喉から吐き気がしてくる。

 

「それでも、私は誰かの傍に居ないと自分を守れなかった。だから助けてくれると信じていた結人なら私の救世主になってくれると信じたかった……」

 

 結局はそれも叶わなかった……。

 私が描いていたのは所詮、夢物語にしか過ぎなかった。私が思い描いたことなんてどれも一つ叶わなかった。私はどうすればよかったの分からなかった。誰かに降り注いでいた雨はいつしか私にも降り注いでた。その雨は決して止むことはなかった。戻しそうになる、私はそれを必死に抑えながらもこう自分でようやく気づくことができていた。

 

「助けてって言えば良かった……?」

 

 自分がさっき言っていた「助けてくれる」という言葉にハッとさせられたような気分になる。

 結人に依存をするんじゃなくてあのとき、助けて欲しいと手を掴んで欲しいという意思表示をしていれば結人は私のことを助けてくれたんじゃないのか?という錯覚してしまう。

 

「そんなの無理……」

 

 手を掴んで貰って、結人に助けて貰っても結局私は結人を不幸にしてしまう。

 それが私の運命……。「化け物」だという目で見られてきた私にはもう誰かを幸せにすることなんて出来ない。それでも、誰かに助けて欲しかった。誰かに助けて欲しい。私をそれを強く望んでいた。誰かが私の手を取ってくれることを……。

 

 

 

 

 もう誰にも届くことなんてないはずなの分かっていた。それでも誰も居ない公園の中で喉が割れそうなほど痛みを伴わせててでも、私は言いたかった、この言葉を……。

 

 

 

 

 

 

「助けて……」

 

 私はもうすぐ若葉睦じゃなくなる。誰でもない存在となって消えて行く……。そうなる前に誰かに助けを求めたかった。もう、これが最後の手段としか思えなかったから……。

 

「……」

 

 公園の椅子に座り込みながらも、自分の死期を悟りつつも目を瞑る。

 誰も助けてくれないなんてのは知っていた。それでも悲痛なこの願いだけは誰かに拾い上げて欲しかった……。それだけが、私の願い……。

 

 

 

 

 だった……。

 

 

 

 

 

 

 

「もう終わる……」

 

 場所は公園じゃなくなっていた。

 暗い暗い暗闇の中、誰の声も届かない世界にいる。もう諦めようとなっていたときだった……。私の手を誰かが掴んだ気がしていた。その手は何処か暖かくて日の光のようなものがあった。まるで、それは結人の影響を受けたような感覚が……。

 

 

 

 

 

 あった。

 

 

 

 

 

 

 

「睦ちゃん、後は任せて……私が……」

 

 

 

 

 

 

「なんとかするから……」

 

 

 

 

 聞こえないはずのモーティスの声がする。

 もうあの子は私が殺した。なのに、あの子の声がするというのは走馬灯というものなのかもしれない。そう感じながらも、私は最後ぐらいなら彼女の手を取るのも悪くないのかもしれないとなって必死に掴んだその瞬間、モーティスの体は光へと包まれていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 景色は変わっていた。

 あの薄暗い牢獄のような深海じゃなくなっていた。私は早く此処から離れなくちゃいけない。そう思って離れようとした矢先だった……。

 

 

 

「楽奈ちゃん……?」

 

 風が揺らす木々の音が、私の耳にただ寂しく響く中……。

 

 

 

 

 

 

 公園の茂みの中から出て来たのは……野良猫を抱えた楽奈ちゃん……。

 

 

 

 

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