今日も今日とて変わらず、帝国は動く何の変哲もなくただ、いつも通りに、
帝国暦1940年
冬の風が凛と冷たく吹き抜ける早朝の帝都ゲルマニアは、まだ静寂に包まれていた、いつもならば人々で賑わう大通りも、今はほとんど無人で、石畳に霜が降りて白く輝いている、その光景に目を奪われる者もなく、見上げれば、帝国の象徴たる巨大な白亜の宮殿が薄暗い空にぼんやりと浮かんでいた
老人「今日もあの方はお元気でいらっしゃるかしらねぇ」
とある老人は宮殿の方角を向きながらそう呟く、
女帝ジルバード、長い時を生きながらも、親しみやすい笑顔と率直な言葉で帝国民から愛される女帝だ、まつりごとなど、フォーマルな場では威厳ある女帝として振る舞うものの、普段は笑顔を絶やさず、親しみやすいお嬢様として知られている、時折、立ち止まって道端の果物屋で話しかけたり、小さな子どもたちに声をかける姿が見られるため、彼女に会うことを心待ちにする市民も少なくない
少年「ほら、お菓子を渡すときに女帝がこうやって微笑んでくれたんだぞ!」
少女「本当に? お兄ちゃん、いつも適当なこと言うんだから」
小さな兄妹が街角でじゃれあいながら、期待に満ちた目で宮殿の方角を見つめている。帝国民にとって女帝は遠い存在ではなく、「優雅でフランクなお嬢様」だ、彼女は決して恐怖の対象ではなく、むしろ帝国の安定と繁栄を象徴する、心の支えなのだ
だが、そんな表向きの平穏の裏で、帝国は大きく、静かに揺らいでいた
帝国政府内部では軍の威光と力を信奉する「国軍派」、女帝の絶対的な権威を守ろうとする「女帝派」、そして帝国の近代化と改革を求める「政府派」三派はそれぞれ異なる正義を掲げ、長い間小競り合いが続いていた、だが、各派閥の対立は年々激化し、目に見えない亀裂が少しずつ帝国内に広がりつつあった、今は女帝の力により抑え込まれているものの、いつ崩れてもおかしくない状態だった
しかし、女帝ジルバードは表向きにはその不安を見せず、微笑みを浮かべる、あくまでこれは帝国政府内部での問題であり、それを愛すべき国民達に知られるわけにはいかないのだ
――その朝、ゲルマニアの片隅の小さな家屋で、一人の男が目を覚ました。
彼の名はハルト、かつてはただの帝国の兵士だったが、今や三派の対立と帝国の運命に巻き込まれる運命にある。女帝ジルバードの命を受け、帝国を守るために奔走する青年だ。冷たい石床の上で立ち上がり、何の変哲もない朝食をかき込むと、ハルトは大通りへと出た。
ハルト「とんだ、大役を任されたもんだぜ…一介の兵士に何ができるというのやら…まぁジルバード様の命令だから尽力するというのには変わりはねぇが...」
帝都ゲルマニアには、今朝も女帝ジルバードを一目見ようと、老若男女が期待の眼差しで集まり始めている。街中に漂うその期待と安堵の空気を肌で感じるたび、ハルトは口元に微かな笑みを浮かべた、
これほどまでに女帝が愛され、国民、いや、国家自体そのものが彼女を信頼していることを再確認するたび、ハルトの心には複雑な思いが渦巻く、女帝がこの句の一番上位に居る限り、この帝国は不滅である、が、もし、女帝の身に何かが起こったら、この帝国はどうなってしまうのだろうか、
ハルト「やめだ、やめだ、悪いことを考えてると、悪いことしか起こらねぇ、」
自分を叱るように口にすると、ハルトは好きなことを考えながら、肩の力を抜く、ただの兵士だったときからの習慣だ、
どうしようもない状況とぶち当たったときに、自分を取り戻すための小さな習慣であった、
空が白み始め、帝都全体が少しずつ朝の光に染まり始める、冷たい朝の空気が肌を刺すように感じられたが、それでもハルトは足を止めず、宮殿へと向かった、彼女が命じた「帝国の安寧」を守るため、今日もまた奔走するのだ
そして今日もいつもと変わらずに、ゆっくりと一日が動き始める
続く
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