ビリビリ系元公爵令嬢(たぶん悪役)   作:激辛党

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当然の帰結

「さっそくで悪いが、アクセル君」

 

 あれだけレーダが息巻いたにも関わらず、ジェパード准将は真っ先に、短髪の少女を指名した。

 

「今後の、君のスタンスを確認しておきたい。これからいったいどうするつもりだ?」

 

「今後と言う――言いますと?」

 

「現時点から、それ以降において、君は軍でどう振舞うつもりか、という質問だ」

 

「はあ……」

 

「はあ、じゃないでしょ! お願いだからシャキっとして。上官である私の評価まで下がる」

 

 ――あんたを上として認めた覚えはないっつの、とは思ったが、渾身の精神力でそれ呑み込んだ。

 この場で口喧嘩を始めるのは、さすがにまずいという自制心はアクセルにもあった。

 

「まあまあ。昨日の今日だ。アクセル君が戸惑うのも理解できる。とりあえず、席に掛けたまえ、立ったままでは話しづらかろう」

 

「分かった」 「お言葉に甘えまして――でしょうが」

 

 横からレーダが肘で小突いてくるが、その言い方も適切な表現ではない気がする。大尉の言葉遣いに毒され過ぎではないか?

 

 さておき、座るように指示されて逆らうわけにもいかない。

 作戦会議室には、正方形を描く形で長テーブルが置かれていた。そこへ、等間隔にパイプ椅子が並べてある。

 

 扉から入ってすぐの椅子に、アクセルとレーダの二人は揃って座った。

 准将はそのちょうど反対側――部屋の奥の方で、両肘をテーブルについた姿勢で腰掛けている。

 

 准将と直接、面と向かって話すのはアクセルにとっては初めての経験だった。

過去に何度か、廊下ですれ違った際に挨拶を交わしたことはあった。大尉と会談している場面は、その数十倍は目にしてきた。

 

 そのため、彼の人となりはおおむね知り及んでいる。

 外見年齢は二十代後半、大尉よりも少し上程度。体つきは軍属の男らしく筋肉質で、立派なものだ。上背も相当あって、女子としては高身長のアクセルでさえ、並んで立つと見上げなければならないほど。

 

 

「そろそろ考えは整理できたかね」

 

 低声がぼうっとしていたアクセルの耳朶を打った。

 いけない、全く別のことばかりを頭に浮かべていた。確か……これから、どうするつもりという話だったか?

 

「准将、あたしは――」 「閣下をつけなさい阿呆。失礼でしょう」

 またもレーダが横やり入れてくる。いい加減、一発ぶん殴ってやろうと右手を上げかけたところで、「よしなさい」と当の准将が言った。

 

「そう、変にかしこまらなくてもいいよ。話しやすいように、喋ればいい。

しゃちほこばった言葉遣いは、君たちの隊長に嫌と言うほど聞かされているから、うんざりなんだ」

 

 准将は苦笑交じりに言う。

 当人が気にしないなら、それを無下にすることこそ、かえって無礼というものだ。

アクセルは隣の口うるさい少女の存在はいったん忘れ、思ったままを喋ることにした。

 

「あたしは……これからも軍に残りたいです。大尉なら、きっとそうしろって言います」

 

「そうか」

 

 准将は短く頷き、破顔した。「それは良かった」

 

「ですが、前のようにはいかないことも分かってます。大尉は……リ・ラ・テルミヌス大尉は、しん――殉職したんですよね。あたしが、撃ったから」

 

「そうだね。私も近くで目撃したが、彼女は心臓付近を撃ち抜かれたようだった。あれではまず助かるまい」

 

 立場ある軍人が、冷静沈着に結論付けると、それはさも確定事項のように聞こえた。

 あらためて実感させられる。自らこの手で、大尉を殺害したことを。

 

「では通告させてもらおう。

現時点をもって、特務隊の有していた遊撃的、特権的地位をはく奪する。今後は陸軍第三師団に所属する、一部隊として活動するように。

それに伴い、所属していた隊員四名――現在は二名だが、とにかく全員が師団長、つまり私の指揮下に入る」

 

そしてそれは全く、アクセルの予期した通りの展開だった。

『家に帰りたいなら、わたくしを殺しなさい』――大尉のあの宣言を、本気で信じていたのはきっとフライアくらいだろう。

 

 現実問題として、アクセルたち四人のパーティキュレータは軍に籍を持っている。隊長が殉職したからといって、その部下が親元へと皆、帰されるなんて道理は無い。

所属部署が横なり上なりにスライドし、また別の上官のもとに就くだけ。元より、逃げられる見込みなど無かった。

 

 それでも……フライアだけは。

 あの後、彼女はちゃんと修道院へと辿り着けただろうか? 混乱のどさくさに紛れて、空の彼方へと飛び立ったのはアクセルも薄々察していた。

 きっともう二度と会うことはないだろうが、せめて無事を祈りたい。

 

「待ってください!」 

 しかし意外にも、この通告に承服しかねたのは、むしろレーダの方だった。

 ばん、とテーブルをひっ叩いて彼女は憤る。

 

「話が違います。私が曹長となることで、特務隊はこれまで通り存続できるという流れではなかったのですか?」

 

「ああ、確かに約束した。だが、それは将来的な話だ。

付け加えて言っておくが、曹長はあくまで隊を率いる長としての称号に過ぎず、間違っても独断専行の許される地位を指さない。

それを成し得るのは、少なくとも尉官以上の階級に就く者だ」

 

「将来って……そんなのいつになるか分からないじゃない。騙したんですか!?」

 

 部屋に入るまでの余裕はどこへやら、レーダは憔悴しきった様子だった。

それ見たことか、とアクセルは内心でほくそ笑んだ。

格好ばかり大尉を真似たって無意味だ。レーダに限らず、この世のいかなる人間であろうとも、大尉を引き継ぐことは叶わない。

あの人だからこそ――あの人だけに、特務隊を守ることが可能だった。

 

その程度のこと、レーダ本人もあらかじめ分かっていただろうに。

 

「騙したとは人聞きが悪いな。君は賢いし、努力家だ。そのまま勤勉に励めば、遠からず尉官には就けるよ、保証しよう」

 

「ぐっ……!」

 

「止めなよ、レーダ」

 席を立ちかけた少女の手を、アクセルは掴んで引き留めた。

 

「話は最後まで聞こう。これだけで終わりなら、わざわざ部屋に呼び出したりしないでしょ」

 

 落ち着かせようとして言ったつもりだったが、レーダは逆にますます興奮した。

 

「あなたねぇ! これが何を意味する命令か分かってる!? 陸軍の一部隊に編制されるってことは、いずれ戦地に引っ張りだされるってことよ」

 

「それの何がいけないっつのよ。軍人って、だいたいそういうもんじゃない」

 

 特に深く考えることもなく、アクセルはそう答えた。

 

 確かに、軍規に乗っ取って行動することは、ぬるま湯に浸ってきた自分たちには辛いものとなるだろう。

 今後、朝寝坊は決して許されないし、銃撃訓練にも参加せねばなるまい。敵軍が侵攻してくれば、向かい来る兵士を射殺することもまた、常となる。

 

 だが、それが今更なんだ。アクセルにしたって、箱入りのお嬢様というわけではない。世の中、自分よりずっと幼い年齢の少年少女が、工場で過酷な労働に従事していることも知っていたし、何ならスパイとして敵国に送り込まれ、手足を切り刻まれた末にドブ川に放り込まれることもあると聞いていた。

 

 それと比べれば、一兵士として塹壕に潜り、銃器を握ることに何の呵責が生まれようか。

どうせ、自分はもう人殺しになったのだし、何をしようがさせられようが、変わらない。

 

「どんだけ頭が悪いの! んなもんじゃないわよ!」

 

 それら全てを、レーダは一喝で否定した。

 

「准将閣下は全て知っていらっしゃるの。あなたが戦車を消滅させたことも、コンクリートをぐちゃぐちゃに溶かしたこともね! それを兵士――兵器として使役することが、どういう結果を呼ぶか、何も予測がつかないの?

 敵軍に向かって、加速砲を撃てと命じられ、あなたがその通りにしたとする。どれだけの人間が、死体も残さず消えると思う?」

 

「あ」 なるほどそれは……やばいかもしれない。

 

「前回の大戦では、毒ガス兵器が使われて、一度に何千人という兵士が死んだということもあったそうね。でもあれは限定的な状況でのみ有効な代物で、全ての戦地に適用はできない。

 でもパーティキュレータは違う。見た目、十代の女子だもの。車でも飛行機でも簡単に持ち運べるし、何なら二本足で自走してくれる。こんなに使いやすい兵器はない。

 喜びなさいよ、アクセル。あなた、今世紀で最も活躍した新兵器になれるわ。歴史にその名を刻むわね」

 

 機関銃のような凄まじい勢いで、レーダが捲し立てる。そのどこを切り取っても、正論だった。

 じわり……と肌に汗が滲んだ。

 

 粒子加減速を扱う、自分自身のことだから良く分かる。実際はおそらく、それどころじゃない。

 今のところ、アクセルは最高でもライフル用の銃弾しか飛ばしたことはなかった。

 それを例えば、戦車に装填するような特大の砲弾に換えればどうなるか。

 

 第一に、砲撃の最終威力は、加速する物体の質量に大きく影響される。

第二に、アクセルの粒子加減速は、物体の体積、質量に関わらず、それを指定した速度まで直ちに加速させられる。これに明確な上限は無い。……たぶん、光より速く飛ばすこともできる。

 

 この二つの条件が組み合わされば、晴れて大量破壊兵器の誕生だ。

 石ころの無限再生で、世界を崩壊させようとしたリバイブを何ら笑えない。加減を誤れば、アクセルは大地を、海をやすやす割って、地球を崩落させるだろう。

 

「その顔色……やっと吞み込めたみたいね」

 

 レーダは居住まいを正すと、あらためて准将に向き直った。

 

「准将閣下、お考えをお聞かせください。大尉亡き後、私たちパーティキュレータをどう扱うおつもりですか?

 本当に、私が今しがた言ったような、殲滅兵器として運用されるのですか?」

 

 その核心を突いた問いかけに、思わずアクセルも息を呑み、返答を待った。

 撃つ方も、撃たれる方の覚悟もあったが、果てしの無い虐殺に手を染める勇気までは用意が無かった。

 大尉が身命を賭して、いったい何から自分たちを保護していたのか――それが本当の意味で、身に染みて理解できた。

 

「結論から言うと、イエスだ。事態がこうなった以上、パーティキュレータの能力を隠し通すことは不可能だろう。

 准将とはいえ、私もしょせんは一軍人の身。中央政府からの追及があれば、種々の情報を明かさざるを得ない。

 特務大尉の死亡、他にも十数名の隊員の負傷、そして司令基地の大規模損壊。目撃者も多数いるともなれば、どんな愚者でも、真相究明に取り掛かる。

 大尉は開発中の強力な火器を隠れ蓑としようとしていたが、今更それは言い訳にもなるまい。

 君たちは早晩にも、超能力兵士とでも銘打たれ、各戦地へ駆り出される羽目になる」

 

「そんな……」

 

 言葉を失うレーダの隣で、アクセルはある違和感を覚えていた。今の准将の口ぶりには、できればそうしたくはないが――というニュアンスがあったように思う。

 

 ならば、まだ交渉の余地があるのではないか? そう考えて、口火を切る。

 まず攻めるべきは、当然の疑問点からだ。

 

「准将、その前に一つ聞かせて欲しいです。どうして、准将はそんなにあたしたちの事に詳しいんですか?」

 

「ふむ」

 

 准将は顎を撫ぜる仕草をして、視線を天井へさまよわせた。どう答えたものか、悩んでいるらしい。

その間隙を縫って、レーダが素早く耳打ちしてくる。

 

「准将閣下と大尉は夜中、頻繁に密会していたの。きっと何か卑怯な手を使って、大尉から情報を訊き出していたに違いないわ」

 

「卑怯ってなによ。大尉があんな優男に騙される? あんたじゃないんだから」

 

「ぐっ……それはまぁその通りだけど、他に考えられないでしょ。ほら……こう家族を脅しに使うとかして」

 

「大尉に家族は一人もいなかった。仮にいたら、あの腐れゴミカス爺どもが首都へ呼び出したりしない」

 

 その話題を出すと、レーダはふっと目を伏せた。これだから真面目ちゃんぶったヤツは厭になる。怒りより先に、悲しみが出るタイプだから。

 

「ごめん、今の無し。ま、とにかく大尉はあの男にいいように使われるタマじゃなかった。他に漏れるルートが、実際にはあったんじゃない?」

 

「うーん……じゃあ……フライアとか?」

 

「それこそ有り得ないっしょ。あの子、たぶん隊で一番、准将のこと嫌ってたよ。あたしでもちょっと引くくらいの暴言吐いてたし」

 

「あー……。後頭部禿予備軍だの、目線が油オジサンだの、好き放題だったもんね……」

 

「こほん!」

 

 盛大な咳払いが、室内にこだました。アクセルとレーダは、二人して仲良く、びくっと肩を震わせる。

 

「誤解を招かないように言っておくが、私とテルミヌス大尉は旧知の間柄だ。

その関係で、彼女からパーティキュレータの詳細を聞いていたんだ。何も、怪しげな方法を使ったわけじゃない」

 

「旧知の間柄?」

 

 妙に持って回った言い回しに、ついアクセルはオウム返しに言ってしまった。

 

「つまり、昔からの知り合いってことですか。それっていつから?」

 

「初めに遡るなら……十五年前だね。リ・ラ・テルミヌス君と初めて会ったのは」

 その不思議な名前の響きに、思わずアクセルは目を細めた。本人以外が、大尉のフルネームを口にするのを初めて耳にした。

 

「ってことは、革命戦争よりも更に五年前? 大尉が、まだ名実共に公爵令嬢だった頃?」

 

「そうなるな。……よし決めた、ちょうど良い機会だから、こうしよう」

 

 ジェパード准将は言葉の途中で、突如として思い立ったように、話の向く先を変えた。

 

「パーティキュレータである君たちが、今後の自分の処遇を憂う気持ちは良く分かる。

 だがその前に、そもそもなぜパーティキュレータが生まれたか、どうしてそんな特殊能力がこの世に存在するのか――その根本を、君たちは知るべきじゃないか?

 身の振り方を決めるのは、その後でも良いと私は思うんだ」

 

「はあ」 あまりにも急に流れが変化したものだから、アクセルもレーダも両名共についていけず、曖昧な返事をするのがやっとだった。

 

「そうと決まれば、善は急げだ。ついて来たまえ」

 

 と、言うが早いがさっそうと席を立ち、会議室から出て行こうとする。

 

 慌てたレーダが、その後を追いすがった。

 

「ま、待ってください閣下。どこへ行かれるというのですか?」

 

「どこへだって? わざわざ説明するまでも無いだろう、君ならすぐに分かるはずだ」

 

 愉快気に、かつ少々意地悪な笑みを准将は浮かべ、待ちきれなくなったように自ら答えを口にした。

 

「テルミヌス公爵家の跡地だよ。あそこに行けば、なぜ君たちがそうであるか、これ以上無いほど良く分かるはずだ」

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