ビリビリ系元公爵令嬢(たぶん悪役)   作:激辛党

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仕事が終わったら残業が待ってる

 リ・ラ・テルミヌス特務大尉の率いる、新兵装開発部が満を持して提案した、新型の歩兵携行火器は、佐官たちの全会一致の賛同に基づき、即時の正式採用が検討される運びとなった。

 

 一人の歩兵が肩に担げる程度の重量、大きさでありながら、旧世代型とはいえ、戦車一台をこの世から消滅せしめる火力を持った兵装である。

 

 真っ当な平和的感性を持った一般人ならいざ知れず、敵軍勢力をいかにして撃滅するか――もっぱら、それしか頭に無い軍人どもにとっては、喉から手が出るほど欲しいのも頷ける。

 

 だが悲しいかな、これは一点ものだ。今のところ、量産の見込みは立っておらず、この特務隊でのみ運用が可能である――と真実を告げたところ、佐官たちからは以下のような反応があった。

 

「ならばせめて、原理だけでも公開して欲しい。これは戦局どころか、戦争そのものを変えてしまうほどの威力を持った兵器だ。個別の隊だけでなく、全軍が総力を挙げて研究する価値がある」、と。

 

 これに、テルミヌス大尉は次のような回答を行った。

 

「過分なご評価をいただき、恐悦至極に存しますわ。しかし、事前に説明させていただきました通り、本日お見せいたしましたものは、あくまで試作機に過ぎず、お恥ずかしながら我が方といたしましても、十分な検証の為されていない部分のある兵装でございます。

 そのようなものを、みだりに公開いたしますと、他の開発部門へいたずらに混乱をもたらすのみならず、希少な予算の空費にも繋がりかねません。

 謹んで、お断り申し上げます」

 

 つまるとこ、無理だよ諦めろバーカということである。

 

 というかぶっちゃけ、教えて欲しいのはこちらの方だ。

 いったい何がどうなったら、音速の数倍の速さまで瞬時に物質を加速し、もって戦車を消し飛ばせるのか。あまつさえ、何の科学技術の力も借りない、たった一人のひ弱な体躯の少女が、である。

 

 しかし、そういった裏の事情を赤裸々に伝えると、軍全体が大混乱どころか、世界の常識そのものがひっくり返ること請け合いだ。

 もろもろ鑑みて最終的に、切傷と火傷痕の生々しい肌で、それでも笑顔を浮かべ大尉は言った。

 

「ではこれにて、この度の実験の全行程は終了させていただきます。皆さま、本日はこのような僻地までご足労いただき、感謝の念に堪えませんわ。どうぞお気をつけてお帰りくださいまし。――あ、それと。

 腕の良い医者が部下にいますので、アフターサービスをご希望であれば、彼女を紹介いたしますわよ?」

 

 この取ってつけたような誘い文句に乗っかってくる者は、残念ながら仕込みの佐官を含めても、誰もいなかった。

 

 

 

 かくして、総計三日間に及ぶ旧訓練施設における、特務隊の新兵装実験は終了したが、大尉の職務はまだたっぷりと残されていた。

 

 何と言っても書類報告である。これは何も軍人に限った話ではなく、どの業務であっても、行動があれば、それによって生じた成果を、上席および関連各所に、必ず情報共有せねばならない。もちろん口頭ではなく文書で、その上フォーマルな文面で、だ。

 

 通例、何かにつけて忙しい職業軍人、なかんずく尉官以上の地位にある者は、こまごまとした書類の作成は、専任の秘書ないし、信頼のおける部下に任せる。

 

 しかし、たいへん残念なことに特務隊の中で、上官に読ませるに相応しい文章をしたためるスキルを持つ者は、大尉その人しかいなかった。

 

 フライアは地頭こそ良いものの、三十分以上、机に座っていることができないため論外。

 アクセルは全身から迸るやる気の無さから、これもダメ。

 リバイブは極度の性格難ゆえ、どんな内容で仕上げてくるか見当もつかないためNG。

 レーダは最近、勉強を頑張っているが、腹芸のできないタイプなので、少し可哀想だが、やはり任せられない。

 

 したがってごく自然な成り行きとして、車で片道三時間以上、しかも悪路の砂地をがったんごっとん揺らされ、やっとこさ司令基地に帰投した大尉は、その足で書類編纂室に向かい、報告書の作成に取り掛からざるを得なかった。

 

 時刻は深夜十時、シャワーどころか、まともな食事にさえありつけていない。頬の生傷も癒えておらず、視覚と聴覚は超音速砲撃による後遺症を若干引きずってもいる。

 

 これを満身創痍と言わずして、誰をそう呼ぶか。我が事ながら、苦笑するより他にない極限状態で、大尉はいざ一面の白紙に立ち向かった。

 

「寝ちゃダメ。寝たらお終いですわ……」

 

 さりとて万年筆を指に挟んでも、自然と頭がこっくりこっくり船を漕ごうとする。このまま机に突っ伏して、五分だけでも目をつむりたい――が、それをしたら最後、翌朝まで意識が飛ぶこと請け合いだ。

 

「寝たら死、寝たら死……」

 物騒な繰り言を呟きながら、ひたすらカリカリ白紙を埋めていく。なまじ、頭を使う作業であるため、機械的無意識に浸れないのも苦痛を助長した。

 例えば、倉庫に袋を積み上げていくだけならば、半分眠りながら続行することもできるのに。

 

 とはいえ半分ほど進んだあたりで、気力体力共に限界を迎え、眠気のあまり逆に狂い死にしそうになったため、奥の手に及ぶ決断をした。

 

 左手の五指を大きく開いて、自らの前頭部を掴む。そして――荷電粒子を放射。「きゅっ!」にわかに弾けた紫電が、強引に脳細胞を活性化した。

 

「っとはぁ……。これ確実に寿命を縮めていますわよね……」

 

 あたかも、炭酸水を直接脳内に注ぎ込まれたようだ。視界はさっぱりクリアに、泡立つ爽快感が脳髄の芯から込み上げてくる。

 

 本来は一瞬の判断が生死を分ける、至近距離戦闘でのみ使う手法だ。思考と反射を加速し、相手の数歩先を読む戦術を可能にする。

 それをまさか、深夜の残業で用いる羽目になるとは、技を編み出した自分ですら思いもよらなかった。

 

 それだけのことをした甲斐はあって、引き続き机に向かうこと三十分ほど、残った半分をどうにか片づけることに成功する。

 

 締めの一文にピリオドを打つと同時、みなぎらせていた思考力と緊張感が終焉を迎えた。万年筆を放り出し、椅子の背に全体重を預けて、いっぱいに伸びをする。

 

「だぁああ! っしゃい! 終わりましたわぁ……」

 

「お、やっとか」 すぐ隣の席から声がした。

 

 ひゅっ、と喉が変な感じに鳴った。

 極度の集中状態からの解放、よりにもよってそのタイミングで襲ってきた未知の情報に、心臓がいっそ止まりそうなほど縮み上がる。

それも、もともと疲労困憊だった身体だ。冗談抜きで、頓死する一歩手前だった。

 

「あれ、もしかして気づいてなかったのか?」

 

 かくかくと痙攣している大尉を見て、声の主も察するものがあったらしい。

 椅子から立ち、正面へと回り込んでくる。

精悍な顔つきながらも、どこか人好きのする笑みを湛えた青年――ジェパード・ブライト准将だった。

 

「あれだけド派手に光ったら、誰だって気づくさ。なにせ、私の部屋の窓からも見えたくらいだからね。

 重要な文書も保管されている編纂室で、ボヤでもあれば一大事だと見に来てみたら、何のことは無い。特務大尉どのが単身、局地戦に励んでいるだけだった」

 

「その言い方は……」

 

 荒い息を必死に整えながらも返す。

 

「なんだかやらしー響きがあるので、取り消していただけます?

 わたくしは至って真面目に、上官へ提出差し上げる文書を作成していただけですわ」

 

「これは失敬。私としたことが、頑張っている部下を揶揄するのは、あまり褒められた行いでは無かったね」

 

「確かに閣下はわたくしよりも遥か上のご身分ではありますが、直接の部下となった覚えはございませんでしてよ」

 

「おや、そうだったかな」

 

 わざとらしく、顎に手をやる准将。丹念に髭の剃ってあるラインは、造形師が手掛けたのかというほど整っている。

 いっそ軍服など脱がして、タキシードでも着せてやろうかと何度考えたことか。こんなキザったらしい男は、流行りの劇団俳優よろしく、若い女にでも揉みくちゃにされていればいいのだ。

 

「ええ、そうですわジェパード閣下。ご承知いただけましたら、とっととお出ていきになってもらえます? わたくし、まだ仕事が残っていますの」

 

 疲れと苛立ちのためか、いつにも増して敬語が怪しくなってくる。そんな彼女の不躾を咎めるでもなく、准将は机上に置かれた文書を指した。

 

「ん、終わったとさっき君が自分で言ったじゃないか。嘘は良くないね」

 

「あらいやだ。ひと段落ついた、という意味ですわ。もう一、いや十枚ほど書かなくてはならない書類がありますの。閣下とのご雑談を楽しむ余裕など、とてもとても」

 

 十枚はさすがに盛り過ぎたか? と口にした後で思ったが、「そうかい」と呆気なく准将は信じた。

 

「忙しいなら、仕方ないね。深夜の残業を頑張っているご褒美として、せっかく君の喜びそうな案件を持ってきてあげたというのに。この件は別の者に任せよう」

 

 と言い捨てるなり、准将はさっと踵を返して編纂室を出て行かんとする。

 

「ちょっ……」 反射的に、席を蹴ってその背中を追ってしまった。

 

「ちょっとお待ちくださいませ。そのような言い方をされては、気になるではないですか。受けるかどうかは別として、内容だけでも聞かせていただけます?」

 

「君ならそう言ってくれると思ったよ」

 振り向いた准将は、それはそれは満ち足りた顔をしていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

 リ・ラ・テルミヌス大尉と、ジェパード・ブライト准将。

 二人の関係は十年以上に及ぶ、深く複雑に絡み合ったもので、それを一から説明するとなると、原稿用紙にして千枚は利かない、それはそれは長ったらしい物語が展開される。

 

 しかし、四人からなる特務隊所属のおバカ隊員たちのお世話に忙殺され、過去に浸る暇も無い彼女に、そのような述懐は全くもって不可能である。

 

 そのため、ここではあえてたった一単語で二人を言い表そう。

 

「腐れ縁、ですわね」

 

「見解の相違だな」

 

 とっておきの要件を伝え終わった後、大尉の口から真っ先に出てきた感想に、准将は珍しくしかめっ面を作った。

 

「確かに君との付き合いは長いが、私個人としては、それは互いに信頼し合えるような、素晴らしい関係性だと自負している」

 

「お言葉ですが」

 

 対する大尉は、優男の言葉を鼻で笑った。

 

「このような面倒かつ理不尽な案件を、決して断れないわたくしの事情に付け込んで持ってくる閣下の振舞いは、世間一般で言うところのパワハラ上司以外の何物でもありませんわ。

 そのような御仁と、十年来の付き合いがあるなど……これが腐れ縁でなくして、いったいなんだと言うのです?」

 

「君のそういう、こまっしゃくれたところが、私は好きだよ」

 

「ぶ!」 

 思わず噴き出した。

 

「あ、あ、あなたね! 私をいくつだと思ってるの! 今年でもう二十さ……おほん! 閣下、ただいまの不適切な発言は見逃して差し上げますから、今日はもう本当にお暇して……させていただけますか?

 正直に打ち明けますと、もう眠気が限界なんですの」

 

「分かってるよ、話している最中だって、ときおり君の意識が飛びかけているのはよく見て取れた。妙齢のレディが、白目を剥く姿はあまり気持ちの良い絵面では無かったからね」

 

「分かっていたなら、わざわざ長話などしないでくださいまし! それとも故意犯ですか!?」

 

「ふっ。どうかな」

 

 先のお返しのように、それを准将は短く笑って流した。

 

「ま、夜が遅いのは事実だし、君のおっしゃる通りここでお暇させていただきます……よ」

 

 言うが早いが、すらりと席を立ち、僅かに乱れのあった襟元をただした。その仕草も、腹が立つくらい様になっている。もちろんそれを言葉にすることは未来永劫、決してないが。

 

「それではまた、明朝にでも。

テルミヌス大尉、良い返答を期待しているよ。部下の子たちにもよろしく伝えておいてくれ。

……電話応対中の隊長を邪魔するのはこれっきりにしておけ、ともね」

 

「それはもう、厳しく」

 

 現れた時と同様に、准将は嵐のように去っていった。神出鬼没で、後には何も残らない。

 

 一人取り残された編纂室で、大尉は腹の底から深くため息を吐いた。

 しかし、壁掛け時計の長針を見て、我に返る。そうもしていられない。日の出までもう四時間も無い頃合いだった。

 

 一秒でも早くシャワーを浴びて、寝床に入る。これぞ至上の命題である。

 

 広げたままだった報告書を束にまとめ、筆記用具を納め、足早に編纂室を後にする。まずは着替えを取ってくるべきかと、自室に向かうべく廊下の角を曲がった――先で。

 

「待っていたわ」

 

 出会い頭に、ぶつかった。

 

 柔らかい感触。まるで、毛布にでも包まれたかのような。

 それでいて、温かい。今から浴びる予定だった温水よりも。

 

「姉さま。お会いできる時を、今か今かと待ち望んでいたの。

 シャワー室に向かうのでしょう? 着替え、持ってきてるから」

 

 言っている傍から、ぐいぐいと身体を引っ張り、そちらへと連れて行こうとする。

 決して力そのものは強くないが、その意思があまりに純粋過ぎて、抵抗しづらい。ひとたび拒否すれば、どういった反応が待っているかを思えば、試すことすら躊躇われる。

 

「リバイブ……。まだ寝ていませんでしたの」

 

「当たり前、でしょう? ……姉さま、やっとお戻りになったのに、私と一言も喋ってくれないんだもの。寂しくて、寂しくて」

 

 目じりに涙こそ溜めていなかったものの、ダムは決壊寸前に見えた。こうなるともう、こちらの言い分や考えは表に出せなくなる。

 為すがまま、言われるがまま、甘やかしてしまう。ダメとは分かっているが、どうしようもない。

 

 彼女のコード名はリバイブ。特務隊に所属するメンバーでは、最古参かつ最年長の少女である。外見年齢も相応で、十代の後半――おおよそ十八、十九といったくらい。

 

 

 絵物語に描かれる妖精のように、そのかんばせは際立って可憐だ。

身長はアクセルよりも少し低いが、体格は年相応に肉感的で――もっと直截に言うと蠱惑的である。特に胸部、臀部を中心とした肉付きは、他でもない隊長よりも優れていたりする。

 セミロングに伸ばした髪は、まともな洗髪剤も買えないはずの軍属の身でありながら、常に瑞々しい潤いに満ちている。

 その上、世にも珍しい群青色ときたものだ。少女の傍を通り過ぎる者は、性別年齢に関わりなく、否が応でもその奇抜で、美麗な容姿に視線を引き付けられる。

 

 大尉もまた、その例に漏れなかった。

 少女の持つ、髪色と同じコバルトの瞳に覗き込まれると、自然と同意が口を突く。

 

「ごめんなさいまし。どうしても忙しくって。許してくれますか?」

 

「ええ、分かっているわ……。姉さまは本当に大変だってことくらい。

 でも今からは別……よね? だってもう、姉さまは一人……だものね?」

 

 あれよあれよという間に、女性用のシャワー室の前へと引っ立てられていた。

 そのリバイブが両腕に抱えている荷物は、どうやら二人分の着替えとタオル。言外に、一緒に入りたい――という意思がひしひしと伝わってくる。

 

「仕方ありませんわね……。もう遅いですから、手早く済ませるようになさいまし。

 いつものように、長々と髪を梳いていてはいけませんわよ」

 

 返事の代わりに、またしても抱き着かれる。とにもかくにも、年齢の割に人との距離感の取り方が危うい少女なのだ。おおむね誰に対してもこうだから、フライアを筆頭に、アクセルやレーダからも明け透けに疎まれている。

 

「姉さま……そのお顔」

 

 上目遣いの蒼色。持ち上がった腕。頬を――火傷と切傷の痕をつつ、と指で撫ぜられる。

 

「誰にやられた? 今週の当番、空飛ぶクソジャリガキ相手では、こうはならないでしょう」

 

「これは……いえ、ちょっとした事故ですわ」

 

既に身体の触れ合う至近距離だというのに、いっそう強く密着しようとする。肉と肉を溶け合わせる――そんな意思すら、感じられる強さ。

 

「誰が、やったか。……と、訊いているの」

 

 本当に、苦手だ。

 

 特務隊に所属する隊員は、どの子もあの子も、一癖二癖あって一筋縄ではいかない連中ばかりだけれど、とりわけこの子――リバイブは手に負えない。

 それは所有している粒子操作の能力だとか、彼女と知り合うに至った過去の経緯だとか、そういった具体的事柄に起因するものでは、なくって。

 

 持って生まれた元来の気質が、そもそも合わない。

 蜘蛛糸のように絡み付いてくる視線を前にすれば、否が応でもそう思わされる。

 

「聞こえなかったのかしら? 事故ですわ。それ以上でも、以下でもない」

 

「ふぅん……」

 

 少し、愉快そうに――あるいは真反対の不愉快そうに? どっちともつかない微笑みを湛えて、リバイブは指を離した。一緒に、触れあっていた身体も解いてくれる。

 

「ま、いいわ。姉さまがそうおっしゃるなら、とりあえずそういうことにしておく。

 どのみち調べればすぐ分かる事だし、ね」

 

 今度は挑戦的な笑み。無論、真っ向から受けて立つ。

 

「どうぞ、ご勝手にあそばせ。

ですが、あなたがどういった事実を知ろうとも、わたくしは『事故だ』という言葉を翻すことはありませんでしてよ。……この意味が分かって?」

 

 やや間があってから、リバイブは目を伏せると、首を横へ僅かに振った。

 

「ぜーんぜん、分からないわね。どうして姉さまが、そうも庇い立てなさるのか。

 ……力の加減もできないジャリガキ共はみんな放逐しちゃえばいいのよ。パーティキュレータは姉さまと私さえいれば十分」

 

 口調こそ淡々としたものだったが、込められた気迫は本物だった。常日頃ではないせよ、結構な頻度でこのモードに入るから、厭になる。

 

「隊員が一人では、特務隊なんて呼び名は成立しないでしょう? ワガママもいい加減になさい」

 

「はぁい……。私、先に入ってるから」

 

 あれだけ強引に誘ってきたくせに、一人でさっさと扉を開けて入ってしまう。

 

 ぽかん、と開いた口の塞がらない大尉は、たっぷり三十秒ほど遅れて、重大な事実に気が付いた。

「いやあの、わたくしの着替えは……」

 

 期待を込めて少々待ったが、その問いに答えが返ってくることは無かった。

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