しがない一転生者の徒然 作:ふなぐち又兵衛
それは、ボクが今世の故郷いわき市から、
ガイア連合の支部がある福島市に引っ越した年の冬の、ある日のこと。
当時通ってた高校は休日の上、その日は特に仕事も差し迫った用事も無かったことでしたが。
それでも福島支部の施設内をうろうろしてたボクは、
ある人が転移用ターミナルの辺りから姿を現したのを見つけ。
「黒こなさんじゃねーか!
ふたば☆ちゃんねるの黒こなさんじゃねーか!!」
思わず出してしまった──家族や友人曰く素っ頓狂な──その声に反応したのか、
こちらに視線を向けた、ボクがガイア連合入りするきっかけをくれた、
前世のアニメで観たとおりに、そしてアニメとは違う、
「そういう君はうちはアスコ」
などと、
ネコのようにぷっくりと膨らんだ口許から紡がれる平野綾ボイスで、飄々とのたまったのでした。
そして、それを聞いたボクは思わず、
覚醒して真っ赤に染まった瞳を、銀縁眼鏡越しにじっとりと
「うちはって……ボク
それに、ショタおじゼミの
「あ、そーだったの? じゃあ」
そう口にした黒いピーコートとミニスカート姿の彼女は、
左腕でありもしない背後のマントを翻すような仕草を挟み。
泣きぼくろが目をひく、ほっぺが
流れるように動かした、小さなてのひらで隠して、芝居がかった口調でほざきました。
「我が名はくろあん!
ガイア連合福島支部随一のアイス職人にして、
日々家族や友人たちと漫談を繰り広げしもの!!
……なーんて名乗っちゃったり?」
「いや紅魔族でもないってーの! それとボクは別にアイス職人でもないからあ*2!!」
──ところで誰が漫談師だっていうんですかねえ、このちんちくりんは。
──くく、人は皆、人生という喜劇を演じる道化なのだよ、
──そういえばなんでボクの名前を?
──ナギ姐さんから聞いたからねえ。
ここまでのたまった目の前のちびっこが、
にへらとした顔をほんのり真面目なものにして、
「ああ、写輪眼といえばさ」と前置きを挟んで曰く、
「片目だけでも発現しちゃったら生活しにくいからって、
普段から眼帯してる人もいるっていうよね」
「*3だら先みたいに?」
「そそ、カカシ先生みたいに」
ボクらが福島の片隅で声を揃えて「「だらしない先生ですまない…」」とか駄弁ってたその頃、
のちに星祭の人たちに
山梨の星霊神社でくしゃみをしてたかもしれません。
それはさておき、気を取り直して、この数ヶ月で日々厚くなっていく、脳内の黒札名簿を検索。
左手の薬指にささやかな輝きを視認、
親愛なる先輩のひとりである
もしくは関西支部の
この黒こなさんの同類として挙げるにはふさわしいですかね?
以前
もとい、ある程度名の知れた女のひとの黒札には珍しく、
シキガミではない男のひとの旦那さんが居るという──いや、
なんで生身の夫がいるのが珍しくなるんでしょうか、マジで。
さすがは(?)ガイア連合だわ、性癖が未来に生きてやがるぜ。
まあ、自分も今世では女のカラダを持って生まれてきたのに、
ガイア連合に名だたる女傑たちに倣って、女の子のシキガミをお迎えしたボクが、
偉そうなことを言えた義理じゃないのはその通りですが──この人の名前は、たしか。
「っと、地味子ネキ……
「掲示板でもないしカナでいーよ、
なんでって、キミんとこの
チョコレート味の天神さまを食べにきますた、だねえ」
なるほど、冬ですもんね。
そして福島県の銘菓といえば会津の天神さま、
会津の天神さまといえば冬季限定──とはいうものの、
ボクはクリスマスの頃以外に、
これをお店で見かけた試しがないんですけど……ボクの今世は、
生まれも育ちも
しかし、いくらオシャレ道は痩せ我慢と見つけたりとはいえ、
年末も近いこの時期に、学生じみたプリーツミニスカートは寒くないんでしょうか。
ボクがそこら辺のことを訊ねて、彼女が応えたところには。
「普段から着慣れてるのと、あたしの見た目と、何より
あたしがこーゆーカッコしてると、だぁりんが明らかに嬉しそうでさあ、
あたしの脚ばっかり目で追っかけてたりしてるし、ひとりの時でもつい着ちゃうよね」
だぁりんの元気いっぱいであっつくてかったくてぶっといので、
おなかのなかをゴリッゴリされながら、やさしくキスされるとね、
あー、生きててよかったー幸せーと、
もうこのまま死んじゃってもいいや、の両方が味わえてお得なんだよねえ。
まー、それを言ったら、お願いだからカナには死なないでほしい、
少なくともおれより先には、なんて真顔で言われちゃったりしてさあ。
死ぬ時はいっしょだかんね、イく時もだけど、って、思わずこっちも真顔になっちゃったんよ。
「おなかの中で、キューッてしてあげながらさあ」などと、
血の気がさした頬、細められた目元のトロけきった表情で、
臆面もなく旦那さんとの夜の営みの内容をさえずり倒すは、
見た目だけは小学校中学年の、合法ロリ眼鏡っ娘人妻(20)。
合法ロリといえば、黒髪ロングなヘアスタイルと、
合法ロリな見た目との二刀流でしたね、こやつは。
黒髪を背の中ほどまで伸ばした息子瓜二つの容姿なんていう
それぞれの【同盟】の会員証が送付されてるんでしょうか、ねえ
ボクがそんな風に見た目も腕っ節もおっかなさも特級な黒髪の美少女に思いを馳せていると、
対面している黒髪の美女、というには抵抗があるんですけどねえ、顔はともかくぺったん
まあいいや……は、のーてんきにスカートのポケットに、タコが点在する右手を突っ込んで。
「それにあたし体温高いしね、冬になるとだぁりんもすっかりあたしを湯たんぽ扱いでさあ」
ほらこんな風にと、彼女がボクに見せてきたガイアフォンの待ち受け画面には、
目元が前髪で隠れた背が高い男の人が、安らぎきった表情の彼女を抱きしめる、
俗にあすなろ抱きと呼ばれる姿勢での、ツーショットの画像が映っていました。
彼の左手には、目の前のちんちくりんとお揃いなプラチナの指輪がキラキラと。
──ああそれと、ナギ姐さんから黒井くんが地元で新しい『俺たち』……いや、
──最近だと黒札って呼ぶんだっけ? を拾ったって聞いたからさ、
──どんなコだか顔を見たくなったのもあるねえ。
ここでしばしの唸りとも呻きともつかない喉を鳴らす音が挟まり、再びネコ口が開かれて。
──なんだろ、髪と目の色のせいかなー?
──
──見た目はアストルフォくんちゃんなんだけど、おっぱいもおっきいし。
太平楽に発せられたソプラノに、ボクはついつい眉根を寄せてしまいました。
「カラーリングがおんなじなだけじゃないですかーやだー!
ボカぁあそこまでツンケンも色ボケもしてないですって」
「やーメンゴメンゴ」
「それにね、色ボケならもう間に合ってるってんですよ、
ナナコさんとかゆーとさんとか……うちのおかーさんとか」
「あっ(察し)」
しばしの沈黙、互いの眼鏡越しに交わる淀んだ視線、零れたため息が重なって。
「……あたしも、不本意なんだけど、
『エロガキな方の三馬鹿』なんて呼ばれててねえ……。
その水橋くんと、ここの黒井くんと、3人まとめて」
今度はボクが「あっ(察し)」と口にする番でした。
なんでしょう、ボクやくだんのシキガミちゃ…シキガミさん? と同じ色の髪と瞳をした、
宮城支部のお姫様も『お盛ん』なのには、なんの違いもありゃしねえはずなんですけどね。
『フダンからのふるまいのモンダイだろう、アホウが』
「誰? ねえ…!! 誰なの? 怖いよおッ!!」
唐突に響き渡るしっぶーいバリトンボイスに驚いて、
つい幼児退行してしまったボクにカナちゃん先輩は、
「ゴメン、あたしのアガシオンだわ」
と後頭部を掻き掻き苦笑い。
ミニスカートの裾からチラリと見えたゴッツいホルスターから封魔管が取り出され、
そこから姿を現したスパルトイ型のアガシオンが、器用に骨の肩をすくめました。
『まったく……アルジがマメシバのユートや、
テバサキのユーとドウルイアツカいされるのは、
ヒトマエでもヘイキでヨルのハナシをするからだぞ、とナンドイえばワかるんだ』
「さーもん」
「ゆーとさんや
そして奥さんたちは『押せばヤれる』『ヤれなくても構ってくれる』
って学習しちゃってるから、余計に調子に乗ってじゃれつく、と」
「うーん悪循環! なんちゅーか躾に失敗したワンコのごとし……!」
『アルジがイえたギリか』
「ゆーとさんがしみじみとボヤいてましたよ、
『別に現状に不満はねえ
読み物を読ませるとこからナナさんとつきあい始めた方がよかったのかも
「
あたしゃだぁりんに前世から持ち越してた不良債権処分してもらうのに3週間くらいかけたけど」
『そういうところだぞアルジ、そこまではダレもキいとらんわ』
「さーもん」
──不良債権てあーた……。
──もしくは呪いの装備さね、まあだぁりんは感激してたみたいだからヨシ!
いやヨシじゃないが。
傍らのしりょうのきしの激シブ声な念話と、ボクのツッコミが図らずも重なったのにも構わず、
カナちゃん先輩はわざわざフサフサした黒い毛皮に覆われた耳と尻尾をニョキッと生やしながら。
左腕と右脚を中途半端に持ち上げて右手で指を差す、
例の猫のポーズをとりやがったのでした、どっとはらい……いやキツネじゃねーかアンタは!!
そういえばその例の猫は、沖縄のガンギマリな先輩たちのカチコミ…じゃなくて出張先、
もとい
おまけ・ある夜の黒札女子会in草神ネキの居酒屋
「
その人の落ち込んだ顔を見ながらでねど気持ち良くならんにぇみでな、
腐れべっちょではねえのす」
「
「「私らはそんなこどしねっちぇ言っちぇンのに、
.現実とゲームの区別も付げらんにぃ、
.道南の
「ん、分がっちぇる、分がっちぇっかんに、わだすらはヒトだあ、人間だあ、っちぇな。
ちっと魂さ悪魔の
福島の黒札はハア、みんなそれを分がっちぇっかんに、
「「
「
「それはいいデスケド、もう少し豆柴ニキは、サブカルの勉強をした方がいいと思いマス」
「前提知識が足りないからネタが通じにくいしな。
……あと、豆柴ニキのお婆さんが私のことを『お
悪気ゼロなのはわかってるんだが」
「ヤッパリ極道の
「言うな」
「……きぐりあねちゃ」
「なじょした、
「オラな、今この居酒屋さ、宮城の
三馬鹿ラスのクロマのあんにゃがいねぐで、ホンドに良かっだっちぇ思っちぇる」
「んだなぃ……
「ナヒキア、マヒエリ前提のナヒエリ……うんにゃ、草神ネギ・百合ハアレム?」
「或いは菜日田おッ
それはええけんじょもハア、わだすもなあ、
顔と名前と、今世でできた友達と、その友達とやっちぇえこどが、
余りにも前世のアニメや漫画で見だ廣井きくりそのもんだったがら、
ついつい手さ
若気の至りっちぇはハア、このこどだったかもしんにわ*7」
「んだか……オラぁマシだな、きぐりあねちゃや木新あねちゃ、衿座あねちゃみでに、
『オメ原作通りでねな?』っちぇ目さ、あっちぇねえしよお」
「んだば脱いでみっが? 新潟の底辺のあんにゃみでによぉ」
「
……悪りぃ子ではねかったけんじょ、管雄あんにゃのシキガミはオラそっくりだべしよお……。
おッ母ァとオヤジさ、覚醒者用のアプリの使い方教えてだとごだったがら、
危うく吊るし上げられっちまっとごだったんだわあ。*8
だがら、管雄あんにゃには
「ああ……あんずおんばが、珍しくここさ来て、くだ巻いてだこどがあっだなぃ、
『育て方間違えたかもしんに、っちぇ思っだわ』っちぇ、
……まあ、酒を飲むだけ飲んだらハア、いっしょに来でだ
ふわふわしだ足取りでこの店出てったんだけんじょ」
「やめでけれきぐりあねちゃ、
おッ母ァがオヤジとそーゆーこどすんの想像すんなぁきもぢわりがら。
ぜってぇニタラニタラしてたっぺしよお、オラのおッ母……。
……ゆーどあんにゃオッペした*9、ナナゴさんみでに。
「あは、ごめんなんしょ」
仙桃アイスを作るようになった頃はともかく
筆者の地元ではヒス持ちというニュアンスの罵倒として使われてました(汗)
小うるさいルビまみれですまない……。
そして、タマヤ与太郎さん、
お子さんたちにギットギトの訛りを口にさせてごめんなさい。
話は変わりますが、カ行タ行がところどころ鼻から抜ける発音になるせいで、
濁っちゃうんですよね、福島県の方言で表記すると。
だから本名が『くらくさ・なひた』の草神ネキを、
『菜日田おばちゃん』と呼ぶと、
『なひだおんば』みたいな発音になる、と。
ガワがナヒーダだから、尚更ごっちゃに……(黙らっしゃい)