名無し本読み妖怪なモブですが、何故か地霊殿の主にストーカーされてます。 作:クレナイハルハ
最近はSFより異世界のんびり旅や異世界での料理系アニメ、ロマンスファンタジーに浸っています、どうも朱鷺子です。
幻想郷での生活にも慣れ、毎日をのんびりと怠惰に……怠惰には過ごしてないよね?
アルバイトしてるし、畑やってるし……。
おおよそ現代社会とはかけ離れた、悠々自適な生活に転生して本当に良かった、と感じる日々。
生きるために仕事をするはずが、いつの間にか仕事をするために生きるような暮らしとは程遠い。
電気も水道もガスもない、だけど時間に急かされないこの暮らしは気に入っている。
まぁ、不満があるとすれば見たアニメのご飯の再現難易度がかなり高くなってしまうことだろう。
当然だが幻想郷には冷蔵庫なんてない、代わりとなる氷室があるぐらいだ。
調味料だって限られてる、マヨネーズやケチャップ、タルタルソースやステーキソースなんて存在しない。
ゆえに家にある調味料は全てが自作で、全て壺に入れて氷室で保管している。
そしてもう一つの不満はゲームがないことだ。
現代っ子には中々に厳しいものだが私に本とアニメを見る事の出来る『TENSEI GIFT:Re ARCHIVE~ぷれみあむ~』があるのだから、贅沢な悩みかもしれない。
それでも、時には別の娯楽が欲しくなる。
そんなわけで、私はむんむんと考えた末、一つの答えにたどり着いたのである。
香霖堂。
それは森近霖之助が営む、魔法の森近くに建つ古道具屋。
そこでは外の世界の道具、冥界の道具、妖怪の道具、魔法の道具からよくわからないガラクタまで販売されている。
もしかしたら、そこにゲーム機があるかもしれない。
幻想郷は、忘れられたモノ達の最後の楽園。
この忘れられたモノというのは、何も人だけには限らないのだ。
香霖堂の商品達は、無縁塚と呼ばれる場所で仕入れられる。
無縁塚、噂によると外から迷い込んだ外来人と呼ばれる人間達の多くが、そこで妖怪に狙われ命を落としている危険な場所だ。
そして何も迷い混むのは人だけじゃない、香霖堂に並ぶ品……それらは、外の世界から無縁塚に流れてくるもの。
もしかしたら、そこにゲーム機がある!……かもしれない、そう思ったのだ。
それにしても、前世に存在したゆっくりな実況の主達は設定的に、皆そんな場所から生き延びて霊夢や魔理沙に助けられたり、博麗神社へ辿り着けたりしているわけだよね?
そう考えると、かなりラッキーな人達なんだと実感する。
もしかしたら、博麗神社に辿り着けている外来人は、本当にごく一部なのかもしれないし。
それにしても、本来の朱鷺子が売られた本を取り返そうとここへ来て魔理沙にボコボコにされる筈だった場所に行く事になるとは、人生は分からない事だらけだ。
可能なら行かないようにしよう、原作に関わらないよう幻想郷でも有名な場所へ行くことは避けたりしていたし。
「我ながら、現代っ子の性には逆らえないなぁ」
自嘲しつつも笑いながら呟いた。
仕方ない、だってゲームだよ?
幻想郷で遊びって言ったら花札に鬼ごっこ、めんこにカルタだ。
私の知る娯楽、日夜いつでも遊べるゲームという存在。
ゲームセンターに家庭用のゲーム機。
携帯ゲーム機にスマホ。
手軽で遊びやすいソレを知ってしまったら、離れるならまだしも、二度とやらないだなんて考えられないし耐えられない。
なけなしのお金、といってもまぁ人間の里でそれなりに頑張って稼いだ……食事のためのお金だ。
勿論、他にも色々と払うためのお金ではある。
でも私……朱鷺子は妖怪だ。
なので人間のように食事をする必要はない、こうして食事しているのは前世の名残ゆえともいえる。
だから、もしもの時は極限までこの食費を減らすことで生活費を捻出することも可能なのである。
まぁ、その度に飯テロアニメを見て耐えられなくなって泣きながら眠るんですけどね?
「いざ行かん!目指せ、香霖堂!」
そう意気込み、魔法の森へとやって来たわけだ。
徒歩で。
朱鷺子になって、この体は動かし馴れている。
でも、前世の影響か最近は飛ぶよりも歩くことが多いのだ。
飛ぶイメージはあるけど、やはり恐怖の方がくる。
落ちたらどうしよう?とか、落ちたことないのに。
背中にこんなにちゃんとした翼があるのにね。
さて、香霖堂と記された看板の置かれた建物を発見したので早速扉を蹴破る……何てことはせず普通に開いて入る。
原作の私は本を奪われた怒りでここへ現れるのだけど、私は怒っていないのだ。
「こんちわー………」
部屋の中にはアンティークな品々から見覚えのある品々が並んでいる。
奥には、白髪に眼鏡をかけた森近霖之助がお客らしき人影と雑談をしている姿が見えた。
そしてそんな彼の様子をよそに私はゲームらしき物達を探す。
それにしても本当に色々な品があるなぁ……。
うわ、薬屋の前に置かれてた象のキャラクター懐かしい。
それにこっちはダイヤル電話だ、電話屋さんや銭湯ぐらいでしか見掛けなかったから見るのは久々だ。
「こっちは……」
しゃがんで商品を手に取り品々を眺める。
気分は、前世で通っていたリサイクルショップの品を眺める感じ。
なんだか、前世を思い出して懐かしさと楽しさが出てくる。
現代社会な現世……外の世界が恋しい。
さて、ゲーム機ゲーム機……。
「ねぇ、君」
「へ?」
振り返ると、森近霖之助がすぐそばに立っていた。
な、何か話し掛けられるような事をしたかな?
そんな不安から、森近霖之助の表情を見る。
その表情は、商品への注意といった険しいものや真剣なものじゃなかった。
それはまるで、ずっと探していた人に出会えたような表情に似ているような気がした。
どうして、そんな表情をするんだろ……。
「あの?」
「うぇあっ!?すみません、勝手に商品を触っちゃ駄目でしたか?」
「いや、そこの棚の品なら構わないよ。それより、本を探しているのなら、あちらにあるけれど」
そういいながら指差された。
そういえば、記憶を思い出す前の私はここでも本を何冊か買っていたっけ?
そんなに通って買うようなことは無かったけど、顔を覚えられてたとは……。
「あはは、今日は本じゃないものを探してて……」
そう言いながら、若干の気恥ずかしさから目をそらした先。
棚の隅に、小さな灰色の機械が置かれていた。
……いや、待って。あれって、まさか──。
私は恐る恐る手を伸ばし、それを持ち上げる。
見覚えのある形に見覚えのあるボタン。
そして、背面に刻まれた文字。
『Nintendo』
「……うそ」
思わず、息が止まった。
「うそでしょおおおおっ!?」
そこには、前世で世界中の人を熱中させたであろうゲーム会社のロゴらしきものが見えた。
「ぇえ!?まさかこれって!」
そういいながら手に取ったソレにはしっかりと刻まれている。
その文字は『ゲームボーイ』。
偶然か必然か、そんなゲーム機の近くには何らかのゲームソフトであろうカセット、そして100円ショップで並ぶような包装のされた電池が置かれていた。
「わぁ!」
ゲームボーイ、知る人ぞ知る名作ゲームをいくつも遊べるゲーム機だ。
しかも充電器がいらない、乾電池での交換方式。
これならば幻想郷でも遊べる!
「───ふふ」
そんな笑い声が聞こえて意識がゲーム機から離れた。
そういえば、森近霖之助に話し掛けられてたんだっけ?
彼が居た場所へと視線を向ければ、彼は手を口許に当てて微笑んでいた。
「えと、何か変ですか?」
「いや、何でもないよ。それが気に入ったようで何よりだ」
「そ、そうです!これ!これ買います!」
「会計は────」
こうして私は、この幻想郷というアナログ世界でゲーム機を手にすることが出来た。
暫くはご飯、抜かないといけないけどね。
幻想郷ということで、ゲームボーイ達はそれなりに高かったのである。
とほほ………
と肩を竦めながらゲームボーイを起動して現れたのは、これまた世界でも大人気のゲーム製作会社の名前。
そして現れる二つの影と、バトルBGM。
「まさかまさかの……初代のポケモン!!」
ゲーム機を天井へと掲げながら私はテンション高らかに、今世初の懐かしきゲームを堪能したのだった。
買った商品を胸に抱いて、まるで幼子のようなあどけない笑顔で帰っていく彼女の姿を見送った僕は椅子に腰かけ、彼女が浮かべていた笑顔を思い出す。
「ふふ、本当に変わらないな。君は……」
好きなもの、特に新しい本の類いを見つけたときの彼女は、決まってあのような笑顔を浮かべていた。
妖怪とは思えないほどに幼く、恐ろしさなど感じないほどに可愛らしい。
そんな彼女の表情一つ一つが愛おしく、懐かしい。
僕、森近霖之助は、一度目の生を終え、再びこの幻想郷に生を受けた。
そして、前の人生の記憶をすべて抱えたまま、もう一度、森近霖之助として生きている。
こう説明すると、彼女が好んでいた本の一つにあったあらすじのようにも感じる。
話せば、空想や妄想の類いだと思われるかもしれないがこれは事実だ。
僕は一度、森近霖之助として生を受け幻想郷で人としての一生を過ごした。
数々の異変とその解決に動く博麗の巫女である博麗霊夢と霧雨魔理沙達を見てきた。
別に、殺された復讐心や強い後悔があった訳じゃない。
病死でも、事故死でもない。
生き抜いた寿命での死。
満足していた、自分の生きていた一生に。
『霖之助さん』
脳内に過る記憶で、彼女がそう言いながら優しい笑みを浮かべていた。
僕の一生に寄り添ってくれた存在がいた。
それは伴侶……妻である彼女……朱鷺子。
出会いは覚えていない、でもうちの店に本を買いに来る彼女にいつしか惹かれていた。
本を手に取り、読み進めるその表情に惹かれた。
ワクワクする本なのか、その瞳に星でも宿しているのではないかと思わんばかりに目を輝かせる。
面白かったのか、ニマニマと笑みを浮かべながら本のページを捲る姿。
悲しいストーリーなのか、その瞳に涙をためながらページを捲る姿。
そして、新しい本に出会ったときの無垢な笑顔。
気付けば、彼女に恋をしていた。
そして彼女に想いを伝え、僕ら夫婦となった。
楽しかった。
彼女と共に過ごす日々が、共に店を経営する時間が。
でも、僕は忘れていた。
彼女……妖怪と人間の寿命が大きく違うことを。
僕が年老いていく一方で、朱鷺子の姿はほとんど変わらなかった。
当たり前だ、妖怪は歳を取ってもその姿は変わらない。
最後の最後まで、彼女はそばにいた。
でも僕は彼女を一人残していくことに少しだけ悲しみと悔しさを感じていた。
老いていくことの悲しみを、身をもって知った。
『霖之助さん、人は永遠に生きられないの』
『どうしたんだい、急に?』
『人は限られた時間を大切に、一生懸命生きる。その強さと儚さ、美しさに私たち妖怪は、どうしようもなく魅せられてしまうの』
『妖怪から見て、人間はそのように見えているのか……』
『そうね、ふふ!でも博麗の巫女や貴方のお友達さんは、どうしてか儚さは感じないけどね、あんなに強くて頼もしいんだもの』
『はは、確かに魔理沙に儚いなんて言葉は似合わないな。どう見ても儚くはない、儚さで言うなら本を読んでいる君の方が儚さでは勝ってるさ』
『あはは、それ喜んで良いのかしら。霖之助さん……最後まで私に魅せてね。私が、遠くにいかないように』
そう言って笑う朱鷺子の笑顔は、少しだけ悲しそうだった。
でも今になってわかる。
彼女は僕よりも分かっていたのだ。
人間と妖怪の寿命の違い。
人間と妖怪のハーフである僕は、普通の人間よりも長く生きられる。
だから考えていなかった、想像よりも彼女といられる時間が短いことを。
最後、命という灯が消える瞬間。
僕を見て泣きながら『いかないでっ!』と洩らす彼女に、最後になって分かったのだ。
遠くに行って欲しくなかったのは、君だったのか。
それを理解して、最後の一言だけ話そうとしたことを覚えている。
口に出せたか分からないけれど、言おうとしたことは覚えている。
『僕は、君の側に───』
─僕は、君の側にいるよ──
もし、来世というものがあるのなら。
もう一度、君と過ごしたい。
そうして、胸のうちにある灯が消えて僕という人の一生を終えた。
でも、気付けば僕は僕として幻想郷にいた。
目を覚ましたとき、僕は再び森近霖之助として生まれていた。
前の人生の記憶は、何一つ失われていなかった。
もう一度、幻想郷で生きられる。
そう知ったとき、僕が最初に願ったことは何だっただろう。
……決まっている。
もう一度、彼女に会いたい。
それだけだった。
そして今日、香霖堂に現れた彼女は昔と変わらない笑顔で、本ではなく見慣れない機械を抱きしめていた。
─────でも。
「……本当に、変わらないな」
あの笑顔だけは、変わらなかった。
今度こそ、その笑顔を長く見ていたい。
そう思いながら、僕は彼女が帰っていった扉を見つめていた。
「やっほーこーりん!遊びに来たぜ!」
「はぁ、本当に……儚さは感じられないな」
「なにぃ?この霧雨魔理沙様はどう見たって儚いだろ!明日にも消えそうな笑みだってなー!」
「はいはい、ところで何をしに来たんだい?」
「実は前の異変を解決してから八卦炉が少し変で──」
こうした日常も、本当に良いものなのだと、そう思う。
彼女が笑っていて、魔理沙が騒いでいて、香霖堂にいつもの時間が流れている。
失いたくないと思える日常が、今ここにあった。
ピロン!
「色違いキター!ヤッホーイ!!」