妖精の尻尾の魔女 作:外からのお客様
イシュガル大陸に存在する人口一千七百万の永世中立国。
そこは魔法の世界であり、魔法は普通に売り買いされ人々の生活に根付いていた。
そして、その魔法を駆使して生業とする者共がいる。
人々は彼らを【魔導士】と呼んだ。
【魔導士】たちは様々なギルドに属し依頼に応じて仕事をする。
依頼内容は探し物から魔物討伐など多岐に渡る。
ギルドは国内外に多数乱立している。
フィオーレ王国東方にある商業都市マグノリア。
そこにはかつて、いや後々に至るまで数々の伝説を生みだしたギルドが存在する。
妖精に尻尾はあるのか? 無いのか? 永遠の謎。故に永遠の冒険。そしてその冒険の中に帰ってこられる場所を意味したギルド。
その名を【
一癖も二癖もあるが優秀な魔導士を多く抱えるそのギルドの中で殊更鬼才を放つ傑物がいた。
名を「モルガン」。魔導士ギルド【
これは、そんなギルドで幸せになるとある國の元女王陛下に成り代わった人のお話。
めでたし、めでたしで結ばれるまでのちょっとした冒険譚。
「……転生したらTSしてモルガン陛下だなんて聞いてない!! 俺は夫じゃなくて純粋に陛下の臣下になりたかったのに!!!」
ソレが発生したのは恐らく世界の自浄作用のようなものだ。
ある世界からしたら実に羨ましいことことの上ない悩みだが、魔力に溢れ、神秘が色濃く残りすぎたその世界。
人の立ち入らぬまさしく秘境では、いたずらに空気中のエーテルナノだけが増加していき、ついにソレは一つのカタチを持った。
「……んっ。ここ、は?」
平行世界、とも言えない遠く離れた枝の先にあった葉を参照されソレは産まれた。
ソレは、増していくばかりのエーテルナノの危惧して生み出された偶然の産物でありながら、星の上を無遠慮に穢す人に対する防衛機構、まさしく惑星の分霊であった。
「あれ? なんか随分と澄んだ声だな」
奇しくも人跡未踏の地で、天を衝くほどの大樹と美しい泉の傍で、何処の物語の様にソレは誕生した。
「え……嘘だろ?」
覚束ない足取りで泉まで近づいたソレは、自身の出で立ちを見て驚愕する。
一糸まとわないあられもない姿に驚いたというのももちろんある。しかし、その少女のような顔、その瞳、その垂れる稲穂がごとき美しき金糸の髪、そして何よりも自身が発するその声に覚えがあった。
「は? なんの冗談? アルトリア顔? いや、違うこの声ってへい、か?」
しばし、ソレは発狂する。
自身の身にある人の男として生きた記憶。魔力などもなく平凡に生きた。
しかし今のソレは人というには余りにも強大で、一呼吸し胸が鼓動するたびに莫大な魔力を生み出し、思考するだけでその力は神秘、すなわち魔術いやこの世界では魔法と呼ばれる形となり、世界へと表出する。
大地を隆起させ、森を焼き、泉を凍らせ、風は荒む。
正しく天変地異とも見えるような力の暴走がそこにはあった。
あたり一面を文字通り平らにしてしばらくして、それは正気に戻る。
いや、成長するにつれ身に着けてしまった諦めという手法で余計なものを削ぎ落していった。
「……ごめんなさい」
誰も人はいなくとも広大で幽玄な森の動植物たちに謝罪する。
罪悪感と申し訳なさを感じていると、ゴゴゴゴという地響きが轟く。
驚いていると、歪に隆起させられたり陥没させられた大地は均され、木々の内で仄かに燃え残った火は消され、そして木々がソレの発する魔力をもって再生していく。
「はは……。良かった」
改めて自身がヒトという範疇から逸脱した現実に思わず笑いがこぼれてしまう。
「うん。クヨクヨしててもしょうがない。ココが何処でなんなのか確かめないと」
そうして、ソレは旅に出る。何も理解できないまま。
一歩踏み出すたびに木々が体に僅かばかり絡みつき、少しすればスルっと解けていく。
樹木がほぐされ、編まれていく。拠り所もなかったソレにとってはどうしようもない程愛おしい祝福に思え、少しだけ涙がこぼれる。
そして、いつしか見覚えのある服を身に着けていた。
「よし! うん。……誕生日おめでとう俺。あー、うんやっぱソレだよな。おめでとう。おめでとう」
少し強張って言葉が詰まる。
なんとか漏れ出そうになる弱音を飲み込んで、借り受けたその出で立ちの主から少しばかりの勇気を分けてほしくてソレは大きく声に出し、口にする。
「おめでとう! 誕生日おめでとう! トネリコ!!」
そうして、そうして時代は流れる。
ここは、あの救いようも、先もない。しかし、黄昏の空が美しい國ではないことは分かった。
――じゃあ、なんで俺はこの姿なんだよ。
ここは、自身が知る世界ではなかった。魔法が生活に根付く見知らぬ世界だと知った。
――なのに、なんで俺だけこんなにも異質なんだ。
多くの出会いがあった。
同時に多くの別れがあった。
特質する天稟も、未来を見通すほどの叡智も、かつてのソレは持ち合わせていなかった。
ソレは正しく人であったがゆえに。人の善性を喜び、悪性に泣く、どこまでも無垢な子供のような人であったがゆえに「トネリコ」が持つ眼はソレを蝕んでいった。
金糸の髪はいつしか白くなった。背丈は伸び、肢体も美しく成長した。
肉体は美しくなれども、その表情は氷のように固まっていった。
成長はあれど、老いを感じない肉体。
いつしか時間感覚も麻痺していった。
自身が存在する理由はとうに見当たらなかった。ここが自身が知る國でないのなら、「救世主」も「女王」も必要ではない。
あてもなく流浪する。
旅の果てに、花の名を多く関する国に立ち寄った。
白く、慈悲の言葉を持つ花と同じ名前の街。
水路が引かれ、行き交う船に活気のある人々。
広く美しく整えられた大通りを進んでいく。
いつしか、大きな協会にも見える建物に出会った。
それが始まり。
めでたし、めでたしで結ばれるまでのちょっとした冒険譚の始まりだ。
ありていに言うと、そうだな。そう。
――――その日、ソレは運命に出会う。