石化王に帰る国はない 〜 目覚めた王は、盟友と新世界を駆け抜ける   作:裃 左右

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長く読んでくださってありがとうございます!
総合評価も、350点を超えまして、皆さんが応援、評価をくださっているおかげです。

読んでくださっていることや、評価、お気に入りに入れてくださることが、どれほど力になっていることか……
正直、硬い文章である自覚はありますので、皆さんよほどの読書家の方なんでしょうか。
いつも、励まされています。ありがとうございます。


第35話 燻り狂える白獣

 リューファスたちは瞬時に構えを取った。

 

 静寂に包まれていた闘技場が、燻り狂える白獣(バンダースナッチ)の不快なうなり声とともに緊張を爆発させた。

 

「避けろ!」

 

 リューファスの声と同時に全員が四方へ飛び散る。鋭い爪が石畳を砕き、破片が飛び散った。

 白獣は巨体からは想像できない軽快な動きで跳ね回り、爪を振るい、首を伸ばして噛みつこうとする。

 

 ダムとディーは背中合わせになり、茨の棘槍を構える。

 

「これ、やばいやつよね?」

「そうね、ダム。やっぱり、お茶の時間にはならなかったわ」

 

 白獣の動きに目を奪われたマルシャは、動揺を隠せない。

 

「ご先祖様がまだここに……そんな、ならお兄様は」

 

 その瞬間、白獣が狙いを定め、地を蹴った。

 

「ああっ!」

 

 足をもつれさせたマルシャを見て、メッツァは反射的に動いた。彼女の肩を掴み、脇へ押し出す。

 

「メッツァさんっ!?」

 

 兎人の娘マルシャの悲鳴が響く中、白獣の爪がメッツァの腕をかすめた。鋭い痛みが走るが、魔布が肉が抉られるのを防いだ。

 

「僕に構うなっ! 走れ、マルシャ!」

 

 メッツァは叫ぶと、反撃に魔弾を射出して牽制する。

 虚数演算宝珠がエメラルド色に輝き、魔弾が幾重にも射出される。が、白獣が唸り声をあげると、魔弾が空気中に霧散していく。

 

「術式干渉かっ、生半可な魔術は通用しない」

「下がれ、正面は余が取る」

 

 リューファスが剣を構えて、白獣の眼前に立ち塞がる。その目には一切の恐れがなかった。

 

 白獣は、メッツァやマルシャと言った後衛戦力に狙いを定めてくる。誰かが惹きつける必要があった。

 

「来い、化け兎めっ!」

 

 リューファスが一歩踏み出すと、白獣は全身の筋肉を震わせ、低い唸り声を発した。獲物を確実に仕留めるタイミングを計っているようだ。

 

(気のせいか? ……剣士を相手にしている気分になる)

 

 名刀タリアエルバを突き出しながら、さらに挑発的に前へ進むリューファス。

 白獣は応えるかのように地を蹴った。音速に近い速度で間合いを詰め、巨大な爪が振り下ろされる。

 

「甘いっ」

 

 リューファスはその動きを読み切り、寸前で横に跳んだ。

 爪が地面を裂き、砂埃が舞い上がる。彼はその隙を見逃さず、白獣の側面に剣を叩き込む。

 

 ――が、硬質な音色が響くだけだった。

 

「何という硬さか」

 

 名刀は白獣の毛皮を裂いたものの、皮膚に傷をつけるのが精一杯。返り血すら飛ばない。

 リューファスは何度か切り結んで気付く。この怪物は、妙に首を狙ってくる。

 

「だが、どこか覚えがあるな、この動き」

 

 こんな怪物を相手にした経験はないはずだが、戦士としての勘は、癖や息遣いに攻撃を捌けるだけの既視感を見出していた。

 

 リューファスと連携を取るように、双子姉妹が槍を構えながら走り出した。

 彼女たちの狙いは白獣の横腹。鋭い一撃を加えても、やはり槍先は僅かに表面を傷つけるだけで、反動で弾かれている。

 

 有効打を見いだせない中、メッツァは必死に、状況を見極めようとしていた。

 合間に聖女リリーが、念のためにメッツァの傷口を見る。

 

「筋肉の層で止まってますね。蘇生は信者限定ですが、止血程度ならお布施をくだされば軽く治療できます」

「請求はあとでまとめて言って!」

 

 メッツァは白獣の動きやその形態をじっくりと観察する。

 

 俊敏な動きと鋭い爪、硬い毛皮。解析眼鏡の結果、白獣は巨体ながら柔軟な筋肉と軽量な骨格を持ち、毛に魔力を宿すことで防御力を高めている。

 

「こんなの、跳ねまわる戦車じゃないか。動きが激しいから、爆裂術式を下手に使うのも……」

 

 それでも前衛たちが有効な攻撃を模索する。

 

「リューファス! そのまま惹きつけて!」

 

 ダムが叫びながら、横から茨の棘槍を突き出す。槍の先端が白獣の脚を狙うが、獣はそれすらも鋭いジャンプでかわす。

 

「素早いっ。ディー、サポート!」

 

 指示に応じ、ディーが空間に茨を解き放ち、捕縛しようとする。茨は白獣の胴体を狙い一直線に飛ぶが、獣は吠えて術式に干渉すると茨を焼失させた。

 

魔術減衰(レジスト)された! ダム、効かない!」

 

 全員が戦っている間に、アラクネのマフェットが白獣の死角から飛び込み、蜘蛛足で狙いすました一撃を繰り出す。白獣の右脚を掠めた刃が僅かに皮膚を裂き、血の一滴が床に落ちる。

 

「あらぁ、なぜか攻撃が通ったわ」

 

 にんまりとマフェットが微笑む。

 しかしその瞬間、白獣は驚くべき速度で振り向き、マフェットに向けて唸り声を上げる。一撃は深く切り裂くには至らなかったものの、その怒りを引きつけてしまった。

 

「させるか!」

 

 リューファスが咄嗟に獣とマフェットの間に割り込み、剣を水平に振るう。

 金属と爪が激突し、火花が散る。その衝撃でリューファスは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。今度はやはり、刃が通らない。

 

 仲間の悲鳴が響く中、ようやくメッツァは声を張り上げた。

 

「そいつは魔力減衰と防御術式が両立しないぞ!」

 

 虚数演算宝珠がエメラルド色に輝く。

 

 魔弾が手のひらから射出されると、白獣の硬い毛皮を撃ち抜くように炸裂した。白獣が一瞬動きを止める。

 

「やはりそうか……防御に魔力を回している隙なら、攻撃術式が通る! しかも、硬化と機動力も両立しない」

 

 メッツァの分析に全員が反応する。リューファスは壁から立ち上がり、剣を構え直した。

 

「なるほど、ようするに攻撃を分散させて奴の処理能力を疲弊させればいいんだな?」

「その通りだ、リューファス。飽和戦術を仕掛ける」

 

 メッツァが叫ぶ。

 

「みんな、攻撃を仕掛けろ! 防御術式を使わせるんだ!」

「よし、任せて」

 

 ダムが笑みを浮かべると、槍を高く掲げ、ディーとともに白獣に突撃する。

 

 マフェットも再び蜘蛛足を構え、蜘蛛糸を張り巡らせながら白獣の動きを封じる準備を整えた。一方で、兎人の娘マルシャは弓を構える。

 

「ごめんなさい、ご先祖様!」

 

 白獣は俊敏な動きで翻弄しようとするが、同時に繰り出される攻撃を避けきれない。

 苦肉の策で、防御術式を発動させた瞬間、メッツァはその隙を狙って魔弾を放つ。

 

「今だ、畳み掛けろ」

 

 魔弾が白獣の肩を撃ち抜き、獣の咆哮が轟く。同時にマルシャの魔力矢が炸裂し、白獣の動きがさらに鈍った。

 

「――心得た」

 

 リューファスは地を蹴り、白獣の動きが鈍った隙に一気に跳び上がる。全力で名刀を叩き込んだ。

 白獣の悲鳴が響き渡り、その巨体が大きく揺れる。

 

 防御を貫かれたことを悟った白獣は、勢いをつけて振り払おうとする。リューファスは必死に踏みとどまり、名刀タリアエルバをさらに深く押し込む。

 

「に、が、す、かぁあああっ!」

 

 このまま決着がつくかと思われたその時、戦っていた一同に向かって、無数のネジと歯車が弾丸のように殺到した。

 金属の嵐が戦場を切り裂き、仲間たちは散開して防御姿勢を取らざるを得なくなる。

 

「くっ、これはなんだ!」

 

 リューファスが叫びながら地に転がり、迫る攻撃をなんとか回避した。

 

 その音と同時に、闘技場の暗がりから影が一つ現れた。赤い帽子から覗く口元が、歪な笑みを浮かべている。名状しがたい、捻じれた時計塔な帽子が揺れた。

 

「カチカチカチ……歯車は時を刻み、ネジは運命を締め上げる。ああ、陛下。型遅れの用済みよ。目覚めたばかりというのに、吾輩の悲喜劇にご臨席を賜りまして、これは何より光栄でございます」

 

 レッドキャップの首領、狂帽師。異形のゴブリンはひどく耳障りな奇妙な声で嗤う。

 

 歯車が宙を舞う中、狂帽師の指先が不規則なリズムを刻むように踊る。その動きに合わせ、無数の金属片が、まるで狂った管弦楽のように軋みながら震えていた。

 

 リューファスは対抗しようとするが、手負いの燻り狂える白獣(バンダースナッチ)は自分に深手を負わせた男を、逃がそうとはしない。

 

 一方、怪我を負ったダムは、態勢を立て直そうとしたが、目に入った光景にすぐに動き出す。

 

 迫りくる細身の白兎騎士。

 

 狙いは明らかだ。先ほどの攻撃で、聖女リリーの身体には、ネジや歯車と言った金属が突き刺さり、浅からぬ傷を負っていた。きっと今襲われたらひとたまりもない。

 

 ひと跳ねで、白兎の騎士が水晶のように透き通る大剣を振りかざし、飛び込んで来たのが見える。ダムは茨の棘槍を突き出し、迎え撃った。

 

 槍と透き通る大剣。僅かに拮抗するが、剣戟を交えるにはいたらず、あっさりと返す刃で胴を切り裂かれた。

 

「ダムっ!?」

 

 妹のディーが叫び声をあげる。

 

 目の前に映ったのは、身体を両断された姉ダムだった。血しぶきが上がり、胴体と足が分かれて宙に舞った。




燻り狂える白獣(バンダースナッチ)
 古き兎人の伝承に謡われし白銀の巨獣。
 兎人の隠れ里では、子供たちに言い伝えられる。
 「満月の夜、長き耳を持つ影を見たなら、決して近づいてはならぬ」と。
 その姿は美しく、されど狂おしい。白銀の毛並みは月光に輝くが、その瞳は混沌を宿す。

 古老は囁く。 「あれは我らが誇りし英雄の成れの果て」と。
 かつて英雄と呼ばれた存在が、今は狂気の檻に囚われている。
 ただ、月下に響く悲痛な咆哮だけが、その哀しみを物語る。
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