石化王に帰る国はない 〜 目覚めた王は、盟友と新世界を駆け抜ける   作:裃 左右

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ありがとうございます、「お気に入りだよ」って言ってくれてるみたいで嬉しいです。
今年中に、一章を終わらせるつもりだったのに、年末になりそうですね。
みなさん、寒くなって来たので、お身体、ご自愛ください。


第39話 怨敵の名を呼ぶ

 有角の兎人。

 それは白兎騎士ハレが、兎人族の中でも抜きんでて特別な存在であることを示していた。

 

 かすかに伝承に伝わる。

 特別な力に覚醒したある種の兎人族は、真に力を振舞う時、その額に角を宿す、と。

 

「終わりだ、冒険者ども。そして――マルシャ、我が不肖の妹よ。貴様だけは生かしておかぬ!」

 

 その一言が、マルシャの心に突き刺さった。

 二人の間にあった絆は、今や血で染まった憎悪に変わっていた。

 

「違う、兄さん。こんなこと、わたしは望んでない! わたしは兄さんを止めたかっただけ!」

 

 マルシャの叫びは虚しく響くだけだった。

 それでも、マルシャは諦めたくなかった。

 

「この人たちはこんなに強いんだよ、ちゃんと誇りも優しさもあるっ。ゴブリンなんかじゃなく、この人たちと一緒にジャバウォックを倒した方がいいに決まってる!」

「……ヴォーパルの悲願は。この私の望みは、不毛な宿命をこの代で終わらせることだッ! あのレッドキャップの首領ならば、それが出来る」

「だとしてもっ!」

「何も背負わずに済んだ貴様に、何がわかる!」

 

 蒼天を切り裂く剣が振り下ろされようとした刹那――。

 

「ずいぶんと大層な剣だな。いつから伝わっている剣だ?」

 

 リューファスの堂々とした剣が止めた。

 激しい衝突音。間合いが縮まると同時に、ヴォーパルブレードとタリアエルバが交差し、その衝撃は周囲の空気を震わせる。

 

 ハレの剣は鋭かったが、リューファスは一歩も引かず、むしろ余裕さえ感じさせた。

 

「盛り上がっているところ悪いが。態勢は整えさせてもらったぞ」

 

 その背後に回復したリリーと蘇生したダムが控えていた。

 

「ちょっと。マフェットー、貴女が作ったスーツだけど、簡単に真っ二つにされちゃったよ?」

 

 蘇生されたばかりのダムは、消耗した表情を浮かべていたが、戦意を失っていない。

 自分を殺した相手を目の前にしても、揺らぐ様子はなかった。

 

此方(こなた)の傷は治りましたが、血が足りません。造血剤投与済み」

 

 聖女リリーは相変わらず、人間味の薄い言動をしているがそれが平常運転と思えば、一同に頼もしくすら映る。

 

「ダムっ!」

「ディー、無理かけてごめんね。でも、お返しは茨の流儀で見せる」

「……そうね、ダム。ディーもそのつもり」

 

 戦意が高まる。

 リューファスが加われば、勝利は揺るがないと全員が確信していた。

 各々が陣形を組んで、適切な距離から武器を向ける。

 

 しかし、ダムが命じたのは、ここで戦うことではなかった。

 

「なにしてるの、みんな。退くよ」

「どうして、ダム。茨の流儀を果たすんでしょ?」

「やり返すのは、あの兎にじゃない。それに他人の獲物に手は出さない主義」

 

 自分を殺した相手であるハレに対して、ダムはこだわりを見せなかった。

 恐れたわけでは無く、これ以上戦うのは自分たちパーティの領分ではないと言う冷静な判断を見せる。

 

 満身創痍のディーと、マフェットは呆気にとられた。

 

「でも、マルシャはやるべきことをしなさい」

「……やるべきこと、ですか」

「そう。後悔はしないように、ね。身内の悔いは残ると長いよ」

 

 マルシャは、剣を交えようとしているリューファスと兄であるハレに目を向けた。

 

 闘技場の上空では、荒ぶっていたネジや歯車の気流は、急激に力が弱まっている。

 敵の術式が破裂音を放ちながら、自壊しているのが見て取れた。もう、不意を撃たれることも、邪魔が入ることもないだろう。

 

「どうやら、メッツァがやってくれたらしいな。形勢逆転と言うわけだ」

 

 不敵にリューファスは笑う。

 メッツァはすぐに状況を判断して、自分が為すべきことをしてくれた、と

 

 対照的に、白兎騎士ハレはオーラに満ち溢れながらも、表情が失われていた。

 

「狂帽師め。そうか、あんな子供に敗れたか。大口を叩いていたが、なんと無様な……いや、この私もとやかくは言えんか」

「降伏したらどうだ? この先に邪竜がいるなら、余とて力は温存したい」

「怨敵ライ・ユーファスを目の前にして退け、だと? 笑わせる、貴様を見逃すことも、共闘することもないッ!」

 

 水晶の剣、ヴォーパルブレードから気が解き放たれた。

 手先を捻り、巧みに競り合いから、切り返しと繋げる一連の技。放たれた袈裟斬りがよく伸びる。

 

「――返し斬り。崩しに入る気だったのだがな」

 

 想像以上に、長い間合いの技だったが、確かにリューファスは見切った。

 

「そう簡単に、余の首はやれんぞ」

「それはどうかな」

「なんだと、ぐっ!?」

 

 途端、リューファスは肉体から血を吹きだす。

 

 リューファスは完璧に防ぎ切ったつもりだったが、青水晶の剣から発生した剣波が身体を切り刻んでいたのだ。

 刀身を受け太刀したとしても、発生する剣波が防御をすり抜けている。

 

「嘘っ! リューファスが!?」

 

 思わず、ダムが声を上げる。

 600年の眠りから覚めてから、リューファスは初めて血を流した。

 

 今までの戦いで、乱戦のさなかでも、リューファスがまともにダメージを受けた姿を誰も見たことが無かった。

 

 迷いを振り切り、研ぎ澄まされた殺意が、白兎騎士ハレからひしひしと伝わってくる。

 

 対するリューファスが握るは、名刀タリアエルバ。兎人族由来の名刀ではあるが、邪竜を殺すほどの特別な力はない。

 比べて明らかに、ヴォーパルブレードなる青水晶の剣は、その出自が異質であった。

 

 しかし、敵より格が落ちる武器で戦うのは、リューファスにとって初めてではない。

 

「フフ、妙な気分だな」

 

 感慨深そうに、リューファスも剣を正眼に構えて応じる。

 

「祖国が滅び、我が名を600年経っても覚えていたのは、敵だけだったとは、な」

 

 ようやく、他者から己の名を聞いた気がした。

 ライル王と、間違った名が歴史に刻まれて、真の名は語り継がれなくなり。名乗りに応じるのは、殺した敵の子孫。

 

 互いに構える剣は違えども、白兎騎士ハレの姿は間違いなく、ヘイヤ・ヴォーパルを思わせた。

 

「認めよう、ヴォーパル。その名は我が宿敵である、と。……来い、ハレ・ヴォーパル。あの日の続きだ」

「貴様に認められても、嬉しくもないが。父祖ヘイヤは貴様との再戦を望んでいたと言う。怨敵ライ・ユーファス! その首を一族の墓前に手向けてやる!」

 

 ハレの叫びに呼応するように、空間を震わせる闘気の波動が広がる。




有角の兎人(アルミラージ)
 有角の兎人、アルミラージ。
 東天染める暁光、女神エオストレの寵愛が角に宿る。
 あらゆる獣が彼の者を恐れ、その剣を前に、邪竜ですら身を潜める。
 兎人王国に伝わる最高の誉れ、されど最も過酷な宿命の体現者。
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