石化王に帰る国はない 〜 目覚めた王は、盟友と新世界を駆け抜ける   作:裃 左右

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聞いてっ、聞いてっ! みなさん!

UA50,000超えましたよっ! やったぁああっ、ここまで来ましたね!
そして、お気に入り人数1,000です!

すごいですよね、こんなところまできちゃいましたよ……。うわー。

でも、ハーメルンの読者さんとなら、まだまだ頑張れますよね!
次は、UA6万、お気に入りも2千を目指して、どんどん面白いの書けたらいいなっ♪

とりあえず、お祝いです!


第3話 紫煙の古都ソダルムス

 一行は門をくぐり抜けた。

 そこには雑多な活気に満ちた市場が広がっている。

 城壁を背後に、色とりどりの布を張った露店がひしめき合い、商人たちの威勢のいい呼び声と、旅人や地元民の声が絶え間なく響く。果実酒の甘やかな香り、獣肉を焼く脂の匂いが鼻腔を突く。

 

 その賑やかな景色を横目に、外れの広場に停車。

 

 そこは旅人たちが乗り物を停めるための空間となっており、大小さまざまなゴーレム車両が所狭しと並んでいた。

 荷車をゴーレムに牽引させる馬車型のもの。ハリネズミのように武装が突き出た、戦場を駆ける要塞のような豪奢な車両。鉄板や砲台を無理やり後付けした、まるでヤドカリのような異形の改造車両まである。

 本来は戦闘とは無縁の車まで、無理に武装され戦場に駆り出されているのが見て取れた。

 

 リューファスは興味深げに周囲を見渡し、ポラカントから降り立つ。メッツァもそれに続いて、辺りの様子を観察している。

 

 すると、警戒にあたる歩哨が鋭い視線を向け、声をかけてきた。

 

「目的は?」

 

 魔導武器を携えた歩哨のコートには、所属を示す腕章がついている。どうやら彼らが広場の警護を担っているらしい。

 

「大学から来た調査員だよ。これが身分証」

 

 メッツァが証明書を差し出すと、男は軽く目を通し、無愛想に顎をしゃくった。

 

「ふむ、ご苦労なことだ……。車両の安全を保証してほしければ、ここにサインを」

 

 差し出された紙に目を落とし、メッツァはさらりと内容を確認する。形式的なやり取りを交わしながら、多めに金を渡し、一筆を走らせた。

 そのまま歩哨たちと別れ、場を離れるメッツァ。リューファスもその後を追いながら、低く問いかけた。

 

「この辺りは、国家としての体を成していないはずではなかったのか。信用できるのか、あのような連中」

「町を仕切る顔役たちが、一応の秩序は維持してるのさ。ただ、直接動くのは彼らじゃなくて、傘下の人間たちだけどね。辺境の警固番役(けいごばんやく)というやつさ」

 

 警固番役。怪物や蛮族の襲来に備え、一定の勢力に防衛の責務を課す制度。古今東西、珍しいものではない。

 

「ならば、あの者らは何者だ?」

「大手の冒険者事務所や企業かもしれないし、地元の武装勢力の可能性もあるね」

「ムっ、そんな連中にポラカントを任せるのか。余の可愛いアルマジロを」

「だから、その呼び方やめてってば。もしポラカントが学習したらどうするんだよ」

 

 リューファスは不満げに腕を組むが、メッツァは軽く肩をすくめるだけだった。

 

「僕が高い金を払うのには理由があるんだよ。さっきサインした紙は、契約教会が発行した簡易契約書さ。僕たちが彼らのルールに従う限り、向こうもこちらの財産を守る義務がある」

「契約教会だと?」

「契約を保証することで金を稼ぐ組織さ。彼らの発行する契約書には、魔術的な拘束力が付与される」

「また、実利教会か。以前、契約対象者を蘇生させるという蘇生教会なる組織には遭遇したが……よもや、あんな紙切れにそんな力があるとは」

 

 リューファスは、思考を巡らせる。

 

 実利教会――特異技術を独占し、金銭や服従、信仰を集める新興勢力。

 古の時代には存在しなかった技術が、今や当然のように社会に浸透している。その事実が、リューファスにとってはどうにも不快だった。

 

(実利教会の持つ、特異技術にはどこか得体のしれない気持ち悪さがある)

 

 ふと、咳が漏れた。

 町の空気は悪い。密集した生活臭に加え、あちこちから噴き出す紫の煙が喉を刺激し、ヒリつかせているのだ。中には、マスクをつけている住民すら見かけるほどだ。

 生活の燃料から出る煙にしては、やけに嫌な感じがする。

 

「メッツァ。この煙は……」

「ねえ、旅行ガイドブックによるとさ。こんな場所でも、美味しい食事のとれる宿があるみたいで」

 

 発言をかき消すように被せられ、リューファスは訝しげに眉をひそめた。

 

「余は、あの煙について尋ねているのだぞ」

「川魚のフライ、サーモンのクリームスープ。興味ない?」

 

 リューファスは鋭い目つきでメッツァを見た。

 が、結局、強く問い詰めるのは今は控えた。それは「どうせ白状させることならいつでも出来る」と言う、自負から来る寛大さだったが。

 

「まあよい。確かに、腹も減った。その美味なる宿に案内してもらおうか」

 

 メッツァは、ホッとしたような表情を浮かべ、ガイドブックを片手に歩き出す。

 リューファスはその後ろを、周囲の煙と行き交う人々を観察しながらゆっくりと歩いた。

 

 広場の処刑台を眺めてから、市場を抜け、細い路地を進むと、やがて賑やかな通りに出た。

 

「ここだよ、『淀みのない流れ亭』。なかなか評判の良い宿らしいよ。川船乗りの御用達ってやつさ」

 

 煤けた木製の看板には、丸っこい魚の拙い絵が描かれている。建物自体も古び、壁板は陽に焼かれて色褪せ、雨水の跡が黒く滲む。

 だが、店構えはさておき、中からは食欲をそそる匂いと活気ある喧騒が漏れ聞こえた。

 

「フム。確かに賑わっているな。では、入ってみるか」

 

 リューファスが扉を開けた瞬間——店内の騒音が、不自然に静まった。

 自身が入ったせいかと錯覚したが、答えはすぐに出た。

 

「おお、何たる光景!わが眼前に繰り広げられているは、弱き乙女に対する非道なる暴挙かぁっ!卑怯者ども、貴様らは騎士道の精神を汚す悪党なりぃっ!」

 

 甲冑を纏った老人が、怒声を上げていたのだ。

 

「ちょっ、爺さんっ! やべぇって、やめろって!? ここで騒ぎを起こすのは……」

「ええい、離せっ、儂の邪魔するでないっ!」

 

 給仕の女と、その腰に手を回していた男たち、その双方がポカンと口を開けている。店内の客が全員、老人の奇天烈で時代錯誤な振る舞いに注視していた。

 

 リューファスとメッツァも、目を丸くするばかり。

 

 奇怪なる老人にすがりつくように、軟弱そうな若者が止めようとするが、容赦なく跳ねのける。興奮が極まったと老人は名乗りを上げた。

 

「我こそは不正を正し、弱きを助ける遍歴の騎士。人呼んで、偉大なる(ドン)・キホーテ!」

 

 凍り付く店内。

 

 ただ一人、リューファスだけが――。

 

「なんだ、面白そうな男がおるではないか」

 

 ニヤリと不敵に笑みを浮かべた。




◎鳥獣除けの角
それは空を舞う魔獣を拒む、防御塔の象徴。鋼の棘。
塔は空中からの襲撃も想定する。止まり木を許さぬ構造、槍の穂先や射撃武器を放てるように狭間(さま)が設けられている。
周囲への監視だけでなく、魔術的な結界の管理や、兵へ指示を出すための通信施設としての役割を持つ、いわば守りの要。
この鳥獣除けの角は、その要たる防御塔の威風堂々たる象徴なのである。
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