最近忙しかったし家でのんびりしようかな。
「ヴライ殿は今日もオシュトル殿と会うんですか?」
いやマジで多忙だったしもうなんなら一日寝るのもありだよね。
「最近急に仲良くなったとか。実は凄く気になってるんですよ。実際はどうなんでしょうか?」
……なんで原作ラスボスのウォシスがここにいるんだよ。
「今日は一日家で鍛錬をしようと思っている」
「そこは相変わらずという事ですね。ふむふむ」
一人納得してるのは良いんだが、俺は色々と一杯一杯なんですけど!?
ウォシス、コイツと出来ればエンカウントをしたくないと思っても仕方ないだろう。
ヤマトに争乱を巻き起こした原因であり、多くの命を奪い人々を化け物に変えて死ねぬ体にした張本人。
一見優しそうな表情と物腰柔らかな接し方をしているが、実際は腹黒く他者を見下しているのがウォシスという男なのだ。
まぁここまで悪いことばかり羅列させたが、決してこの男に全ての原因があるとは断言出来ない。
そもそも帝が彼に父と息子としてちゃんと向き合っていればウォシスがここまで歪むことはなかったんじゃないかなと俺は思っている。
……帝はただ息子であるウォシスに自由に生きて欲しかった。それだけだったんだ。
悲しいかな。帝の思いは歪んだウォシスには通じず、悲劇となった後真実を知ったウォシスの心境は言葉で言い表せないものだ。
そういう意味ではこの男もまた被害者である、か。
「してウォシス、何用があって我に会いに来た」
「あぁいえ、用と言えるほどではないんですよ。ちょっとお話が出来ればと思いまして」
「我を相手に雑談と?」
「そうです。お嫌でしたか?」
私不安ですって顔やめろよ。お前の顔は普通に美形だしそういう表情されたら断れねぇよ。腹黒でも。
「別に構わん。だが良いのか? 我はそういった事は得意ではないぞ」
「勿論構いません。それに基本的に私が質問してヴライ殿が答えるといった感じなので」
いやいや何考えているのかわっかんねぇよ。怖いんですけど!?
俺が内心動揺していると、ウォシスは顎に人差し指を当てながら口を開く。
「最近オシュトル殿と仲がいいとか。これは本当ですか?」
「うむ。相違ない」
「なるほどなるほど。それはまた不思議な話ですね」
「な、なにがだ」
鋭い指摘に思わず肩がビクンッと反応する。
「あーいえ、私の記憶が間違っていなければヴライ殿はオシュトル殿を嫌っていたので」
「それは我の――過去の話だ」
そう返すのがやっとだった。というか、今の“俺”は中身的に別人なんだが、もちろんそんなこと言えるはずもない。
「おや、それはまた……何か心境の変化でも?」
「……そうだな。共に戦場に立ち、互いを知ったことで見えてくるものもある」
「ふむふむ。ヴライ殿にもそういった感情の変化があるんですね。いや、感動的です」
いやちょっと待て、なんか俺の返答に含みを持たせるような言い方しなかった?
ていうか感動ってなに? 俺そんな心を打つような話したか?
「“あの”帝以外に人を寄せ付けなかったヴライ殿がまぁ……大変びっくりしました」
ニコッと微笑んでくるウォシス。やばい、ほんとに笑顔が怖い。中身を知ってるからこそなおさらだ。
「そんなに驚くことか?」
「驚きますよ。鍛錬と闘争に身を捧げたヴライ殿が他人と関わる事なんて、帝以外になかったではないですか」
「ぬぅ、それは、そう……だな」
い、言い返せねぇ。元のヴライってやっぱり交友関係とかなかったんかな。
ずっとボッチだった男がいきなり精力的に他人と関わる。うん可笑しいか。
「なに、武人とはただ鍛錬をするだけにあらず、人と関わることで我には見えてこなかった事を知ろうと思っただけの事」
「新たな視点を持つことでより高みへと、そういうことですか?」
俺が黙ったまま頷くことで返答するとウォシスは納得した表情を見せる。
こ、これでいいのか? 納得してくれたか?
これ以上の言い訳は俺には出来ねぇ。つうか頭の悪い俺が頭良い奴を騙せる気がしないぞ。
「本当に別人のようだ……」
ん? 何か小声で言っているが聞き取れなかったな。
「なにか言ったか?」
「いえちょっと独り言を」
爽やかな笑顔だけどちっとも安心できん。
正直早くこの場を去りたい……いや待てよ。原作のあの悲劇をなんとかするならウォシスをどうにかすればいい訳で。
これはピンチのようでチャンスなのでは?
キュピーン! っと頭の中で何かが閃いた俺は勢いのままウォシスの肩を掴む。
「な、どうしたのですか?」
「ウォシスよ。今から我と共に酒でも飲まぬか?」
「酒、ですか?」
そうだ。オシュトル達とも宴会で仲良くなったし、ウォシスだって人の子だ。
うたわれるもので仲良く慣れるイベントとして最適な手段。
それは宴会だ!!
「突然ですね」
「なに、汝とは酒を飲んだ事がないと思ってな」
俺の言葉にウォシスが数秒目を閉じた後、口を開く。
「いいでしょう。私ももう少しヴライ殿とお話をしたいと思っていたので」
「よし。ならば我の行きつけの店がある。そこに行くぞ!」
「な、なんだがテンションが高いですね……」
ちょっと怯えた表情のウォシスを連れて、俺はルンルンとスキップしそうな勢いで店へと向かった。
目的の酒場は兵士や市民がよく集う庶民的な店。
ここは“ヴライ”として使う為の場所だ。民衆から見たヴライという男の印象は暴力と恐怖、そんな印象をなんとかしたくて敢えて市民のいるこの店で食事をして、怖くないよ~優しいよ~ってアピをしている。
「……まさか、こんな庶民向けの場所が“行きつけ”とは思いませんでしたよ、ヴライ殿」
「ふ、こう見えて我はこういう空気も嫌いではない」
店主に顔を覚えられているのか、「お、旦那いらっしゃい!」と笑顔で迎えられた。
因みにこの店主と初めて会った時は白目向いて泡吹いて大変だったわ。今ではこうやって笑顔で接してくれるのだから、頑張って通った努力が報われた気がするよ。
しみじみと思いながら店主についていくと気を利かして奥側の席を進められる。
「すまぬな」
「いえ、旦那が誰かと来るのが珍しいんで。ここでゆっくりしていってくだせぇ」
そう言って店主が水とおしぼりを置いていくと、元の場所へ戻っていく。
「本当に通っているのですね。それも常連のようで」
「この店は食い物が美味しい。酒も上手い。ま、ウォシスが好きそうな高級な物はないが」
「別に高いものだけが美味しいという訳ではないと、私も知っていますよ」
心外ですと悲しそうな顔するが、本当にそう思っているか怪しい。
ウォシスって結構プライド高い印象があるから、正直ここを連れてきたらワンチャンキレられるかなと思っていたが、そうでもないのか?
「それにしても……こうして座っていると、妙に周囲の視線を感じますね」
「当然だろう。我と汝だ。目立たぬわけがない」
「それはそうですが……あまりにも注目されていて、ちょっと胃が痛くなってきました」
ウォシスが苦笑するのもわかる。たしかに店内の客がチラチラと見てくるから少々気になるよな。
けど俺がここにした理由としては、ウォシスと俺が二人いるというのを噂にしてほしいからってのがある。
なんでかって言うと、こういう噂を耳にした帝がもしかしたらなんらかのアクションをしてくれるんじゃないかという期待があるからだ。
名付けて「帝とウォシスをなんとかして接触させちゃおう大作戦!!」
その為の布石よ。
脳内で決め顔をしながら俺は努めて平静を装ってメニュー表を開く。
「注文は我に任せよ。ここの骨付き肉は絶品だ」
「あ、はい……よろしくお願いします」
やっぱりこういう環境ってあんまり経験ないんかな。一応表面上は飄々としていたような気がするんだけど。
思ったよりも緊張しているみたいだ。
俺は緊張を解す為にも先に酒を頼むと一分と経たずに来た酒瓶を片手に持ち、ウォシスの前に出す。
「まずは一杯だ。まあ気楽に飲め」
「ええ、ありがとうございます。では……乾杯、でいいんですよね?」
「うむ、乾杯だ」
カチン、と瓶がぶつかる小さな音が店内のざわめきの中に溶けていく。俺はぐいっと酒を呷ったが、ウォシスは慎重に少しだけ口をつけた。
「……おや、意外といけますね。もっと癖のある味かと思っていました」
「だから言っただろう。我の行きつけなのだ。口に合わぬものは飲まぬ」
「なるほど……」
そう呟いたウォシスは今度は杯をグイッと胃に流し込み、ぷはぁっと息を吐き出すと何やら考え込むような表情を見せた。
「どうした、味に問題でもあったか?」
「いえ、そうではありません。ただ……こうして誰かと肩を並べて酒を酌み交わすのが、妙に新鮮でして」
「ほう。そういう経験は……あまりないのか?」
「ええ。帝とすら、そういった場を持ったことはありませんから」
あ……っと、思わず言葉に詰まる。
そうだよな。こいつ、原作じゃずっと孤独だったもんな。帝との距離も縮まることなく理解し合えないまま、すれ違って終わってしまった。
「友というのは、存外良いものだぞ」
「……?」
「たとえば、だ。汝が今日のように誰かとこうして話をして、酒を飲み少しでも心を交わそうとするなら……帝もまた、そうする機会を得たのではないかとな」
「……なるほど」
しばしの沈黙ののち、ウォシスは小さく笑った。
「ヴライ殿が……いえ、“貴方”が友を語るとは予想外にも程がある」
……ん?
なんか口調砕けた? え、これって喜んでいい感じなのか。やべぇ判断がつかねぇよぉぉ……。
「我が……どうかしたか?」
「いえ、別に。ただ……不思議な気分で。こうして昔と違う貴方と話しているのが」
……危ない、勘付かれてるか? いや、まだ“確信”じゃない。
でもあいつ頭良いし観察力あるし、そろそろボロを出すとマジでバレる。
よし作戦を変えよう。
もう飲んで飲んで飲みまくろう。
「ならばもっと驚かせてやろう! さぁ酒瓶を持て!」
「仕方がないですね。付き合いましょう!」
ん~~なーんでこうなるんだろう。
俺は今猛烈に後悔している。
なぜって?
「おい! 聞いているのですか! 私は頑張っていたんです。それはもう本当に! なのになぜ帝は私を見てくれないのか。なんでですかぁぁぁああ……」
怒ったり泣いたりと忙しない酔っぱらいの男、えぇ皆さんもよく知るウォシス君です。
あの後飲み比べだー! って力み込んで馬鹿みたいに、いやホント馬鹿だったと思うほどに酒を飲んでな。
そしたら出来上がったのは今のウォシス君です。
想像以上に酔っちゃったんですけど。正直警戒されているから酔うなんてないと思っていたのに。
これは予想外だわ。
「ちょっと聞いているんですか! そこの、そう強面!」
「うんまぁ我強面だけど。名前ってあるんだがな」
「知りませんよ! 良いですか。帝は私の事をあまりに軽視している。私はこんなにも……ううぅ」
「あぁはいはい。ウォシスは良くやっている。我もその手腕に助けられた事がある」
「でっすよねぇ!!!」
もう赤ら顔でテンションが上下に振り切っちゃってて、ちょいと心配だわ。
これどうしようと思っていると、一人の少年が慌てた様子で走ってくる。
「う、ウォシス様、大丈夫ですか!?」
「ん~? そこにいるのはシャスリカ、ですか~?」
あわあわと手をバタバタさせている栗色の髪をした少年シャスリカ、こいつは
「丁度いい。汝はウォシスの小姓か?」
「は、はい!」
「ならば丁度いい。ウォシスを自宅まで頼んでもいいか?」
「お任せください。ここの戡定も私が払っておきますので」
まさかの奢り。ただ酒とかラッキー!
「なんでしゅか~? まさかもう終わりじゃないでしよね~?」
「いや終わりだ。汝は水を取って安静に寝るといい」
「まだまだ私のはにゃしは終わってにゃいぞ~」
いや終わりだよ。呂律回ってねぇだろ。
「また今度聞いてやる」
「その言葉、嘘じゃにゃいですよねぇ」
「男に二言はない」
俺の言葉を聞くとふにゃりと顔を崩す。
「なら、いいでしゅ」
ウォシスの表情を見たシャスリカの顔が劇画タッチになり驚愕していたが、俺はもう疲れたからウォシスにじゃあな~っと手を振りつつ店を出たのだった。
大変お待たせいたしました!!
更新が滞ってしまって申し訳ありません。
今も待ってくれている読者様がいたら、もしよかったらまた見に来てくれたら嬉しいです。
更新に関しては不定期にはなりますが、細々とやっていこうかと思っているのでよろしくお願いします。