【カオ転三次】滅亡を防ぐ為、汝第七の竜を狩れ 作:日λ........
あの後襲い掛かってくる悪魔達を蹴散らしつつ、モモメノさんのナビ能力によって得た情報をマッピングアプリ上に変換して地図を作りつつ探索していると廃墟と化した建物群を発見。乾いた赤黒い痕跡が数多く残るその廃墟の中から、比較的マシな場所として少し埃っぽいものの争った痕跡が残っていない地下に作られたシェルターを見つけた。
罠等無いか安全を確認後、日も落ちてきたのでその部屋に中に居る者達の気配を隠す結界をナイトニキが掛けて臨時のセーフルームとして利用する事になった。ナイトニキは何かと多芸なのは知っていたがこの手の結界術まで会得しているのは今回初めて知ったよ。山梨の異界での修行は、この程度の結界だと悪魔が察知して襲い掛かってくるので覚醒者としての体力任せに不眠不休で動くのが前提だから異界で寝泊まりは基本しないようにしているし、使う機会が無かったのである。あそこでの修行はレベルが上がれば上がるほど基本的に荒行になるのがデフォだからなぁ……多少無理しても回復の泉を兼ねた温泉があるので一風呂浸かれば霊的な損傷ごと回復できるからできる所業である。
尚、今回のメンバーで言うなら本来この手の術はカス子ネキが担当するのだが、彼女は無理をしたので今は休んでもらっている。ロザリーさんの検診の結果、後遺症は出なさそうだが少しの間安静にしている方が良いとのことだ。
あの不思議なダンジョンにはそろそろ改修を入れるとショタオジから通達があった。その際に色々な理由から黒札以外の人間は完全に入れなくなると言われているのでオレ達はどうしようか考え中である。ナビ役のモモメノさんが中に入れなくなってしまうのが自分達のPT的にとても痛い。今の連携、モモメノさんのペルソナ能力による支援の元で成り立ってるからなぁ……なるべく早くあの3つの戦い方ができるようになる戦術支援用プログラムを完成させたい所である。今みたいに戦闘中切り替えるのは中々厳しいかもしれんが、まあ上手いこと調整すればやれなくもなかろう。
そういえば、ナイトニキによると封魔管に入ったアガシオンの扱いもこの結界術もトーコさんの家の行きつけの寿司屋にいたコチラ側の関係者らしい顔色の悪い板前の師匠に教えてもらったとの事だが……いやまさかねぇ……でもアイツはPS作品までとはいえ作品の枠を超えて、肉体を乗り換えて登場してたし、立場的にこっちに来ててもあり得なくは無いのか……?まあ今考えることでは無いか。少なくともナイトニキにとっては恩ある人の一人だろうし、出会った時に味方であってくれと願うだけだ。
兎も角、血の跡がないだけマシとはいえ土埃と砂にまみれたシェルター内をある程度掃除することとなったのだが、こういう時、【ハマ】は便利である。浄化、禊ぎの概念を持つ魔界魔法である【ハマ】は加減次第でゴミやらチリやら埃やらを消滅させる優秀な掃除用の魔法になるのである。自分は直接はハマを使えないので武装COMPである【ブラッドギア】にインストールしてある【掃除用低出力ハマ】を使って掃除に参加したが、その様はまるで空飛ぶル○バの様であった。くるくる回転する円盤が通り過ぎると汚れが消えてキレイになるのである。見ていてシュールで面白かったからかシュテルがやりたそうな顔をしていたので制御を渡した。楽しそうに掃除をしているのをみていると和むが、ただやり過ぎると霊的空白地帯が出来てしまい悪魔やら悪霊やらを呼び寄せる事となるので程々でなと注意しておく。
【ハマ】を使えばなんでも問題なくきれいになると思ったズボラな技術部のメンバーが居たのだが、実際はそんなことはなくデメリットも有り研究や開発に明け暮れていたせいで汚部屋と化していた自分の家をキレイにするために出力強めにハマを掛けた結果その土地に宿る霊的なものまで完全に祓ってしまい霊脈のバランスが崩れて悪魔やら霊が押し寄せ、自宅を起点に異界化させてしまった事件があった。最初期の頃の霊的技術や危険物の取り扱いがガバガバ通り越してザルだった頃に血でマニュアルを書き上げた事で得た学びであり教訓の一つであった。
しかし極端にやらかせばどんな技術や道具も致命的な事故に繋がるのは当たり前の話だ。水も洗剤も必要なく物品や人を清潔に保つ事が出来るこの小技は終末後の世界では間違いなく役立つだろう。そんなことを考えつつ、部屋を一通り掃除したオレ達は自分たちの使う部屋を中一つ借りてその中でパーカーを脱いでカス子ネキの鼻血がべっとりと着いた袖部分のガンコな汚れを【ハマ】を使って落とそうとしていた。しかし……
「取れませんね……」
「取れないな。まあ、駄目で元々の試しだったしなぁ」
装備品に影響を及ぼさない程度の出力の【ハマ】では、出血の直前まで膨大なMAGを身体を通して制御していた為か血中に濃厚なMAGが含まれているカス子ネキの血をパーカーから落とすには力不足な様だ。これ以上出力上げたら防具であるパーカーを痛めることとなるのでそれは避けたい。
便利な小技ではあるが、あくまで便利な小技に過ぎないのはこの為だ。非覚醒者の血痕だとか、単純な汚れやらゴミなら簡単に消せるが高レベル覚醒者由来の血だとかの汚れだとそもそもハマが出力的に通らないのである。それでも少しは汚れが取れるかと思い試したが結果はこの通り。袖部分以外に付いた土埃はきれいに取れたが、固まってしまった血の汚れは全く取れなかった。
「まあ仕方ない。普通に洗おうにもこの状況だと水は貴重だし、帰ったあとに考えよう」
「そうしましょう。ところでマスター、話は変わりますが、この異界何か変に感じませんか?」
「というと?」
「この異界に来てから妙に体の調子が良い気がしまして……なんというか、普段より思う通りに身体が動くといいますか、術の精度が普段より三割ほど高めて使用できているのです。そうですね、端的に言うと体のキレが普段より増してます。すごく動きやすいのです」
「そうか、シュテルもそう感じているのか」
「……!!マスターもそう感じていたのですか?普段通りの動きをしていらしたので、てっきり私だけの違和感かと」
「オレの役割はPTの支援役だからな。急に普段と違う出力でバフばら撒いたら普段通りの掛り具合を想定してる皆に迷惑がかかるから普段通りの出力で術が掛かるように抑えてたんだ。いつもいっしょにいるシュテルに普段通りの動きをしていたように見られてたなら、誤差は少なそうで何よりだな」
『普段通りの動きをしている』と言われることはオレのようなバッファーにとっては正直褒め言葉の類だ。悪魔がこの手の術を使う場合、その調整は種族としての特性上簡単に行えるが人間がやる場合はそうは行かない。
支援魔法は術を使うだけなら難易度は低い。だがそれを人間が他人相手にやる場合は一気に難易度が上がる。
自分の肉体を強化する場合はその限界を感覚で掴めるが、他人の肉体に掛ける場合そうは行かない。その為まず相手の肉体の許容量を計測する為にアナライズ系技能は必須だし、許容値に収めたとしてもその度に強化の幅がバラバラでは強化を受けた側が強化された肉体の能力を毎回把握するのにラグが出来て戦いにならないので常に一定量に留める必要がある。
重ねがけで強化幅を強くしていくのも肉体の能力を高めて強化を受ける限界値を高めつつ齟齬を最小限に収める為だ。強化を掛ける際はアナライズを重ねるごとに味方全員分、可能な限り少ない時間でやらなければならない。この情報処理を常にしつつも同時に身体を動かして戦う事が出来てようやくまともに戦えると評価出来るのがバフを掛ける補助役というものであった。
オレは一緒にやったほうが効率的だしと追加で前線指揮官としての役割もしているが、他の人には絶対勧めない面倒な戦い方しているのは確かだ。単純にやる事が多過ぎるから脳の思考が一つだけしかないのでは足らんと感じる位には忙しいからである。
自分の場合覚醒後やたらと冴えている脳の能力を活かすことでこの問題を解決した。パソコンのCPCのコアを参考に思考を複数個に分けて常にそれぞれ別の思考を行うマルチタスクを行えるように特訓したのだ。嬉しい誤算として、この技能を習得したおかげで今では脳内で思考の余裕があるときは常に新作アプリやプログラム、新技の開発等をしつつ動いているので時間を大分確保出来るようになりつつあった。
途中で何度か力加減をミスって脳味噌を知恵熱で茹で上げてしまって死んだり、脳の血管に圧力かかり過ぎて鼻血噴き出して死んだりする度にショタオジに蘇生してもらってなんとか習得した代物である。
マルチタスク自体はショタオジも例の分身の術でやってる事なので初めは普通に教えてもらって覚えようとしたんだが、霊能力と超能力で力の分類が違うせいでやり方が異なるのか教えてもらったやり方をそのまま行っても上手く行かず。仕方ないのでショタオジには蘇生役をしてもらいつつ監督役としてアドバイスを貰って、このような荒行の末に自己習得したのであった。
こういう事が多々あるので、中々他に無い珍しい能力なのは利点にもなるが欠点も多いんだよなぁオレの異能……基本独自規格なので技能としての互換性に欠けているのである。誰かの技を参考に自分で1から作るなら出来るが、誰かの技を直接覚えるのは基本無理である。
……支援魔法メインで戦うだけでなんでこんなにも苦労するの?メガテンやペルソナの主人公たちはパパパッとやってたやんけって話になるだろうが、逆である。アレこそが悪魔の力を使う『
悪魔は契約に基づいて動く一種の情報生命体である。故に、その情報処理能力は非常に高い。たとえその悪魔の頭が良くないとしても当たり前であるがその魔法を覚えていてMPさえ足りていれば一切のブレなく行使可能である程に。先程言った苦労する部分の殆どを、本能の段階で苦もなく行っている存在が悪魔という存在なのだ。
……悪魔召喚プログラムが反則と言われるわけだよ。こんだけ苦労してなんとか再現にこぎ着けた戦い方をいくら悪魔召喚プログラムを使いこなす才能があると言ってもそれまで普通に暮らしていた高校生にすら出来るようになってしまうのだから。
ちなみにコレ、ガイア連合でデバフは兎も角バフを併用したメガテン式の戦い方をする俺らが少ない理由でもある。強いは強いけど、あくまでも悪魔召喚師やペルソナ使いの最適戦法の一つであってそれ以外のスタイルの奴には当然のことだがもっと合った戦い方があるのだ。
なんならガイア連合はデビルバスターやデビルシフター、魔女とか魔法使い寄りの転生者のが多い。現状のガイア連合には少数の悪魔と契約して利用している悪魔使いはいるものの、多数の悪魔と契約して状況によって使い分けるような
それに加えて悪魔召喚プログラムがないから、捧げる供物や習得難度がエグすぎて文明が発展するにつれてどんどん廃れていくしかなかったガチモンの悪魔召喚術を習得する以外、なる方法が無いから当然ではある。ましてやそこにショタオジの厳しい監修が入るので本当に俺らの中でも趣味人や変わり者位しか習得できていないのだ。ミナミィネキとか、脳缶ニキとか、あとセツニキとか……見事にガイア連合でも色々な意味で一目置かれてるメンツばっかである。やはり正気では
……少し思考は逸れた。ちょっとした短期間で考え込んでしまうのはマルチタスクをしているとたまにしてしまう悪癖だな、コレは。ONとOffの切り替えが若干緩い気がするので詳細を詰めて条件付けもするべきか。便利な技だが下手すると知恵熱が出てアンサートーカーを使えなくなった時のガッシュの清麿みたいなことになりかねん。消費を抑える為にも改善しなければ。
兎も角、こういった事情からバッファーの理想的なムーブメントを考えると、『可能な限りどんな状況でもいつも通りの効果量の支援魔法を味方全員に届ける』となる訳だ。いつも隣に居てくれているシュテルがそれを出来ていると言ってくれるのは割と嬉しい事であった。
「シュテルが感じてる違和感に関しては多分だが、オレとの契約を通じてシュテルにもオレへのこの異界の影響が流れ込んできてるからじゃないかな?シュテルが感じている違和感はオレも感じてるものと同じ物だったし」
「……それって、お身体の方は大丈夫なのですかマスター?私はシキガミですので問題ありませんが、人であるマスターが異界の影響を受けて悪影響が出ないのか心配です」
「自分にアナライズを掛けた結果は全くの健康体だったから取り敢えずは問題なさそうだぞ。心配してくれてありがとな、シュテル」
「ん……」
そう言ってシュテルの頭を撫でる。身長差的に凄く撫でやすい位置に頭があるのでついついこうやって撫でてしまう。最近はシュテルの情緒も育ちつつあるのでこんな風に女の子の頭をポンポン撫でてしまうのはダメなのではなかろうかと思うものの、撫でてあげないとシュテルが寂しそうにするのでそういった自制心は即座に崩れてしまう。
こんなんだからスレでロリコンと言われてしまうのだろうが、多分オレはもう手遅れであろう。本来の予定よりも幼くなってしまったとはいえ彼女は自分の理想を詰め込んだ理想の嫁シキガミなのだ。全く勝てる気がしない……彼女に迫られた時がオレの年貢の納時であろう。
「……と、そうだな。さっきの悪魔相手に試したが今のこの状態を活かそうとするなら、あえて普段通りの動きをしつつ、必要になったら本気で気合入れて動こうとすると良いと思うぞシュテル。そうすると、普段よりも効果的に力を行使出来るからか技や魔法の出力が一時的に上がって使ってる技の効果にまで影響が及んで効果が上がったり、普段より素早く行動出来たりと何かと有用だぞ。まあ、普通のカジャ系とかに使うと強化時のブレが酷くなるからやらん方がいいがそれ以外なら効果的に使えるだろう」
頭に当てていた手を頬に移動させてそう言った。先程襲い掛かって来た悪魔に対して試した感じ、ゲーム的に考えて例えると普通のステータスとは別換算の必殺ゲージが追加された感覚である。力を溜め込んで溜まりきったらそれ使って本気で動くと、普段よりも凄い事が出来そうな感覚があった。自力でスポーツなどで語られるゾーン状態に任意で移行できるといった具合だ。
……ちなみに、カジャ系等の魔界魔法の場合は肉体強化によって発生する感覚の齟齬は各自で修正しなければならないが、オレ自身の力である【アタックゲイン】や【ディフェンスゲイン】の効果は少々話が異なる。強化率自体は最近の練度で三割増し程度になる代物なのだが、カジャ系等の通常の魔界魔法とは計算式が異なるようで魔界魔法で強化された倍率の後に更に三割増しされる形で効果を発揮する。
そうなると肉体的な強化の割合がカジャで強化された後に更に1.3倍されることになるので肉体の制御が難しくなりそうなものだが一切そうなる事が無かった。これはおかしいと検証に協力してくれた皆と色々と調べた結果、この2つのスキルに関しては肉体の身体能力だけでなく脳の反応速度や反射速度、神経伝達の速度なども諸々含めて強化していることが判明。肉体の制御に使用する能力含めてまとめて強化される為シームレスに強化状態に移行することがわかった。
厳選した昔のメガテン仕様のカジャ系と違って時間制限付きではあるが、効果が切れても同時にそちらの効果も切れるので違和感無く元のカジャ系のみの肉体の動きに移行できる。その為カジャと共に掛けると上がる身体能力が膨大でもシームレスに動ける状態に移行するため戦闘中安心してカジャと重ねがけ出来ると言う訳だ。その分制御は掛けられた側の容易なものの、いつ後効果が切れたか分かりづらいという欠点にも繋がっているが支援効果を維持管理する側としてはとても使いやすい代物であった。
その為これらのスキルは例外的に力加減関係なく全力で掛けれる。だがその分難度が高いのか、強化幅を強めようと鍛えるのに結構苦戦していた。体感的に、もう練度を上げる事で強化幅を高めるのは打ち止めな気もする。
だがこの溜めた力でブーストを掛けている形なら強化率を上げるのも可能かもしれない。今はこの異界限定での技能になるかもしれないが、感覚をつかめば使える頻度はこの異界の中以外では下がるが使えそうな気もする。積極的に使っていく事にしよう……
「……」プニプニプニ……
「ま、マスター??」
……ハッ!?い、いかん、つい無心でシュテルのほっぺたを触ってしまっていた……!!め、めっちゃきめ細やかで柔らかい……!!頭を撫でることは何回もしていたがそういえばほっぺを触る事はこれが初めてだったな……いかんクセになりそう……いや駄目だろオレ!?流石にキモいわ!!
「す、すまんシュテル。今日は色々な事の連続だったからオレ、疲れているのかもな……嫌だったろう?ゴメンな」
「__いえ、もっと、むしろ触ってくださいマスター。それで貴方の疲れが取れるのであれば……どうぞ」
そう言って頬から離れようとしたオレの手を取り、先程と同じ位置に持っていった。
__あっ、ダメだこれ。抵抗できん……あ、これほんとに疲れてるんだな今のオレ。
そう自覚する。優しく頬を撫でた後、そのまま手を置いてシュテルの頬の柔らかさと、重ねた手の暖かさを感じるように十二分に満喫して、手を話す。そしてオレは汚れを落とすために床に敷いていた脱いだフードのその上に座り、壁に背中を預けた。
「ちょっと休むことにするよ……おいで、シュテル」
「はい。マスター♪」
ずっとぶっ通しで動いてきたからか、肉体はまだ動けても精神のほうが疲れ果てていると自覚し……今のやり取りで緊張の糸が切れたオレは一気に感じ るようになった疲労を癒やす為、寄り掛かるシュテルの心地の良い重さを感じながらその心地よさに身を任せて意識を手放した。
逆に考えるんだ。理性が耐えきれなさそうなら意識を手放して明日の自分に任せれば良いじゃない……と。そうして程なくして、男はシュテルの体温に身を任せて眠りについた。異界の中で無防備ではあるが、どの道どこかで休憩を入れなければ体が持たないし、何より隣にはシュテルがいる。その安心感から、スッと一瞬で眠りについた。
この男、こうして溜まる欲求不満をやり過ごしては創作意欲に変換し、プログラミングにぶつけて各種アプリの開発やアップデートの為の原動力にしているのである。はっきり言ってアホの所業である。
そういう相手としても役割として兼ねる存在としてシュテルを作っておきながら、想定外に幼い見た目になってしまったこととまだ情緒が育っていない相手に対してそういう感情を向けるのは良くないと考えて自縄自縛に陥っているのである。しかし、無理は長くは続かないものだ。今は良く耐えているが……この様子では陥没するのも時間の問題であろう。
意識を手放した愛しい主人に対して、シュテルはにっこりと微笑み、その頬にキスをした。
(センパイ……ロザリーさんは言ってました。好きな人の隣に立つ良い女になりたいなら、男の人の覚悟が決まるまで待ってあげるのも良い女の甲斐性であると。私はいつでもお待ちしておりますよ、マスター……)
確かにシュテルは生まれてまだ半年にも満たない存在だ。だが、同時にお嫁さんシキガミ製造に必須であるとあるスキルカードの製造を安定化させた事に対するスケベ部を兼任している技術部のメンバーからの恩と、かつてシキガミ製造斑が邪神セイバーを暴走させてしまったことによりフリスビーニキに掛けてしまった多大な迷惑に対する詫びの為に素材に一切の妥協を許さずその時の最大限出せる技術の粋を凝らした最高級のシキガミである。
ガイア連合のシキガミ製造の技術は日進月歩の進み方をしている為今では最早ほとんど人間と変わらないような見た目と肉体の機能を持つ代物となっているが、シュテルはそう言った現在のガイア連合製の生体素材を使用したシキガミのコンセプトモデルに当たる存在だ。量産化にあたりコスト面の理由から機能を分散したり、オミットした要素も全部導入されており、最初から入っているスキルカードであるお嫁さんシキガミ三点セットはミナミィネキお手製の最高級。戦闘能力に関してもショタオジも認める程の高いポテンシャルを秘めている。当然のことだが学習能力もとても高い。
彼女は決してただの無垢なる少女などではない。そういった知恵に関しては前記の通りミナミィネキ製の最高級スキルカードを内蔵しており、当然のことだが満足に行える存在である。主人がそれを求め無かったのでそういった立ち振る舞いをしなかっただけだ。
だからこそ、彼女はゆっくり、ゆっくりと主人の理性に手を掛けていく。ただ自分に尽くすだけの存在ではなく、シュテルという一人として生きてほしいと望んだ彼だからこそ、彼女は八角ジュンという男の支えになりたいと考えているからだ。
望む姿で生まれることが叶わなかった自分に対して、その誕生を祝福してくれた彼だからこそ、育ちつつあるその心は彼の事を愛おしくて仕方ないと言う思いが止まらなくなりつつある。
その思いを、彼が与えてくれた理性と情緒で縛ることで彼女は待ち続けているのだ。この関係性から更に進んだ関係に至る日は必ず来ると信じて。
そうやってこの甘ったるくも、じれったいぬるま湯のような日々を二人は耐えつつも楽しんで過ごしているのである。
頬にキスをしたシュテルは何かあったときの為に周囲の警戒はしつつも、主人の体に身を任せて寄りかかる。
このようにゆっくりと関係を進めていく恋愛など終末が来たあとは出来なくなってしまうだろう。殺伐としたメガテン世界で、今だからこそできる最高の贅沢を彼らは彼らなりに楽しんでいたのであった。
純愛主義者なだけで彼もまた自身の趣味を追求する立派な黒札の一人である。人は自身の性癖には逆らえぬのだ。
どこかのガイア連合の名物黒札三人組*1がこの光景を見たならば、血の涙を流しながら『爆発しろバカップル共』と叫びたくなるであろう甘ったるい光景がそこにはあった。
時を遡る。ハルカラを救出するために集まったガイア連合の面々がジャンクヤードに到着するよりもこの異界での換算で1週間程前の事だ。
この異界は元が軍事戦術シミュレーターとして開発されていたソフトを土台に作られている為、演算結果を効率的に出すために現実世界よりも時の流れが早く流れるように設定されている。その影響で彼らの到着のタイミングにはその程度の時差が生じていた。
「……あれ、ここは……」
「ようやくお目覚めか。ま、あんな状態じゃそりゃそうなるか……あんなにバクバク食いやがって」
「アレだけ飢えていては仕方あるまいよ。物言わぬ悪魔の肉にしか喰らいつかなかっただけ本能のまま無作為に相手を選ばす襲い掛かっていた拙者たちに比べたらまだマシであろうよ」
「まあそれはそうだけどヨォ……悪魔の方の食料の在庫がこんなに削れちまったのは不味いだろどう考えても……」
未だ晴れ切らぬ視界を晴らす為に、瞼を擦る。ぼやけたそれがだんだんと晴れていき、そこに居たのは……
(ラギに、ナムナだ……!!)
思わず感極まる自分の気持ちを抑える。彼女らは私の事など知る由もないのだから。
正式なルーン魔術を習得し、アトランティス騎士団の錬成剣を受け取った上級騎士の身で有りながら三白眼の目立つその凶相と違わぬ闘争心から下層出身の自分達と共にマモノ狩りの任務に着いていた赤髪のルーンナイト『ラギ』と、自分と同じく下層出身のルシェで、資金不足で潰れてしまった武術道場の跡取り娘であった金髪の髪を簪で纏めたサムライの『ナムナ』がそこにはいた。
もっとも、濃い灰色にオレンジの差し色が入った戦闘服を身につけた彼らは、自分が知る戦友達自身ではないが……それでも、主たる姫様__モモメノを無事にアラカナ回廊から脱出させる為にその命を散らせ、目の前で壮絶な死に様を見届ける事となった戦友達と同じ顔と同じ魂をもった彼らが無事にそこにいる光景はハルカラにとって泣きたくなるほど嬉しいものであった。
「
「やっぱ覚えてねぇか。まあ、理性が飛んだらそうなっちまうよなこの身体だと……なんで泣きそうになってるんだ?」
「えっと、その……あなた達二人とも、死んじゃった友達にとっても似てたから見間違えちゃって……とうとうお迎えにでも来たのかなぁって勘違いしちゃったの」
「……そうか。辛いことを聞いてすまぬな。拙者はナムナ。カザントライブのナムナだ」
「そんなに死んだ奴と見間違える位に似てるのかぁ俺達?縁起でもねぇ……ま、野暮なこと聞いてすまねぇな。俺はラギ。同じくカザントライブの……数少ねぇ生き残りの一人さ。ようこそ新入り、このクソッタレた世界へ」
そう言って、彼女はハルカラに対して手を差し出した。その手を取り、ハルカラはベットから起き上がった。
確かに感じるその手の熱に、ハルカラは彼女が本当に生きているのだと実感し__溢れだした涙をもう片方の手で乱暴に拭って前を向いた。
「……そんなに似てるのか?まあ、とりあえず新入り。テメェが食っちまった分は働いてもらうぜ?」
「食っちまった分?」
「うむ。お主は意識を失っている間に悪魔に変身して拙者達がこのアジトに備蓄していた食料を……悪魔の肉の7割ほどを貪り食ってしまったのだ。おかげで拙者達には今、食料的余裕があまり無い。正直まずいぞ。このままでは運が悪ければ共食いの危機すらあり得る」
「……ええっ!?」
喰奴__アバタールチューナーとも呼ばれる彼らの力は実に強力だ。肉体的には完全に悪魔に変身しつつも、その力を本能に支配されない限り人の理性で動かすことが可能な彼らは素でプレスターンバトルによる高速戦闘が可能となっており、単体での戦闘能力だけでなく、複数人で連携することによって一人では出せない特殊な連携技を発動することが可能となる。リンゲージと呼ばれるその力は単独では行えない強力な力を行使することが可能で、効果的には最上位の悪魔が使うような強力な術さえ再現が可能なほどだ。彼ら三人がこの弱肉強食の世界で生き残れた理由である。
だが、強い力にはそれ相応の代償が必要である。その代償として、彼らは十分なマグネタイトを摂取できなければ非常に強力な飢えに襲われ、最悪の場合本能に完全に飲まれて完全な悪魔と成り果ててしまう。狩った悪魔を即座に食べなければ体が保たない程に、エネルギー効率も非常に悪い。それ故に、彼らは狩った悪魔からたまに手に入る『消えずに残った悪魔の肉体の一部』を非常食として備蓄し、アジトの倉庫に保管し続けていたのであった。
これがあるから彼らは悪魔の肉という食料確保に追われず、黒幕と思わしき存在がいるかもしれないジャンクヤードの中心部にある巨大な塔へ登る事ができていた。ハルカラを拾う前までは。
彼女はナツメに捕まって眠らされてから、栄養補給は点滴から送られ、喰奴として必要なマグネタイトは液体加工された生体マグネタイトにより補充されていたが、支援が打ち切られて以降その確保が難しくなっていたのか必要最低限の量しか供給されない状態が続いていた。睡眠状態を維持する薬品と共にその供給が途絶え、目が覚めた彼女はそんな状態で棺桶と化した生体保管用のポットから這い出るために悪魔に変身した。人としての肉体の栄養的にはともかく、悪魔としての飢餓が限界であったのだ。
そんな状態でさえ、彼女は『ヒト』を襲う事なく『悪魔』のみを食らった。無意識の状態で変身して、足りないマグネタイトを摂取するために動いて尚である。
それがどれほど抗いがたく難しい行為であるのかを、彼らは良く知っていたからこそハルカラに対して生命線である食料面で被害を受けていながらもどこが好意的でさえあった。
「ご、ごめん!!いや、ごめんですまないよね!?な、なんて謝ったらいいか……」
「まあ、それに関してはこれから返してもらうからいいさ。話していて分かったよ。少なくともマトモそうな奴だってことはな」
「うむ。これなら問題なかろう。そろそろ周囲の警戒のために巡回に出たリーダーも戻ってくる頃だ。彼が帰ってきたら、本題に入るとしよう。それまではそうだな__」
盛大に腹が鳴る音が聞こえた。腹の音の主は、今起き上がったハルカラであった。
ナムナはその音を聞いて、部屋の片隅に置かれたパウチを手に取りフィルムを剥がした。常温保存が可能なレーションである。その中身はこの異界の元となった軍事シミュレーターの製造に一枚噛んでた米軍の物によく似た内容物であり、彼らがヒトとしての肉体を維持する為に必要な栄養素を摂取するには十分なカロリーと栄養素を有している。
「飯にするとしよう。悪魔は飢えを満たせても、腹は満たせぬからな。腹が減っておるだろう?」
「……はい」
「不便だよなぁ。悪魔食って飢えは治るんだが腹が膨れてる訳じゃねーの。まあ、俺達がまだヒトでいる証拠だと思えばそう悪いもんでもねーかもしれんがな。新入りが入ってくるのは久しぶりだし、ここはとっておきのピザでも出すかね」
「この赤い豆の煮物も悪くはないだろう?」
「オメーはそれ好きだよなぁ……ま、ここにあるレーションなら好きなもん選んでいいぞハルカラ。普通の食料は余るほど残ってるからな」
そう言ってラギは羞恥心から赤面のハルカラに対してレーションの入った茶色い袋を複数手渡した。
血のような赤い髪に三白眼。スラリと伸びた手足と身長。サメのようなギザ歯と見た目に違わぬ戦場での凶暴性に男勝りな言動から意外に思われがちだが、彼女は仲間に対して不器用ながら優しい人だった。
気を使ってくれている彼女に対してハルカラはその事を思い出して、ああ、彼女も確かにラギなのだと確信した。
適当に開けた袋の中から出てきたチョコバーを齧ると、ハルカラは何故か少し塩っぱく感じた。目から流れる涙が止まっていなかったことに、彼女は気がつけていなかった。
涙を流しながら食事をするハルカラを見た二人は、ここに来る前まで余程酷い扱いを受けていたのだろうなと同情していたという……