【カオ転三次】滅亡を防ぐ為、汝第七の竜を狩れ 作:日λ........
頂きました支援絵をここに記載させていただきます。支援絵なんて頂くの初めてですのでとても嬉しいです。ありがとうございます!!
私服姿
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戦闘服の姿
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夜が明けた。このシェルターは各自が寝泊まりした部屋から外に出ると、一つの大部屋に繋がっている構造をしている。なので全員が朝起きてこの大部屋へ集まった所で朝食を取りつつ今後の作戦会議を行うという話になっていた。
一番始めに普段から朝早く店の仕込みを行っているナイトニキ達が目を覚まし、最近ガイア連合内の購買や通販で買えるようになった霊的食材の一つである【ヒノエ米】を飯盒で炊いて朝食の準備を行った。
次に会社へと出社する為に規則正しい生活が既に身に染み込みつつある新入社員のトーコさんが目を覚まし、その次に現役小学生のデュエリストネキとカイリューが寝ぼけ眼を擦りながら起きてきた。同じ部屋で寝ていたモモメノさんがうつらうつらと寝落ちしそうになりつつも、普段から持ち歩いているうさぎの人形を両手に抱えて支えにしながら歩いてくる。どうやら彼女は朝が弱いらしい。見慣れた様子でナイトニキがインスタントのコーヒーの入ったカップを渡すと、彼女はゆっくりとそれを飲んで少しずつ眠気を覚ましていった。
オレ達が部屋を出てきたのはモモメノさんのカップのコーヒーが半分位になった頃であった。疲れきっていたせいで思いの外眠り過ぎてしまったようだ。遅くなってしまったことにゴメンと皆に言ってテーブルに座ると、ナイトニキが温めてくれたレトルトのガイアカレーライスとコーヒーを渡してくれた。昨日は行動食として用意していたチョコバーしか食べていなかったので、とてもありがたいしっかりとした朝食である。ガイアカレーは素材を厳選した霊的食材で作られており、食べるだけで覚醒者に必要な霊力や魔力の源になるMAGを摂取できる優れものだ。こうした攻略に日にちが掛かる異界攻略の際の必須品の一つである。
何より美味しいので鉄火場続きの異界内で精神を整えるのにとても効果的なのだ。飯が無ければ人は戦えないのである。そうして受け取ったカレーをシュテルと共に味わっていると、バンっと扉が勢い良く開き最後の一人が大部屋へと現れた。昨日大怪我して寝込んでたカス子ネキである。
「命子さんふっかーつ!!心配かけてスマンね皆、危うく脳が茹だって死ぬ所だったわ、ワハハ」
「うーん、これは大丈夫、なんだよな?ロザリーさん??」
「……診察上は、ね。元々緩んでた頭のネジに関してはどうしようもないわよ」
「ひどく辛辣ゥ!?や、これでも色々考えて負荷分散した結果だし、一番治しやすい形の負傷の受け流し方だったんだって!!」
「そこに関しては疑ってないわ。でもね、医者として言わせてもらうと脳という人体で一番繊細な部分の血管が破れて重症だった事に変わりはないんだから軽く受け止めないで欲しいって話よ。みんな心配してたんだからね?痛かったでしょ?」
「うっ……ご、ごめんなさい。反省してます……」
「カス子ネキの割に妙に素直やな……」
「まあロザリーさん相手じゃそうなるわよ。純粋に心配してくれてるのが言葉から伝わるもの。一見、当たりが強いように見えて実際に接すると母親のように優しい人だからね。
……キドウもそういう所に惚れたのかな」
デュエリストネキとトーコさんが、静かにお説教の言葉をかけるロザリーさんに対して平謝りするカス子ネキを見てそう言った。身内である黒札相手なら煽り散らかしているところだが、ロザリーはそうでは無い上に純粋に心配と医者としての苦言を呈された形であるが故に流石の彼女も素直に謝らざるを得ない。普段は喫茶店で霊的食材等を使用したデザートを作っているロザリーだが本業はアトランティス時代から騎士団を支援するヒーラー、つまり軍医である。医者を怒らせて良いことなど何も無いのだ。
それにいくら魔法で治る傷だったとはいえ、無理して負傷した事に変わりはない。少なくともショタおじに見られたら同じ状況でも問題なくなるまで修行漬けにされる事間違いなしの、自身の未熟さが産んだ負傷であったのは彼女も理解していた。
悪魔が残した術をそのまま使うのは危険な行為である。その為可能な限り人形に制御をやらせて自分自身に情報的汚染や魂への侵食を受けないようにして受け流したまでは良かった。問題だったのはその情報処理に肉体側がついて行けなくなったことだ。想像以上に力技で作られていた術であったが為にその補完に新規に術式を書き足したり、安全に転移を完遂させる為に追加で術式の演算やらを足した結果の脳の処理リソースが限界を超えてしまいあの負傷に繋がってしまったのだという。
それでも、霊的損害に比べれば肉体的損害の方が治しやすい為にカス子ネキはそちらを選択したのであった。
「カス子ネキ、そういう事なら帰ったらオレと一緒にショタおじの元で修行しないか?脳の情報処理能力の向上させるのにぴったりな技能がある」
「というと?」
「オレの異能は、オカルトという区分ではあるがどちらかというと超能力に当たる力だ。脳の情報処理能力がスキルの発動効率や速度に直結する。だからそれらの計算を並列して行う事ができるようにショタおじが普段使ってる例の分身をどうやって動かしてるのか教えてもらったんだ。マルチタスクっていって脳で複数の事を同時に考えて処理する思考分割術なんだが、副次的に脳の情報処理能力も最適化されて上がるからカス子ネキも使えたら便利だと思うぞ」
「……アレかー!!確かに使えたら便利そう。でもちょっと聞きたいんだけどフリスビーニキ」
「なんだい?」
「それ覚えるのに何回死んだん?」
「……厳しい方の覚醒修行の時に比べたらマシな回数だったぞ?」
「それフリスビーニキはアレで三桁以上死んでるから二桁は硬いって事じゃんヤダー!?」
意味深に笑うフリスビーニキに対してカス子ネキは頭を抱えた。カス子ネキは出会ってからそれなりに山梨支部で良く会うフリスビーニキとは交流があった為に、彼が普段よくやってる修行のキツさがどれほどの物なのか理解していた。最近だとデジタル関連の技術部としての印象が強くなっているが、ガイア連合が成立した最初期の頃から今に至るまで修羅勢と呼ばれるようになったスレの友人達と仲良く話し合える程度には修行や自身の力を磨く為の研鑽に対してストイックさを持ち合わせているのがこの男であると知っていたのだ。
前世で結構長い事ATLAS作品のファンをしていたが故に、彼はこの世界で無力であることがどれほど危険か良く理解していた。故に力への研鑽には基本的に努力や投資を惜しまないし、基本的にブレーキというものは壊れているような挙動で死なないための準備を重ねてきていた。前世でそうやって働き過ぎたせいで一度過労死しているのに懲りない男である。
カス子ネキとしては役立ちそうな技能の修行自体は大歓迎だがそれが『隣にショタおじの分身がいて教えを受けてるにも関わらず技能を覚えるだけで何度も死んで蘇生される程のキツさ』の苦行に付き合わされるともなれば頭の一つも抱えたくもなる。自身の未熟が招いた結果であるので仕方ないが、頭で仕方ないことと思っていても感情が納得できるかは別であった。
後々マルチタスクや自身の悪魔としての前世を自覚したことで習得した甲縛式オーバーソウルを自在に操る事となる彼女もまだこの時期ではそれらを習得していない。研鑽と試行錯誤を重ねる悩める人形使いであった。
「まあ、帰ってからの話は後にしよう。朝食作ったからカス子ネキはコレ食べててくれ。それでフリスビーニキ、例の調査の結果は出たのか?」
「ああ、今調査させた奴を呼び出すよ」
カス子ネキにカレーライスの乗った皿を渡したナイトニキに返答し、GUMPをホルスターから引き抜く。搭載されたプログラムを起動させる為だ。空間に投影されたキーボードに入力し、
発射された緑色の光から0と1の文字が浮かび上がるように収束していくと、ワイヤーフレームで構成された骨格部を覆うようにテクスチャが貼られていき、2頭身のヒト型が構築されていった。
『
そうして出てきたのはフリスビーニキと同じ水色とマゼンタカラーが特徴的な、長袖のパーカーを身に着けた雪だるまであった。背丈の低い彼にあわせてかがみつつ、デフォルメされたようなその姿に癒やされながらハイタッチする。
「そうだな技ーホーくん、オレも会えてうれしいよ。皆にも紹介するな。彼は【電霊
『ヒッホ!!でもこの異界ならそれが出来てしまうホー!!何故ならこの世界は電脳異界なんだホー!!ここは普通の異界と違って電子情報やプログラムによって形作られてるんだホー!!』
楽しそうに短い手足を振り、パーカーをたなびかせながら
ショタおじの作ったシキガミコアの術式の密度ははっきり言って異常としか言いようがない代物だ。米粒にお経が書かれているレベルで細かい術式がびっちりと球体に折りたたまれて書き込まれているそれの模倣は困難を極めた。かつて邪神セイバーさんに襲われた時の恐怖心からシキガミの肝心要の部分である安全面の模倣の精度を重視して「コレなら使っても良いよ!!」とショタおじからOK貰うまで解析とコピーを繰り返したが故に、セキュリティ面は正規のシキガミコアと遜色ない精度を模倣出来たがそれ以外の面を模倣し切ることが出来ずシキガミとしての成長の柔軟性が一部失われたデッドコピーを作るのがやっとであった。具体的に言えば作り手であるオレに似たのか、オレが制作したシキガミコアでシキガミを作ろうとすると物理的なダメージを与えるスキルや技、そして装備への適性が壊滅的に低くなる事が判明したのである。
加えてとても忙しいショタおじの負荷を多少は軽減出来ないかと思い、シキガミコアの生産を電子機器でコピーする事で機械的に生産できるように術式を自分の異能を使って電子データ化したのだが、それが悪かったのか電子データ化した術式でシキガミのコアを作ろうとするとシキガミ側の依代を機械混じりのものにしなければ定着率が落ちて使い物にならないというなんとも欠点だらけの術式になってしまった。安全面の確認はショタおじからOKをもらってはいるものの、現状ではオレがコピーして作れるシキガミコアは使い道が限られる劣化版になってしまっている。
なのでオレはこの術式をシキガミのコアとして使う事をやめた。『ショタおじが認めるレベルの安全性が保証された電霊へのセキュリティプロトコル兼、 思考プログラム』として、自作のAIを作り出す際の基盤に流用したのである。
そうして作成に成功したAIの第1号がこの『電霊
……尚、何故かオレみたいな見た目をしたフロスト族になってしまったが、これは『俺ら』好みの性格になるように色々と学習させた結果、技ーホー君自らテクスチャと3Dモデルを作り出してこの見た目になった為だ。……うん、賢いね!!(事実上のAiホーくんのようなものを作ってしまった事に目を背けつつ)
さて少し脱線したので話を戻すとしよう。オレが作った人工的な電霊である彼はインストールされている機材の性能や電力の限界の範囲までではあるが疲れ知らずで一日中活動できる。なので自分たちが休んでいる間、このシェルターに設置されていたLANポートにGUMPを繋いでデータの解析をしてもらっていたのである。ヒトの痕跡が多く残る場所が多くある上に、フェイクベーオウルフ……ナムナさんの最後の言葉からこの異界が『ジャンクヤード』と呼ばれていたと知っていたのでもしやこの異界、電脳異界の類では無かろうかと思い最低でも周辺の地図のデータでも見つからないだろうかと思った為だ。
調査結果は大当たり。
なんとこの異界そのものがカルマ・アソシエーション社が開発していたという戦略演算シミュレーターを土台に作られているという事実が発覚したのであった。アバチュ原作でも『ジャンクヤード』は近い形で作られた世界であったが、実際に電脳世界へやって来ていると知った時の衝撃は中々のものであった。
そして、ここに来てからオレの調子が矢鱈と良かった理由もおそらくコレが理由であろう。
オレの異能は現実でも使用可能だが、PC上やインターネット、電子機器やプログラムに対してが一番通りが良い。一番無理のない形で力を行使できるからだ。電子によって構成されたプログラムの世界は、俺にとって最早庭の様なものであった訳だ。
自分たちが今データの中の世界に居るという事を知った反応は割と黒札のメンバーとそれ以外で別れていた。
RPG好きのカス子ネキは「一周したらパロディモードがやれたりするのかなぁ」と某バンナムのオンラインゲームを元にした名作RPGの初代のネタをカレーをたべながら言い、デュエリストネキは「決闘者的にはこの世界に入るときにInto the VRAINSって言っとくべきやったかもなぁ」と呟き、トーコさんは「子供の頃、選ばれし子供たちに自分だけのパートナーがいるのに憧れてたなぁ……ちょっ、別に星眼に不満がある訳じゃないよ!?」と自分の武器シキガミである星眼の機嫌を損ねたらしく自身の刀に対して平謝りしていたり、特撮好きのナイトニキは「自分は知らない間にハイパーエージェントになっていた……?」等と寝ぼけた事を言っている。実に黒札らしい混沌とした様子である。
対して黒札ではないロザリーさんやモモメノさんは、イマイチピンと来ていない様子である。まあ、ナイトニキの話を聞く限りだと【アトランティス海洋王国】があった頃の地球って悪魔は居ないが『マモノ』という魔力を持った原生生物が跋扈するファンタジーな世界で錬金術は発展していたが電子機器など無かったとの事なので、『俺ら』としての前世の記憶も持ち合わせているナイトニキと違って純粋にその時代出身のこの二人はSFや電子機器に対して馴染みが薄いだろうからそうもなるだろう。
むしろ馴染みが無いはずなのにモモメノさんがアレだけガイアフォンを使いこなせてるのは凄いと思う。なんでもメメントスでスライムニキ達のPTに救助されて暫く彼らと行動を共にしていた際に、仲良くなった彼らに教わったとの事だ。スライムニキ*1の教えが凄く覚えやすかったとの事で、そこで日本語と共に覚えたらしい。*2
ちなみに彼女はナイトニキの妹と名乗っていたが、実際は彼女の乳母がナイトニキの母親であり共に育てられた乳兄妹であるとの事である。王女と騎士という主従関係ではあるが私的な関係は兄と妹のそれであったとのことで、こちらの時代に来てからはそのように振る舞っていたとの事だ。
「調査中というのは、この事だったんですねマスター。初めまして技ーホーくん、私はシュテルと言います」
『よろしくホー。シュテルちゃんの話はジュンからよく聞いてるホー』
「……あっ、
「正確には、この技ーホーくんはその大本の親機だな。普段は皆が使ってくれてる技教の館から取れるビックデータの収集と整理をやってくれているぞ。そこから取れたデータから、技教の館のバグや不具合の修正もある程度はやってくれる働き者さ」
「あのアプリ、結構頻繁にアプデしてくれとるのってそういう理由やったんやな。ガイア連合ってオカルトだけやのうて科学技術もめちゃ進んどるんやなぁ。ワイのカイリューちゃんの『飛行』のスキルカードもアレでランクアップさせたの使っとるから助かっとるで。あんがとな技ーホーくん」
「いつもご利用ありがとだホ。頑張って調整してるからそう言って貰えると嬉しいホー!」
尚、今回の依頼に参加してくれた面々に渡す予定の【技教の館】のアップデートアプリ【
親機である技ーホーくんそのものは家庭用ガイアフォンや普及品のCOMPでは到底入り切らないほど容量を食うので、機能を限定する事で容量を抑えつつアプリ内の新機能として作り直したのである。問題が無ければアプリの追加機能として正式リリースする予定だ。
ちなみに収集したスキルカード合成や、使用者の可能性をMAGから読み取ってブランクカードからスキルカードを作り出すスキルカード精製のビックデータは技術部の共用技術資料として定期的に提出して買い取ってもらっているのでガイア連合の各支部に置かれている共用PCからマッカを支払う事で閲覧可能だ。スキルカードの製造等にもかなり役立っているとの事で、ミナミィネキやエドニキ、探求ネキやセツニキ、等のガイア連合技術部の筆頭格の面々が主な顧客である。機械的に合体させてるからか、術者個人の技能の差によるゆらぎが少なくてデータとしての信用度が高いので重宝しているとの事だ。
「さて、技ーホーくん、例の地理の情報を地図にしてそこの壁に表示してくれ」
「了解だホー!!」
そう言って技ーホーくんはどこからかポスターのような物を取り出して、みんなが集まっている部屋の壁にそれを貼り付けた。彼が持っているのは本来実体のないデータなのだが、この世界はデータで作られた世界である為、こうやってテクスチャを張り替える事でディスプレイのように写す事も 可能なのである。
そうして貼り付けられたジャンクヤードの地図に指を指し、マップデータを書き換えて現在地に×字を貼り付けた。
「ここが今俺達がいる現在地だ。そして、ハッキングしてプログラムとしてこの世界を解析してみた結果見つかった、現在俺達以外で悪魔以外の生体反応が残っていた場所は……ここと、ここだな」
そう言ってオレはこの異界の中心部に位置している塔と、その周辺にある建物がある地域の一つに○を着けた。
「おそらく中心部にある塔の方の反応はあの女……ナツメの物だろう。ちなみにこの塔に関してはこの世界の換算で1週間ほど前からマガツヒの集中している為何かしらの事が起きている可能性が高い。それで、どこからマガツヒが流れ込んでいるのか調べたんだが……」
更にマップデータに手を加える。塔の周辺地域の三ヶ所に×をつけると、1か所先程○で囲った悪魔以外の生体反応が残っていた土地と重なった。
「どうやらオレ達がこの世界にたどり着く1週間前までは他に2ヶ所、この塔にマガツヒが吸われていた土地があったようだ。だが何故かその流れが断ち切られている。疑問に感じて理由を調べてた結果、その土地に設置されていた監視カメラから出てきた映像データがこれだ」
その映像をモニターに出す。そこには暗い灰色にオレンジ色の差し色が入ったSF風の戦闘服を身に着けた救助対象である筈のハルカラさんの姿と、形は人によって少々異なるが同じ色と同じ雰囲気のデザインの戦闘服を身に着けたルシェ三人の姿が映っていた。その姿を見てナイトニキ達が目を丸くして驚愕しているのを尻目に見つつ、そのまま映像を流していく。
相対しているのは、多くのヒトの骸を肉体として取り込んでグチャグチャに融解させたような外皮を持つ、爬虫類や恐竜の手のような姿をした化物である。アナライズの結果映像越しの為完全にとは行かなかったがその名前と種族位は判明したのでその情報を記載しておく。
【邪竜 ヘイズシールド】と言うその化物に対して、ハルカラさんとその三人は臆することなく戦いを挑み__悪魔の力が込められた痣である【アートマ】の力を開放して、悪魔の姿へと変身した。
「……バカな、なんでこの三人が生きて……」
「それに関しては分からない。だが少なくともハルカラさんと行動を共にしていることは確かだな。ナムナさんとラギさんだけでなく、この緑がかった灰色髪の男もナイトニキの仲間の一人で間違いないのか?」
「……ああ、彼はユスタスと言って近衛騎士団の斥候役を務めていたんだ。アラカナ回廊で戦死した一人だ」
「あっ、この人の変身した姿アタシ達があの研究所で相手した悪魔と同じ形してる。色は真っ白だったから違うけど」
「せやな。まあワイらが戦ったあの悪魔に関しては皆が戦ったていう羅刹モードになる前に脳缶ニキと一緒に連携してハメ殺したから人としての姿がどんな見た目か分からへんけど変身した姿は同じやな。」
「ってことは俺達の戦った三体のあの悪魔の出処はこの世界からでほぼ間違いなさそうだな。だとするとなんで同一人物と思わしきヒトが複数居るのやら……」
ろくでもない真相が隠されてそうで気が重くなってくる。今の時点で事実確認が取れた情報だけでも核動力で動くセントリーボットが護衛に何機も配備されてて、ろくに機能していなかった筈の悪魔化ウィルスはLv50超えの喰奴を生み出す程まで研究が進んでいて、それでこの電脳異界と来たものだ。厄ネタの宝庫過ぎてコレあの女を捕まえるなり仕留めるなりするだけじゃ済まない気がしてきた。
ただ末端のマッドな研究者が暴走したにしては色々と揃い過ぎているのだ。少なくともただの人間だった筈のあの女があのように変異して、こちらに転移する程の力を渡した何かが存在しているのだ。警戒はしておいたほうが良いだろう。
あの転移の魔法陣、脳缶ニキ曰く魔道書の【黄衣の王】の記述に書かれていた物に近いという話なので某N案件や外なる神による暗躍の可能性もある。念の為に外にいる二人には山梨支部への連絡と場合によってはカオルニキに出動してもらえるように某N案件の可能性有りと伝えてもらうように言っているが、なんにせよまずは当初の目的の達成を重視するべきだろう。
「なんにせよだ。まずは彼らと接触しようと思っている。少なくともハルカラさんとはこれだけ息を合わせて戦える様子であるのだから、話をしてみる価値はある筈だ」
悪魔の姿へと変身しながらも、明らかにヒトの理性を保っている様子で連携しつつ、プレスターンバトル特有の高速戦闘で強固な装甲を持つ【邪竜 ヘイズシールド】を追い詰めていく彼らの映像データを見ながらオレはそう言った。
「……これ、プレスターンバトル特有の高速戦闘だ。弱点属性やクリティカルで手数増やしつつ連携技のランダマイザっぽいのを重ねてとかなり上手い立ち回りしてる。相手のあの見た目がグロい悪魔の攻撃をカウンター技で打ち消して自分たちの攻撃の手数を増やしてるあたり、かなりの手練ね。殺るか殺られるかのプレスターンバトルだと、最適解に近い動きしてる」
「連携で真価を発揮するタイプか?そういや、転生前に発売されてたATLAS最新作のメタファーにそんな要素あったような……たしか【ジンテーゼ】だったか?ペルソナっぽい……アーキタイプだったかな?それを複数人で連携させて強い技を繰り出してたな」
トーコさんとナイトニキがその映像を見て気になった点を指摘した。変身したハルカラさんたちの戦い方は一瞬の油断が命取りとなるハイリスクハイリターンな呼吸の制し合いが特徴的なプレスターンバトルであった。DDSAT原作からして、あのゲームはプレスターンバトルというゲームシステムそのものを煮詰め、楽しめるように特化して作られた作品であった。その作品の主役であった人から悪魔に変身する喰奴という種族そのものの戦闘における適性がプレスターンバトルに特化していてもおかしくはない。
そういう意味ではあの時、自分たちが戦いの主導権を握ってバトルシステムを次々と切り替えて自分たちの優位になるよう立ち回ったのは良い手だったと言えるだろう。それでも結構ギリギリだったので格上相手での戦いは数で上回っていてもやはり油断できんなと気持ちを引き締め直した。
「喰奴による戦闘だから正確には【ジンテーゼ】の元ネタだろうと言われてる【リンゲージ】だろうなこれは。アバチュにあった、PTメンバーの特定の技を組み合わせて発動できる連携技だよ。というか、ナイトニキメタファー買えてたんか羨ましい……オレは発売直前あたりで過労死しちまったから体験版しか出来て無かったんだよなぁ」
「自分も始めて序盤の方でこの体に憑依転生しちまってるから、どんな内容だったかだいぶ記憶薄れてるけどな。気がついたら全身ズタボロで東京湾にプカプカ浮いてた状態だったから海岸に着くまで必死に泳いで力尽きてしまって……日課のジョギングしてたトーコさんの親父さんに拾われて命は助かったけど、憑依する前の記憶はその時戻ってなかったし、記憶喪失者として戸籍作ったりで忙しくって正直な所それどころじゃ無かったんだ。今となっては役立つ知識だった物もだいぶ忘れてしまってるなコレは」
「あー……アタシも山梨支部のみんなと恐山が合流するまではマトモな戦力が自分一人の状態で立ち回ってて忙しかったから分かるわその感覚。メガテン世界だと気がついてその手の知識が大切だとなるべく早く気が付かないと、役立つ知識だった筈なのに忘れてて悔しい思いするんだよねぇ。黒札あるあるだわ」
彼らの戦いの映像を見て情報を探りつつ、カス子ネキとナイトニキの二人と会話をしながら今後の行動方針をどうするか固めていく。
話し合いの結果まずは当初の目的であるハルカラさんの救助を優先すると決まった所で【邪竜 ヘイズシールド】をハルカラさんが変身した姿である【喰奴 ジークフリート】が剣の形に変形させた腕を突き立て、その身体を引き裂き流れていた映像が止まった。
「ハルカラさんたちがこの悪魔を倒した辺りから、この土地から塔に流れるマガツヒの供給が途絶えた情報がログデータから確保できている。おそらく、この悪魔が土地に染み付いたマガツヒをこの土地の中心部にある塔に流しているのだろう。マガツヒが流れてる土地の最後の一つにも強力な悪魔の反応があったから、そこからの推察になるんだがな」
「……うーん、何らかの理由であの塔に流れてるマガツヒの流れを止めたいのかな?ハルカラさん達は」
「理由については聞いてみないと分からないが、あの塔にこの四人も何か用があるのかもしれんな。とりあえず今の所判定している情報は以上だ。改めて纏めると今後の行動方針としてはまずはハルカラさんと合流する事を優先。その後はこの異界を支配する存在を討伐してこの異界から脱出、もしくは一時撤退して増援を呼んで討伐する。まだそういう物があの女以外に居ると確定した訳では無いが、居ると想定したらこれだけのマガツヒを取り込んでいる事になる。そうなると起こり得る被害的にこの中で仕留めないと不味い。なんとか外に出ようとするのを防いでこの中で始末をつけたい」
何せ現実側の位置としては、都心部から離れた郊外とはいえ東京だからなココ。下手に異界の外に出られたらそれだけで大惨事確定だ。下手すると終末の引き金にすらなりかねない。
まだ俺達ガイア連合としても終末に向けての準備が整っていないのでいずれ東京は盛大に滅ぶと見切りをつけるにしても、今はそうするのはまだ早すぎる時期である。地方にジュネスを開店する為の工事が終わりきってない場所が多々あるし、何より終末が来てもコンビニにファミチキを買いにいける位の文明を維持する仕組みをまだ山梨支部(本部)でさえ確立し切っていない。まだ滅んでもらっては俺らとしても困るので全力で阻止したい。*3
「同感ね。私達ガイア連合はあくまで民間組織だもの。バレないようにガス爆発による事故だとか、そういう風に誤魔化すにも限度があるし、悪魔に勝ててもバレたら法律には勝てないからね。この異界の中ですべてケリを付けるのが一番都合がいいと私も思う」
「トーコさんの言うとおりだ。まあ正直、異界じゃないあの研究施設の後始末をどうするかも悩ましいんだけどな。核使ってるセントリーボットの処理とか、あの違法増設された研究設備やら、無事終わったとしても仕事は山積みだぁ……まぁ、今考えても鬼が笑うだけか。それじゃ、ある程度方針も固まったし各自30分後を目安に準備が終わり次第再度ここに集合して目的地へ出発しよう。一旦解散しようか」
そう言うと、各々昨日寝ていた部屋に皆荷物を取りに戻っていく。オレは思う所があった為その場に残る。少し調べたい事があったからだ。
「シュテル、すまないが先に部屋に戻って置いてきた荷物の回収を頼んでもいいか?皆と話してちょっと気になることが出来たんだ」
「はい。ですがマスター、あまり根を詰めすぎないほうが良いかと。昨晩のように毎回疲れ果ててしまってはお身体が保ちませんよ?」
「今日はシュテルのおかげで安心してぐっすり寝られたから大丈夫さ。心配してくれてありがとな。戻ってくる頃には調べ終わってる程度のちょっとした調べものだからすぐ済ませるよ」
「そういう事なら……では、少し失礼しますね」
そう言ってシュテルは一人で部屋へ向かっていった。技ーホー君と二人になったタイミングで、オレはこの部屋に設置されていたLANポートにGUMPを繋げる。
現実世界側でオレ達が倒した方のナムナさんが言っていた最後の言葉を思い出す。彼女は自分達のことを『繰り返し続ける煉獄の中で生き残った一例に過ぎない』と言っていた。そこから彼らに起きた事を推察すると、色々と情報が出揃ったことで一つの仮説が思い浮かんだのである。
『何らかの方法で手に入ったナイトニキの同胞達の情報を使い、シミュレーター内で悪魔化ウィルスの実験台にしてこの世界で何度も何度も殺し合わせているのではないか』という最悪な仮説がだ。
もしそれが事実であるならばその証拠も、このデータの世界であるならログとして残っていると考えたのだ。間違っていて欲しいと思うが、そうであるならハルカラさん以外の彼らもただの悪魔としてではなくメシア教の被害者として助け出しても問題なくなる言い分が作れるかもしれないので調べておくべきであろう。
ナイトニキの心情的に彼らも助け出したいだろうからな。
幸いにもナイトニキは封魔管の扱いを修得済みの歴としたサマナーだ。悪魔相手に鎧と盾持つだけで壁役として戦えてしまう身体能力があるので体内のMAGの節約の為に普段はシキガミであるロザリーと取り寄せ特化のアガシオンしか使っていないが、ショタおじからの試験も合格してるとの事なので問題なく彼らを仲魔に出来る筈だ。
……霊視ニキにこっそり話を聞いたが、ナイトニキは先の戦闘でフェイクカルラを……悪魔として暴れ狂うラギさんを自ら手に掛けてしまっている。そのせいで、今のナイトニキはだいぶ精神的に追い込まれていると感じた。朝早く起きて朝食の用意をしてくれていた姿は一見穏やかに見えたが、あれは普段のルーティーンに近い行動を熟すことで自分の気持ちに蓋をして行動できるようにしているだけだ。
そんな状態の今のナイトニキにこういう気の回し方を求めるは酷というものだ。だから、多少嫌なものを見る事になるとしても完全な身内ではないのでそういう気が回せる余裕があるオレがこういう役回りをする事にした。
友達に後悔して欲しくないからな。それぐらいはするさ。
「それじゃ技ーホーくん、この世界を動かしているシミュレーションプログラムのログデータへの案内を頼む」
『了解ヒホ。今GUMPの中に戻るホー』
技ーホーくんの実体化していた体が0と1の光の粒子へ解けるように消えていき、MAGの光が手にしているGUMPへと吸い込まれていく。
そうしてGUMP側のモニターにその姿が映ると、多数のウィンドウが一気に開き、暫くすると目的地であるログデータが保存された場所へ移動した。
GUMPに自身の異能で作り出した半透明なプラグを接続する。今自分が居るのは電脳異界ではある為この行動に意味など無い。こんな事しなくでもダイレクトにそのデータを漁ることができる。
だが、あえてその無駄な行動を行う。自分の中で意識の切り替えを行う引き金のようなものだからだ。こっちの方が作業に集中できるのだ。
「解析、開始……!!」
膨大なデータ量のバックログを収集し、中身を確認していく。この異界の運用データ。何が行われてきたかの足跡。喰奴達の生存競争と、その果ての収穫……
そして、この世界で生きて来た者達の感情のデータが、生々しく残されていた。嘆き、悲しみ、そして……常に襲い掛かる飢餓感。かつて仲間だった者達の血肉を喰らわざるを得なくなった者達の、理不尽に対する行き場のない怒り。
それらが全て、この世界に記録されていた。
「……クソがっ……!!嫌な予感大当たりかよ……!!」
ああ、間違いない。彼らはどうしようもないほどに被害者だ。悪魔化ウィルスによる悪魔化の影響は、まだ異界化する前のこの世界ではあまりにも劇毒が過ぎた。完全なデータの世界であったこの世界には、当然のことだがマグネタイトなんてものは無かった。そんな状態で、肉体が悪魔化したら一瞬で全身がマグネタイト不足に陥る。
不足したマグネタイトを求めて悪魔になった者達は、どれだけ嫌でも理性を失い隣にいるヒトや同じく悪魔になってしまった仲間達と共食いをせざるを得なくなる。そんな大惨事を何度も何度も繰り返して、血肉と無念がこの世界にマガツヒやマグネタイトとして少しずつ蓄積されていった。そんな地獄が何度も何度も繰り返されて異界化したのがこの『
『……ジュン、大丈夫?凄い怖い顔してるホ……』
「ッ、ゴメン技ーホーくん。ちょっと、ちょっとな……今見た情報が胸糞悪すぎて腹が立つ内容だったんだ」
何千、何万と再配置と悪魔化ウィルスの散布による暴走を繰り返させ、その中で生き残った優秀な喰奴のデータを収集し、統合させる事で外にいる研究員は目的の対悪魔、天使用の兵器を開発することに成功していた。
コードネームは【カルラ】【シグルド】【ベーオウルフ】といい、精製した特殊なマグネタイトを与える事でその凶暴性を制御することに成功したと、データには記されていた。
(……オレ一人でこの情報を見ていてよかった。彼らの同胞たちが受けたこんな残酷な実験の資料、今のナイトニキ達に見せていい訳が無い……!!)
昂る憤怒は確かに力になり得るだろう。だが限度というものがある。憎しみや怒りに囚われた人間は脆い。悪魔はそういった人間の脆さに漬け込んでくる相手だ。そうなればどれだけ強かろうが驚くほど容易く人は死ぬ。オレはナイトニキ達にそうなって欲しくはない。いずれ伝える必要はあるだろうが、今だけは。
だから、せめて今はオレがその怒りと無念を受け取ろう。友を食わねばならない無念。無益な殺し合いを強要され続けた悲しみ。幾度となく繰り返され続けた憎しみと嘆きを。
知らなければ、知ろうとしなければ、ここまで彼らの事情に深入りする事は無かっただろう。だが知ってしまった時点でその声なき声を無視する事など出来ない。そんな中でも生きようと足掻き続けてきた者達の、正しき怒りを果たそう。
オレが彼らに対して出来る事は、それ位だから。