【カオ転三次】滅亡を防ぐ為、汝第七の竜を狩れ 作:日λ........
無機質でありながらどこか宮殿のような作りをしていると感じる廃墟群を眺めて、彼らは周囲に警戒しながら各々が持った獲物の再確認を行った。
男性のルシェ特有の浅黒い肌とエルフのような尖った耳を持つ緑掛かった灰色髪の青年、ユスタスは麻痺毒が銃弾内に仕込まれた【神経弾】*1入りのサイレンサー付きM1911のスライドを軽く引きプレスチェックを行い、肉食獣のようなしなやかな四肢と180cm以上の背丈を持つ赤髪の女ルシェであるラギは【プルトニウム弾】*2のスラッグ弾が入ったショットシェルをモスバーグ500に詰め込み、ノースリーブの全身タイツに軍用ブーツと、その上にオーバーサイズのブカブカなジャケットを羽織っているだけという痴女じみた格好*3をしているナムナはジャケットの内側に仕込んだ異様に硬く重い次世代型合金の弾頭が使われた破壊力に優れる【黒金の弾】*4が装填されたマガジンを引き抜きM3サブマシンガンに装填し、戦いに備えた。
「皆器用だよねぇ……わたしはそれ使って戦うのやっぱ無理だわ。全然当たんないし」
彼らと同じ意匠の戦闘服を着崩さずしっかり着込み、桜色の髪にルシェの証である狐耳をピンと伸ばした姿のハルカラは未だ見慣れぬ銃器を見てそういった。
せめて使い慣れた大剣か両手斧があれば悪魔相手に生身でも遅れを取らずまともに戦えるのにと思うが、彼女はアカラナ回廊を脱出する際にそれらを両方失ってしまっていた。代わりを探そうにも彼らの武器庫にある物は見たことのない射撃武器ばかりで、数少ない近接武器もあくまで現代戦用の片手で持てる物しかなく、マモノや悪魔を相手に戦える彼女の基準ではひどく頼りない物ばかりである。
元が米軍向けの軍用シミュレーターとして開発されていたこの世界にある武器は、銃弾こそ悪魔業界向けのものが設定されていたが武器本体は米軍の制式採用品やアメリカ製銃器等ばかり。近接武器など重視される訳もなくナイフや手斧、せいぜいが塹壕を掘るためのシャベル位しか想定されていなかったのである。悪魔化ウィルスの実験場に改造されてからも、近接戦闘なんてものは悪魔に変身して行うのが前提とされた為、彼女が求める大剣や両手斧は存在すらしていないのであった。仕方がないので無いよりはマシと武器庫から軍用の小さな手斧を数本持ってきていた。まともに叩きつけるには心許ないが、いざとなれば投げつける為のものである。
彼女も一度試しにユスタスのハンドガンを借りて撃ってみたのだがその音にビビり散らかし、一発も的に当たらずこりゃ実戦で使うのは無理だと早々に諦めていた。なので代わりに変身していない間は鞄を持って戦闘に使うアイテムや食料となる消えずに残った悪魔の肉を運搬する役割を担当していた。強制的に寝かされている間に多少は衰えたが、元々鍛え上げられたルシェの戦士である彼女にとってはリハビリには丁度よい程度の負荷と重さだ。
これらの武器は生身で悪魔と会敵した際の備えだ。喰奴への変身による消耗は激しい為四六時中悪魔の姿でいる事は出来ない。加えて一部の悪魔には空を飛んでいて中々攻撃を当てられなかったり、矢鱈と銃の通りが良い物がいるのでその対策でもある。
「練習すればハルカラもその内覚えられるだろう。今度、望むなら教えるさ。さて、各員戦闘準備はできたな?」
「おう、万全だ。とっととあそこにいる悪魔共も朝飯に変えちまおうぜ。ハルカラの料理が早く喰いてぇからな」
「同感だ。生で齧るしか無かった悪魔の肉が、調理できるとあのような美味になるとは……それだけで悪魔と戦う意欲が湧いてくるのだから拙者も現金なものよ」
「あはは……みんなが喜んでくれたならいいけどね」
図らずとも皆の胃袋を掴んでしまった事に対し、こういう形で信頼関係を築けてしまった事は想定外だったとハルカラは苦笑する。
【アトランティス海洋王国】において、魔力や霊力の篭った食材というものは実にありふれたものであった。何せ当時の家庭菜園で作る作物の定番である『パロの実』*5でさえ、生で齧るだけで現代ではそれなりの製法や材料を使ってようやく作る事ができる『傷薬』相当の回復作用効果を即座に発揮する程、そう言った食材や作物が普及していたのである。
ルシェ達は当たり前のようにそれらを【調理】する事ができた。現代で言えば霊的食材の調理はガイア連合の黒札でさえ納めているのは少数の特殊技能だが、彼らの時代ではそれが一般家庭でさえ当たり前の行為であった。
特に性質が変化しやすい【マモノ】の体の一部から作り出す料理は最早錬金術のそれに近い代物だ。サイのような一角獣の角が極上の甘さと旨味をもつケーキになったり、全身麻痺毒まみれのローパーという触手まみれのマモノが無毒化して見た目はそのまま食感が完全にうどんのそれになったりと見た目からは判断できないような料理に変質することもよくある事例であった。*6
アトランティスの錬金術も元々は【マモノ】の食材を昇華する事で全く別の味を持つようになる秘伝のレシピから始まった、などというを子供に聞かせる定番のお伽噺として広く伝わっていたほどだ。
それ故に騎士団内でも食いしん坊で有名で、よく自分で狩った【マモノ】を自分の手で捌いて料理にして騎士団員のみんなに振る舞っていたハルカラからすれば、一部の例外を除き常人が食えば即死するほどの未知の毒性を持つ悪魔の肉でさえ加工すれば無毒化して美味しい料理に作り変えられるただの食材に過ぎなかったのである。こうして美味しそうだと彼女に目をつけられた悪魔達は哀れにも調理されてしまったのであった。
ジャックランタンの煮付け、カイチのケバブ、ヌエとマンドラゴラのブラウンシチュー、ジャックフロストのかき氷等々、レーションに付属していたが使われることなく残されていた塩、砂糖等の調味料と半ば錬金術と化している程の腕前の【調理】技能を持つハルカラの手により、彼らの手で狩られた悪魔はどれもこれも美味しくハルカラの手で調理され、余すことなく食されていた。
この食生活の変化は彼らに良い影響を及ぼした。まずマグネタイト摂取の効率が非常に上がった事で飢えて暴走する危険性が一気に減った。
そもそも大量に悪魔を食べても食べても、少し暴れればすぐ餓える燃費効率の悪さは悪魔の毒性ごと摂取していた為、肉体側が無毒化する為に摂取した悪魔をかなりのエネルギーを使って全てマグネタイトに変換していた為だ。悪魔を食べても人間の肉体側の食事を別途取らなければならない理由はコレが原因である。腹をよく痛めていた理由も食べ過ぎによる中毒症状一歩手前であることを肉体側に伝える警告であったのである。
これにより悪魔の肉を大量に確保しておかなければならない状態がかなり改善され、食料の保存とレーションの摂取のためにアジトへ戻っていた時間がかなり短縮されていた。喰奴に変身しなくてもハルカラが調理した悪魔の肉ならヒトの姿のまま食う事が出来て、ヒトの肉体も悪魔の餓えも両方解決されるようになったのだ。以前なら無理だった出先で悪魔を狩って食うだけで肉体の性能を維持する事もハルカラが【調理】して解毒しつつ肉を焼けば良いだけで容易に出来るようになったので、一気に活動時間が伸びたのである。更に、これらの料理は一定の期間彼らの身体能力を増強する効果を齎した。
医食同源。毒と薬は表裏一体……強い毒性を持つ悪魔の肉も、ちゃんとした処理を行えば霊薬にも勝る薬効を持つ薬膳となるのだ。*7これまでは無理矢理消化する形で食していた為に無駄になっていたそれらが機能するようになり、彼らの調子は喰奴になってから一番良い程にコンディションが向上している。
そうしてその勢いに乗り、この一週間ほどで彼らは『アイゼン・トライブ』と『ネバンプレス・トライブ』があった土地に進軍して、そこに根付いた厄介な悪魔達を次々と撃破して来たのである。
ハルカラがこの世界に落ちてきてから、停滞していたこの世界に様々な変化が現れ始めた。まず初めに自分たちにこの様な仕打ちを受けさせた者が居るのでは無いかと思い攻略を進めていた中央の塔に3つのトライブの跡地から異質なエネルギーの流れが出来たこと。その影響で塔に結界が貼られ、トライブの拠点各地に設置されたターミナルを使用しての転移による移動は愚か物理的な侵入すら出来なくなってしまった事だ。
何故今になってこの様な動きを見せたのか訝しみつつも、あの塔に何かが居ると言うことに確信を持った彼らはなんとか塔への侵入を行う方法を探して塔を覆うその赤い半透明な壁を見て回ると、その力の流れが可視できる3つの線で繋がっている事を発見し、その先を辿っていった結果かつての上位トライブの跡地にそれが繋がっている事を発見。そしてその跡地を根城にする悪魔の群れを見つけた。
そしてその悪魔のボスを狩る事で、エネルギーが塔へと注がれている流れを断ち切る事が出来る事を発見したのであった。
「ここが最後の一つだ。あの赤いエネルギーの流れを断ち切れれば、再びあの塔に挑む事も出来るかも知れない。……行くぞ皆!!」
「おう!!パーティの始まりだぁ!!」
「襲撃開始と行こう。突貫するぞ!!」
「__もう!!皆血の気多すぎだよー!?嫌いじゃないけどさー!!」
元々戦闘狂の毛があったラギはともかく、慎重に斥候を熟す仕事人であったユスタスや物静かで淡々と鍛錬を熟す武人であったナムナも極限状態の中で生き残ってきた為に死線の中に活路を見出す修羅の思考にガッツリ浸かっていたのであった。
騎士団時代の同僚であった彼らを知っているハルカラは、ここにいる彼らとその違いにギャップを感じつつも『確かに皆ではあるけど生きてきた環境が違うからそりゃ性格とか考え方も違うよね』と受け入れつつあった。良く言えばおおらかで寛大、悪く言えば興味のないことに大雑把な彼女からすれば彼らが偽物か本物かなどより、自身の感性に従うほうが大切だと思っているからであった。
彼女にとっては死んだ彼らも、今の彼らも大切な人達で、仲間であることに変わりはないのだ。いつか説明しなければならない日も来るかもしれないが、今はそれよりも彼らと共にこの世界から脱出を果たし、あの女からあのペンダントを取り戻し、可能であれば報復も行う事を優先する。まずはそこからだとハルカラは思い、これから始まる戦いに集中した。
こうして彼らは残された最後の上位トライブの一つであった『ミロス・トライブ』跡地へとその足を進めた。
「フリスビーニキー!!もしかしてこれか!!なんか円柱状の装置ある部屋見つけたでー!!」
「でかしたデュエリストネキ!!多分位置的にそれだ!!」
一夜を過ごしたシェルターから出て来て、はじめに行ったのは転送装置であるターミナルを探す所からであった。今から目指そうとする場所は現地点からはだいぶ離れている為、徒歩で荒野を突っ切ろうとするとハルカラさんたちがその間に別の場所に行ってしまう可能性がある。なので移動時間の短縮の為にこの世界のデータを解析した事で得た稼働しているターミナルの設置箇所の座標から一番近い物を襲撃してくる悪魔を迎撃しながら手分けして探し出していたのであった。
「けどこれ使っても大丈夫なんか?こっちの世界へ来るときもあの魔法陣の転移使っとったけど、そのせいでカス子ネキがあんな事になったやん?」
「そこに関しては問題ない。ターミナルを介した転移は仕組みがターミナル側で完全に独立してるからな。利用してるだけのオレ達側には一切負荷は掛からんよ」
「あーそうか。よくよく考えたら荷物移動させる手段なのに荷物側に負荷掛けさせる運搬システムとかお話にならへんもんな」
「そういう事だ。出来れば山梨にもいつか設置してほしいけど、日本はこの手の転移装置の道として使う地脈がメシア教の走狗だったGHQのせいでグッチャグチャになってるのがなぁ……本格的に使えるようになるのはおそらく終末後になるだろうね。その頃に転移先が残ってれば良いけど、そこに関しては地方の俺らの頑張り次第だなぁ……」
「ホンマにロクなことせーへんなメシア教。ウチも身内に毒牙が掛からんよう気ィつけとこ」
「アレの対策に関しては用心して越したことはないぞ。さて、とりあえず目当てのものは見つけたから皆に連絡するか。モモメノさんにメールしておこう」
ガイア連合系企業が売り出しているガイアフォンやCOMPに使われている通信回線は大体のものに通常回線を利用した物と、異界内での利用等を目的としたMAGを消費して行う【念話】スキルの仕組みを応用した物の二種類が搭載されている。後者に関しては基本は通信距離に限界があるのだが、この世界を解析した事でこの異界中に張り巡らされた軍用シミュレーションとして外部のPCから干渉する為の回線を発見しているのでそこを経由して接続するように皆が持ってる端末を設定しておいた。なのでこの異界内での回線の強度は確保済みだ。どこに居ても繋がるようになっている。
なのでデータ量の少ないショートメールでのやり取りどころか普通に通話もノイズ無く出来るが、MAGの節約の為に普段通りショートメールを使う。あの魔法陣での転移に使用したせいでオレのGUMPのMAGバッテリーの中身は残り少なく、総容量の1割程度しか残っていない。道中襲い掛かってきた悪魔を倒して多少はMAGを回収は出来たが、あまり無駄な使用はできない量だ。大切に使っていきたい。
その後、メールを受け取ったモモメノさんがペルソナを使って自分たちのいる場所をサーチして皆をナビして案内してくれた。
「おー、マジでターミナルじゃん。真Ⅲのアマラ転輪鼓タイプだ」
「この世界だといろんなシリーズ作品要素がごちゃまぜになってるって話聞いてたけども、実例が出てくると実感が湧いてくるね」
トーコさんが言うように、本来アバチュにこのタイプのターミナルは無い。後に真Vにも出てきたが、この円柱状の物体のターミナルは本来【真女神転生Ⅲ】のターミナルであってアバチュの転移等を行う端末は別物である。まあアバチュの世界観は本来かなりSF寄りの世界観であるので、オカルト側の存在が暗躍して裏社会で蔓延るこの世界でわざわざそちらの技術系譜を発展させるより、既存のオカルト技術で補った方が効率的だ。オレも技ーホーくんを作った際にやった事である。
「……よし、端末に転移先のターミナルの位置情報をセットした。皆、今からハルカラさんたちが今いる場所の近くのターミナルに転移するぞ」
異能で出した半透明なプラグを引き抜き、GUMPの画面を折りたたんでホルスターにしまうと無事稼働が開始したようで、円柱の表面に書かれた梵字が青白く光り輝き、ゆっくりと回転し始める。回転が早まっていき、バチバチとエネルギーのようなものが放出し始めた頃、目が眩むような閃光が発せられたと同時に、俺達はその光に飲まれ次の瞬間には転移が完了していた。
転移したあとのターミナル周辺に建物は無く、屋根が少しだけ残った廃墟の下に隠れるようにターミナルがちょこんと置いてあるのが見えた。
「皆、体に不調はないな?『忘れ物』してたら洒落にならんぞ」
「怖いことを言わないでくれ……うん、全身問題なし。きれいに転送出来てるな」
「……げっ。転移は無事に済んだけど、落ち着いて行動って訳にも行かなそうだなぁこりゃ!!」
そう言ってカス子ネキが人形数体を取り出して放り投げる。投げ込まれた人形にMAGで出来た糸を繋ぎ、入手は標的に対して【マハムド】と【マハザンマ】を繰り出した。
その様子を見てモモメノさんが自身のペルソナ【
『……うわっ、この辺悪魔が密集してる!!と、とりあえずサーチできた個体は随時マークしておくから皆警戒して!!』
「助かるモモ!!自分が注意を引くからその隙に皆は戦闘の準備を!!」
【エウリュディケ】を介したモモメノの言葉に返答してナイトニキは【挑発】を発動してこちらへと襲い掛かろうとしてくる悪魔への注意を引いてくれた。それに合わせて、咄嗟に出せる支援を発動する。
あたり一面真っ赤で悪魔だらけだ……この数だと下手に守るとジリ貧になりかねない。一気に攻めると決めて、味方全体に攻撃バフを撒く事を選択した。
「【アタックゲイン】!!……シュテル、頼む!!」
「了解です!!照準完了。消し飛べ!!」
シュメルは全体に範囲を広げた火炎魔法【イフリートベーン】を発動する。それに合わせてナイトニキが見事なバックステッポ……もとい、バックステップで大きく飛び引く。それによってシュテルの放った炎をナイトニキのみ躱すと、ナイトニキの【挑発】につられてこちらに接近してきた悪魔の群れがなだれ込み、強力な炎で燃やし尽くされていく。
そしてその攻撃に反応して一人の剣士が動き出す。シュテルの炎を刀で受け取り、魔法剣と化した燃え盛る刀を構えたトーコさんはその刃を悪魔の群れに向け、その力を一気に開放した。。
「【風林重ね】からのっ……【旋風巻き】!!」
炎を纏う刀を振るい、繰り出すは斬撃のつむじ風。否、もはやサイクロンと言ってもいい規模のそれは前に進みながら敵を吸い込み、引き裂きながら風を飲み込み発展していく火災旋風へと変質していく。炎に耐性のある悪魔は発生したかまいたちの刃が細切れに変え、逆に斬撃耐性のある悪魔は燃やし尽くされて灰と消えていく。
「おっと、思ってたよりいい威力になったね。流石にショタおじの炎と比べたら弱火もいいところだけども」
「アレと比べたらどんな火災もただのボヤですぜトーコさんや……で、あれはどうやって消すの??」
「見渡す限り砂と石ばかりの荒野だから
そう言って彼女は【星眼】を構え、その刃を燃え盛る炎に向けた。炎の中から燃え尽きずに生き残った悪魔たちが勢い良く飛び出してきたのである。
真っ赤な体毛の虎の顔が胴体にある異形の悪魔と同じく赤色と緑の鬣を持つ二足歩行の馬のような悪魔だ。前者は細かい傷のみで一切の焦げ跡がない姿で、後者は煤と傷跡でボロボロになりながらも五体満足で現れた。
カカカカッ!!
【堕天使 フラウロス Lv50】と【魔獣 オロバス Lv49】が現れた!!
「うげっ、夜叉鬼との戦闘で分かってはいたけど……随時とレベルが高いなぁこの異界にいる悪魔!!」
「火炎への耐性と素のタフさで無理矢理突破してきたか。まあこれくらいは想定内ね。フリスビーニキ、モモメノちゃん!!いつものよろしく!!」
「OK任せて!!戦闘形式は……この弱点属性なら、
「勿論。やってくれモモメノさん!!」
ガイアフォンに送った2体の悪魔に関する属性相性の情報を見たモモメノさんが、ペルソナを顕現させて歌う__全ての人の魂の詩を。
その歌を引き金に、虚空から黄金の蝶が現れてこの場にいるものを先導していき、皆の心を重ね合わせていく。彼女のペルソナを介して皆の心を、お互いが考えていることを重ね合わせる事で擬似的にペルソナ使い特有の戦い方である物理法則を無視した超高速戦闘の場へと誘う、ワンモアプレスによる戦いの場への招待状である。この場に居る皆がそれを受け取ったそれを了承する事でこの場の戦闘形式をワンモアプレスへと変化させていく。
そうして戦いの主導権をこちら側が握ったことで、自分たちが先手を取る権利を得た。戦いとは直接相手を傷つけ合う前から始まっているのだ。この戦闘形式の変更は、先手の奪い合いと言っても良い。
オレの異能はこういう細々としたルールの押し付け合いと、一部のルールをハッキングして別の形に塗り替える事で優位を稼いでいくのに向いた力だと最近理解し始めてきた。結果的に原作のゲームシステムの再現になってるが、これはこの世界にとって最も無理のない形の改変だからだ。この世界はいろんなATLAS作品の要素がごちゃまぜになってるせいか、ATLAS作品の戦闘システムなら『ルール』として敷く事が容易に出来るのだ。ただ、皆修羅勢でさえこの手の戦闘システムの再現には手間取ってるって話を聞くので単にオレの異能がこういう事に向いてるだけなのかもしれない。出来ないと思うよりできると思う方がこの業界だと重要なので自分の感覚に従う事にしている。まあ、ハッカーなんだから色々書き換えられて当然だよね!!
そうやって炎の嵐から飛び出す事で不意打ちを行おうとしていた2体の悪魔に対してルールの押し付けを行う事で逆に先手を取り、オレたちはワンモアプレスによる戦闘で迎撃を行った。
「出てきたのがソロモン72柱の悪魔で助かったよ。脳缶ニキから頼まれてたデビライザー用の『ナース・コール』*8を渡した時の報酬で、お前らの情報を貰ってアナライズ情報に登録してたからなぁ!!【スリープオール】起動!!」
オロバスもフラウロスも火炎に強い耐性や無効を持ち氷結を弱点に持つ悪魔だが、それ以外にも耐性に穴がある悪魔である。フラウロスは睡眠属性の攻撃に弱いのだ。オロバスには耐性は無かったが弱い訳では無いので素で弾かれたものの、弱点属性であるフラウロスにはしっかりと掛かった為そのまま追加行動権を得て動き出す。
「皆、氷で攻めるぞ!!【エンチャントアイス】!!」*9
皆の得物に氷結属性を付与する。今いるメンバーでこの二体の悪魔の弱点属性である氷結属性の攻撃スキルを使える者が少ないので、それを補うための措置である。
「サンキューフリスビーニキ!!GoGo【
『ヒヒーン!?』
そういってカス子ネキは多数の【
何故ならばペルソナ使いの戦い方は自らのエゴをぶつけ合う意志の戦いであり、意志無き人形による物理的攻撃はある程度は意味があるものの、ある程度止まりで扱いとして酷く『軽く』なってしまうからだ。無効化されたり、酷いときは耐性すら無視して跳ね返されたりしかねない。なので攻撃に意思を乗せる必要があるのだ。
ペルソナ使いは自らの意思を貫き通す強固な精神があるならばそれが肉体にも反映されるようになる。ガイア連合内で極まったペルソナ使いの戦いは物理法則を無視して場合によっては光の速さすら超えた領域での戦いになる場合があると話されているのはそれが理由だ。
物質界に縛られた肉体には限界があり、有限である。だが精神界、思考の領域に限界は無く空想は無限だ。そういった人々の認知がペルソナ使いを『超人』へと導くのである。物理法則を超えた身体能力、速度はそういった人々の集合無意識の力を背に受けて戦うペルソナ使いの戦い方を高めた結果だ。
『俺ら』的に例えるなら、それはペルソナ使いの元ネタとなったスタンド使いの『
これが血筋的な霊的資質と言うものがほぼ根絶やしにされた日本で、肉体的資質を無視するほどに霊的資質が魂由来で強力な俺らのような転生者以外であっても、ペルソナ使いが高レベルを目指せる理由の一つだ。 その力の強弱を決める要素が肉体側ではなく精神側にある為である。
そしてこの『ワンモアプレス』はそんなペルソナ使いの戦い方を擬似再現したものだ。ナビタイプのペルソナ使いの指揮下の元で心を重ね、重ねた心をオレが外部からハッキングを掛けて干渉してチューニングする事で、一時的にだがペルソナ使いの間で流れている精神界側の速度にそれ以外の異能者を背乗りさせることに成功したのである。
この戦闘スタイルの特筆すべき利点としては、味方にペルソナ使いが居た際に彼らと同じ速度で連携を取れること。そしてもう一つは、ペルソナ使いの戦い方特有の特殊行動の恩恵をペルソナ使いでなくても受けられることである。
今ならP5の心の怪盗団のように、軽快に戦う事が可能なのだ!!シャドウ異界じゃないからモデルガンが本物の銃のようになったりはしないけどな!!
『カス子ネキ、やるねぇ……!!敵の体勢は総崩れだ。総攻撃チャンスだよ!!』
「よっし、やるぞ皆!!ボッコボコにしてやれー!!」
そうして皆流れるように走り出し、全員が黒い風のような速さで走り去るように相手を各々の武器で叩き、切り裂き、貫き、滅多打ちにするように叩きつけまくる。その暴威に耐え切れず、先程の火炎旋風によるダメージを火炎耐性止まりで受けていたオロバスが全身がバラバラに引き裂かれて霧散した。
対するフラウロスは総攻撃を受けたことで目を覚まし、困惑しながらも攻撃を途中で受けようと防御姿勢を取り耐えた。だが、オレたちの
そのまま加速する時間の流れに乗り、トーコさんがフラウロスの前に飛び出しその剣を振るう。エンチャントされた氷結属性により再行動権を得た彼女は、その勢いのままデュエリストネキへ【バトンタッチ】*10を繋げる事で手番を意図的に移し、その分のボーナス効果をデュエリストネキが受けた。
……そういえばトーコさんの声、誰かに似てると思ったけどこれ水樹○々ボイスだわ。この戦い方してるとペルソナ5のパンサーの事を思い出す。自分はあのゲームだと双葉推しだったな懐かしい……っていかんいかん前世の感傷に浸ってる場合ではない。戦いに集中しなければ。
「トドメは任せたよ!!」
「任された!!ウチのターン、ドロー!!さあ、行くで行くで行くでー!!」
トーコさんの声を受け、デュエリストネキが2枚のカードを手札から天に掲げる。それらは光の線を空中に引きながら巨大な魔法陣を生み出していき、恐ろしいほどの冷気が集まっていく。
「取っておきや!!降臨せぇ、【氷のマジュウ】!!」*11
そうして魔法陣から巨大な冷蔵庫が降って来ると同時に、その周辺にドカドカと雪が降り積もっていく。そうしてそれは王の威光を持った巨大な雪だるまを作り出していく。
『ヒィィィホォォォォオオオ!!』
顕現するのはジャックフロストの王。
ヒーホー界の王の中の王、【魔王 キングフロスト】である!!
キングフロストの手にした王錫からまるで閃光のように可視化するほどの凄まじい冷気エネルギーが放たれ、照射された【堕天使 フラウロス】の肉体をカチカチに凍らされていく。
フラウロスは抵抗しようとするものの、はじめにまともに冷凍光線を受けてしまったのが脚部であったが故に身動きが取れず、両腕で体を隠して防御するも、その両腕もまたたく間に氷結させられた。
『ギッ、ギャァァァァァ……』
そうして全身を凍らされ、身動きどころか声すらも発せられないフラウロスが氷像と化した次の瞬間、キングフロストの王錫はそれを叩き砕く。
バラバラに砕け散るフラウロスに対してヒーホー!!と雄叫びを上げると、【魔王 キングフロスト】はまるで夢であったかのように消え去り、二枚のカードに戻るとそのカードも儚く消え去った。
『……うん、周辺の敵反応無し。一先ず周囲の悪魔は今ので終わりみたい』
「んー……なんというか、レベルの割に脆いというか、歯ごたえが無い?この異界来て襲われたときも思っとったけど、なんというか図体だけ立派なハリボテ倒してる気分やなここの悪魔共は」
「いやそうだとしても普通はレベル差これだけあったら、相性で優位取れてももう少し苦戦するもんなんだが……思ってた以上に異能の扱いの練度高いなデュエリストネキ。Lv27でこれかぁ」
「せやろか?セツニキ達星祭のに比べたら全然まだまだやで。それに、今はもうLv30や。脳缶ニキとカス子ネキが居たとはいえめちゃ経験値的に美味しかったからなぁフェイクシグルドは。お陰で3レベルも急上昇してもうたわ」
「いや高いな判定基準……って、ああそっか。そういえばデュエリストネキってたしか、キツイ方の覚醒修行の後にそのままセツニキのところに修行送りになってたんだっけ?」
「せやでー。目覚めたのがこのカードを使って召喚術使う異能やったから、念の為にギッチギチに基礎と制御を仕込まれたんや……呼び出すものが悪魔であれなんであれ、人の世のモノではないのは事実やから、悪いものに体を乗っ取られないようにってなぁ。お陰で優先してシキガミ回してもらえたり、悪いことでは決してなかったんやけど、あの二人のシゴキはホンマキツかったわ……」
デュエリストネキは寄ってきたカイリューのポヨンとしたお腹に抱きつきながら、遠い目をしてそう言った。道理でレベルに対して矢鱈と異能の練度が高い訳だ。ショタおじは言わずもがな、セツニキも霊山オフ会前からこっちの業界やってた俺らの中でも珍しい古強者である。それ故に悪魔に対する危機意識も高い。そのまま放置してると蝿王の化身待ったなしだった脳缶ニキ程ではないが、目覚めた能力的にデュエリストネキも要注意対象だったのだろう。この手の召喚術は下手に取り扱い間違えると魔界のゲートのフリーパスにすらなりかねんからなぁ……(初代女神転生のナカジマ=サンのやらかしを思い返しつつ)
ショタおじは同胞である俺達に対して基本的にめちゃ優しくて甘いが、悪魔召喚に関わる術の使用に関しては当たり前だが話が別だ。生半可な技術では修行の場以外での使用を許可してくれない。あの二人の修行を受けた上で召喚術を自由に使用している時点で、彼女が重ねてきた努力の程が伺えるというものであった。
そうしてデュエリストネキと話している間にも、モモメノさんはペルソナ能力を使って周囲の索敵を続けていた。そして何かを見つけたのか閉じていた目を見開き、オレたちの視界にマップを表示してくれた。
『皆、ハルカラの生体反応を見つけたよ!!あの宮殿みたいな見た目の廃墟の方に居るみたい!!』
「……あそこにか。こりゃ急いだほうが良さそうかもな」
先程までは自分たちの戦闘音で隠れていたが、その廃墟群からは少し離れたこの場所からでも煙やら倒壊していく建物やらが見えている上、ドカドカと銃声やら破壊音が鳴り響いており明らかに戦闘中なのが簡単に分かるほど派手にやりあっているのが分かる。
『ただ、警戒はしたほうがいいよ。ハルカラだけじゃ無くて、一緒に組んで行動してる人もいるみたい。この感じ、私達と同じルシェ族……?』
「他にも生き残りが居るのか!?」
ナイトニキやモモメノさんのその声に、心が痛む。あの残酷な実験の真相を知っているのは今、オレだけだ。彼らに今アレについて知られる訳にはいかない。
可能な限りポーカーフェイスを維持するようにして話を進めることにした。
「誰が居るにしても、悪魔相手に戦える力を持ってる相手なのは間違いなさそうだからな。モモメノさんの言うとおり警戒しつつ、合流を目指そう」
「そうだな。行こう!!」
「……マスター?」
そうして移動を開始し、オレ達は派手に戦闘の音が響き渡るその廃墟へと足を向けた。何か感づいたのか話を聞きたそうなシュテルの頭をぽんと撫で、顔を耳に近づけて「ごめん、後でな」と呟いてオレも足を急がせた。
……やっぱ隠し事は苦手だな。自分のエゴで彼らが知るべき真実を隠しているという事実に、若干胃の奥がキリキリするのを感じる。
とはいえ、隠すと決めたのはオレ自身だ。例え後で真相を知ったことで罵られようとも、ナイトニキ達の為に今はまだ知らないほうが良い。そう決めた以上はそれを貫き通そうと思う。
モモメノさんが見つけた生体反応の持ち主が、話し合える相手であることを願いながらオレは戦場への道を走っていった。
※作中で明言されてないので分かりづらいかもしれないのでこちらに明記しておきますが【ジャンクヤード】内は現実世界よりも早く時間が流れています。多くの演算結果を出す為に時間を早回ししている為です。
必要なマガツヒが溜まり、ジャンクヤード内の時間で野良の悪魔が湧くようになって1ヶ月程が過ぎていますが現実世界ではフリスビーニキ達が施設に襲撃を仕掛けてジャンクヤードへ来るまで程度の時間しか流れていません。
湧いている悪魔がレベルの割に弱いのはそのせいで、加えて物理的に隔離された異界であるせいで魔界の本体はここに自分の分霊がいることに気がついていません。そのせいで知識や知恵の伝達がうまく行っておらず湧いてる悪魔全部が知性を持たない、アライメントに関係なく会話も無理な仲魔に出来ないDARK悪魔状態です。デュエリストネキが感じた違和感はそれが理由です。