【カオ転三次】滅亡を防ぐ為、汝第七の竜を狩れ 作:日λ........
味方からの援護射撃により派手に鳴り響く銃声を背に、ユスタスは駆け出した。軽業師のように迫りくる巨体の悪魔の体を足場にしてその悪魔の頭に飛び付き、片手に持ったM1911の引き金を数回引いて目玉と口の中へ【神経弾】を叩き込む。悶絶する悪魔の顔面を蹴り飛ばして仲間達がいる方へと移動しながらも、上空から襲いかかろうとする鳥型の悪魔の群れに対して狙いを付けてマガジンに残った弾丸を叩き込み、地上へと落下させていく。
「リロードする!!」
「んじゃ、次は俺の番だなぁ!!皆殺しにしてヤラァ!!」
後方に戻りマガジンを変えるユスタスと交代して、血のように真っ赤な長髪を靡かせながら凶相を浮かべたラギが、モスバーグM500を手に飛び出していく。先程ユスタスが神経弾を食らわせた影響で麻痺毒に苦しみながら動きを止めたデカブツや地面に落ちた悪魔に対して、ラギはそれを容赦なく顔面や心臓の位置に数発ブチかました。
メシア教が対悪魔用の弾丸として試作し、そのデータを取る為にシミュレーター内に導入されていたスラグ弾頭仕様の【プルトニウム弾】が装填されたショットガンは一発ごとにドスンッと銃声とは思えぬ程に重々しい音を鳴り響かせて悪魔に対して風穴を開けていく。比重の重い劣化ウラン製の弾を飛ばすために火薬が増量されている分反動も凄まじく、加えてその発射に耐えられるようにショットガン自身もバレルや薬室の勤続の厚みが増すように手先が器用なユスタスの手で改造が施された分重量も冗談のように重い代物だが、喰奴として霊格(レベル)が上がっている分生身の身体能力も相応に高いラギからすれば頑丈で精密な射撃も乱射も出来る頼れる相棒だ。現実世界では被爆のリスク的に生産するにも運用するには色々と問題が有る代物である為に採用が見送られた曰く付きの銃弾だが、その分破壊力はお墨付きである。
物理的な破壊力は語るまでもなく高く、それに加えて放射能は生体マグネタイトの結合を破壊する毒性を持つ。その効果は一発一発放たれる度に前方にいる悪魔達をグチャグチャの挽き肉と緑の光を放つ粘液に変えながら蹴散らしていく姿を見れば一目瞭然であろう。
合間合間に脚や腰に装着したポーチやガンベルト内に収めたショットシェルを取り出してリロードを挟みながら撃ち、ラギは足を止めることなく前に進み続けた。それに続き、ハンドガンのリロードを終え、予備のマガジンをハルカラから予備のマガジンを受けとったユスタスと、先程からM3マシンガンによる援護射撃をしていたナムナ達も連携して周囲の悪魔を撃破しながら宮殿への道を進軍する。そうして彼らが切り開いた道を、ハルカラは背負った大きなカバンに時折消えずに残った悪魔の肉体の一部を放り込みながら必死に着いていった。後で食料として活用する為だ。
銃による彼らの戦闘は基本的にこういう戦い方だ。走って撃つ。互いに銃を持っての撃ち合いになる常人同士の戦いならばともかく、覚醒者や対悪魔の戦闘において立ち止まってしまう事は死を意味する。プレスターンバトルによる戦闘はRPGという形式のゲームだからこそあのように立ち止まって戦っているように見えるが実際は1手が数秒〜十数秒程度の応報を繰り返している高速戦闘であり、それに伴う速度で動き回りながら戦っているからだ。加えて地形を使ってのカバーや遮蔽物に隠れながら撃ち合おうとしても、基本的に相手はこちらを地形ごと吹き飛ばす魔法や技を持っているのでそれらごと吹き飛ばされかねない。だからこそ足を止めず動きながら銃弾を叩き込むのだ。こちらが殺される前に相手を殺す為に。
当然銃弾の消費も激しく、長続きはしない戦い方だがそれで構わない。何故ならば彼らにとって銃を使っての戦闘は雑兵を可能な限り減らし散らす為の補助装備であり、銃撃属性が弱点の悪魔に対する備えであるからだ。消費した弾も、彼らの拠点に戻れば備え付けられた自動販売機能付きの端末である【ジャンク屋】にマッカを支払えばいくらでも補充できる環境であった為持てる分だけ打ち放題である。一部の実銃使いの黒札でさえ羨むような、現実世界の日本では信じられないほどの数の実弾をバカスカ消費して彼らにとっての『露払い』は完了する。
そうしてすぐに取り出せる手持ちの銃弾が尽きてからが、彼らにとっての戦いの本番だ。
カチャリ、と弾切れを知らせる音を聞いたラギは迷い無く即座にショットガンを背中のラックに引っ掛け、右腕に刻まれたアートマの力を開放させる。周囲の悪魔を吹き飛ばす暴風と共にその姿は翼腕を持つ半人半鳥の姿を持つ神鳥__仏教における悪魔である龍を狩り喰らう者。【喰奴 カルラ】へと変身を遂げた。
『このまま宮殿に突っ込むぞ!!【ザンダイン】!!』
ラギの放ったザンダインによって前方の悪魔が吹き飛ばされる。それにより隊列が崩れたことで一瞬の隙が生まれ、好機と見たユスタスとナムナも悪魔に変身する。ユスタスは目の下に、ナムナは左腕に刻まれた痣__竜の頭を刺し貫く剣の文様であるソレは彼らを竜殺しの悪魔へと作り変えていく。
ハルカラのアートマを解析し作り上げられた悪魔化ウィルスには一つの特徴があった。それは、高い適合率を持つ者がこの悪魔化ウィルスによりアートマを得た場合『竜殺し』の伝承や逸話を持つ悪魔の姿へと変わる事だ。彼らの感染した改良型の悪魔化ウィルスはそのオリジナルとなったハルカラ自身が竜殺しの英雄と名高い『ジークフリート』へと変身するが故か、強い力を持つ喰奴達は皆強大な竜や龍を倒した逸話のある存在の名を冠する喰奴になる傾向にある為だ。
ユスタスは北欧最強の竜殺しと名高い戦士の名を持つ【喰奴 シグルド】へその姿を変え、ナムナは戦いの最中に剣がへし折れた為拳で竜殺しを成した王であり狂戦士の祖の一人と言われる【喰奴 ベーオウルフ】へと変身した。ラギの放った【ザンダイン】によって開いた突破口へと自らも飛び出す。
『合わせよユスタス、ラギ!!』【タルカジャ】
『分かった……!!』【バイオクロウ】
『ぶっぱなすタイミングは任せるぜ、ナムナ!!』【脳天割り】
それは人の心を持ちながら、悪魔の肉体へと変わる彼らが故に成せる業。一人一人の力は小さくとも、重ね合わせる事でその力を増幅させ、別の形に変える群れとしての力。とある幻想の世界においては英雄となる資格を持つモノ達が使ったという秘技に類似した合体技である。
その名を__
『『『リンゲージ!!』』』
三人の魂を共振させた事で得た繋がりを使い、全員の生命力(HP)の一割五分(15%)を集め、受け取った生命力を圧縮、収束させナムナは【喰奴 ベーオウルフ】としてその肩部を砲撃形態へと変形させ二問の砲塔を形成すると、純粋な物理エネルギーによって構成された強力な砲撃を解き放った。
『蹴散らす!!【ソルブラスター】ァァァ!!』*1
ベーオウルフの肩部から放たれた熱線砲は、正面の群れた悪魔達を灰すら残さず消失させていく。悪魔達の断末魔が徐々に消えていったタイミングで、追い打ちのように体ごと砲塔を動かし薙ぎ払う事で大量の悪魔を巻き込み、前方の敵を纏めて消し去り宮殿の扉への道を切り開いた。
『……よし、これで道が出来たぞ!!宮殿へと乗り込め!!』
『相変わらずここぞの時に無茶苦茶するなぁナムナ!?まあいいぜ、オレはそういうの好きだからなァ!!』
『同感だ。さあ、本命を狩るぞ!!突入の準備はいいか、ハルカラ!!』
「いやそういう事するなら言ってよ!?わたし危うく巻き込まれかけたんだけどぉー!?」
ナムナの隣に控えていた為、咄嗟に薙ぎ払われた熱線を間一髪のところで交わしたものの、そのせいで短く纏めていた桃色の髪は左側のサイドテールが少し短くなってちりちりに焦げてしまったハルカラはその事にナムナに対して不満を言いつつも、自分の仕事を果たす為に背負ったカバンの中身を取り出してその中身をが彼らに手渡していく。消費が激しい自分達の体力を回復する為に用意した、ハルカラ特性のペミカンだ。材料には彼らが狩った中でも高位の悪魔の肉が使用されている為、味も良く栄養価や内包されたMAGも同じ重量の悪魔の肉とは比べ物にならないほど高められた特別な品である。
何より、材料が塩などの調味料以外はほぼ完全に悪魔由来の代物でありながらその毒性をハルカラの調理技能により取り除かれているため人の姿でも悪魔の姿でも食べて満たされるという点が彼らにとって重要な補給食であった。
「次やる時はちゃんと言ってよ!!そうしなかったらナムナの為のオヤツ抜きだからね!!」
『……!?す、すまぬ!!次は言ってからやる!!だからそれだけは、それだけは勘弁してくれ……!!』
「反省してよー、もー!!さあ、これを食べたらやるよ皆!!親玉との戦いにはわたしも参加するよ!!」
そう言ってハルカラは自分の分のペミカンに齧りつく。細かく刻まれた干し肉の旨味とドライフルーツやナッツ類の甘みが油分と組み合わさることで、大部分が肉と油でありながら不思議なほどそれらを感じさせない食べやすい味に仕上がっていた。高級な菓子のような味わいを感じて、我が事ながら美味しく出来たと評価しつつも手早く食べ終えた。
悪魔の姿に変身していた彼らも、周囲の警戒を行いつつも手早くそれを口に運ぶと体の奥底から力が湧いてくるような感覚を感じた。敵の血肉を直接貪るのも悪くは無いが、彼女の料理の味を知った今ではきっとそれだけでは耐えられまい。
いつの間にか彼女に皆胃袋を掴まれている事を感じながらも、それが不快では無いのは彼らが時折感じる自分の物では無い郷愁が故であった。
存在しない筈の記憶。ジャンクヤードではあり得ない彼女が作った同じ食事をここに居る面々に加えて、名前も知らないはずなのに大切に感じる誰か達と共に囲って分け合い、ともに食した自分ではない自分の思い出。そういった何気ない、しかし忘れてはならなかった筈の大切な記憶達が、ハルカラと共に暮らすうちに彼らの中に残滓として呼び起こされていたのであった。
そしてそれが悪魔と化した自分達が悪魔ではなく【
故に、カザントライブの生き残り達はハルカラを仲間に迎えた事でただの最後の生存者達から、
『……行くぞ皆!!』
その合図と共に、ユスタスは重く分厚い扉を押し込み、勢い良く叩き開いた。
扉を開いた中に居たそれは、活きの良い獲物の来訪に歓喜するように、全身に鱗のように生えた頭部から名状しがたき叫び声を上げた。
人とも化物とも分からない半ば溶けたようなヒト型が重なり合うように融解した鎧を、爬虫類の手の様な形状の化物が身に纏ったその化物は宮殿の中心部の土台をぶち抜き、地面から生えるように存在していた。地脈として流れるマガツヒの流れを吸い上げ、主たる真竜ヘイズへと送る為に創造されたかつての世界の眷属たるドラゴンの贋作。
悪魔として再構築されたそれの名は、【邪龍 ヘイズシールド】と言った。
『コイツ、前戦った奴よりデカイぞ……ッ!?』
刹那、高速移動して襲い掛かってくる『地面からの生えた刃』からの斬撃をラギは翼腕を剣に変形させて切り払う。本能的に感じ取った殺気から取ったとっさの判断がこの不意打ちに対して彼女に最善の行動を取らせた。
鮫が泳ぐように地面を切り裂きながら進む連なった刃の集合体__【邪龍 ヘイズアーム】が性質上その場から大きく動けない【邪龍 ヘイズシールド】を守る為の迎撃の為の刃としてその周辺を取り囲むように配置されていた。
カカカカッ
【邪龍 ヘイズシールド Lv55】と【邪龍 ヘイズアーム Lv54】の群れが現れた!!
強敵との戦闘を検知!!
メインメンバー 【ラギ】【ナムナ】【ユスタス】
サブメンバー【ハルカラ】
プレスターンアイコン 3 と判定!!
『……ハハッ、イイねぇ!!今回はあの矢鱈硬いデカイ手だけじゃなくて攻撃担当まで居るのか!!』
『ラギ、無事か?』
『あったりまえよ!!こんな程度の小手調べで怪我してちゃ壁役なんざやってらんねーさ!!』
変形させた翼腕を触媒に、練った魔力を使いルーン文字を刻んで光の刃を纏わせる。 喰奴としての、悪魔として力ではなくラギの持つルーンナイトとしての力。悪魔化ウィルスに感染する前の、感情を抑制されていた頃は個性のない兵隊として運用される為に忘れさせられていた個人技能である。ラギはその技能を使って自らの肉体を強化し、【挑発】*2を行い前線に立ってヘイトコントロールを行い自らに攻撃を集中させるパーティーの壁役として役割を担っていた。
『なら良かった。ソレなら俺は影に潜もう。ナムナはいつものように遊撃役を。ハルカラには、バックアップとして支援を頼んだ。俺達三人の誰かと切り替わるタイミングは君個人の判断に任せるぞ』
『任せよ、【ラクカジャ】!!』
「了解リーダー。いつでも変身出来るよう構えておく!!」
そう言うとユスタスを存在感を薄く散らして消えていった。ソレは【ハンティング】*3と呼ばれるアトランティス海洋王国の斥候達が使用していた技能だ。相手の視界から消えて気配を消す事で相手のヘイトを散らしつつ奇襲を狙うのだ。欠点として攻撃を受けてしまうと相手に見つかって解除されてしまう可能性があるが、強敵と戦いの際には彼が必ずと言っていい程使用する、ユスタスの戦い方の根幹となっている技能の一つであった。これも各自が思い出した自分ではない自分の記憶から戦いの為に再現したものだ。悪魔の力とは別のヒトとしての技能であった。
そうしてナムナは【ラクカジャ】を使って味方全体の防御力を上げて相手の攻撃に備え、前線に立つ三人から少し離れた位置で支援の為にハルカラは背中に背負ったカバンからいつでもアイテムを使えるように構えた。自ら変身して戦闘に参加するタイミングを測りながらだ。
(わたしの喰奴の姿は、強力な分皆と比べて消費が重い……切り時を間違えないようにしないと)
ハルカラの持つ悪魔の力__【喰奴 ジークフリート】の力は三人のそれと比べても破格な程強力だが、その分MAGの消耗もカザントライブの三人よりも多く病み上がりの現状では長い間変身し続けられない弱点があった。それ故に、彼女は普段はサポーターとして動きながら三人の戦闘を背後から支えつつ、強敵相手との戦闘の際や危機の際に動く、誰かが動けなくなったときのサブメンバーとして動いていた。
そうして敵側も動き出す。【邪龍 ヘイズシールド】は皮膚を硬化させその防御力を高め、【邪龍 ヘイズアーム】は地面に潜ったまま、複数の刃のみしか見えない体を地面から突き出してこちらへと突撃してきた。【挑発】を行っていたラギがまず真っ先に狙われ、変形させた翼腕を使っていなすも何せ数が多い。一撃を受けただけで致命傷になりかねない大きな刃の攻撃は受け流したが、それに連なる小さめな刃の群れがラギの足元から斬りかかろうと襲いかかる。なんとか防御姿勢をとったが、それでも削られるかのように数発攻撃を受けた。
『……っ、いってぇなクソが!!』
(見た目通り斬撃技かつ、対象一人への単体攻撃。しかし、刃の群れのように見えるがこれは……複数体で一つの個体の悪魔か)
悪態をつきながらも、ラギは冷静に相手を分析し相手がどの様な相手なのか探っていく。自分が大きな刃からの攻撃を受け流した際に、止まらなくても良い筈の周囲の小さな刃も動きを止めていた。個別で動かせるが、あくまでそれはメインとなる大きな刃の子機のようなもので一つの思考のもとに動いているように感じ取れた。そう判断した理由はどの刃も完全に同じ臭いがしているのを喰奴としての優れた嗅覚が感じ取っていた為だ。
(あの腕の方はデカさは違うが、前戦ったときと同じ行動しているか……ならば)
『よし決めた!!まずはあの辻斬りヤローを先に仕留めるぞ!!どーせあの腕ヤローはクッソ硬くて仕留めるには時間掛かるんだ!!先に頭数を減らしてけ!!』
『そうしよう、合わせる!!』
『承知した!!』
仲間達の返答を聞いてから、ラギは手にルーン文字を刻む。その翼腕の先から雷光を放ち、それにより形作られた剣【エレキソード】*4を精製してヘイズアームの一体を斬りつけた。
見た目とそぐわない性質を持つ悪魔などいくらでもいることは承知済みだが、以前マガツヒの流れを追った先にいた場所で戦った【邪龍 ヘイズシールド】はこの個体よりも小さく、レベルも低かったにも関わらず恐ろしく頑丈で長期戦を強いられた事はよく記憶に残っている。それに比べればマシであろうと当たりを付けてラギは【邪龍 ヘイズアーム】に攻撃を集中させる事に決めたのであった。
そうして勘に従い放った電撃属性の一撃が、思わぬ幸運を呼び込んだ。その刃を受けたヘイズアームが悲鳴と共に動きを止めたのだ。明らかに芯を捉えた一撃と感じ取ったカザントライブの全員が、敵の呼吸を制してその動きを加速させようと動き出す。
『リーダー、ジオダインを!!』
その声にユスタスはナムナの拳に向けて一瞬現れて雷を放つと、再び影に紛れて消えた。
リンゲージ。その利点の一つはパーティー全体で同じ属性の技をある程度共有出来る事だ。本来ならば適性がない属性の技でも、他のメンバーと連携すれば使える事。それは弱点を着くことで大きく優位を取ることができる対悪魔との戦闘において非常に重要な武器となる。
ナムナはユスタスから受け取ったジオダインを拳に宿し、自らの肉体を一本の槍に見立て正拳突きを放った。
リンゲージスキル、【イカヅチの槍】
ヘイズアームズの刃を横合いからなぐりつけ、その刃をへし折りながら強烈な電撃属性ダメージを叩き込んだ。
そうして追加行動を行える速度をナムナから受け取り維持しつつもユスタスはその加速した速度のまま、しかし冷静な思考を保ちながら自らの仕事に徹した。
彼は個人技能である【トリックリアクト】*5という、奇襲による致命の一撃や設置した罠の起動を成功させた際に可能な最適な動きで追撃を可能とする独特の構えをしつつ、影に潜んだ。彼の戦い方は仕込みと準備に時間と手間が掛かる。だが、その掛けた手間の分だけ相手に確実な死を届ける。そんな暗殺者や狩人のような戦い方が、彼の身体には染み付いていた。
そうして再びラギの手に手番が回ると、自分たちのリーダーがやりたいことを察してそれに最適なルーン魔術を発動する。言動こそ荒く、見た目の乱雑そうな雰囲気とは裏腹に彼女は仲間と認めた相手には合わせるタイプであった。
【エンチャントエレキ】
味方全体の武器に雷撃属性を付与するその術はナムナの拳とユスタスの爪、そして、ラギ本人の翼腕に雷の力を宿す。
『せいっ!!』
行動順として、先にラギが動きその拳を近くのヘイズアームを殴りつけた。硬い金属が砕ける音共に、激痛から堪らず地面の中から顔を出したその竜のスキに対して、ユスタスは追撃を開始する。
行うのは爪で切り裂く通常攻撃である。それはスキルや技ではない。だが、確実に相手の命へと届かせる為の『連撃』であった。
弱点を突かれた上で、その一撃一撃が相手の芯を捉えた最適の一撃(クリティカル)となれば、ただの攻撃が必殺となり得る。一撃加える毎に加速していくユスタスは、四撃目で最初のヘイズアームの命を刈り取り、その素早さで次のヘイズアームを攻撃していく。五撃目、六撃目と
骨と肉が鋭利な物で切り裂かれる湿った音と共に、いつの間にかヘイズアームの背後へと立っていたユスタスの鋭い爪の生えた手は赤黒く汚れ、その足元には刈り取ったヘイズアームの生首が落とされていた。その血を啜りながら、ユスタスは顔を顰めた。
『__チッ、なんだこの金属と薬品を混ぜたみたいな味は……不味い!!喰らう価値も無いか!!』
生命力を奪還し自身のものとする短剣術である【ヴァンパイア】を自らの爪で放ったユスタスは、自身の体力を回復させながらもその味があまりに不味かったのか不満そうにそう言い捨て、2体目のヘイズアームを仕留めた。すると、地面を走る刃は全て本体を倒された影響からか発光色の緑色の液体であるマグネタイトへと変質し、ぐちゃりと溶け落ちて消えていく。
『何だ、あれだけ数がいたのに実体は二体だけだったのかよ。オレの言うとおり先に刃の方から仕留めに行って正解だったな!!……さあ来いよ!!クソ腕野郎!!』
そう言ってラギは自らの翼碗を手招きし、残りの最後の一体__【ヘイズシールド】を煽った。
その煽りを受けて怒り狂ったのか、それとも仲間を殺されたことによる恨みを抱いたか、どこから出しているのかも分からない不気味な叫び声を上げヘイズシールドは地面をその腕の形をした肉体を叩きつけて衝撃波を繰り出した。その攻撃範囲は凄まじく、衝撃波は味方全体を襲った。
動きが鈍い分、単純にタフで固く、一撃の重さも決して無視できない。腕のような形をした全身を地面に叩きつける事で放たれる衝撃波の破壊力は高く、加えて衝撃波の攻撃範囲は広く、空間全体を攻撃する為余程距離を取らなければ避けられる空間が無い。強制的に全員がその攻撃を受ける事となる。
だが、初めから避けられないと知っているならばその対処方法は単純である。攻撃を受けることを前提に動けば良い。
『立て直すぞ、合わせろよナムナ』【メディラマ】
『ああ』【メディラマ】
全身が衝撃波を受けた影響でボロボロであるが、全くその闘志は揺らぐ事なく、目の前の相手を狩るために最適な行動を彼女らは攻撃が終わった隙に開始した。
『『【大神の加護】!!』』*6
リンゲージスキル【大神の加護】。その発動と共に現れたのは白い外套に身を包み、二本の立派な角が生えた黄金の兜を被り、顔には眼帯を付け槍を持つ紫色の肌を持つ魔神__北欧の知恵と知識、そして戦いを司るルーンの神、オーディンであった。
無論それは本物の【魔神 オーディン】ではない。彼らの悪魔の力を融合させた結果、一時的に具現化させることに成功した普遍的無意識に渦巻く『加護を与えてくれる神』のイメージが具象化した存在だ。だが、その力は確かな物である。
幻のオーディンが槍を掲げると、衝撃波により傷ついた体の傷が全快とまでは行かないが癒え、それに加えて味方全体の防御力が上がるルーンが付与された。
「もう1回!!」
その掛け声と共に二人は更にもう一度、【大神の加護】を発動させる。これによって受けた傷は大体が癒え、更に味方全体の防御力が上がるルーンが重ねがけされた。味方全体で回復しながら防御力上昇の効果を得られるこの技の存在は、彼らにとってタフな強敵相手に戦う際には心強い物であった。
同時に責められると厄介と判断したが故に速攻で沈めた【邪龍 ヘイズアーム】相手と打って変わり、【邪龍 ヘイズシールド】に対しては彼らは呼吸を制して加速する果敢な攻め方をする事は無かった。
大きさはこれよりも小さいものの、同じようにマガツヒの流れを操っていた『ヘイズシールド』を倒していた経験が生きていた。この悪趣味な形をした手は、異様なほどに固く、大抵の『物理的な破壊を齎す』攻撃に対して耐性をもつ厄介な相手であり長期戦を必須となる相手だと知っていたからだ。弱点を突けなければ連続行動は出来ない。
故に戦い方を変える。プレスターンバトルらしい弱点を攻め立て期先を奪う高速戦闘では、この生きた城壁とも言える異形の邪龍を相手するのに適していないからだ。
『蠍の一刺しだ。精々苦しめ』
ユスタスが硬質化した爪の先に悪魔としての力で猛毒を生成させ、ヘイズシールドの外殻となっている見た目より硬い溶けた人の形をした塊を貫き、その下にある本体の肉を抉るように突き刺した。毒々しい紫色の液体が滴ると共に、ヘイズシールドは激痛に身を捩らせ、苦しみ悶える。
彼が爪から生成出来る毒は麻痺毒*7や毒などの症状を悪化させる免疫機能を破壊する毒*8など様々な毒があるが、今回精製した毒はシンプルな血や肉体を破壊する出血毒__スコルピオ*9と呼ばれる技を使用した。
効果としてはHPを削るただの毒であるが、肉体を硬い外殻で覆ったこの悪魔には他の何よりも効くと前回戦った小さい個体で学習済みであった。
『回復アイテムは万端、横入りする様な悪魔は既に蹴散らした……後は時間を掛けて狩るだけだ!!殺るぞ皆!!』
『ハハッ、じっくり血祭りに上げてやらァ!!』
『粗挽き肉にしてやろう……!!』
「こりゃわたしが変身する必要も無さそうだね……アイテム係は任せて!!」
ハルカラがトライブに加入する前であれば長期戦になればなるほど餓えが酷くなり、悪魔の力の制御が難しくなっていたが故にこうはならなかった。だが食事事情が改善され、戦闘中でもマグネタイトと栄養の補給が可能な悪魔肉のペミカンがある今では彼らのスタミナは尽きない。彼らはディスエイクが手放せない日々とは別れを告げているのだ。
ヘイズシールドは地面に根ざし、龍脈に流れるマガツヒを操る為に作られた存在である。その場からほぼ動くことが出来ず、機動力と言う物は無いに等しい。故に逃げることなど出来はしない。相手がタフな分時間がかかり、血や肉に塗れ、長く苦しい我慢比べとはなるが、この盤面を整えられた以上ヘイズシールドの逆転の余地は全て削られた。戦いの時間は終わり、残るは狩りの時間のみとなったのだ。
ヘイズシールドは喰奴達にゆっくりと削られ、削られ、最後には断末魔を上げて崩れ落ちた。
そうしてヘイズシールドがかき集めて送っていたマガツヒの流れも止まり、それによって掛けられていた中央の塔への結界も消え去った。
戦いはカザントライブの勝利に終わった。
最も、タダでは済まなかったが。
「はぁ、はぁ……やっと死んだかクソが!?タフにも程があるだろうが!!」
「うぷ、チャ、チャクラチップを食べ過ぎた……しばらくこの薬は飲みたくないぞ……」
「なんとか、なったな……流石に三度目はやりたくないな、コレは……」
「やっぱ、わたしも変身して参加したほうが良かったかな?前戦った小さいのも硬かったけど、大きいだけでまさかここまで長期戦になるだなんて……」
「……いや、それは違うぞ。ハルカラがアイテム係に専念してくれたおかげで、ここまで長く戦線が維持できたんだ。お陰で俺達が疲れ果てた程度であの厄介な悪魔に勝てたんだから気にしないでくれ」
「そっか……お疲れ様、皆。ワタシはまだ余裕があるから、拠点に帰るまでの戦いはなるべく私に任せてね」
「そりゃありがたいね……少し休んだら、撤退しねぇとな……」
ヘイズシールドが崩れ落ちて消えると同時に、悪魔の姿から人の姿に戻った三人は足を地につけ座り込んだ。敵地であるがゆえに意識こそ保って居るが、拠点に付いたらすぐに眠りにつきたいと感じるほどに疲労が溜まりきっていたからだ。
この戦いにかかった時間は、実に30ターン以上__基本的に高速戦闘となる悪魔との戦いとしては超長期戦に分類される、長く苦しい戦いとなったのであった。
悪魔の姿に変身していなかったハルカラも、アイテムによる後方支援だけとはいえ戦闘には参加していた為疲労がないわけでは無い。しかし衰弱しきった彼ら程疲れ果てているという訳ではない。
彼らが動けるようになるまで警戒役を引き受けたハルカラは、随分と軽くなったカバンの中身を漁る。その中からキャンティーン__米軍の正式採用品である水筒を取り出すと、疲れ果てている三人に渡した。
「もう回復アイテムは殆ど尽きてて無いけど、水くらいならあるよ。飲む?」
「助かる……この薬臭い口の中を洗い流したくて仕方なかったんだ」
そう言ってハルカラから水筒を受け取ったナムナは、一口水を飲むとその水筒をラギに渡した。何も言わず水筒を受け取ったラギもまた一口それを回し飲みして、ユスタスにそれを渡した。
「祝杯って奴だ。飲もうぜリーダー」
ユスタスは一瞬固まったが、ラギにそう言われて水を一口飲んだ。なんの味気もない精製水の筈であるが、勝利を祝う祝杯であるが故か何処か甘露に感じる1杯であった。
そうしてユスタスから水筒を受け取り、残った水をハルカラが飲み干す。
勝利の味とは、何よりも代えがたい物であった。
※お久しぶりです。色々と環境が変わった結果続きが書けずスランプに陥り、中々投稿できませんでした。
ここから巻き返しに入りたいとも思います。