少女が客に語る海の集落と陸の集落の話を。

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久しぶり。


分断少女

とある少女が語る。

 

「おっと、そこの御人、そうそう貴方ですよ。」

「え?、物は買わないって?いやいやそんなこと言わずに、ちょっと話だけでも」

 

「あちゃー、つれないなあ。」

少女は笑う。

 

「おや、お客様がいらっしゃるじゃないですか。」

少女は紡ぐ。

「話だけでもいかがでしょう?なあに、値段は貴方が決めて頂いて構いませんよ。」

少女は続ける。

「これより話す話に満足しないと感じたならば一銭、一厘も払わずに去っていただいても構いません。」

 

 

 

「おや、興味を持っていただけるとは、誠に光栄です。」

少女は楽器を手に取り、話を始める。

 

「今は昔、海に面した集落と山に面した集落が存在したという事です。

その集落は互いが互いを補い合い、山の幸と海の幸を交換し度々婚姻を結び、祭りを行う。

 

そんな素晴らしい関係で御座いました。

その人たちは特にその関係について疑問を持つことは無く、唯良き隣人として親密な関係を構築していましたとさ。

 

そんな中で一人の女子が山の(をのこ)と海の(おなご)の間に誕生しました。

彼女の両親はそれぞれの首長の子であり、その契りは二人が自発的に行ったものではありませんでした。

 

しかし、それ程悪い関係でもありませんでした。その二人はまめであだなる事、つまり浮気沙汰などを引き起こすことも無く、波風立てぬ生活を送っておりましたとさ。

 

しかし、歴史の波は海の向こうからやってきて、海岸を超えついぞ山にまで届くに至りました。

 

山の民が桑畑を作り始めたのです。

この出来事は威勢の良い知らせとしか受け取られませんでした。

 

当時の海の男たちも、『うちらでも育ててみようかな?』と宴会の席で語るなど、特に重大な事とは認識しておらず、山の男たちも、事業の一つとしか認識していませんでした。」

 

少女は演奏を止めて、笑顔を作る。

反応を伺い、一呼吸置いたのち、

 

 

「それから5年位でしょうか、街の方に大きな工場が出来たのは。

それは山の民にとっても海の民にとっても驚くべきことでした。

 

何故ならそれらは彼らの家の何十倍もの大きさだったのですから。

 

その工場では多くの糸が作られては運ばれ、作られては運ばれて行きました。

そして、原材料を確保する為、山の民が育てていた蚕をたくさん買っていきました。

 

山の民は歓喜しました。

事業は大成功し、小学校という施設を建てることすら叶いその栄光は新聞でも取り上げられる程でした。

 

そしてそんな彼らが蚕を増産しようという考えに至ることはごく自然な事だったのでしょう。

 

彼らはその為に山の木を伐り、桑を植え、そして建物を建て始めました。

 

そのころからでしょうか。

魚が取れにくくなってきたのは。

 

最初のころはよくある不漁で、10年に一度あるくらいのもので、海の男たちも眉を顰める程度でした。

しかし、次の年には規模が大きくなり、その次の年にはもっと規模が大きくなりましたとさ。

 

勿論海の男たちも無対策であったわけではありません。

漁場を変えてみたり、不作に備えて作っていた貯金を使ったり、挙句の果てにはちょっとした畑で食料を収穫しようともしました。

 

しかし悉く無駄に終わってしまいました。

 

そんな彼らは次第に山の民を羨むようになりました。

彼らの様に豊かになりたい。

 

そう思うのは自然な事でした。

そこで彼らは桑を植えて蚕を育てることを考えました。

 

しかし、長老らは慎重でした。

何故なら、彼らは畑や田について余り知らなかったからです。

 

そこで彼らは山の民に知恵を乞うことにしました。

若い衆らが、海の幸の手土産をもって、山の集落を訪れました。

 

山の者達は笑顔で出迎えました。

事前に話は聞いていたので、喜んで桑畑を見せ、田を見せ、作り方などを教えました。

 

海の者らは豊富な知恵を手に入れ、海の里に帰ってまいりました。

 

そして当然の如く長老会は紛糾しました。

保守と革新の二項対立が生まれてしまったのです。

勿論当時はこんなことは意識していなかったのですが。

 

しかし、度重なる不漁は彼らに分の悪い賭けを迫るには十分すぎる理由となりました。

何故なら彼らは前例―しかも、身近に―を知っており、それはまるで甘美な蜜であったからです。

 

そして失敗の許されない計画が始まってしまいました。

 

畑を作り、用水路を作り、蚕を買い、桑を買い、集落の者に多大な負担を強いて、ようやく完成したのです。

 

しかし、桑は充分に葉を作りませんでした。

私は理由など存じ上げておりませんが、多分海の近くという条件や、上流では山の民が山を切り開いており、既に水質悪化などが進行していたなどの理由があったのでしょう。

 

それに、せっかくできた蚕も、余り大きな金を生むことは無く、唯膨大な赤字を無情にも告げました。

 

元々失敗が許されない、言わば博打を失敗させてしまったのです。

その結末は悲惨な物でした。

 

海の男たちはこれまで以上に生活に困窮し、子を売る事さえ考える者達も現れました。」

 

彼女は笑っていたが目はどす黒かった。

 

「そして一部の者は山の集落で盗みを働きました。

これにより、海の男たちは徐々に蔑まれるようになってしまったのです。

 

その帰結として、山の集落には壁が建つようになりました。

これがさらなる分断を加速させてしまったのでしょう。

 

山の集落は海の集落を蔑み、脅威だと喧伝し、海の集落は権力者が支持を得る為に山の集落への反発を強めざるを得ない状況に置かれてしまいました。

 

そんな中で、例の女子の立場は複雑なものとなってしまいました。

父は山に帰ってしまい、頼れる者は唯母のみ。

 

母が長の娘と言えども、その長は周りからの圧力に屈し、その女子を保護することは出来なかったのです。」

 

少女は楽曲をより静かなものに変更した。

 

「結果的に彼女は日陰の者として日々を過ごすこととなりました。

物心ついてから少しとは言え、その雰囲気はきつく、彼女は多大な負担を強いられたのです。

 

そして、両集落が敵対的な関係性に陥ってしまった後、彼女の母は村を離れる決心をしました。

海の集落から工場のある都会へ。

彼女は環境の変化に伴い、圧迫感では無く孤独感を感じることとなりました。

村にいたときは共同体に属していたものの、もはや彼女は家族以外に頼れる人がいなかったのです。」

 

彼女は笑顔を作り、続ける。

 

「その後、山の村は海の村を世間の手立てをもって、離散させてしまったそうです。

しかし、そんな山の民も借金やら不況やらで離散してしまったそうです。」

 

彼女は告ぐ。

 

「これでこの噺はおしまい。」

 

「それで、あなたはこの噺に幾らの値を付けるの?」




風刺です。

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