ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
今日はおふとんにサナちゃんとらっちゃん。ベッドに僕とひーちゃんの組み合わせで眠る。
部屋を暗くしてしばらく、皆の寝息が聞こえてきて僕もうつらうつらしていた頃、頬をぺちぺちと叩かれた。
「んー、ぶらくん?」
「………」
なにかあるんだろうか。
僕は皆を起こさないように上着を羽織ってからそっとベランダに出て、隠蔽と認識阻害をかけた。
目玉触手モードのブラくんは、僕の肩に座っている。
見上げる空は高く遠く、青白い月に魅入られそうな気分だ。冬の夜風のおかげで頭の方はすっかりクリアになった。
「なにかあった?」
そう聞くと、視線を逸らし部屋で眠るサナちゃん達を触手で示す。
「皆のことを、どう思っているか、かな?」
「……………」
正解だったらしい。
改めて聞かれて僕は考える。サナちゃん達を、どう思っているか。
「サナちゃんは、僕の命を救ってくれた」
まずそれが最初。
女神像の封印が偶然にも解かれ、病気で倒れた僕を契約して助けてくれた。
「でもきっと、それって今は大きな理由じゃないんだ。感謝してない、ってことじゃなく。真面目で優しくて、でも少し悪戯っぽいところもあって。無邪気な笑顔も、淫魔らしい姿も……簡単に敵を葬ってしまえるあの掌さえ、僕にとっては大事なサナちゃんだ。命の恩人じゃなくて、サナちゃんだから、ここにいて欲しいって思ってる」
「ひーちゃんはゲーム好きで、お家にいるのが好きな子だけど実はすごく気遣い屋さんなんだ。当たり前のように、僕の傍にいようとしてくれる。それが特別じゃなくなるように、自然体で接してくれる。僕はひーちゃんにいつも救われてるよ。だから今度は僕が、あの子にとって必要な助けになれたらいいな」
「らっちゃんは寂しがり屋なのに、誰かを押しのけてまで甘えられない子なんだ。あれで、けっこう悩んでてさ。怖がりで、なのに僕のために我慢して笑える子。独りの辛さを知ってるから、俯いている誰かのために頑張れる子。……まあ、わりと空回りする時はあるけど。その分、頑張った時はいっぱい褒めてあげたい。偶には独りになりたいっ、ていうくらい一緒にいるつもりだよ」
ちょっと恥ずかしいことを語り過ぎたかなって思ってると、触手で頭を撫でてくれた。
それが面白くて笑ってしまった。
「サナちゃん達のこと、心配してくれてた?」
「……………」
「個人的な付き合いはなくても、群れの一部ではある、って感じかな。ブラくんは、マジメで責任感があって、強い子だね」
優しいではなく、群れを構成する要素として機能不全を起こさないよう細部に注意を払う責任感。
僕たちとは微妙に違う在り方だけど、それはすごいことなんだと思う。
触手の目玉が僕をじっと見ている。なのに怖いと思わない。
(あんたは、しんどくない?)
むしろ気遣っているようにさえ感じられた。
「しんどいとは思ったことないけど、心配にはなるかなぁ。この前さ、らっちゃんと話してて思ったんだ。ほら、淫魔は魔力さえあればずっと生きていられるでしょ? だけど僕は限られた時間しかいられない。ずっとサナちゃん達の傍にいられないのは寂しくて、あの子達のこれからになにかもしてあげられない自分が歯がゆくもある。まあだから終わりの前に、少しでも遺せるものがあったらな……なんて時折考えちゃうよ。あ、サナちゃん達には内緒ね」
「………………………」
「待って? 今のは正確に伝わった。ブラくん“こいつ、おっも。予想外に重いんですけど……”的なこと考えたでしょ。一応言っとくけど僕のは平均的男子高校生の発想だからね?」
ちょっと余計なことを言い過ぎたかもしれない。
でも、言葉が返ってこないから逆に話しやすいんだよね、ブラくん。
強めの風が吹いて、僕は肩を震わせる。少し長居し過ぎたか、カラダが冷え切っている。
そろそろ部屋に戻ろうかな、と振り返った時。
「はっ、はぅあ!?」
「て、照れる……」
「にへへぇ、うへっ。ずっといっしょに、もっといっしょにぃ……」
なんか淫魔っ娘三人とも起きてました。
サナちゃんは慌ててはわわはわわしてるし、珍しくひーちゃんは頬を赤く染めていて、らっちゃんに至ってはもう蕩け切って見せられないような顔をしていた。
「あ、はは。皆、起きてたんだね」
ていうか全部聞かれてたよね?
やばい、超恥ずかしい。
「い、いえ。すみません、盗み聞きするような形になって……」
「ご、ごめんね。変なこと言っちゃって」
サナちゃんが申し訳なさそうに僕の右手を取る。
もう片方の手をらっちゃんが握り、そのままベットに引きずり込まれる。
仰向けになった僕の上に、流れるようにひーちゃんが乗っかった。
「変なことじゃない。ひーは、嬉しかった」
ぱたん、と僕の方に倒れ込む。
冷え切っていた体にじんわりと彼女の熱が伝わる。
「妾も、嬉しかった。キモブタさんともっとずっと、一緒にいたいのじゃ……」
満たされたような笑みにドキリととする。
そしてサナちゃんが、そっと僕の頬に触れる。
「私も、契約者だからではなく、ナオトくんだから一緒にいたいと思っていますよ」
その笑顔があまりにも神秘的だから……。
「つまり総合すると、これってもう最後まで傍にいるですか」
「うむ。そうなるのじゃ」
「寵姫ひー……うむ、良き響き」
三人でウンウンと頷き合う。
いやまあ僕もそのつもりだから問題はないけど、ひーちゃんだけ想定してる状況が違うくない?
「ナオトくん、私たちサキュティちゃんねる頑張りますよ。後々のために大きな家を買いましょう。将来のナオトくんファミリーと私たちが住んでも問題ない家を」
「妾、介護士の勉強した方がいい?」
「まずは、その前にベビーシッターじゃないですか? 私は離乳食や介護食のレシピを今から整えておくべきですね」
あっ、ひーちゃんだけじゃない。
全員想定がちょっとズレてる。
淫魔っ子たちが僕のこれからの生活や老後の面倒を見る気満々だわ。
「いや、一緒にいられるのは全然嬉しいけどね? サナちゃん達に介護される僕か……」
非常に微妙な光景が浮かぶが、それだって間違いなく彼女達の善意。
皆でナオトくん人生設計プランを語り合うという、よく分からない夜を過ごす僕たち。
ブラくんも夜遅くまで付き合ってくれました。
※ ※ ※
日曜日。
昨夜は夜更かしが過ぎていたせいか、起きると既に十時を過ぎていた。
サナちゃん達はもう起きていて、僕が最後だったらしい。
「おはよー、って時間じゃないね。朝ごはんどうしよっか?」
「もうっちょっと後に、朝昼兼用でいいんじゃないでしょうか」
「サナちゃん案採用。じゃあしばらくはのんびりしてよっか」
言いながらスマホを見るとメッセージが入っており、咲綾ちゃんと美桜ちゃんが遊びに来たいとのこと。返信すると、皆でお昼ご飯をという流れになった。
「咲綾ちゃん達が来るってー」
「そうなんですか? では、それまではのんびりしましょうか」
サナちゃん達とお部屋でダラダラ。ブラくんも僕の上に乗って一緒になってダラダラ。
なんかこの触手ボディいの触感、癖になってきたかも。ヤバい、弱点を突かれるってこういうことか。
十一時頃、咲綾ちゃん達は食材の袋を抱えてやってきたが、部屋に入れば愕然とした。
「五分の四……五大淫魔のうち、五分の四がここに……っ!」
「直人くんはもう歴史に名を連ねるレベルの外法術師じゃないかな……」
退魔巫女からの感想はそうなりますよね。
大淫魔サーナーティオ、蟲魔ヒラルス、夢魔ラエティティア、触魔ブラキウムがのんびりくつろぐ我が家です。
「ねえ、なんでこんなことになってんの?」
美桜さんに聞かれてたが、なんでと言われても明確な答えは持っていない。
強いて言うなら……。
「成り行き?」
「あんたそんなのばっかりか!?」
ノリと勢いで生きててスイマセン。
ちなみに食材の入った袋はブラくんショタモードが運んでくれてます。咲綾さんは普通に「ありがとう」と言ってました。
「美桜、落ち着いて?」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんで早速馴染まないでよ!? 触魔! わりと退魔巫女にとって致命的な根幹たる能力を持った五大淫魔の一柱っ!」
「妾も五大淫魔ー」
「ひーも五大淫魔……」
「私は、前にブラキウムと顔合わせはしてるから。……むしろ、契約者の方が危険なタイプかな」
咲綾さん的には登則さんの方が警戒対象の模様。
反対に美桜さんは心の平静を保とうと自分に言い聞かせる。
「落ち着け、私。ララはいい子、サナもいい子。ひーもサボリ癖はあるけど、まあギリいい子。なら触魔がいい子でも問題ないはず……」
「ひーだけちょっと評価が低い……」
「別に、嫌ってるとかじゃないからね?」
若干不満そうなひーちゃんは少し頬を膨らませていた。
台所では咲綾さんがマイペースに料理を始める。
「お昼、ちゃんぽんの食材を買ってきたんだけど、大丈夫だった?」
「うん、大好き。手伝うよ。ひーちゃんは野菜少な目、ブラくんには昨日の鶏肉の残りをちゃんぽんスープで煮込もうか」
「直人ってなんかお父さんっぽい」
あれ? その感想別のところでも聞いたぞ?
ともかく手分けをしてちゃんぽんの準備。微妙に野菜の食感が嫌いなひーちゃんのために、野菜はしっかり火を通して柔らかくする。
ブラくん用お肉は最初に鍋にかけコトコト煮込んでいく。
皆でお昼ご飯を食べるけど、さすがに七人になるとウチのマンションだと手狭だな。
これ、ちょっと真剣に転居について考えないといけないかもしれない。
「ごちそうさま、美味しかったよ」
「お粗末様です。作るの、結局手伝ってもらっちゃったね」
咲綾さんと笑い合う。すると「では洗い物は私が」とサナちゃんが率先して動いてくれる。リズムのいい僕たちです。
片付けが終わった後はまったりタイム。
春乃宮姉妹にブラくんがここにいる理由について軽く説明する。当然ながらラグビー部合宿については伏せておく。
重要なのは、協会に突き出される前にブラくんを僕に預け、「契約はしていたが今は解除され、触魔を黒衣に奪われた」として封印・処分を躱すという作戦の方だ。
「登則さんって強かね。確かに直人の下にブラが付いたら私たちは見逃すしかない。……この略し方なんかイヤ。ブラ……ラキ、うん、私はラキにするわ。微妙にララと被るけど」
美桜さんは微かに顔をしかめた。
本質的には正義の人だから、こういうダーティな取引はあんまり好きじゃないのだろう。
「じゃあ今日の夕方には引き取りに来るの?」と咲綾さんが問う。
「うん、合宿が終わった流れでこっちに来るってさ」
「契約したわけじゃないんだ。……それにしては、直人くんと仲が良く見えるけど」
「そう言えば。最初はちょっとぎこちなかったし、昨日一日で大分慣れたってことなのかな」
ブラくんをちらりと見ると、謎のダンスを踊っていた。
謎って言うか隣でらっちゃんがダンスを教えていた。今後はブラくんも何か嬉しいことがあった時踊り出すかもしれない。
「もうさ、五大淫魔ってノリが良すぎない?」
「今更だよ、美桜さん」
頭が痛そうな美桜さんに、とりあえずお茶菓子を出しておきました。
そうして美桜さん達ともまったり過ごし、姉妹が帰宅後、夕方になった頃に登則さんが再びうちに来た。
「佐間くん、ありがとうございました。おかげでしっかり大学の男子ラグビー部員のお世話ができました」
「そう、その報告はあんまり要らないけど」
ていうかぶっちゃけ聞きたくない。
部屋からてこてこ出てきたブラくんは自然に彼女の方へ向かう。表情こそ変わらないが帰還を喜んでいるようだった。
でも登則さんに寄り添う前に、僕の方に振り返り、ぺこりと頭を下げる。
「お、おお……これって」
「佐間くんに、お世話になったと」
そっか。一緒にすごした時間は短いけれど、ブラくんは僕をある程度は認めてくれたらしい。
僕は膝を床について話かける。
「ブラくん、またいつでもうちに来てくれていいからね」
「………………」
この子もやっぱりいい良い子だ。
そっと頭を撫でると、ちゃんと受け入れてくれた。
「まさか数日でここまで佐間くんに懐くとは。ブラくん、あなたの目から見て彼はどうでしたか?」
「………………」
契約で繋がっているため、登則さんはブラくんの言葉を感じ取ることができる。
彼女はうんうんと優しい目で何度も頷いていた。
「けっこう、すごい。そうですか、お鍋でお肉を。買い物にも行って、お風呂もですか」
「はは、お肉はちょっと奮発したんだ」
「群れを邪魔しに来たわけじゃない。大淫魔たちのことを、大切にしている、と」
「そこは、ちょっと恥ずかしいな」
思いのほか褒めてくれているみたい。
しかし、何故かメガネの向こうの登則さんの目がギラリと妖しい光を宿した。
「ほう! 大淫魔サーナーティオと! 蟲魔ヒラルスと! 夢魔ラエティティアが! ハーレムを希望するくらいに慕っていると! ハーレムだなんて佐間くんもなかなかに中々じゃないですか!」
「ブラくんなんてことを報告してるの!?」
だいぶ曲解されてるし、登則さんのハーレムの想定が絶対18禁。
「群れの女の番だから、群れも同じ。なるほど、もう佐間くんは五大淫魔+1だと」
「まさかの受け入れられ方をしていた……!」
「大淫魔たちの行く末を心配してる、優しくていいヤツだ……よかったですね、佐間くん」
「最後のちゃんとした評価するのズルいよ……」
怒るに怒れない。
ていうか最後までブラくん自体はいい子だったんだよ。
「でも安心しました。これなら、いざと言う時は任せて大丈夫そうですね」
「…………………」
最後に触手で握手という中々にない体験をさせてもらい、ブラくんは帰っていった。
登則さんの思惑にハマった感じでシャクだけど、意外と悪くない週末だったと思う。
実際に契約するとなると魔力をたくさん稼がないといけないので問題は出てくるだろうが、もし本当に協会がブラくんの封印に乗り出すならこちらで暮らしてもらうのも良いかもしれない。
ただ一つ、問題があるとすれば。
「ソーセージ、買いすぎたかな……」
調子に乗って買った大量のソーセージをどうすればいいか、くらいのものだろう。