22/7 時計の時間   作:友だち

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伝説の男

六番町学院の寮に帰ってきたナナニジ。二人は互いの部屋でラインをしながら話していた。

 

桜「今日は大変だったね」

 

みう「うん。そうだね……」

 

桜「? みうちゃん。大丈夫?」

 

みう「うん。ちょっと、今日の試合後のことについて考えていて……」

 

桜「紡久くんが怒ったことだね。あれは私もびっくりしちゃったよ。みうちゃんは特に嫌だよね。ああいうギスギスした雰囲気」

 

みう「うん。だけど、私、それ以上に気になったことがあって……」

 

桜「なんのこと?」

 

みう「紡久くんのサッカーのこと。私、紡久くんからあることを感じちゃって」

 

桜「何を?」

 

みう「自分にはこれしか無い。これ以外ありえないっていう、強いこだわりを感じちゃって……」

 

桜「感じて、どう思ったの?」

 

みう「私たちは、紡久くんがずっといっていた、バルセロナのことを知らない。知らないものを押し付けられてしまったら、いつかいやな方向に進んでしまうよう気がして」

 

桜「じゃあさ。聞いたらいいよ!」

 

みう「え?」

 

桜「え。紡久くんが大好きなバルセロナのことを」

 

 

 

翌日。

 

 六番町学院の教室に集められたナナニジ。練習着に着替えられていて、これから監督の紡久を待っていた。

 

 そうして扉が開いて、紡久が入ってくる。

 

紡久「三日後の試合について話す前に━━昨日はすまなかった。感情的になりすぎた」

 

あかね「いえ、私もかなり感情的になってしまいました」

 

つぼみ「つぼも相当顔に出しちゃったよー」

 

と、謝りあう両サイド。

 

みう「あの…………」

 

するとみうが手を上げた。

 

紡久「何だ。どうかしたのか、みう」

 

みう「実は、昨日の件についてなんだけど……教えて欲しい。紡久くんが、どうしてバルセロナにこだわるのかを……」

 

 紡久はすぐにだまり、教室中を見る。そこには、自分の話を遮ろうとする人は先輩たちにはいない。しかし、後輩たちにはあまり乗り気ではなかったようだ。

 

みう「私たちは、アイドルをするということも、活動内容もすべて、指示、というより命令されてやってきました。サッカーも同じ、無理やりこれをやらされると、どこかできっと衝突する。良くない方向へ進んでいく。ですから知りたい。あなたがどうしてバルセロナのサッカーを私たちにやらせるのかを」

 

その言葉に、後輩たちは納得行った様子だった。

 

紡久「そうだな……。まず、何から話そうか……。ああそうだ。まず、バルセロナの哲学について話させてくれないか」

 

ニコル「哲学━━」

 

紡久「以前にバルセロナというサッカーチームを聞いたことがあるか」

 

 この場にいる殆どのアイドル、壁に選ばれようが、オーディションをパスしようが、関係なく20人弱の手が上がる。

 

紡久「いや嬉しい。みんなバルセロナは聞いたことあったりするんか」

 

都(めっちゃ嬉しそうやな)

 

紡久「バルセロナの正式名称はFCバルセロナ。その名の通り、スペインのバルセロナという都市にできたクラブなんだ」

 

あかね「そのクラブは近年、相当な成績不振になっているようですね」

 

紡久「まあな。その理由は今はいいわ。とりあえず、結局バルセロナがどんな特徴があるか教えたいな」

 

紡久「まず、悠希、『ヨハン・クライフ』ってきいたことあるか?」

 

悠希「そうだな〜。名前くらいは? サッカーで有名なオランダの人だったっけ?」

 

紡久「そうだな。クライフというのは現代サッカーを作り上げた人なんだ」

 

つぼみ「現代サッカー?」

 

紡久「そう。クライフは《トータル・フットボール》というものを体現した選手なんだ」

 

悠希「トータル・フットボール?」

 

 悠希すらも聞いたことのない言葉。

 

紡久「簡単にいえば、ポジションが流動的で全員攻撃全員守備という考え方だ」

 

紡久「そしてそのサッカーは、攻撃的で魅力的なんだ」

 

ジュン「それは、やってて楽しいの?」

 

紡久「ああ。することができれば間違いなく楽しい。俺たちもファンも全員が楽しいはずだ」

 

紡久「サッカーはバスケ何かと違って、0−0になることも多い。そんな試合も戦術的に魅力的なこともある。でも、同じ戦術レベルなら、点が沢山入るほうが面白いだろ」

 

絢香「確かにそうだな」

 

紡久「だからクライフは守備的なサッカーをめちゃめちゃ嫌ったんだ。2010でチャンピオンズ・リーグっていうすごい大会で優勝したインテルのことを、クライフはかなり悪く言ったんだ。『守備は素晴らしいけどその後の攻撃は、見るに耐えなかった』って」

 

都「えらい極端な人やな。ちなみに、今はどんなことしとるんや? 監督とか?」

 

紡久「いや。5年くらい前に亡くなられたな。だけど監督はしたこともあるぞ。30年くらい前に」

 

ニコル「へぇ。成功したの?」

 

紡久「大成功。リーグ4連覇。クラブ史上初のチャンピオンズ・リーグのトロフィーを勝ち取ったときの監督だったんだ。その時のチームは『エル・ドリーム・チーム』と呼ばれている歴史に残るチームだったんだ。常に攻撃的で、何点も何点もゴールを取り続ける。そんなをサッカーだった。そして、その影響を受けたのが、当時ドリームチームの一員で、バルセロナの監督になって黄金期を築き上げたグアルディオラだったんだ」

 

紡久「グアルディオラがやったのは、ボールポゼッションを高める。つまり、常に攻撃をし続けるサッカーをしようとしたんだ。極論だけど、常に攻撃したら相手は攻撃できないだろ」

 

麗華「確かにかなり極端よね……」

 

紡久「俺は、そんなバルセロナが大好きだ。黄金期を作ったチームの中で最も魅力的だと思っている。俺がしたいのはそんなサッカーだ」

 

みう「じゃあ、紡久くんはただ好きだからやってるの?」

 

紡久「いいや。それだけじゃあないんだ」

 

紡久は少し寂しそうな顔をした。

 

紡久「近年。そんなクライフの考え方の一つが否定され始めているんだ」

 

みかみ「否定?」

 

紡久「今のサッカーは死ぬほど走ったやつが称賛される。クライフの考え方の一つである全員攻撃全員守備という考え方は世界中に広まっている。だけど、それは走ることと勘違いされているんだ」

 

あかね「それは効率的に動かなければならない、ということでしょうか?」

 

紡久「そういうこと。いかに正しいポジションに動くかだ。そこにいるのであれば、別に走り回る必要はない。むしろ動きすぎで逆にチームに迷惑をかけることにもなる」

 

紡久「だからこそ。俺はそういうことができるようにお前たちに教えたいんだ」

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