22/7 時計の時間   作:友だち

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森鈴音

前半25分。なかなか決めきれない時が続いた。悠希はもはや相手にベタつきをされていて、鈴音とのコンビネーションはあまり生まれない。

 

 相手の5−4−1に対して、攻めようとするが、なかなかに崩すことはできない。もう相手は攻めるしか無いのだろうが、意気消沈しているのだろうか。

 

 桜と真紀を中心に、様々な場所にパスを散らし、相手のデイフェンスを崩しにかかる。しかし、ドン引きされているため、なかなかにゴールに結びつかない。

 

 ミドルシュートを持っているみかみも撃つが、初戦のシュートが芸術的過ぎた分、枠内から外れるか、ディフェンダーに引っかかるかのどちらかだ。

 

紡久「麗華。隙を見て上がれ。ヘディングで沈めるぞ」

 

麗華「分かったわ」

 

 相手のベタつきに対して、少しのパワープレーは許されるだろう。3点目を奪う。3点差はある程度の安全圏と言われている。

 

(データ上そんなことはないらしいが)2点差は最も危険な点差とも言われることがある。ここでナナニジが失点したら、2−1となり、リードしてるが、もう一度点を取られたら同点だ。

 

 「点をとってもう一度点差をつけたい」フォワード陣が上がり、「もう失点したくない」と、デイフェンスラインを下げ、中盤が間延びする減少が起きることがある。そうなれば、相手に自由にスペースを与えて失点。という事態にも繋がる。

 

 そうならなくても、2点差から1点差になったときの心理的影響は大きい。こちらはイケイケムードが盛り下がり、相手はまだ試合は終わっていないと勢いづく。2018ワールドカップの、日本対ベルギーでもそういう事態は起きたのだろう。

 

 あと5分。紡久はもう一点取りに行くつもりだ。

 

 しかし、後半の、こちらと相手の修正に備え交代枠は使えない。この大会は、プレミアと同じく交代は3人まで。5人までできるラ・リーガとは違うのは少々面倒だ。

 

紡久「お前ら! もう一点取りに行くぞ!」

 

 ベンチから叫び、選手たちに喝を入れる。

 

 普通ならこういう時どうするか。

 

紡久「本当なら、一旦自陣側に敵を寄せてそこから一気に速攻で勝負決めるって言う手があるんだけどなあ」

 

 ナナニジにはその手を分かって、なおかつ実行できる選手が少ない。真面目な人が多いので、適度に手を抜いたりして相手を誘い込んでそこをつくのではなく、常に全力、という選手しかいない。

 

 そのことを紡久は、練習中に説明することもあるが、なかなか実行するのは難しいことだ。

 

紡久「あの中で、できるとしたら━━━━」

 

 真紀くらいだろう。しかし、もう数人欲しい。

 

 

 

 

 

 

鈴音「攻めあぐねているようね……」

 

 固まっている今の現状を、普段の中二心を忘れかけながら感じていた。

 

 

 個人の打開力は無く、できることは悠希先輩とのコンビネーション。彼女が作ったスペースに走ったり、作ったりすること。常にオフ・ザ・ボールに意識をおいてチームを助けなければならない。

 

 しかし、それ以外にできることがあるはずだ。ビルドアップに参加したりして、チームの前進を助けることか、いや、押し込んでいる今の状況には必要ない。

 

 状況を変えなければならない。押し込むも、決められない今の状況を。

 

 ではさっきの得点はどうして生まれたか。真紀が相手のブロックを作らせないまま攻撃をしようとして、そこに反応した悠希が得点をしたということになる。

 

 つまり、相手の守備ブロックを壊すことを考えなければならない。

 

 ナナニジのコーナーキック。一度プレーが止まる。ボールを悠希が取りに行く。点差が開いているからか、歩きながら取りに行っているので時間に猶予がある。

 

 なので、鈴音は、真紀と月渚の二人を呼んだ。

 

鈴音「今敵の無敵の鋼鉄〈インフィニティ・スチール〉が猛威を奮い、こちらの混乱を呼ぶ渦〈コンヒューズ・スウォール〉が意味をなしてないわ」

 

月渚「それは何となくわかっていたな。どうするんだ。打開力があるうちのエースとやらはマンマークに合ってて攻撃できないぞ」

 

真紀「ならば、相手を自陣に誘い込めばいいわ。固められているのならば、一旦それを壊してそこをつく」

 

鈴音「真紀は我が同胞ね。月渚もこちら側へつかない?」

 

月渚「うむ。そうだな。同胞になろう」

 

 悠希のコーナーキック。ニアに入れる。相手に弾かれる。拾われて蹴られる。

 

 月渚の元へボールが。

 

つぼみ「るっち!」

 

 同じ後ろ残り組のつぼみが読んでいる。月渚はダイレクトでボールを出す。大きく上から飛んできたボールなので、後ろ側にずれる。

 

 つぼみがそれを回収して前を向く。相手は少しでもライン回復しようとデイフェンスラインを上げる。

 

 今がチャンス。

 

鈴音「つぼみ先輩! 」

 

 鈴音が降りてきてボールを受けに行く。それに反応して、桜と悠希が裏に抜ける。ボールを貰う。そこに真紀がサポートに行く。落とし、真紀が貰う。

 

 そして、蹴る。その先は、右サイドを走る月渚だ。もともと見ていたわけだ。「走っているだろう」という予測に基づいていたので、視野の広さは殆ど関係ない。

 

 相手は裏を取られ、必死にもう一度ラインを下げる。裏に抜けていた悠希と桜に追いつくために。ファーにはみかみもいる。ついでに上がっていた麗華、絢香、巴も見なければならない。

 

 ほぼ全員がゴール前へ吸収される。それを鈴音を見ていた。

 

 鈴音は悠希とのコンビネーションが抜群だ。二人三脚プロジェクトで一緒にいた分、

相互理解が深い。

 

 だが、鈴音の良さはそれだけではない。スペースを作り出し、そこをつく能力だ。スペースに悠希を走らせれば、異次元の破壊力を発揮してくれる。そして、自分が入れば━━━━。

 

 相手全てがゴール前へ走っている。それならば、もう少し後ろならば開くはずだ。鈴音は少しファーに走り、ボールウォッチャーと自分のマークに精一杯になっている相手の死界に入る。

 

 そしてその動きを月渚は見逃していなかった。少しゆっくり、ニアの後ろの方へボールを流す。

 

 相手は驚きながら詰めてくるがもう遅い。

 

鈴音(これが、空間の支配者〈ルーラー・オブ・スペース〉である私が作った、異質な真空〈ヘテロジーニアス・バキューム〉よ)

 

 うまくインサイドでボールを巻き、シュート。ゴールの隅に吸い込まれていった。

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