グループステージ第三節。
相手チームの名前は「マイドールズ」。時々ナナニジの番組に出る神がいたグループでは無い。
ここ二試合で共に4−1で勝利と、現状首位を走るチームだ。先の試合で3−3で引き分けたサンジュも、ここのマイドールズに敗れている。
麗華「じゃああかねがいないから頼むわよ。心彩。心彩?」
心彩「あ、はい。わかりました」
スターティングメンバーは以下の通り、
GK 岬心彩
DF 戸田ジュン
佐藤麗華
立川絢香
柊つぼみ
MF 蓮沼巴
藤間桜
五十嵐真紀
FW 神木みかみ
森鈴音
東條悠希
前節の怪我人のところを変えただけで、それ以外に変更は無い。
悠希「いこうぜみんな! ここで勝てたら首位だ!」
絢香「ゆーすけは前向きだなぁ。ま、たしかにそうだな」
麗華「いくわ。もう1点もやられたくない━━━━!」
そうして始まったナナニジVSマイドールズ。キックオフの笛が吹かれ、悠希がボールを落とし試合開始。
その瞬間。
ダーーーーー。
真紀「来るのね……」
絢香「やっぱり、ハイプレスが来るか……」
相手のフォーメーションはおそらく、ナナニジと同じ4−3−3。全員がナナニジラインへ駆け寄りプレッシャーをかけてくる。
絢香「風紀委員落ち着けよ」
麗華「分かってる」
絢香は麗華にボールを渡す。麗華は、後ろの心彩へボールを渡す。
心彩「こんなに来るなんて……」
ゴールキーパーまでもプレッシャーに来る。思わずボールを蹴る。浮かしたボールをジュンへ。
ジュン「ちょっ……」
ジュンはボールをトラップしようとするが、いきなりこっちに来たことで驚いたので、トラップミスをしてラインを割った。
ジュン「ご、ごめん!」
ナナニジのベンチ元へボールが流れる。
紡久「ジュン! 集中しろ!」
ジュン「ああ、ごめん……」
叱られ少し萎むジュン。
相手のスローイン。左サイドバックが上がってきて、投げる。近くのインサイドハーフに出す。そこに桜がプレッシャーにかかる。だが、桜を背負いながらターンをする。
そこに巴が向かい、プレッシャーをかける。それを見た敵インサイドハーフは、もう一人のインサイドハーフへボールを出そうと━━━━。
バン!
巴が厳しく当たり、敵が倒れる。
ピーーーー。
笛の音が鳴る。ファールだ。
巴「しまった……ですわ……」
麗華「巴…切り替えて!」
フリーキックでゴールを決めようとしているマイドールズ。キッカーとして一人のキャプテンマークを左腕に巻いた少女が名乗りを上げる。
彼女の名は、白雪すみれ。マイドールズのキャプテンだ。
すみれ「相手のゴールキーパー。背が低いわね。狙ったら入りそうだわ」
「そうだね」
左のウイングに位置する彼女は、ここまで三得点を決めるチームの大黒柱。彼女は冷徹にゴールを決める。弱点はとことんついてゲームを支配する。
ピーーーー。
彼女が走り出す。
蹴る。
壁の上をすり抜け、ゴールの右隅へ巻きながら落ちる。枠に入っていた。
心彩「止める━━━」
しかし、ボールは左手の向こうを通り過ぎていき、ゴールが決まった。
0−1。
開始早々、ナナニジは失点を許してしまった。
心彩「そんにゃ……」
開始早々失点をしてしまったナナニジ。
心彩はこれであかねがゴールキーパーの時との失点に並んでしまった。しかも、自分が出たのは20分もないというのに……。
今戦っている間は、これまで戦ってきた相手より強い。だからといって、この失点のしようは心彩の中に大きく突き刺さった。
ネットを揺らしたボールを壁になっていた麗華が前に蹴る。
麗華「みんな。切り替えよう!」
悠希「僕が決める! 僕にボールを集めてくれ!」
そうして再びキックオフ。もう一度ハイプレスに来ることは分かっている。麗華は今度は左サイドのつぼみへ。
つぼみはボールを持つ。前を見ながら、ボールを向こう側のインサイドハーフの桜へ、少し浮かしてボールを出す。
桜は胸でトラップをして相手を背負う。しかし、前進してきた相手センターバックに。後ろから強く寄せられる。ドン、と押されて倒れる。
桜「痛━━━━」
ピーーーー。
ファールだ。ナナニジボール。
「お! またナナニジの試合見てるね〜〜」
育秀「また恵梨香か」
恵梨香「なんだよ冷たいな〜〜。よっぽど気になるのか? あのチームが」
育秀「いや、ナナニジの監督が同じ高校なんだ」
恵梨香「ふ〜ん」
凌駕「お! ヒデ!」
育秀「ああ。凌駕か。 久しぶりだな」
恵梨香「こんにちわ。君もーーヒデと同じ高校か?」
凌駕「いいや。学校は違う」
恵梨香「そうなのか。ナナニジの監督がヒデと同じ学校だから、君もそうなのかと思ってしまったよ」
凌駕「じゃあ俺の学校に来ないか? 色々手ほどきしてやるよ」
恵梨香「いや。私はアイドルとしてもっと成功するために六番町学園に通っているし、そんな下心丸出しの誘いには乗れないね」
凌駕「ちえ」
育秀「お前またナンパしてんのか? アイドルにこういうことするのはやめたほうがいいんじゃないか?」
凌駕「アイドルファンなんて、アイドルが恋愛禁止ってわかりつつも、推しと付き合えたらなぁなんて思ってるよ。そんなファンにつかれるって分かっててやってるんだから、別によほど生理的に無理な男に好かれない限りある程度は嬉しいと思うぞ。な?」
恵梨香「そのコメントには、ノーコメントだ」
凌駕「つれないなぁ。まあいいか?」
凌駕「あーそういえば。紡久はお前がここで監督してること知ってるのか?」
育秀「ああ。学校で話したからな」
凌駕「…………」
育秀「どうしたんだ?」
凌駕「あいつ。学校でバルセロナのサッカーをするぞ! とか言ってなかったか?」
育秀「ああ。言ってたな。ティキタカするための練習メニューを死ぬ気で考えたたぞ」
凌駕「そうか……」
育秀「紡久と、なんかあったのか…………」
凌駕「それが…………」
ナナニジの一節が終わった後のことを、凌駕は話した。
育秀「そりゃあキレられる。あいつがどれだけバルサに対してガチオタか知らんのんか?」
凌駕「知ってるわ。だけどつい俺もカっとなってしまって…………」
育秀「ま、バルセロナのサッカー無理やりしようとしてるあいつに腹立ったんだろ」
凌駕「ああ。選手と戦術は、まさに男と女の関係そのものだと思っている。合わない戦術を押し付けられる選手なんて、嫌いな男と政略結婚させられる女と同じようなもんだ」
育秀「それに関しては同感だ」
凌駕「だろ?」
育秀「だからといって、お前の煽り方はどうなんだ? どうせ“リスボンの悲劇”のこと口に出して逆上させたんだろ?」
凌駕「すまんな……」
恵梨香「リスボンの悲劇? なんのことだ? バルセロナに関係するとはわかるんだが……」
凌駕「そうだな。“チャンピオンズ・リーグ”っていうヨーロッパの頂点のクラブチームを決める大会があるんだ」
恵梨香「それは聞いたことがあるな」
凌駕「2020年の8月だったかな。その決勝トーナメントで、バルセロナとバイエルンというチームが当たったんだ」
育秀「基本決勝トーナメントは、決勝を除いて、互いのホームで戦って二試合の合計スコアが大きいほうが勝ち抜ける、みたいな方式なんだけど……、その年はコロナウィルスで決勝以外も一発勝負になったんだ」
凌駕「その試合。バイエルンが勝ったんだけど、何体何だと思う?」
恵梨香「え? スコア? ええと。そうだな。プロサッカーの試合ってあんま点はいらないんだよな? 5−0とか?」
凌駕は苦笑いしながら正解を言った。
凌駕「8−2」
恵梨香「は、ハチ……!?」
育秀「バルセロナがチャンピオンズ・リーグの歴史の中で最も失点した試合らしい。他にも色々な不名誉な記録をバルセロナが立ててしまった試合だ。バルセロナの視点に立って、そこで行われていたスタジアムの名前から、リスボンの悲劇と言われるようになったわけだ」
凌駕「選手層はメッシやスアレスがいた分そこまで負けていたとは思わないけど、シーズン途中で変わった監督の戦術と采配、ピッチ内での強度、おまけにフロント陣というのありとあらゆる差を見せつけられて、ボッコボコにされた試合だよ」
育秀「翌日の紡久は、ショック受けすぎて生気感じられなかったからな」
凌駕「ああ。だが、そんな悲劇が起きそうだぞ」
恵梨香「どうしてだ?」
育秀「シンプルに選手の適正にあったサッカーが出来てない」
凌駕「ああ。特にあの16番!」
凌駕は遠くから巴を指す。
凌駕「あいつにブスケツの役割させても出来ないって! あれだけ守備強度と運動量があるんだからさぁ。もっと潰しに徹底させてあげて方がいいだろ!」
育秀「配信のアーカイブ見たけど、初戦のほうがまだ、やりやすいようににやらせてたな」
凌駕「このままだと崩壊するぞ。また見たいか。あの試合を」