0−3。
これでナナニジが勝つ可能性は殆どなくなってしまった。特に、デイフェンスラインの顔に活気は無い。
ここ3試合で8失点。前がかりになって攻撃するサッカーをするため、その分失点はしやすくなる。しかし、やられすぎだ。
悠希「みんな! 顔を上げろ!」
前線から悠希だけが声を出す。チームはボロボロなのに、それでもまだ、点を奪いに行く。
麗華「もう、悠希に頼むしか道はないんじゃ……」
最終ラインの頭はチームのエースにボールを預け、点を取ってもらう。そのことで頭が一杯になった。
ここでナナニジ側に交代があった。鈴音が入り、紫苑が入る。
笛の音がなる。
そして、パスを回しながら悠希に渡そうとする。しかし難しい。相手のハイプレスがそれを邪魔をする。それでも、彼女にボールを渡そうと、僅かな希望を持っていた。
ゴールキーパー前まで侵入されても何とか取り戻し、取られてもボールをすぐに奪い返す。その瞬間こそが、飛口紡久が求めるサッカーに最も近づいた瞬間だった。
すみれ「やらせるかっ!」
ボールを持ったジュンに詰め寄る。ジュンは必死にボールを出す。その直後ジュンにすみれの足が当たる。
ジュン「あがっ!」
スパイクの下がジュンの足の甲に当たる。
それでも、悠希にボールが渡る。
悠希「みかみ!」
悠希は逆サイドのみかみに渡す。
みかみは前を走る悠希に、ボールを渡す。
悠希は前へドリブルを始める。左サイドから中央よりへドリブルをする。相手ボランチが来るが、悠希は右足のアウトサイドで交わす。
そして━━振りかぶる。
(撃つつもりか……)
彼女の位置は、ペナルティエリアよりも、まだまだ外だ。
インサイドハーフが戻って、悠希のシュートコースを消そうとする。滑る。しかしシュートを許してしまった。
ドン!
ボールはそのままキーパーから逃げるようにボールが動き、ゴールの右上隅に突き刺さった。
1−3。
悠希「まだあるぞ!」
ゴールを確認した悠希はゴールの方へ走り、ボールを取りに行く。
まだ勝負は諦めきれない。残り10分。
すると、マイドールズ側にも交代が生まれた。彼らは、さっき一枚使っていて、残り二枚。そして彼らは二枚使うことになった。
それはボランチと、右サイドバックだ。
そして、ナナニジはみかみに変えて紅葉を投入する。
もう一度キックオフ。
ナナニジはハイプレスをかけていく。相手のディフェンダーに向かって全力で、プレッシャーをかけていく。体力はきついが、前線三人が元気なので前からかけに行ける。
しかし。ボランチの選手があることを支持されていた。彼女の名は小澤美姫(みき)。
美姫(やっぱりナナニジは、中盤と前線の間延びがすごい。前線はハイプレスをかけられているけれども、中盤がそれに連動していない)
ボールをもらう。当然そこに、桜も真紀も来ていない。そして右サイドを走る、もう一人同じ時にしてピッチに立った選手へボールを渡す。
彼女の名は、倉敷愛乃(よしの)。右のウイングは中に入っている。彼女のためのスペースを開ける。
そこめがけて走り出す。
彼女を止めるのは、左サイドバックのつぼみ。
つぼみ「はっや!」
一瞬でものすごいトップスピードになり、つぼみをすぐに抜き去ろうとする。走るスピードだけなら、悠希より速いだろう。
つぼみが驚いたときにはすでに、もうほぼ正面にそこに手と体を入れて対応しようとした。
その時。
つぼみ「うっ…………」
つぼみの足が止まった。そのまま愛乃は前に出る。
絢香「やべえ」
絢香は追いつきそうにないものの、全力で抜け出した彼女の元へ走る。しかし、愛乃はそのままシュートをした。
しかし、ボールは心彩が弾く。
マイドールズのコーナーキック。
ここで審判は笛を鳴らす。さっき倒れたつぼみの方へ駆け寄る。
紅葉「つぼみ先輩。大丈夫ですか?」
つぼみ「足を……つったっぽい……」
紅葉「わ、わかりました」
そうして、紅葉は両手で、つぼみの右足のつま先をつかんで、前へゆっくりと押し倒す。
つぼみ「ぐう……」
幾度もなくカウンターをさせられ、その度に全力疾走で戻ってきたつぼみ。足には乳酸菌が溜まりに溜まって、つってしまったというわけだ。
というわけで、ナナニジのつぼみに変えて、晴菜を出すことにした。残り8分。まだ二点差。
晴菜(あれだけ頑張ってたつぼみ先輩の代わりを、私が……)
愛守香がつぼみをピッチの外に出す。
愛守香「はい。水」
つぼみ「ありがとう」
愛守香はもう一度、つぼみの縮まった筋肉を伸ばす。
つぼみ「ねえ愛守香っち。水に何か塩とか入れた?」
愛守香「いや? そこの水道水」
つぼみ「なーんか。変な味するんだよね〜」
二人がそんな風に話しているうちに、マイドールズのコーナーキックだ。
すみれが蹴る。そのボールを心彩が弾く。しかし、弾いたボールを相手に拾われる。相手がゴール前へ放り上げる。
そして、撃たれて━━━━失点。
1−4。
つぼみ「嘘━━━━」
ピッチの横で見た、勝負を決める相手の4点目。残り5分。
アディショナルタイムを含めても、負けから逃げられる時間ではない。ナナブンノニジュウニのチームの目は、絶望の色で染まっていた。
凌駕「決まったな」
育秀「ああ。残り五分ちょっとで、ナナニジに3点は無理だろう」
育秀「凌駕。もう出るのか?」
凌駕「ああ。ナナニジの女のコたちが可愛そすぎる」
そう言って凌駕はその場を去っていった。
紫苑にボールが渡る。足元の技術は強いため、抜きにかかる。しかし、取られる。さすがに2、3人が一勢に取りにかかったのならば、さすがの紫苑でも抜けはしない。
そして美姫に渡り、そのまま、愛乃の元へ渡る。
晴菜「止める……!」
そう言って飛び出ていたものの、彼女の足の速さに対応することは出来なかった。そのままぶち抜かれる。
絢香が次にプレッシャーにいくが、足の速さ敵に追いつくことはできない。そもそも、抜かれた晴菜の尻ぬぐいをしているような状況なため━━━━。
クロスをマイナスにあげられる。そのまま敵のインサイドハーフが折り返しシュート。
1−5。
ほぼこれがラストプレーだろう。
悠希がボールを持って攻めに行く。だが、紫苑のように囲まれる。
それでも何とか抜かそうとして、シュートを撃つがキーパーに弾かれる。
サポートに来てくれる味方も、こぼれ玉に反応する味方もいない。
ロングボールが、ジュンの上をすり抜け、今度はすみれに渡る。
麗華「私が行く」
ジュンは、今度は麗華のスペースを埋めるように動くことができた。麗華の横後ろをつき、ジュンにかかってくる敵の左サイドバックの動きにびっくりする。
ジュンが対応に当たる。後ずさりながら、ペナルティエリアの中へ。
またぐ、またぐ、またぐ。シザースを繰り返し、ナナニジの右サイドバックを抜かそうとする。
そして。
ガッ。
ジュンが伸ばした足に引っかかり転倒。もちろんファール。それも、ペナルティエリア内なのでPKだ。
イエローカードがジュンに提示された。
ジュン「ごめん。ごめん…………」
麗華「いいの……。ジュンは良く頑張ってるわ……」
散々自分の背後を取られ、そこから攻め続けられた。彼女の心はズタズタになっている。今にも涙が溢れそうだ。
すみれ「私が蹴る」
ペナルティスポットに、ボールを置く。笛の音が鳴る。
そして当然のように決めた。心彩は逆をつかれ、止めるかどうかのところではない。
これで1−6。
ここで、試合終了の笛。ナナニジの攻撃も守備も心も破壊し、紡久のサッカーを完全に否定するかのような、絶望的な敗戦だった。