11月もそろそろ終わる。
今バルセロナはどういう状況かというと、チャビ監督が就任して、2勝1分け。チャンピオンズ・リーグのグループステージを突破するための大事な一戦で引き分け、最終節に持ち込まれる、という事態になった。
試合が終わり、家に帰る間際。コンビニでパスタを買って食べる。
紡久は、ナナニジの敗戦を振り返る。何も出来なかった。
完全に試合を支配された。やりたいサッカーが全くと言っていいほど出来なかった。
何が悪かったのか。全てだ。何かを“根本的”に変えないと、現状を覆すことは敵わないだろう。とすれば、“バルセロナのサッカーの放棄”。自分が出来ると信じていたことを諦めなければならないのか。
例えしたところで、残り後一試合。グループステージは全5節あるが、4節は無いので、残すは後1試合。3節で大量失点を喫して負けてしまったので、最終節で大量得点で勝たなければ。
紡久「はあ……。どうすればいいんだ……」
その時、紡久の中にある監督の言葉を思い出す。つい最近チャビがバルセロナの監督に就任したが、その前の解任された監督、ロナルド・クーマンのものだ。
解任する直前は、成績不振は当然、選手を名指しで批判したりと、様々な方向から批判が飛び交い、バルセロナにとっての影響は全てがマイナスなものだった。
だが彼は、今のバルセロナの現状を強がることなく、語っていった。
「このチームでチャンピオンズ・リーグは勝てない」
「ラ・リーガでは上位に食い込むことができれば成功」
ある時には、3トップに、身長の高くヘディングシュートに定評のあるルーク・デ・ヨングだけでなく、長身ディフェンダーのジェラール・ピケ、ロナルド・アラウホを配置させ、彼らに向かって徹底的にクロスを上げさせるという、パスサッカーで世界を席巻したバルセロナのアイデンティティとは真逆ともいえることをやった。それも、ホームスタジアムのカンプ・ノウで、戦力的にも格下といえるグラナダ相手に。
バルセロナが目指すものとは目を背けるような采配をうったクーマンに、紡久は怒りを覚えたりした。
しかし、クーマンは今のバルセロナを悲惨さを誰よりも理解していたのかもしれない。
クーマンは、かつてヨハン・クライフが率いたドリームチームと言われるバルセロナの伝説のチームの一員だ。チャンピオンズ・リーグ決勝、延長後半にフリーキックを決め、バルセロナを初の欧州NO・1に導いたこともある。選手としてはレジェンドの中のレジェンドだ。
だからこそ、嘆き、諦めてしまうほどの現状を一番理解していたのかもしれない。
もしクーマンが、かつて自分たちがやったようなサッカーをして21−22シーズンのチャンピオンズ・リーググループステージ初戦、バイエルンにそんなサッカーをしようとして挑んだとしても、待っていたのは現実(0−3)と同じような結果だったかもしれない。
その光景は、今日の自分が見たナナニジの姿だ。
そして、その光景はそこから約一年前、自分にとってはトラウマとも言えるあの一戦、リスボンの地で起こった、バイエルン戦での悲惨な夜。
2020年1月。バルセロナはその時バルセロナを率いていたエルネスト・バルベルデ監督を解任した。その理由は、「バルサらしいサッカーをして無いのに、チャンピオンズ・リーグで勝てていない」からだ。確かに、バルベルデが率いたバルセロナは、チャンピオンズ・リーグでは、ローマ、そしてリヴァプール相手に大逆転負けを喫した。
そして新たに任されたのは、キケ・セティエン監督だ。クライフイズムを信仰し、クーマンとは違い、バルセロナと同じラ・リーガを戦うレアル・ベティスというチームを6位で終わらせるという好成績を近年収めた監督だ。
だが、結果はついて来ず。コパ・デル・レイ(日本で言う天皇杯のカップ戦Ver)も敗退し、ラ・リーガも二位で優勝を逃し、チャンピオンズ・リーグではリスボンの悲劇へと結びついた。
そもそも、バルベルデの解任に対しては、タイミングが間違っていたのだ。ラ・リーガも首位だったし、チャンピオンズ・リーグのグループステージでも1位突破を果たしていた。
と、バルセロナの過去を振り返っても仕方がない。今あるものが現実だ。そして現実はあまりにも、辛い━━━━。
そんなふうに紡久がコンビニの前に落ち込んでいると、
「これ」
眼の前に、ハンバーガーが現れた。
紡久「ヒデ! こんな時間で会うなんて!」
育秀「お前のチームが惨敗して落ち込んでるかなと思ってな。やけ食いでもしてろ」
紡久「まさか、お前も?」
育秀「ああ。モーニングコールっていうグループの監督をすることになった」
紡久「勝ってんのか?」
育秀「2勝1分け。次は引き分け以上で首位突破だ」
紡久「どんなサッカーしてるんだ。教えてくれなくてもいい」
育秀「4−4−2の堅守速攻」
紡久「アトレティコかよ。最近は違うけど」
育秀「お前が最も嫌ってそうなサッカーだ。だが、明らかにお前よりも良い結果を残している。この事実をどう受け止める?」
紡久「煽りに来たのか」
育秀「ま、そんなところだ」
紡久「そうかよ。別に、これとサッカーですね、みたいに思ってますよ」
育秀「そうか。俺の知る限り、10年前のバルセロナは最強だったと記憶してる。お前がしようとしてるのはそんなサッカーだ。なのにチームは惨敗。なぜだ」
紡久「それは━━」
育秀「まずお前の采配と準備不足が一つ。そして何より選手の質が悪いからだ」
紡久「言ってくれるな。桜、真紀、みかみ、絢香あたりは初心者の中でも相当上手いほうだと思うけどな」
育秀「だが実際バルサのサッカーをするには不十分すぎる」
紡久「そりゃあ。上手いだけじゃ出来ることじゃねえだろ。ペップバルサの真似事は」
育秀「だから質が悪いと言ったんだ」
紡久「うっ━━━━━━」
育秀「お前の哲学は理想的すぎる。少しは棄てるべきなんじゃないのか?」
紡久「お前━━━━凌駕と話したのか?」
育秀「ああ」
紡久「お前も凌駕と同じことを言うのか……?」
育秀「いいや。あいつほどサッカーに対して哲学が無いわけではない。言っただろ。俺はお前を煽っているだけだと」
紡久「━━━━━━」
紡久は黙り込む。
テテテテテテテテテテテテン♪
紡久「あ、ラインだ」
すると、ここで紡久の携帯の音がなった。
紡久「合田さん?」
育秀「誰だ?」
紡久「ナナニジのマネージャーさんだ」
そうして紡久は携帯を耳に当てる。
合田「失礼します。飛口さん」
紡久「はい。なんですか?」
合田「今はご自宅に?」
紡久「いえ? 今帰宅途中です」
合田「ならば今すぐ帰ってください」
紡久「何故です?」
合田「飛口さん。あなたは新型コロナウイルス感染者の接触者となっています」
飛口「は━━━━━━」
合田「ナナブンノニジュウニ内で、クラスターが発生しました」