22/7 時計の時間   作:友だち

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椎名紅葉

前半15分。ナナニジも、サンジュ側も未だに0−0だ。このままいけば、サンジュが上がってしまう。

 

 僅かとはいえ、ナナニジにも精神的影響が出始めてきている。その原因は、先程悠希がシュートがクロスバーに当てたことだ。

 

 サッカーは長い時間戦うとはいえ、ビッグチャンスは数回しかない。その内の一回をすでに使ってしまったと考えたのだろう。例え思ってなくても、多くの人々が感覚としてあり続けている。

 

 前半の空気、後半の空気というものの違いを、これまで2/3の試合で途中交代をした紅葉は感じていた。

 

 控えから入ってくることの精神的難易度を、自分と同じように途中交代で出場することが多い晴菜と並んで知っている。

 

 晴菜はつぼみに比べてある局面ではより強さを発揮できるときがある。

 

 だが、紅葉にはあるのだろうか。

 

紅葉「私、やっぱりあんまり自分から話すタイプじゃないから、なかなかみかみ先輩に聞けなかったな」

 

 もちろん紡久との面談で自分の良さについて離された。

 

 それでも、サッカーというスポーツはメンタルの持ちようによってパフォーマンスの良し悪しを決めると。そのことは紅葉自身も知っている。

 

 ライブもそうだ。心によって歌やダンスのキレに影響を及ぼす。そもそも、病は気からというのか、心と体は繋がっている。例え体がいくら元気で実力があっても、内面が病気だったら、己の外面もそれにつられて悪くなっていくものだ。

 

 自分の先輩であるみかみはどうなのだろうか。常にはんなりしてて、みかみんワールドとかいう異世界を持っている彼女。悩みみたいなものはあったのだろうか。

 

紅葉「あんまり無さそうだよね。そういうの」

 

 もちろん分からない。聞いていない、聞けていないのだから。

 

 かなり受動的で内気な自分なのを、紅葉は知っている。それ故に目覚めた自分の特徴。

 

 

 

みかみ「もーちゃん大丈夫か?」

 

紅葉「だ、大丈夫です」

 

みかみ「せやろか? なんか迷ってるようにみえるわ。自信とか無いんか」

 

紅葉「…………実は……自信というより私このままでいいのかって思いまして」

 

みかみ「どういうことや?」

 

紅葉「私ってみかみ先輩のような武器はありません……シュートもドリブルも飛び抜けて上手いわけではありませんし……」

 

 悠希と比べることは誰もしない。しかし、シュートのみかみ。パスとコンビネーションの鈴音。フィジカルのニコル。陽夏莉ですら大きな武器を持っている。しかし自分はどうなのか。

 

みかみ「そないなことか……。せやなあ、とはいえうちもつーくんによー言われるからなあ」

 

紅葉「何がですか?」

 

みかみ「うちなあ。よく攻撃を止めることあるって言われるんよ」

 

紅葉「攻撃を止める」

 

みかみ「せやな。確かにうちのカットインは魅力的っていうんだけど、やる必要ないところでやるらしいねん」

 

紅葉「そうですか……」

 

 

 京子がゴールキックを弾く。そこを巴が回収する。そしてジュンへ。

 

 ジュンはニコルへボールを出す。少しずれてしまうが、ニコルが体を張ってポストプレーで中に入ってきた桜へボールを出す。

 

桜「OK!」

 

 桜はボールを持って中へ切り込んでいく。それに合わせて悠希が抜け出す。

 

紅葉「わざわざ聞く必要だって無いわけだし……ってあ!」

 

 しまった。自分が試合中に話していることに。今は向こうのコーナーキックなので動くことはあまり無いのだが、それにしても恥ずかしい。試合に集中できていないことになってしまう。

 

 桜からボールを貰う。紅葉は中を見る。悠希がいるが、クロスをしても出せなさそう、撃ってくれたとしても入らなさそう。そう思い、戻す。

 

 その時。

 

都「らんらん!」

 

 都が桜をオーバーラップしてこっちの方へ。それを見て紅葉は桜の方へ行って、彼女の後ろを回り中へ。

 

 そこで桜からボールを貰う。

 

 そして悠希にボールを出して自分は前に抜ける。

 

 悠希は桜にボールを出して桜シュート!

 

 しかしボールは上の方へ飛んでいき、ゴールキックへ。

 

桜「あ〜〜〜〜」

 

 悔しそうに頭を抱える桜。

 

桜「ごめん紅葉ちゃん」

 

紅葉「今の、良かったですか?」

 

桜「うん。おかけでシュートが撃ちやすかったよ。外しちゃったけど」

 

紅葉「そうですか……」

 

紡久「惜しいぞ! もっと続けろ!」

 

 向こう側で監督の指示ではなく称賛が聞こえる。

 

悠希「紅葉!」

 

紅葉「何でしょうか?」

 

悠希「桜や紡久の言ったとおり、今日はとてもいいぞ。どんどん続けてくれ!」

 

紅葉「本当ですか?」

 

悠希「ああ!」

 

紅葉「本当ですか!」

 

 

 

 

紡久「紅葉って結構使いやすいんだよな」

 

愛守香「そうなの?」

 

紡久「ああ。だってあいつオフザボールがとてもいいんだ。晴菜は相手を見ながらのオンザボールがいいんだけど、紅葉は味方を見ながらの動きがとてもいい」

 

愛守香「ふーん。じゃあ晴菜ちゃんみたいに明確に褒めて上げたりはしないの?」

 

紡久「ああ。みかみと話したんだ」

 

 

 

みかみ「もーちゃんは、ちゃんと自分には武器があるってことをわかってもらいんやけど、やっぱりこれやいうのを、パッと理解させるのは難しいと思うんや」

 

紡久「何でだ?」

 

みかみ「結構もーちゃんって色々と考えてしまうとこがあるねん。ネガティブというのは少し違うというか、結論を出すのにえらい量のなんかを判断材料にしてしまうというか」

 

紡久「なるほどなあ」

 

みかみ「せやから、少しづつ褒めていってちょっとずつ自分に自身をもたせるのがいいと思うわ」

 

 

 

 彼女がこれからどれだけの時間をかけて成長するかは分からない。だが、決して彼女もまた良いプレーヤーだということを誰しもがしっている。

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