22/7 時計の時間   作:友だち

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戸田ジュン

みうに聞いたことがある。自分は後輩のほうが試合に出れていることにどう思っているのか。

 

みう「私は、そもそも運動なんてしたことなかったし、試合に出れないのは予め予想できてた。だから、私はできることをやりたいって思ってる」

 

 ジュンは、みうの言葉を聞いて、そうだよ、と思っていた。そして出れたら出れたらで楽しもうとおもっていた。

 

 しかし、待っていたのは過酷な現実だった。全く思うようにプレーが出来ない。そればかりか、自分が足を引っ張っている現実が目の前にあった。

 

 自分の後輩の凄さを実感した。自分たちの後輩になるためのオーディションで、何かの部門で一位だったらしい月渚。彼女を育ててあけるのがジュンの役目。

 

 が、砂浜で共に遊び呆けて肝心のレッスンを疎かにしてしまったりと先輩らしいことができていたのかははっきり言って微妙だ。

 

 ジュンは自分の未熟さに打ちひしがれかけていた。

 

 この試合、月渚の怪我はかなり軽かったため、自分は出ないだろうと思っていた。しかし、彼女はあろうことかコロナウィルスの厄災に苛まれ、こうしてこの試合も先発で出ていることになっている。そして替えもいないため、おそらく怪我でもしない限り変わることは無いだろう。

 

 だがジュンは紡久と話したとき、こう言われた。自分がマイドールズで散々にやられたのは、ジュンを良いように使うことができなかったからだ、と言われた。

 

 それの証拠というか、今日ははっきりとした役割が与えられている。自分のために、戦術が整備されている。

 

 4−4−2。中盤がフラットな分、ポジション的には前に桜がいるのだが、桜は攻撃時中に入る。つまり、自分が上がるスペースが用意されているのだ。

 

 しかし、だから活躍できるのか。そんなはずは無いと、ジュンは考えた。

 

 その時だった。

 

 わあああああ、と横から大きな歓声が聞こえた。サンジュがゴールを決めたらしい。

 

 これで勝ち点で勝ち越される。このままいけばサンジュは7。ナナニジが5。例え次の瞬間にナナニジがゴールを決めたとしても、得失点差で勝てない。

 

絢香「お前ら! 気にするな! 点を取りに行くぞ」

 

 向こうで絢香が声を出している。

 

 自分たちが本来のサッカーをすれば、たくさん点をとって勝てると紡久は言った。だが、それが出来ない精神状態にあるわけだ。

 

 前半も残り10分。未だに0−0だ。ここまで来ると、当然焦りも生まれてくる。

 

 こういうとき、自分の後輩は落ち着いていれるのだろう。

 

 後輩の凄さを考えるたびに思う。

 

 どうしていつも、自分だけ助けられるのか。

 

 どうしてあの時、病気で死んだのが自分じゃなかったのか。怪我や感染したのが自分じゃなかったのか。

 

巴「ジュン先輩!」

 

 前からボールが来る。必死に近づいて前線のニコルへパスを出そうとするが、相手の足に引っかかりボールはラインを割る。

 

ジュン「う……」

 

 スローインのためにボールを取りに行く。

 

 弾かれたところは自分のベンチの方に行ったらしく、うちの監督がキャッチして自分に渡そうとしていた。

 

紡久「ほら、ジュン。いつもの子どもみたいな元気はどうしたんだ……!」

 

ジュン「こ、子どもじゃないもん!」

 

紡久「本当か? 今のジュンは、惨めったらしくうじうじしてるガキに見えるぞ」

 

ジュン「う……」

 

 痛いことを疲れた。

 

 京子にボールを出す。京子が向こう側へボールを繋げていったので、選手通り高い位置を取る。

 

「私ははるーちゃんみたいになれない。だから私は私なりに頑張るんだ。それで、試合後にみんなで一緒に笑お!」

 

 そう言ったのは自分だ。あの言葉は、ジュンが自分自身を奮いたさせるためにも発したものだ。

 

 そうだ。残った自分が頑張らなければならない。残してくれた人たちのためにも、胸を張って前に進まなければならない。

 

 辛いことがあって、下を向いていたら終わってしまう。

 

 きっとこのままナナニジが勝って決勝トーナメントに進めたのならば、どれだけ楽しいことだろうか。

 

 左サイドバックの晴菜がボールを持つ。

 

都「こっちや!」

 

 都が晴菜からボールを受ける。後ろからは相手のボランチが来ているので、右のインサイドで横にパスをして巴へ。

 

 巴はそこからダイレクトで前に出して前の桜へ。

 

 そこにもう一人のボランチが来るが、桜は少し戻りつつ外す。今度はもう一度巴に渡す。

 

 巴は前のニコルへ。

 

 ニコルはボールを落とし桜へ。

 

 桜はボールを前に運んで、敵を少しひきつけてジュンへ。本来同サイドハーフの桜は、ジュンにサポートに行ってもいいかもしれない。

 

 しかし、しない。桜はゴール前へ行く準備をする。

 

悠希「ニコルファー!」

 

ニコル「分かったわ!」

 

 フォワードの悠希とニコルは、共に交差するように動く。悠希はニアへ、ニコルはファーへ動く。

 

 ジュンと相手の左サイドバック、そして同サイドハーフも彼女の元へ。2対1。

 

 だが、ここでジュンはボールをちょんちょんと触りながら、一気に加速して前へ。

 

 ジュンは右利きなので、そのまま縦にいって右足でクロスを上げると考えられる。なのでサイドバックも縦に対応しようとしていた。

 

 しかし思ったよりもジュンの加速力がすごい。さらに、彼女の身長が小さくて思ったように取れない。ジュンは体を相手の下側からねじこむように体を入れた。これに対応することは難しい。

 

 悠希を見ればわかる。サッカーはバスケやバレーと違って、体が小さくても弱点では無く、特徴として活かすことが出来るスポーツなのだ。

 

 ジュンは抜け出してクロス。そしてその速度は、地面を這うような速いクロスだ。

 

 これは相手は取りにくい。もし変に足に当たれば、オウンゴールになることもある。現代サッカーでは、こういうまるでシュートのようなクロスが増えてきている。

 

 悠希はそこに反応しようとするがゴール前に行きすぎて後ろを通り過ぎるクロスに反応できる。

 

 だがそこに反応し、足に当てたのが一人。

 

 桜だった。

 

桜「絶対決める!」

 

 桜はインサイドで確実に当てる。そしてファーへ流し込むような起動を描く。キーパーは反応し手をのばすが届かず。ゴールに吸い込まれた。

 

「「よっしゃーーー!」」

 

 ベンチからは喜びの声。

 

ニコル「まだ取るわよ!」

 

 ニコルはゴールに入ったボールを掴み、すぐさまセンターサークルへ運ぼうとする。そうだ。まだ終わってはいない。

 

 まだ点は必要だ。これで相手の得失点差に及ぶまであと一点。必ずあと一点は取らなければならない。

 

 ジュンはそのことを理解して、すぐ自陣に戻ろうとする。それでも自分のクロスに反応してくれた得点者を労わなければならない。

 

ジュン「ナイス! らんらん!」

 

 いつもどおりの、とびきりの笑顔で桜に声をかける。

 

桜「ジュンちゃんもナイスクロス!」

 

 二人はハイタッチしながら、走ってキックオフまでの時間を短くしようとする。

 

 例え前回の試合が辛かったとしても、次はきっと嬉しいことがあるはずだ。人生とはそういうものだからだ。それを信じたあの子の生き方の尊さを、ジュンはサッカーを通して再確認した。

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