基本的なサッカーの大会では試合の時間は45分を前後半。しかし、この大会では、サッカー初心者がいるからということで30分に変えられている。
キックオフ。
悠希が試合開始の笛とともにボールを下げた。
ここから、ビルドアップが始まる。
「ビルドアップ」とは構築を意味する。攻撃を組み立てることだ。
「相手は2トップか……」
その言葉とともに、左側にいるつぼみへパスを出した。そしてつぼみは、GKのあかねへパスを出した。
すると、あろうことか、あかねが一列上がっていく。ディフェンスが外に開き、サイドバックのつぼみと月渚がタッチライン際の高い位置に行くようになった。
ナナニジのディフェンスラインには三人。そして相手のフォワードは二人。これで、後ろ側で相手フォワードに対して数的優位が作れることになったわけだ。
そしてボランチの巴は、2トップの間からパスを貰いたがるような位置取りをした。鳥かごでも話したようにディフェンスのコンビネーションで最もケアすべきところは二人の間のギャップ。ここを相手に意識させることで、麗華や絢香はフォワードのプレッシャーを感じることが無くなるのだ。
あかねは麗華にパスを出す。麗華は右側のセンターバック。左側ではフォワード二人が巴のほうへ集中しているため、持ち運ぶことができるようになったわけだ。
そして相手のフォーメーションは4−4−2。敵の左のボランチとサイドハーフがいるのだが、ここで、こちら側の右画のインサイドハーフの桜、そして高い位置をとっていた右サイドバックの月渚がいて、ここで再び3体2の数的優位を作れるようになるのだ。しかも、右側のウイングの位置にいる紫苑も含めて4体2。鳥かごと同じような場面を作ることに成功したわけだ。
この状況からの最適解を見つけることができるのが、桜だ。
紡久が彼女をインサイドハーフに起用したのは次の理由だ。まずボールを触る記述と、パス能力が高かった。鳥かごでも、かなり落ち着いていて、相手を見て、ボールを貰って適切に他の選手へ繋げることができた。
なぜ桜のパス能力が高いのか、というとその理由の一つは、体の使い方。ボールを使うことが苦手な選手は、ボールを見ようと猫背になりがちだ。しかし桜は頭が糸でつられているように、ピシッと背筋を伸ばしてプレーできているのだ。それは彼女がフィギュアスケートだったりバレエだったりをやっているのが原因なのかは分からない。だがその姿勢故に頭をあげて周りを見ることができるというわけだ。
「麗華ちゃん!」
桜はパスを貰う。目指すゴールに対して背を向けていて、後ろからディフェンダーがきている。しかし桜は左足のインサイドターンで背中からくるプレッシャーを交わしにかかる。
完全にマークを振り切ることはできず、右側からプレッシャーを感じながらゴールに向かってドリブルをした。
左側では自分とと近い位置で真紀がボールを受けようとしている。そして右側ではスルーパスを貰おうと、悠希が裏に抜け出そうとしていた。しかし桜の狙いはそこではない。左サイドの外側で走っていたみかみだ。桜は体を捻りながら、左足のインサイドキックで、左サイドのウインガーへパスを出した。
桜は右利きだが、左足精度もなかなかに高い。
みかみは縦に走ろうと、体を動かす。しかしそれはフェイントで、中へ切り返す。それでも相手はみかみについてかかる。しかし、みかみにとってはそれすらも一つのフェイントだった。重心の逆を疲れた相手を置き去りに縦に突破。そのまま左足でクロスを上げる。
そのクロスに反応しようとしたのは、まずニアサイドへ走っていた悠希。次には桜だった。中盤の仕事はFWにパスを出すことだけではない。時には、その選手も裏に飛び出すことも重要なのだ。
しかし、今回は桜の元へボールは渡らなかった。ディフェンダーが足を出し、クロスをブロック。そのボールはペナルティエリアの右前の端へ。その近くにいた真紀が回収しようとちかよる。相手の右のサイドハーフも近よってくるが、真紀のほうが少し速い。つま先でちょんと触り、相手の取りに行く足に触れさせない。そしてもう一度ボールに近寄りマイボールへ。
桜と悠希がゴール前へ飛び出ているので放り込むことはできない。
「真紀!」
右サイドから月渚の声がした。ボールを呼んでいる。すぐさま真紀はボールを渡そうとする。逆足の左足でパスを出す。しかし弱い。
「まずっ」
思わず声を出した真紀。また、それに気づいた相手ディフェンダーと月渚。それでもどちらが触るかは後者に分配が渡る。月渚は一旦中に流れて、相手DFをかわそうとする。が、相手の出した足に引っかかる。
ボールが月渚の後ろ側へ流れる。そして相手DFにボールが渡る。