22/7 時計の時間   作:友だち

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斎藤ニコル

 紡久は疲れてきた晴菜を変えようとした。その理由は疲れてきているからと、守備強度、ビルドアップの安定性を高めたいということ。

 

 つぼみが新型コロナウイルスに感染した結果、左のサイドバックにはもう晴菜しか残っていない。ではどうするかというと、ここで紡久はかすかを呼んだ。だが彼女はビルドアップ能力に優れたセンターバックだ。センターバックとサイドバックに求められることは違う。

 それでも彼女を読んだのにはわけがある。

 

 そもそも、もう一人のサイドバックであるジュンが常に高い位置をとっているからだ。それに伴い、他三枚のデイフェンスラインは右側によって、擬似的にとはいえ3センターバックの形になるからだ。それをかすかに説明してピッチに出す。

 

 相手はボールを持って、ナナニジの陣地へ運んでくる。押し込まれる形だ。もしこれで失点してしまったら、再びサンジュに順位でリードされる。だから一点も渡すことはできない。

 

心彩「ニア切って!」

 

絢香「子ども! そこ絶対離すな!」

 

 ペナルティエリアの外側で相手がボールを持っている。完全に押し込まれる形となっている。ナナニジは自陣に戻り、ブロックを作って対応する。

 

 相手が撃ってくる。ニアを切っていたため、ファーしか撃つことは敵わない。なので心彩はそこしか撃たれるところはないと踏んでいたため、止める。こぼれ球につかれることは無いように、しっかりとキャッチする。

 

 ゆっくりと持ったまま、キーパーのボール保持制限の6秒を待つ。その間に、ナナニジは開いて、ボールを受ける準備を進める。

 

 もう一度繫いで、ゴールを目指す。心彩は京子に渡す。京子は前を向く。パスコースは無く、ニコルに蹴ろうとする。

 

絢香「確かに点は大事だけど、焦ることはない。確実にやっていくぞ」

 

京子「は、はい!」

 

 そうして絢香はボールを貰う。そして今度は左サイドのかすかへ。かすかはボールを貰ったその途端に縦パスを出した。

 

 その先にはニコルがいた。

 

ニコル「ちょ……!」

 

 今のパスにニコルも驚いたようなのか、上手くボールを収めることはできず、少しずれる。しかし、何とか収め、桜へ渡す。

 

 桜は横から敵ボランチが来るので上手く体を入れながら交わしていく。そして前にいる鈴音にボールを渡す。

 

 鈴音はまた桜にボールを落とす。桜はボールを貰い前へ運んでいく。すると、左前の方に走る紅葉へと、ボールを蹴って渡す。

 

 紅葉は中を見る。中には色々と走り込んでいる。悠希、ニコル、そして━━━━。

 

 紅葉はクロスをグラウンダーで出す。まずそこに走ってきたのは悠希だ。それをスルー。そして次にニコル。さらにスルー。これで完全に相手は思考の隙をつかれてしまった。

 

 そのボールを始めて触ったのは、ジュンだった。右足を振り抜く。ボールをさわった感触が気持ち良すぎた。びっくりするほど狙ったところへ飛んでいったのだ。ボールはサイドネットへ走り込んでいった。

 

 4−0。

 

 サンジュとの得失点差を1上回る。これで相手は2点取らなければならないという状況に陥った。後半も残り10分。勝利はほぼ確実だ。

 

 ベンチでは紫苑が立っている。紅葉と交代だ。

 

 交代は全て使い果たし、できることは殆ど無い。

 

 後は、ピッチ上の選手に託された。

 

 

 

 

 と、強くまだ行こう、みたいな雰囲気が流れてしまっていたとしても、頭の中はどうだ。残り10分をどうするかだ。

 

 ナナニジの中にはこのまま試合を終わらせることがメインとなっていた。失点はせず、攻撃はできたらする。もう一点取れたらラッキー。みたいな。

 

 だからこそ、ナナニジは前の方にボールを渡そうとすることは少なくなった。相手も意気消沈。残りの10分間。ゲームではないゲームのように感じるだろう。

 

 しかし、何が起きるか分からないのがサッカーだ。

 

 バルセロナもそんなことがあった。まさか4−1から、3−0から負けることは無いだろうみたいな、雰囲気があって逆転負けを喫したことだってある。

 

 人の人生も、サッカーも、何が起きるか分からない。

 

 絢香は縦パスを入れて桜へ入れる。そのまま振り向いて、前に進む。左サイドの紫苑へボールを渡そうとする。

 

紫苑「あ……」

 

 ボールは紫苑の前の方へ。

 

 足元で受けたかった受け手と、前に出して走らせたかった出し手。両者の意思疎通ができずにラインを割る。

 

桜「紫苑ちゃんごめん!」

 

 桜は謝りながら、自陣に戻ろうとする。

 

「みんな。行こう! 行こう!」

 

 敵チームから声が。相手も一応は突破の可能性があった。しかしそのゲームで惨敗を喫し、位置消沈し、もやはナナニジの攻撃に成すすべが無くやられてしまうよくな雰囲気だった。

 

 しかし、その声で息を吹き返してしまった。

 

 スローインを投げてくる。相手のサイドハーフがボールを持つ。そのままボランチへ。桜のマッチアップをする。

 

桜「行かせない!」

 

 体を当てるが、

 

 バン!

 

 と、体を当てられふっ飛ばされる桜。ショルダーチャージなので当然笛はない。

 

絢香「まずっ!」

 

 ボランチのラインを突破されて、ディフェンダーが対応に追われる。

 

 相手の選手は、体をねじ込ませながら絢香を突破しようとする。

 

絢香「やられる……!」

 

 自分の能力では横のアタッカーを止めることは難しい。このままでは完全に突破される。そう思った途端体を投げたし、滑った。

 

 出した足がおそらく相手の足にあたってしまったのだろう。笛の音が鳴る。

 

 審判は絢香の方へ駆け寄り、ポケットからイエローカードを取り出して提示した。

 

愛守香「危な。今のレッドから思ったわ……」

 

紡久「いや。これで二枚目か」

 

愛守香「何が?」

 

紡久「前回イエローもらってたはずだ。となれば累積で次回出場停止だ」

 

愛守香「え……! 嘘……」

 

 相手のフリーキック。直接狙ってきそうだ。壁は5枚で設置している。

 

 ここで決まれば、4−1。一応これで失点したとしても、ひとまずはグループステージは突破だ。とはいえ、気を抜けない。さらにサンジュが決めるでもしたら━━━━。

 

 ピッ。

 

 笛の音がなる。

 

 相手が蹴る。壁は跳ぶ。ボールは巻いてゴールの方へ。心彩は腕を伸ばしてボールに食らいつくが、届かず、ゴール。

 

 4−1。

 

 これでナナニジとサンジュの得失点差は並び、総得点でナナニジがリードしている状況だ。

 

 その途端。

 

 横からさらに歓声が。

 

 サンジュがゴールを決めていた。

 

 たった少しの間でこちら側にあった優位が全て消えてしまい、一転してナナニジは窮地に立たされた。

 

絢香「すまない……」

 

桜「いいよ。私があそこで好きにさせてしまったから……」

 

 意気消沈するナナニジ。

 

悠希「みんな! 切り替えて点を決めに行くぞ!」

 

 残り時間は残り3分ほど。時間はあるが、殆ど無い。しかし、諦めたくない。これで終わりたくない。

 

 悠希は叫ぶ。自分がこの大会に参加すると言ったせいで、月渚とあかねは怪我し、様々な人が、コロナに悩まされた。

 

 そもそもアイドルがこうやってスポーツの大会に参加すること自体が間違っている、といったものもいた。

 

 自分たちはこのまま何も残せずに終わってしまうのか……。

 

「ちょっと。何落ち込んでんのよ」

 

 後ろのほうで声を出した選手が一人。

 

ニコル「点を取られたくらいですぐに負けた雰囲気にならないでちょうだい! 私たちはやるって決めたの! だったら最後までやるのが筋ってもんじゃないの!?」

 

悠希「ニコル……」

 

ニコル「いい? まだ可能性は残されてる。それなのにうじうじと、あなたたちはやることやったの? 最後まで出来なかったの? 違うでしょ! だったらとっとと顔を上げて、点を取りに行くわよ!」

 

 言い方はかなり厳しいが、言っていることは全うだ。そしてニコルは、この試合の前、このまま辞退しようと真っ先に言っていた。

 

 でもやると決めたからには、文句も言わずただただ勝利を目指している。

 

悠希「そうだみんな! ニコルの言うとおりだ。僕たちはなんの為に練習してきたんだ! まだ行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

ボールを繋ぐということはすでにチームの癖になっている。これは、紡久の指導がチームに浸透しているということだ。

 

 決して無理やりボール前に蹴らない。ボールを大事にする、という原則を守りナナニジは前進していく。

 

 紡久がこれまでひたすらやってきた鳥かごの成果だろう。

 

桜「ニコルちゃん!」

 

 しかし、鳥かごが最も出来なかった選手がいる。それがニコルだった。背も高く、フィジカルもある。しかし、足元はどうだろうか。全く無かった。ボールを回す時、普通にずらす上にミスって取られることが多かった。

 

 桜から貰ったボール。ニコルは体を張ってキープする。そのまま振り向こうとするが、相手の足が飛んできて取られてしまう。

 

ニコル「━━━━!」

 

 自分の不器用さは分かっていた。紡久が言っていた体の動き、頭の使い方に反応出来ていない。

 

 ボールを取られた瞬間、即時奪回ですぐにプレッシャーをかけに行く。相手のサイドバックにボールが渡る。そこに対して全力でジュンが詰め寄りに行った。

 

 相手はナナニジのプレスを回避しようと、縦にパスを入れる。しかし、そこに反応した巴が前進してボールをカット。もう一度ナナニジの攻撃だ。

 

ニコル「こっちよ!」

 

 その途端に、切り替え早く、ニコルが裏に抜ける。巴はそこを見逃さずにパスを出した。

 

 ボールは少し外に流れつつも裏に飛び出したニコル。それに反応し、ニコルとともに並走するディフェンダー。

 

 ニコルは相手とぶつかり合う。負けない。相手のセンターバックは相当体格も良く、殆ど人が競り負けるような相手に物怖じけずぶつかる。麗華と同じようにフィジカルが強いニコル。

 

 しかし足元は無く、撃つが、ゴールの枠には飛ばす、ゴールキックへ。

 

 もちろん相手も得点が欲しいため、前に蹴ってボールを持ってすぐに攻めようとしていた。相手のロングボールに対して、ナナニジは奪えず攻められる展開に。

 

 相手のトップ下がボランチとセンターバックの間、いわゆる2ライン間と言われる場所でボールを受け持つ。そのままサイドに展開する。左サイドへ。

 

 ジュンと敵の左サイドハーフが一対一に。さすがにジュンとスピード勝負では抜けないと判断したのか、中を向いてもう一度パスを出そうとした。

 

 そこにジュンが反応して中のコースを切ろうとする。

 

 が、その途端中に入りこんでジュンの逆をつく。

 

ジュン「やばい!」

 

 そのまま完全に突破され、一気にピンチになる。

 

 京子が対応に走る。が、来る瞬間にクロスを上げられる。ゴール前へグラウンダーで上げられる。絢香の走力が無いため、目の前へ行く相手へ追いつけない。そのままシュートを許してしまう。絶体絶命と思われたが……。

 

 バチン!

 

 ゴールキーパーの心彩がそのボールに反応した。

 

 こぼれたボールに飛びつきキャッチ。ナナニジを救うビッグセーブを見せた。

 

 その途端に、心彩はボールを蹴って前線へ。ニコルに当てようとした。相手が前がかりになっている分、あっち側へ大きなスペースが生まれる。

 

 そしてそのロングボールを処理するのがニコルの仕事だ。胸で下に落として何とかキープ。後ろにいた鈴音に落とす。

 

 鈴音が裏に蹴って悠希へ。しかし、悠希は相手に押さえつけられて抜け出すことは出来なかった。

 

 当然ファールだ。ゴールに近く、直接蹴られることも考えられるので、相手は速くフリーキックをさせたくない。ゴールの方に流れたボールに触らずに守備ブロックを形勢しにいく。

 

 ならそのボールは誰が取りに行くといわれたらニコルだった。一番近いこともあって、走って掴み取る。そのまま悠希に渡す。

 

紡久「お前ら! 取りに行くぞ! 諦めるな!」

 

 ベンチからは叫びが。自分たちを信じて声をくれている。

 

 壁が出来上がり、キーパーがゴール前へセットする。

 

 笛の音がする。悠希が蹴る。壁にあたってラインを割っていった。

 

 諦めるのはまだ速い。悲しんでいては何も生まれない。

 

 すぐにボールを、コーナーキックの方へ向かう悠希の方へ送り届ける。

 

 おそらく、これが最後のプレーだろう。先程、第4審がベンチ方面へアディショナルタイムを伝えに行っていた。

 

 おそらく試合終了前最後になるだろう笛がなる。

 

 ピッチ上全ての人がゴール前に現れる。ゴールキーパーの心彩もコーナーキックのボールに当てる気でやってくる。こぼれ球など関係ない。

 

 悠希は蹴った。その向こうには絢香が競る。上手く相手のいないところでボールをもらってシュート撃った。

 

 カン!

 

絢香「なっ━━━━」

 

 ポストにあたった。それを相手が拾おうとするが、紫苑がそれを許さない。ボールにさわり際、ルーレットで相手をかわす。しかしそんなものをしたところでゴールは生まれない。悠希に託す。

 

 ボールが来たところ、悠希は左足でキーパーに近づくようなクロスを上げようと足を振りかぶる。相手がブロックに来る。それをいなす。中を見る。彼女がいた。そこにクロスを上げた。

 

 ニコルだった。彼女は頭を横に流すように振った。クロスに合わせてヘディングでシュート! キーパーは反応できず、横を見ればサイドネットを内側から揺らすボールの姿が。

 

 ゴーーーーーーーール!

 

 5−1。得失点差をサンジュと共に+1として、総得点差13と8に上回りナナニジが二位に。

 

 ほぼ同時に二つのピッチで試合終了の笛が鳴る。それを気にせず、ニコルは悠希のもとへ駆け寄って共に抱き合う。そこに他のメンバーたちが二人に駆け寄って飛びつく。ベンチからも四人が駆け寄っていく。

 

紡久「ふう……」

 

 ガラガラのベンチで紡久が一息つく。後半、相手の様子を見て修正して、声を出してチームを鼓舞していった。

 

 これは選手と監督が一丸となって掴み取ったものだ。

 

 このままナナニジはトーナメントを勝ち上がる。そして優勝できる可能性を持っている。それを信じて最後まで走り続けよう。

 

 

 

都「いや〜〜。決勝トーナメントかあ〜〜」

 

桜「ここまで来たら優勝しかないね」

 

都「いや。それを言うにはまだ早いわ。決勝戦前に言わんと」

 

絢香「どっちでもいいだろ」

 

陽夏莉「あ、ニコるん先輩。お疲れさまです!」

 

ニコル「八代さんもお疲れさま」

 

陽夏莉「いやあ。私は唯一試合に出れてませんし……。陽夏莉、いなくてもいいくらいでしたね……」

 

ニコル「そんなこと関係ないわ。チームのために頑張ることは、メンバーに選ばれなくても、選ばれた方の助けになるわ。それに、きっといつか努力し続ければ、出れるわよ」

 

陽夏莉「そうですよね……。はい! というわけで陽夏莉、明日からニコるん先輩のようなヘディングができるように毎日牛乳をグビグビ飲みまくります!」

 

ニコル「いや他に出来ることがあるでしょうが!」

 

悠希「ニコルも大変だな」

 

ニコル「いいのよ。あの子の調子で、普段私がどれだけ硬いのかを知れたから。あれはあれで、助けになっているのよ」

 

悠希「そういうもんか……あ、あかねだ」

 

 怪我の影響でベンチ入りをせず、外からの感染をしていたあかねが寄ってくる。

 

あかね「お疲れさまです。みなさんの勇姿、しっかりと見てきました」

 

ジュン「お〜〜。私のあのシュート見てくれたってことだよね!」

 

あかね「はい。他の皆さんもよく頑張ってくれました。岬さんも、最後のセーブは見事でしたね」

 

心彩「あれは止めれるとは思ってにゃかったです」

 

あかね「いえ。あれはあなたが最後までポジション調整をしていてからできたことです。言うなれば、集中を切らさなかったあなたの勝利です」

 

心彩「嬉しいにゃ〜」

 

紡久「あかねも。日程的に大会にはもう出れなさそうだけど、腐らずやってくれてありがとな」

 

あかね「ああ。その件についてですがご報告があります」

 

紡久「何だ?」

 

あかね「大会が二週間延期になりました」

 

絢香「まじか!」

 

あかね「はい。先生がかなり大会に要求もしていたそうです。他のチームでも数名出ていましたからね」

 

都「でも、さっさとやってくれたら良かったのにな。うちらは1週間前にはすでに6人も罹ったからなあ」

 

あかね「そう思いまして、色々とTwitterなどで調べてみたのですが、先程シュシュから公式発表がありました」

 

桜「え、まさか?」

 

あかね「丸の内さんが感染されたようです」

 

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