22/7 時計の時間   作:友だち

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七崎紫苑

前半22分。同点ゴールを決められ、落ち込むナナニジ。

 

紡久「切り替えろ! まだ取りに行くぞ!」

 

 ベンチからの声がかかる。少しずつペースを握られていた。そこで失点。

 

みかみ「ごめんな。うちがもうちょい頑張ってたら」

 

悠希「大丈夫さ! また取り返せばいいさ!」

 

センターサークルで悠希がみかみ慰める。これから反撃を始めるつもりだ。

 

紡久「お前ら! しっかりとウイングにボールを渡せ!」

 

ベンチからの指示。それはみかみと紫苑がこれからの鍵になるということだ。

 

悠希「4−3−3はウインガーがとても重要なフォーメーションだからな。しっかりそこでボールを貰ってくれれば攻撃の起点になってくれるぞ」

 

みかみ「せやな」

 

悠希「紫苑も頑張ってくれ!」

 

紫苑「は、はいいいい」

 

 両ウイングに声がかかった。

 

 そうして試合再開。ナナニジはボールを握る。

 

 紡久はさっきからとは一転して指示を強く出し始めた。特にプレーが止まった時には。

 

紡久「月渚!」

 

 手で右サイドバックを招き寄せる。

 

月渚「なんだ」

 

紡久「いいか。相手のディフェンダーが少し前がかりになってきている。特に敵のサイドバックは前出てきている。紫苑を使って仕掛けさせろ」

 

月渚「了解した」

 

 ナナニジのゴールキックから。あかねは近くにいた麗華へパスを出す。

 

 敵も修正してきたようだ。ツートップのプレッシャーのかけ方が変わっている。右側のフォワードが、絢香へのパスコースを切りながら前進。それに対応して左側も相方と少し後ろでギャップを切っている。

 

 麗華はそれに気づいていない。月渚に出したらハメられるという紡久の言葉が頭にこびりつき、前の方にいる桜へ出す。

 

 桜は後ろからディフェンダーが来ているため、ゴールキーパーのあかねに戻す。

 

 あかねは右からのプレッシャーを速く回避するため今度は左際へ。ダイレクトで、左側サイドのつぼみへボールを渡した。

 

 つぼみは左サイドを上がる。もちろんドリブルよりスプリント(ダッシュのこと)のほうが速いため、敵は追いかけて来る。そこでつぼみは少し後ろめ気味に中へパスを出した。サポートに来ている巴が見えたからだ。

 

 そして巴は絢香に出した。巴に相手の右側のフォワードとボランチが釣れられる。

 

 絢香はすぐに縦パスを入れた。巴につられたボランチの一角が開けたスペースにボールを当てて、今度は真紀へ。

 

 真紀は反転してボールを前の方に持ち運ぶ。相手がついてきている。このままでは挟まれる。

 

 そのことに気がついたみかみが真紀によってくる。真紀はみかみに少し近寄りながらも、左足の外側にボールを置くようにパスを出し、そこをみかみがとる。こ

 

 このように、ボールをもっている選手にもっていない選手が寄り、短くボールを受けてそれまでとは違う方向に行くようなことを「スイッチ」という。

 

 みかみは中を横切るように横断する。みかみを待ち構えるディフェンスラインの裏を狙うのは悠希と桜。彼らが、抜け出すことによってディフェンスはあまり前進してみかみにいくことが出来ない。

 

 みかみはそのまま、右サイドを走る紫苑にパスを出す。

 

紡久「紫苑仕掛けろ!」

 

 その言葉の次には、紫苑は右足でトラップをする。右足のアウトサイドで少しボールをずらし、敵が引き連れたところで、右足の足裏でボールを体に引き寄せる。そして目の前のディフェンダーが止まっていたところの股を軸裏からインサイドで通し、突破しようとする。

 

 しかし、相手は抜かれまいと、紫苑にぶつかってしまい、ドリブラーは転倒。当然笛がなる。

 

 ベンチからはどよめき。

 

ニコル「す、すごいわね……。あたしじゃ絶対無理よあれ……」

 

晴菜「はい……。私も練習で何度も抜かれました。取れませんよ紫苑ちゃんのドリブルは」

 

 向こうでは、悠希がフリーキックを蹴ろうとしている。麗華が絢香が上がり、ヘディングで合わせようとしていた。もう少し中だったらPKだったが、仕方がない。

 

 笛の音の後に、悠希が蹴る。前の壁を超えるも、前に出たキーパーが弾く。しかし弾きがあまい。キーパーの殆ど眼の前にボールが落ちる。拾った桜がキーパーが前に出ているから、威力のないふわっとしたボールで撃つ。しかし、ゴールに戻ったディフェンダーがヘディングで弾く。

 

 そしてそのこぼれ球を今度はみかみが拾う。それでも相手ディフェンダーに囲まれる。何とかキープしようと左アウトサイドで相手のいない方へ抜けようとするも、足に引っかかる。

 

 さらにその溢れを絢香が拾いすぐさまシュート。上手く相手をすり抜けゴールへ、と思いきやゴールに戻ったキーパーが横っ飛びで弾いた。

 

 またまた溢れたボールは、左サイドの方へ今度は紫苑の元へと降り立った。彼女は右足の甲をクッションにして、回転のかかったボールを静かに落下させた。それも、ゴールに背を向けていた体制から反転しながらだ。

 

 そのままシュートを撃つも、全く力が入らない。力の入ってないボールがそのままエンドラインを割り、相手のゴールキックへ。

 

紫苑「ああっ!」

 

紡久「紫苑! それを続けろ!」

 

 向こう側で監督の声が聞こえた。

 

 ゴールキックから、巴のかわりに前に出た麗華が競る。前に弾いたボールを相手に左サイドの方へ蹴り込まれるも、つぼみが飛んでヘディングでそらして相手のスローイン。そこからナナニジが奪い、キーパーのあかね。蹴って月渚へ。月渚はサイドの方にいる紫苑を見てパスをした。

 

 紫苑は寄りつつ、反転してトラップ。すぐさま縦へ走り出した。敵を抜きさろうとするもついてくる。紫苑のスプリント力はあまり無い。なのでスピード勝負はやめていったん止まる。そして次の勝負はここから。

 

 ボールを一度後ろに置き、そして、両足でボールをはさみ、そのボールを持ち上げ相手の頭上を通した。その技の名前をヒールリフト。相手は反応できずに抜かれる。

 

 紫苑は加速。相手センターバックが並走してくる。さっきのドリブルを見る限り、うかつに詰め寄れない。

 

 そのままゴール前へ、ペナルティーエリア付近から紫苑はシザース(ボールをまたいだフェイント)を左右左右と4回。そして左足のアウトサイドで触るふりを見せて、右を突飛。そこからシュート! というところで相手のディフェンダーの足がかかり転倒。完全にファール。PKだ。

 

 何も反論の余地もないファール故か、敵チームは審判の元へ詰め寄ることもなかった。ナナニジ側は誰が蹴るか。みんな悠希が蹴るだろうなみたいな雰囲気だったが……。

 

悠希「うーん。中学の時は基本的に翔太が蹴ってたからなぁ。紫苑が蹴っていいぞ」

 

紫苑「ええっ……。私なんかが……」

 

そこに真紀が近寄ってくる。

 

桜「紫苑ちゃんは蹴りたい?」

 

紫苑「うう…。私は別にここでPKを決めてもう一度勝ち越し点を奪ってそれが決勝点になればそれでいいですぅ……」

 

真紀「十分じゃないの……」

 

結局蹴るのは紫苑になった。

 

ゴールキーパーは腕を広げ、こちらを威嚇してくる。

 

桜「大丈夫だよ。これを決めたら今晩何をするかみたいな気持ちで!」

 

紫苑「わ、分かりました……」

 

紫苑(今晩何をするか……。美味しいもの食べたいなぁ)

 

ピッ。

 

紫苑「ところてええええええええええええええん」

 

紫苑「外したあああああああああああああああああ」

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